「循環式汎用乾燥機を利用した上部加温通風による大豆の低損傷高品質乾燥調製方法」(普及推進事項)
北海道農業研究センター総合研究部農業機械研究室
執筆担当者 井上 慶一

 既存の循環式汎用乾燥機を利用して、大豆の子実水分と外気温・湿度に応じて裂皮の発生しない温度に調節した温風を乾燥機上部から通風し、ゆっくり循環することにより、損傷しやすい大粒大豆を、乾減率0.25〜0.6%/hで損傷粒や裂皮粒を1%以下にして均一な水分に乾燥調製することができる。

1 試験目的
 高値で取引きされる大粒大豆の汎用循環式乾燥機での乾燥では、裂皮や損傷粒が多く発生し、商品価値を下げてしまう。そこで乾燥機上部から子実粒水分や外気の温湿度に応じて裂皮しない程度に加温を調節しながら送風し、ゆっくり循環することによって、損傷粒の発生を抑える乾燥技術を開発する。

2 試験方法
(1) サーモスタット温度調節付きの間接加熱方式のジェットヒータ(ORION、HS290-L、発生熱量33.3kW)に内径400㎜のアルミフレキシブルダクトを接続し、循環式汎用乾燥機(静岡製機PCG-40、容量7.2m3)の横に取り付けて、上部の点検口から加温した温風を通風する。乾燥機の石油バーナの吸引側の空気取り入れ口をビニールで密閉し、乾燥機の送風機(1.2kW)を利用して乾燥機上部から吸引通風する(図1)。設定温度が可変な接点方式のデジタル電子サーモスタット(松尾電器産業、METⅢ-Mタイプ)の温度センサを乾燥機内の堆積穀層上部に設置し、リレー接点方式のジェットヒータのON-OFF制御を行う。ON-OFF制御はデジタル値でON-OFFの温度設定をそれぞれ行う。その加温温度を大豆の水分、外気温湿度に応じて裂皮が生じない温湿度になるように調節する。乾燥機が停止したときや送風が行われていない場合は、自動的にジェットヒータも停止するように送風機リレー回路と連動させる。大豆(ユキホマレ)を用いて動作試験を行った。
(2) 異なる初期水分(18〜23%)の大豆(ユキホマレ、ツルムスメ、タチナガハ、エンレイ)を100粒を用いて異なる温湿度条件に設定した恒温・恒湿条件(20〜35℃、11〜65%)下での裂皮粒の発生を経時的に測定し、水分に対する裂皮限界の種皮の歪み量を品種ごとに推定し、周囲の温湿度の条件を水分との関係で調べた。
(3) 北村地区大豆生産農家に設置している循環式汎用乾燥機(静岡製機PCG-40、4t用、通風床面積2.00×1.43m2)に間接加熱のサーモスタット温度調節のジェットヒータ(33.3kW、ORION、HS290-L)にダクトを接続して水分に応じた加温温度に温度設定を行って乾燥機上部から温風を通風し、約2.5時間で1循環する低速の搬送モード(22L/min)で大豆(ツルムスメ、初期水分18.5%、初期重量2,350㎏)の乾燥試験(10月27〜28日)を行ない、内部温度と約1時間ごとの水分と破損粒の割合について調査した。

3 試験成績
図1循環式乾燥機上部から間接加熱式のジェットヒータで温風を送風する大豆の乾燥方法


図2 異なる温湿度条件における裂皮粒発生の様子(ツルムスメ、初期水分22%w.b.)


図3 大豆の子実水分と外気の湿度に対する裂皮粒の発生のない加温温度の上限
(大豆:ツルムスメ、外気温5〜20℃、気温による差は1℃以内)


図4 上部加温送風による乾燥経過と裂皮粒、機械的損傷粒発生割合
(上下の実線はそれぞれ水分に応じて調整した送風空気温度と平衡水分指標、一点鎖線は裂皮限界の平衡水分指標を示す。[大豆品種:ツルムスメ、風速0.5±0.1m/s、風量比0.054(m3/100kg/s)、風量1.26m3/s、初期水分18.7%、平均堆積高さ1.3m])

表1 上部加温通風による大豆乾燥試験の実験条件と結果(大豆:ツルムスメ)
初期水分(%) 初期重量(kg) 風量比(m3/100kg/s) 平均乾減率(%/h) 終了時水分(%) 乾燥裂皮(%) 機械的損傷(%)
18.7 (0.5) 2350 0.127 0.25 14.6 (0.2) 0 0.53
                                                             ( ):標準偏差

