成績概要書 (2006年1月作成)
研究課題:秋まき小麦「キタノカオリ」の低アミロ耐性 担当部署:十勝農試 生産研究部 栽培環境科、中央農試 作物開発部 畑作科 |
1.目的
「キタノカオリ」が低アミロ化する要因を解析することにより、本品種の低アミロ耐性(穂発芽およびα−アミラーゼ活性)を明らかにし、その特性の周知を図るとともに、低アミロ小麦発生軽減の資とする。
2.方法
1)経時変化調査:平成13〜17年に、石狩・空知支庁管内のべ33地点、十勝・網走支庁管内20地点の「キタノカオリ」(参考として一部圃場では「ホクシン」も)について、成熟期前後に穂
発芽粒率、フォーリングナンバー(基準値は300以上)およびα−アミラーゼ活性(ブルー・スターチ法、活性2以上で低アミロ小麦の危険性があり、3以上ではほぼ低アミロ小麦と推定可
能)を調査した。
2)登熟期の気象処理試験:十勝農試の人工気象室において、平成17年春に鉢上げした「キタノカオリ」および「ホクシン」について、出穂期の19日後から成熟期の約1週間後まで気象処
理(低温処理は昼間20℃、夜間10℃で平均15℃、高温処理は昼間25℃、夜間15℃で平均20℃)を行った。成熟期直後およびその1週間後に採取し、穂発芽粒率およびα−アミラーゼ
活性を調査した。
3)降雨処理試験:中央農試では平成17年、十勝農試では平成14〜16年に「キタノカオリ」および「ホクシン」の穂試料について、恒温室で朝晩散水し、経時的に試料採取し、穂発芽粒
率、フォーリングナンバーまたはα−アミラーゼ活性を調査した。
4)フォーリング・ナンバーとα−アミラーゼ活性と読み替え:同一の指標で解析する必要が生じた場合は、読替式(FN=478-66.6×α活性、ただし活性6.25以上はFN=62)により換算した。
3.結果の概要
1)平成13〜17年の全道53地点の「キタノカオリ」の中で、平成15年の十勝農試他6地点において、成熟期で穂発芽は認められないが低アミロ化した事例が認められ、他の年次や「ホク
シン」ではそのような現象は認められなかった(図1)。十勝地域において成熟期で低アミロ化した事例では、充実不良の子実(しいな粒)でα−アミラーゼ活性が高い傾向が認められた
(図2)。
2)成熟期前の気象条件と成熟期のフォーリング・ナンバーとの相関を検討した結果、降水量(降雨指数)、日照時間との相関は低く、平均気温とは全ての対象期間で正の相関(r=0.35*
〜0.64**)が認められた。特に、成熟期前4週間の平均気温とはr=0.64**(n=52)の比較的高い正の相関が認められ、17℃程度以下でフォーリング・ナンバー300以下の試料が認められ
た(図3)。
3)登熟期人工気象処理試験の結果、「キタノカオリ」では成熟期前約3週間の低温条件(平均気温15℃)で、成熟期直後のα−アミラーゼ活性がやや高い傾向を示したが、1週間後には
正常域まで低下した(表1)。同期間の高温条件(平均気温20℃)や成熟期前約1週間の低温条件では、成熟期の高α−アミラーゼ活性現象は認められず、「ホクシン」においてはいず
れの気象処理・採取時期においてもα−アミラーゼ活性は低く維持されていた。
4)成熟期以降の降雨処理試験の結果、「キタノカオリ」は「ホクシン」よりも低アミロ化危険降雨日数の年次変動が大きく、また「ホクシン」よりも低アミロ化しやすい傾向を示した(図4)。
5)以上のことから、「キタノカオリ」は登熟中期の低温条件により成熟期のα−アミラーゼ活性が高まりやすく、成熟期以降の低アミロ耐性も「ホクシン」より低いことが明らかとなった。
6)「キタノカオリ」においては収穫適期を判断するためおよび仕分け収穫・流通を行うために、圃場試料および収穫物に対するα−アミラーゼ活性のモニタリングが有効と考えられる。
4.成果の活用面と留意点
1)本成果は「キタノカオリ」を作付けするにあたって、低アミロ小麦の発生リスクを認識する上で有効な情報である。
5.残された問題とその対応
1)「キタノカオリ」において成熟期で高α−アミラーゼ活性となる機作。
2)効率的な低アミロ小麦子実選別技術の検討。