成績概要書(2005年1月作成)
─────────────────────────────────────────────
課題の分類 ;
研究課題名 ; りんご害虫の交信攪乱剤を活用した減農薬防除
         (交信攪乱剤を活用した減農薬防除技術 (1) りんごのハマキムシ類とシンクイムシ類)
担当部署 ; 上川農試研究部病虫科  協力分担  ; 南留萌地区農業改良普及センタ-
予算区分  ; 道費          研究期間  ; 2001〜2003年度(平成13〜15年度)
─────────────────────────────────────────────
1.目 的
 交信攪乱剤による減農薬栽培の推進を図るため,交信攪乱剤の有効性や天敵類への影響を評価し,コスト低減を含めた利用法の検討,利用にあたって注意すべき問題点などを整理した

2.方 法
1) 交信攪乱剤の有効性の評価 交信攪乱園と慣行防除園での害虫発生動向,被害程度を比較。
2) 効果に影響を及ぼす気象要因の解析 最低気温,日平均風速,フェロモントラップでの誘殺消長から解析。
3) コスト低減に向けた利用体系の検討 単剤(シンクイコン)利用への切り替えによる防除体系の検討。
4) フェロモントラップ利用上の注意点 近似種の種類や誘殺消長などについて調査。

3.成果の概要
1) 交信攪乱剤の有効性の評価
 ① モモシンクイガについては交信攪乱剤コンヒューザーRの防除効果が確認された(表1)。ハマキムシ類については密度が低く判定できなかった。キンモンホソガについては攪乱成分を含むコンヒューザーAの防除効果は不十分であった。
 ② 天敵類に対する影響;ハダニ類の天敵であるカブリダニ類は,発生密度が低く判定できなかった。キンモンホソガの寄生蜂では,寄生率の調査結果から殺虫剤散布の影響が大きいと判断された。
 ③ その他の害虫;ハダニ類については殺ダニ剤の散布回数は同じで影響は不明であった。交信攪乱園では殺虫剤散布回数の低減によって,展葉期にマイマイガを主体とする鱗翅目幼虫被害が増加した。夏季以後にはリンゴサビダニが多発する園地が目立った。
2) 交信攪乱剤の効果に影響を及ぼす気象要因の解析
 ① 気温の影響は特に考慮しなくて良い。風速との関係では,増毛町で日平均風速0.5m/s以下,余市町で1.5m/s以下になる時期に高まる傾向がみられた。2m/s以上の強風が吹く園地では防風ネットを展張するなどして風速を弱める(図1)。
 ② モモシンクイガのフェロモントラップでの誘殺数は,最低気温15℃以上になる時期に増加する傾向がみられた。誘殺消長と産卵消長は符合するが,交信攪乱園では成虫の発生動向をフェロモントラップで把握できないため,最低気温15℃以上になる時期から産卵状況の観察を始めるのが良い(図1)。
3) コスト低減に向けた交信攪乱剤利用体系の検討
 ① 交信攪乱剤利用園の殺虫剤散布回数は,慣行防除園の1/3〜1/2であったが,交信攪乱剤の価格が高いため,薬剤費用は慣行防除より2〜7%高くなっている。
 ② 交信攪乱園の害虫相調査結果をもとに,交信攪乱剤を複合剤(コンヒューザーR)からモモシンクイガのみを対象とした単剤(シンクイコン)利用に切り替えた場合,薬剤費用は慣行防除より27%節減される。
 ③ コンヒューザーRまたはシンクイコンの対象外害虫であるキンモンホソガの成虫発生期は有効積算温度を用いて推定でき,その防除適期は第2回成虫発生期である(図2)。本時期は,モモシンクイガの産卵期にあたることから,薬剤を選択することで両害虫の同時防除が可能である(図3)。
4) フェロモントラップ利用上の注意点
 ① モモシンクイガのフェロモントラップでは,誘殺初期にコブシロシンクイが捕獲されるので注意する。
 ② ハマキムシ類のフェロモントラップでは,混同しやすい種類は少ないが,未熟練者は注意して識別する。
 ③ ナシヒメシンクイのフェロモントラップには,近似種が多く誘殺され,道内での利用には適さない。
5) 交信攪乱剤利用技術指針の策定
  上記の項目をとりまとめ,新たに交信攪乱剤の利用を検討している園地,あるいは既に利用されている園地などを対象とした「交信攪乱剤の利用技術指針」を策定した(内容省略)。

表1 交信攪乱剤利用による減農薬栽培園での害虫および天敵類などへの評価一覧
評 価剤  交信攪乱剤の有効性の評価 天敵類への影響   対象外害虫の発生
モモシンクイガ ハマキムシ類 キンモンホソガ ナシヒメシンクイ カブリダニ類 寄生蜂 ハダニ類 リンゴサビダニ 鱗翅目幼虫
コンフュ-ザ-R (×) - 増加 増加
記号 ○;有効または影響小さい,×;効果認められない, ?;効果または影響不明
注,1) キンモンホソガに対する評価は,コンヒューザーAで行った。
   2) 対象外害虫の増加は,交信攪乱剤利用によって殺虫剤散布回数を低減したことによる。 


図1 気温(pm9,最低),夜間風速(pm7-am6)とモモシンクイガ誘殺消長の関係


図2 キンモンホソガフェロモントラップでの誘殺消長(折れ線),100葉あたりmine数(黒棒),および有効積算温度から算出される成虫発生期(白抜き矢印)

        交信攪乱剤は6月上旬までに設置する。
図3 交信攪乱剤単剤(シンクイコン)を利用した減農薬栽培の防除体系フロ-図

4.成果の活用面と留意点
  1) 本成績は,りんごの交信攪乱剤利用による減農薬栽培に活用する。
 2) 交信攪乱剤の利用にあたっては,「交信攪乱剤の利用技術指針」を参考とする。

5.残された問題とその対応
 1) 交信攪乱剤利用地域における害虫発生動向の把握方法
 2) 交信攪乱剤の効果を補完する減農薬防除技術の確立