成績概要書(2005年1月作成)
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研究課題:共同利用型バイオガスプラントのエネルギー収支からみた自立的運転条件
担当部署:(独)北海道開発土木研究所 農業開発部 農業土木研究室・土壌保全研究室
協力分担:なし
予算区分:運営費交付金(特別研究:積雪寒冷地における環境・資源循環プロジェクト)
研究期間:2001〜2004年度(平成13〜16年度)
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1.目的
 複数の農家で利用する共同利用型バイオガスプラントは、雑草種子や病原菌の蔓延を防止するため、発酵後の消化液を加熱して殺菌処理を行う必要がある。そのため、発酵槽の温度維持や撹拌などに必要な基本的なエネルギーに加えて、殺菌のためのエネルギーを必要とする。特に、北海道のような厳寒地域ではこのような施設でのエネルギー自立性の検証が必要であるが、実例はない。
本試験では、別海資源循環試験施設(以後、別海プラントと表記する)において殺菌槽を装備した共同利用型バイオガスプラントにおける実測値よりシミュレーション解析を行い、寒冷地で稼働する共同利用型バイオガスプラントから生産されるエネルギーのみで自立運転可能な最適運転条件を検討した。

2.方法
1)現状のエネルギー収支は、表1に示した性状のふん尿を受け入れ、固液分離作業を行い、55℃×7.5時間の殺菌処理を行う条件でプラントを運転し、計測した。
2)シミュレーションを行うための消費電力又は消費熱量の諸元値は、実測データをもとに表2に示した施設群ごとに定めた。シミュレーションは表3に示す条件で行い、4ケースのエネルギー収支を推定した。
3)シミュレーションは、現状と同様の乳牛1000頭から発生するふん尿に対し、ふん尿の受け入れ方法を、①現状(副資材あり、表1)、②スラリー10割(副資材あり、なし)、③スラリーと固形ふん尿の混合重量比3:7(副資材あり、なし)の3種類の処理体系について実施した。③の混合重量比は、別海町での飼養形態の現状を考慮した。
4)シミュレーションの計算条件は、①いずれのケースでも研究用付帯設備である温室ハウスなどを利用しない、②スラリー10割の処理体系では、固形ふん尿処理設備を利用しない、③エネルギー供給は、コジェネとガスボイラーの併用では多大な余剰熱を生じて非効率であったことから、コジェネ2台のみで利用する、③不足熱は重油ボイラーで補う、④放牧期の受け入れふん尿量は減少することから、1月〜4月の受け入れふん尿量の実績値を100%として、放牧期の6月〜11月は74%とし、過渡期となる5月および12月は87%とする、と設定した。

3.結果の概要
1)現状のエネルギー消費は、電気・熱ともに冬期に多く、夏期は少なかった。温室ハウスなどの研究用附帯設備でのエネルギー消費を除外した場合、現状の運転でも、一年を通して殺菌した安全な液肥を生産しつつ、電気・熱ともに概ねバイオガス起源のエネルギーで自給可能であった (図1、2)。
2)現状の運転では、固液分離など昼間の作業時間帯に電力消費のピークがあり、バイオガス起源の発電量だけでは不足するため、電力の購入が必要であった。
3)3種類の処理体系におけるエネルギー収支をシミュレーションした結果、処理体系③では余剰電力が発生するものの、発電機のみではエネルギーが不足するため、重油ボイラーによる熱供給が必要であった。最も余剰電力(売電)が多く、エネルギー的に自立可能だったのは、ふん尿を全量スラリーで受け入れる処理体系②であった(表4)。
4)以上の結果より、1000頭規模の共同利用型バイオガスプラントでは、安全な消化液を生産し、エネルギー的に自立運転が可能であることが明らかとなった。

表1 現状の処理規模及び受け入れふん尿性状

処理頭数規模 1000頭
現状の受け入れふん尿の性状 スラリー 約63%
固形ふん+尿汚水 約37%

表2 諸元値を求めた施設群

電力量 熱量
メタン関連設備
共用設備
非メタン関連設備
非計測
発酵槽
殺菌槽
堆肥舎

表3 シミュレーション条件

項    目 条     件
受け入れふん尿形態 ・スラリー10割
・スラリー3割+固形ふん尿7割
殺菌条件 ・55℃×7.5時間
バイオガス単位発生量 ・25m3/m3(副原料なし)
・30m3/m3(副原料あり)


図1 別海プラントにおける電力収支


図2 別海プラントにおける熱収支

表4 購入電力量・売電量・重油必要量の推定結果(殺菌は全て55℃×7.5時間)

受け入れふん尿の性状 現状 スラリー10割搬入 スラリー3割+固形ふん尿7割
副原料の有無 あり なし あり なし あり
購入電力量(kWh/年) 141,000 0 0 0 0
売電量(kWh/年) 113,485 474,887 632,851 116,345 186,654
重油必要量(リットル/年) 55,800 0 0 335 10

4.成果の活用面と留意点
 酪農家や農業団体等が殺菌槽を備えた共同利用型バイオガスプラントの新規導入を計画する場合、効率的な施設構成や運転方法の検討に資する。

5.残された問題と対応
 シミュレーションモデルを用いた、数戸の農家で利用する中規模共同型バイオガスプラントでの効率的な運転方法の解明