4 試験結果及び考察
(1) サーモスタットは設定した温度で正確にON-OFFを繰り返したが、OFFになった後もジェットヒータの余熱によって設定OFF温度よりも6〜8℃高い温度に上昇した。このサイクル間隔は12〜15分であり、そのうちヒータがONになっている時間は4分程度であった。センサの取り付け位置は、ダクトからの温風が当たり、堆積層表面から50㎝ほど上の地点が大豆表面に当たる実際の空気温に近く適当であった。乾燥機内の堆積層の表層から深さ10㎝の風速は0.50±0.10m/sであり、風量は2.52m3/s、風量比は0.127(m3/100㎏/s)であった。
(2) 水分と温湿度を変えた裂皮粒発生の試験(図2)より、乾燥による裂皮粒の発生は子実水分に対する送風空気の湿度が主に関係しており、子実の平均水分と種皮の水分の差により種皮に歪みが生じ、限界を超えたときに裂皮が生じる。乾燥中の種皮の水分とその水分における裂皮発生の限界歪み量を推定し、その種皮の水分と外気の湿度に対する加温上限温度を示すチャート(図3)を作成し、更に、大豆の品種、子実水分、外気温湿度を入力すると加温温度の上限を計算するダイアログ形式のプログラムを作成した。水分が18%前後のツルムスメでは、外気温10〜15℃、湿度55%での通風温度は20〜25℃程度であることを明らかにした。
(3) 乾燥機上部からジェットヒータで温風を通風し、ゆっくり循環した結果、乾燥機上部の平均空気温度25℃、乾燥時間約15時間、平均乾減率0.26%/hで、乾燥による裂皮粒の発生はなく、機械的損傷粒の増加量は0.53%以下で、子実水分14.6%のほぼ均一な水分に仕上げられた(図4)。農家でその後20tの大豆(ツルムスメ)の乾燥を行ったが、乾燥による裂皮はみられず、機械的損傷の増加も0.2%以下であった。
(4) 循環による損傷をできるだけ抑えるため、子実水分17%までは外気を通風し、循環を行わない。子実水分17%以下になったときに加温した空気を通風する。空気の湿度(あるいは平衡水分指標)が裂皮しない湿度以上になるよう空気温度を制御する。子実水分が17%では湿度37〜65%、16%では湿度33〜60%の湿度の空気を通風する。乾燥機の上部から加温した空気を通風するため、下層では乾燥による種皮にかかる歪みが緩和され、スクリューコンベアやバケットコンベアなどの搬送装置での衝撃よる損傷が低くなった。
(5) 既存の循環式汎用乾燥機を利用して、乾燥機上部から温度制御付きの温風ヒータで大豆の子実水分と外気温・湿度に応じて裂皮の発生しない温度に調節した温風を外部から通風し、ゆっくり循環することにより、損傷しやすい大粒大豆を乾減率0.25〜0.6%/hで、損傷粒や裂皮粒を1%以下にして均一な水分に乾燥調製することができた。

5 普及指導上の注意事項  
(1) 本方式は、既存の循環式汎用乾燥機に外部接点でON-OFF制御可能なヒータ、加温した空気を乾燥機上部に導くダクト、リレー接点の温度コントローラからなる装置を付加して循環式乾燥機の水分計やハンドリングの利便性を利用しながら、損傷の少ない上部から加温する循環併用の静置式乾燥機として利用する技術である。 
(2) 本方式は、吸引送風タイプの循環式汎用乾燥機で大豆モードを備えている機種で使用する。米麦専用機では、スクリューコンベアのクリアランスが狭いため、損傷が発生する危険がある。また、大豆の張り込み量は、乾燥機容量の8割くらいを限度とし、上層の空気の混和と堆積層の風量が確保できるようにする。
(3) ダクトからの温風は50℃くらいになるので大豆に直接当たらないようにし、ヒータがOFFになった後も余熱で温度が上昇するため、その上昇分を考慮して平均の通風空気温度が基準以下になるように温度コントローラのON-OFF設定をする。
(4) ヒータの温度制御は、乾燥機と連動していないので、マニュアルで加温温度上限チャート(図3)を参考としてON-OFF温度を設定する。
(5) 2.5時間程度で1循環するように乾燥機の設定を変更し、循環速度を落とす。
(6) 大豆の品質を考慮すると間接加熱方式のジェットヒータ25.6万円を使用するのが望ましい。電子サーモスタット2万円、アルミフレキシブルダクト4万円(φ400㎜、4m)、耐熱ビニールダクト1.8万円(5m)である。