「共同利用型バイオガスシステム導入の経営効果」(行政参考事項)
北海道農業研究センター 総合研究部 動向解析研究室
執筆担当者 鵜川洋樹
北海道開発土木研究所 農業開発部 土壌保全研究室 
執筆担当者 小野 学

 共同利用型バイオガスシステムは、1,000頭規模でスラリーのみを処理対象とし圃場散布までプラントが行う場合、経済効率が高く、利用料金と売電収入で採算をとることができる。また、固形ふん尿とスラリーを処理対象とするには、2,000頭規模で圃場散布までプラントが行う場合、同じく採算を取ることができる。

1 試験目的
 家畜ふん尿をメタンガス発酵により処理・利用するとともに、エネルギーを生産する共同利用型バイオガスシステム(図1)の寒冷地酪農地帯における現地実証プラントの運営実態および経済性を明らかにし、その成立条件を検討し、経済的に成立可能な共同利用型バイオガスシステムを提案する。

2 試験方法
 (1) バイオガスプラント利用予定農家におけるふん尿処理の実態
  導入前経営におけるふん尿処理の実態と費用からみた利用農家のバイオガスプラント(別海:1,000頭規模、湧別:200頭規模)利用料の支払い可能額を試算する。
 (2) 現地実証プラントの運営実態と酪農経営に及ぼす効果
  別海町および湧別町に建設された実証プラントの運営実態と利用農家におけるふん尿処理の実態からみたバイオガスプラント利用の経営効果を明らかにする。
 (3) 共同利用型バイオガスシステムの経済性シミュレーション
  プラントの建設費及び年間経費、利用農家における減化学肥料などの経済効果の推定値に基づきバイオガスシステムの経済(経営収支)モデルを策定する。そのモデルに基づき、運搬体制、処理頭数規模、原料ふん尿種類がそれぞれ異なる場合を想定したシミュレーションを行い、経済的に成立可能な共同利用型バイオガスシステムを提案する。

3 試験成績
 (1) バイオガスプラント利用予定農家におけるふん尿処理の実態
  利用予定農家のふん尿処理実態からみたバイオガスシステム利用料の支払い可能額(節減可能額)は、ふん尿処理に関わる舎外作業のうち搬出入および圃場散布作業までプラントが行うことを前提にすると、成牛換算年間1頭あたりFS農家(別海4戸)16.3千円、ST農家(別海7戸)15.7千円、ST農家(湧別5戸)23.5千円と試算された(図2)。
 (2) 現地実証プラントの運営実態と酪農経営に及ぼす効果
  別海プラントにおける原料(ふん・尿・スラリー)搬入量及び生成物(堆肥・消化液)搬出量の割合をみると、原料ではふん31.3%、スラリー63.1%に対し、生成物では消化液が93.3%と大きい(図3)。プラント利用が農家に与えた最も大きな影響は有機質肥料全体の散布面積が1.2倍に増加したことであり、そのなかで液肥の散布面積が2.1倍に増えたのに対し、堆肥の散布面積は約3割に減少している。また、別海プラントの運営費は13年度2,600万円、14年度3,400万円、15年度3,200万円であった(図4)。
  なお、湧別プラントの利用農家についても同様の傾向がみられた。
 (3) 共同利用型バイオガスシステムの経済性シミュレーション
  別海型バイオガスプラントの建設費は成牛換算1頭あたり117万円を要し、その1,000頭規模プラントの年間経費は建設費への助成(施設類95%補助、機械類50%補助)を前提に算出した施設機械の減価償却費や搬出入費用を加えると4,700万円になる(表のB)。他方、利用料をプラント利用農家における経済効果(労力節減、購入肥料費節減、減価償却費節減、直接費節減)として試算すると成牛換算1頭あたり36,502円(表のA〜D)になり、これだけでは経費を賄うことはできない。
  経済性シミュレーションの結果、建設費への助成を前提とし、共同利用型バイオガスシステムは、1,000頭規模でスラリーのみを処理対象とし圃場散布までプラントが行う場合、経済効率が高く、利用料金と売電収入で採算をとることができる(表のE)。また、固形ふん尿とスラリーを処理対象とするには、2,000頭規模で圃場散布までプラントが行う場合、同じく採算を取ることができる(表のD)。
  なお、湧別型バイオガスシステムについては経済的な成立を見込むことはできなかった。


図1 共同利用型バイオガスシステムのフロー


図2 ふん尿処理に要する費用(別海・千円/年・頭)
注)FS:フリーストール、ST:スタンチョン


 図3 別海プラントの搬出入実績
 注)平成13年7月〜16年10月の累計


図4 別海プラントの運営費

表 別海型バイオガスシステムの経済性 (円/年、変動費と収入は処理頭数1頭あたり)

4 試験結果及び考察
  北海道で設立されつつある堆肥センターにおけるふん尿処理方式選択の際の資料として活用できる。
  スラリーのみを処理対象とするプラントの立地にあたっては、スラリー処理農家の多い地帯の選定に留意する。 
  経済性の算出では建設費への助成(施設類95%補助、機械類50%補助)を前提にしている。

5 普及指導上の注意事項
  利用農家における長期的な経営効果(消化液施用による収量増加など)や環境負荷削減効果の解明が必要である。