成績概要書(2005年1月作成)
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研究課題:複合型発酵槽を用いた個別利用型バイオガスプラント
担当部署:根釧農試 研究部 酪農施設科
協力分担:なし
予算区分:受託
研究期間:2003-2004年度(平成15-16年度)
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1.目的
本研究は、メタン発酵槽と消化液貯留槽を一体化し密閉することによって貯留中の地球温暖化ガス排出量を限りなく低減させると共に、個別農家用として乳牛ふん尿スラリーの液肥化に必要な最小限の施設構成と機器装備に絞り込んだ、低コストメタン発酵処理施設の開発を目的とした。

2.方法
1)複合型メタン発酵処理施設の実証試験
(1)施設構成:複合型発酵槽(貯留式発酵槽450m3に連続式発酵槽30m3を内蔵:図1、2)および
バイオガス利用施設(ガスボイラ、脱硫装置、ガスホルダなど)
(2)運転方法:原料:フリーストール飼養搾乳牛のスラリー(3m3/day、敷料におがくず使用)
連続式発酵槽:発酵温度42℃、水理学的平均滞留日数10日
貯留式発酵槽:発酵温度20℃、連続式発酵槽で一次発酵した処理液を散布まで貯留した。
2)メタン発酵処理における雑草種子の発芽率試験
(1)処理条件:発酵槽容積10L、発酵温度38、42℃、水理学的平均滞留日数10、15、20日
(2)供試種子:エゾノギシギシおよびリードカナリーグラス種子、1処理区:n=100、5反復

3.結果の概要
(1)本施設は、①連続式発酵槽および消化液貯留槽(以下、貯留式発酵槽と呼ぶ)を密閉化・一体化することで両槽よりバイオガスを得ることが可能、②連続式発酵槽および貯留式発酵槽が密閉されていることから外部への悪臭およびガス揮散が少ない、③連続式発酵槽の発酵温度が42℃であることから雑草種子を完全に死滅させる、④本施設の有機物分解率および有機酸の消長は一般的なバイオガスプラントに比べ高い、などの特徴を有している。(道立根釧農業試験場にて特許申請済み-願2003-107740-)
(2)冬期(2-3月平均)のバイオガス生成量(連続式および貯留式発酵槽合計)およびガスボイラによるバイオガス消費量は、それぞれ、約46.6m3/day、約38.8m3/day、夏期(8-9月平均)は、それぞれ、約66.0m3/day、約22.5m3/dayであった。これらのことから、本施設は生成したバイオガスのみで周年自立運転することが可能であった(表1、図3)。
(3)定常運転時におけるバイオガス中の硫化水素濃度は平均すると約1100ppm(最大値で約2200ppm)であった。脱硫後のバイオガス中の硫化水素濃度はほぼ0ppmであった。発生したバイオガス中の硫化水素濃度およびガス通過速度より本施設の脱硫剤交換間隔を試算すると約500日であった。
(4)本施設により乳牛ふん尿スラリー中の有機物濃度、有機酸、粘度および臭気強度が低下し、取扱性も向上した(表2)。定常運転および消化液吸引および散布時に支障はなかった。スラリータンカーの吐出力を用い発酵槽内の撹拌を行った結果、液面にスカムの生成は確認されなかった。なお、量産型における余剰バイオガス利用は貯留式発酵槽にて全て消費する。
(5)雑草種子の死滅率の検証を室内試験にて実施した結果、発酵温度42℃、水理学的平均滞留日数10日の運転条件で雑草種子が完全に死滅することが確認された。
(6)本施設は、発酵槽1220万円、設備機器類1510万円、諸経費850万円、合計3580万円の投資額を要した。これを100頭で試算すると投資額は約5500万円と見積もられた。一般的な100頭規模のメタン発酵処理施設と比較すると、建設費は約3〜4割低減可能と試算された(表3)。
(7)本施設の施工可能な企業は、地場レベルでも存在する。平成16年度に公共事業で実施されたバイオガスプラントの入札に本施設とほぼ同様の設計仕様で参加した企業があった。酪農を主産業のひとつとする道内の自治体で実施された酪農家へのアンケート調査によると、導入を検討すると回答した酪農家は、調査対象の約4%であった。


図1 開発したメタン発酵処理施設の構造


図2 開発したメタン発酵処理施設のフロー

表1 連続式発酵槽および貯留式発酵槽の運転状況


図3 バイオガス生成量および消費量

表2 投入原料および消化液の組成

表3 開発したメタン発酵処理施設と従来型メタン発酵処理施設との経済性の試算

4.成果の活用面と留意点
1)本施設は100頭規模の低コストな環境保全型糞尿処理法として活用できる。
2)本施設は敷料におがくずを用いた乳牛スラリーの処理に利用できる。

5.残された問題とその対応