成績概要書(2005年1月作成)
 研究課題:キャベツ害虫に対する交信攪乱剤の効果
        (交信攪乱剤を利用した減農薬技術(2)野菜・花きのコナガおよびヨトウガ類)
 担当部署:花・野菜技術センター 研究部 病虫科
 協力分担:空知南西部地区農業改良普及センター
 予算区分:道 費(クリーン農業)
 研究期間:2001〜2004年度(平成13〜16年度)

1.目 的
  交信攪乱剤のコナガに対する発生・被害防止効果、およびその使用上の注意点を明らかにするとともに、性フェロモン成分の一部が共通するヨトウガ類への影響も調査する。

2.方 法
1)キャベツほ場に交信攪乱剤(アルミゲルア・ダイアモルア剤:AD剤)を設置し、コナガに対する効果(フェロモントラップ誘殺数、寄生虫数、被害程度)を調査
  ※AD剤の処理:100本/10a。支柱棒に製剤2本を付け、約5m間隔でほ場に約80%を設置し、残りをほ場周辺部に設置した。現地では畦畔も含めて設置した。
 (1)場内試験:場内の2ほ場でAD剤などを6月上中旬に2ha〜3haで設置し、そのほ場の一部でキャベツを栽培した。
 (2)現地事例調査:H15-16年に水稲地帯の産地でAD剤を3ほ場(1〜2ha)に、キャベツ作付予定の全面に設置した。
2)AD剤によるヨトウガ・シロシタヨトウに対する影響(卵塊・幼虫数)を調査

3.結果の概要
1)コナガに対するAD剤の効果
 (1)場内試験:処理区の成虫誘殺数は、無処理区の20〜30%と少なく、交信攪乱効果は認められた(図1)。処理区の寄生虫数は、無処理区よりやや少なくなる傾向がみられるが(表1)、調査区によって差があり無処理と変わらない場合もあった(図2、表1)。少回数防除におけるキャベツ結球部の被害は、処理区では無処理区に比べ若干軽減された。試験期間中の風速は、2.5〜4.5m/sとやや強かった。
 (2)現地事例調査:害虫発生状況に対応した慣行防除において、処理ほ場の1作型あたりの薬剤散布回数は、無処理ほ場より0〜1回少なかった(図3)。処理ほ場のコナガによる規格外品率は、無処理ほ場と同等〜低下し、処理費用をまかなえる場合があった(図4)。試験期間中の風速は、3.0〜5.0m/sとやや強かった。
 (3)処理経費:AD剤の処理費用(8,100円/10a)は、薬剤散布回数では3〜4回分(表2)、あるいは、規格内品の増収率では約3%(収量4000kg/10a、単価70円/kgの場合)に相当する。
 (4)本試験のような処理条件(3〜5m/sの風速、1-3haの処理面積)では、発生対応型防除でも薬剤散布回数の大幅な削減はできず、少発生年に1回程度であった。ただし、コナガ被害の軽減により得られる商品化率の向上を考慮すると利用可能な場面があると考えられる。
2)ヨトウガ、シロシタヨトウに対するAD剤の影響
  処理区の卵塊数や幼虫数は、無処理に比べほとんど差が無く、AD剤による密度低下は困難であった。
3)交信攪乱剤(AD剤)の利用にあたり注意を要する事項
 ・交信攪乱剤の効果は、交尾阻害による密度抑制である。殺虫作用は無く、コナガ幼虫の防除は必要となる。
 ・コナガ幼虫が発生した後の処理は、効果が著しく劣るので、5月中下旬頃から設置する。
 ・強風条件や狭い面積での処理ほど効果が不安定になりやすいので、薬剤防除のタイミングを図るため、ほ場観察によりコナガおよび他害虫の発生状況の把握に努める。
 ・コナガ以外の害虫には、効果が無いので、従来どおり防除が必要である。特に、ヨトウガは、減農薬栽培では防除時期が遅れると被害が大きくなるので注意する。


図1 フェロモントラップ誘殺数(上)と寄生虫数の推移(下) (H15 場内)
  注)矢印は殺虫剤散布を示す


図2 期間合計虫数の無処理比の反復間差(場内)
  注)反復毎に無処理比を算出した。縁;処理区周縁部(Aが無処理側)、中;処理区中央部

表1平成15-16年の期間合計虫数の平均値(場内)
年次 H15 H16
定植日 6月2日 7月8日 7月29日 6月2日 7月8日 8月2日
無処理 78.5 (100) 246.0 (100) 390.5 (100) 123.4 (100) 258.8 (100) 33.3 (100)
処理 縁A 31.0( 39) 158.0(64) 208.3 ( 53) 104.2 ( 84) 240.4 ( 93) 17.8 ( 53)
縁B yes">55.5 ( 71) 195.3 ( 79) 258.5 ( 66) 155.0 (126) 182.9 ( 71) 13.8 ( 41)
34.0 ( 43) 181.5 ( 74) 221.3 ( 57) 154.4 (125) 177.5 ( 69) 14.5 ( 44)
平均 40.2 ( 51) 178.3 ( 72) 229.3 ( 59) 137.9 (112) 200.3 ( 77) 15.3 (4 6)
  注)数値は、10株調査の合計数.( )はその対無処理比.処理区の項目は、縁;処理区周縁部(Aが無処理側)、中;処理区中央部


>図3 茎葉散布回数の比較(H16 現地)
  注)現地実態調査による


図4 規格外割合の比較(H16 現地)
  注)現地聞き取り調査による

表2 アルミゲルア・ダイアモルア剤処理費用と茎葉散布費用比較
慣行防除より
増加する経費

A・D剤購入経費   ¥75円×100本/10a=7,500円
設置労賃(取り外し含む) 1人×0.8h/10a×¥750=600円

計8,100円 a
慣行防除より
減少する経費
(単位:円)
【 】は、200L/
10aの場合
   散布削減回数
1回 2回 3回
b 減少する殺虫剤費用 1,420
【1,893】
2,840
【3,787】
4,260
【5,680】
c 減少する散布労賃 750 1,500 2,250
d 計(b+c) 2,170 4,340 6,510
経費の増減 a-d 5,930
【5,457】
3,760
【2,813】
1,590
【 170】
注)労賃・殺虫剤費用は現地実態による

4.成果の活用面と留意点
1)本成果は、交信攪乱剤導入の検討時の資料として活用する。
2)交信攪乱剤の効果は発生密度の低下であるため、防除は必要である。
3)本試験は、風速が強めの試験条件で得られた結果である。

5.今後の問題点
1)交信攪乱成立における環境要因(天候・虫数)の解明
2)低風速条件での効果の検討