「農産物およびその加工副産物における機能性脂質セラミドの含量」(指導参考事項)
            北海道農業研究センター 畑作研究部 流通システム研究チーム

 農産物およびその加工副産物におけるセラミドの含量を調査し、リンゴ搾汁残渣に高濃度含まれていることを見出した。セラミド素材を安価に供給可能な代替原料として、リンゴ搾汁残渣以外にビートパルプも期待できる。

1 試験目的
 糖脂質の一種であるセラミドは、肌の保湿・美白効果があることから健康食品および化粧品原料に利用されている。現行のセラミドの主要な供給源は、米糠や小麦胚芽などの植物体である。しかし、これらに含まれるセラミドは微量(0.1〜0.2 mg/g 乾燥重量)で、抽出・精製には多大なコストを要することから市場価格はきわめて高価である(3%含有品で1 kg当たり20万円)。そこで、より低コストで製造するのに適した原料を探すため、各種の農産物およびその加工副産物におけるセラミドの含量を調べた。

2 試験方法
 (1) セラミドの抽出・定量
   乾燥・粉砕した各種試料からクロロホルム-メタノール混液で抽出したセラミド画分を薄層クロマトグラフィーで展開し、標準物質とのスポットの濃さからセラミドおよびステロール配糖体の濃度を推定した。
 (2) セラミドの構成成分の分析
   セラミドの構成スフィンゴイド塩基および構成脂肪酸はガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーで分析した。 

3 試験成績


図1 農産物およびその加工副産物におけるセラミドの含量


図2 代表的な植物ステロール配糖体(シトステロールグルシド)の構造


図3 セラミドの構造

表 リンゴ搾汁残渣およびビートパルプから取得可能なセラミドの試算

4 試験結果及び考察
 (1) 図1に示す供試試料には、いずれもセラミドが存在する。その含量は0.01〜0.94 mg/gで分布しており、リンゴの搾汁残渣がもっとも高濃度のセラミドを含む。
 (2) 現行のセラミド製造工程では、植物体中のステロール配糖体(図2)がセラミドの高純度精製を困難にしており、供試試料においては0.01〜0.87 mg/g含まれている。
 (3) リンゴ搾汁残渣のセラミド/ステロール配糖体比は1.09で、セラミドに対するステロール配糖体の割合がもっとも少ないため、セラミドの高純度精製が容易である(他の試料は0.02〜1.00)。
 (4) リンゴ搾汁残渣の主要な構成セラミド種は、脂肪酸としては2-ヒドロキシパルミチン酸およびスフィンゴイド塩基としては4-ヒドロキシ-シス-8-スフィンゲニンで、既往の植物セラミドと類似した組成をもつため、同様の機能性が期待できる。ビートパルプセラミドの主要成分は、既往の大豆セラミドと同一構造である(図3)。
 (5) リンゴ搾汁残渣以外には、ビートパルプがセラミド原料として有望である。全国で1年間に発生するリンゴ搾汁残渣および北海道で1年間に発生するビートパルプすべてから、それぞれセラミドを抽出・精製すると仮定した場合、表のようになる。

5 普及指導上の注意事項
 (1) セラミドは植物界に普遍的に分布しており、未利用資源の利活用の参考とする。
 (2) 使用する品種および生産年によるセラミド含量の変動が予想される。
 (3) 抽出は食品に適用できる溶媒としてエタノールを使用する。
 (4) 正確なコスト試算をするには、パイロットスケールで有機溶媒抽出液からの精製試験を実施する必要がある。