成績概要書 (2006年 1月作成)
研究課題:原料乳がカード特性に及ぼす影響および小規模工房チーズの理化学性による評価手法の検討 担当部署:根釧農試 研究部 乳質生理科 |
1.目的
小規模工房のチーズ品質の安定と向上のために、少量試料による乳凝固特性評価手法を検討するとともに、原料乳の乳成分、体細胞数、殺菌工程での加熱ストレスがカード特性に及ぼす影響を明らかにする。加えて、取扱が容易な電気伝導度計を用いた発酵モニタリング法を検討した。また、チーズの品質管理や客観的な特徴表現への利用のために、理化学指標による特徴の数値化方法を検討した。
2.方法
1)小規模チーズ工房特有の問題点の実態
小規模工房における生産規模と原料となる道内生乳の乳タンパク質率の現状を解析した。
2)原料乳におけるカード特性への影響
光学式乳凝固特性解析装置と物性測定装置を用いてカード特性を評価した。
3)電気伝導度を用いた乳酸発酵のモニタリング法
乳酸発酵乳・ホエーにおける電気伝導度変化と滴定酸度・pH変化との関係、電気伝導度による滴定酸度の推定精度から、電気伝導度の発酵指標としての利用性を検討した。
4)小規模工房チーズの理化学性による評価手法の検討
(1)物理性による評価法;物性測定装置と歯型アダプター(No8)を用いた評価法の検討、室温保時試料の圧縮時と引っ張り時の最大荷重(N)を測定し硬さおよび粘りを評価した
(2)香気性による評価法; 18種の金属センサーを内蔵する香り識別装置を用いたチーズ種類および工房銘柄と応答値との関係を解析した
3.結果の概要
1)農場バルク乳の乳タンパク質率は向上したが、依然として季節変動と農場間格差が大きい。
2)(1)乳凝固特性解析装置でカード凝固解析が可能であり、さらに、同装置による凝固開始時間の2あるいは3倍時間をカッティング適期とみなすことで、カード凝固硬測定時期を標準化
できた。
(2)乳タンパク質率の上昇に伴ってカッティング適期のカード凝固硬が増加したが、3.40%を越えるとカード凝固硬の増加傾向は不明瞭となった(図1)。
また、体細胞数が30万個/mlを越えるとカード凝固硬が低下した。
(3)殺菌条件が「63℃30分」あるいは「75℃15秒」のいずれでも、カード凝固硬に差はみられなかった。しかし、殺菌温度までの昇温時間が長いほどカード凝固硬は低下した(図2)。
3)電気伝導度を利用して乳およびホエーの乳酸発酵状態をモニタリングできた。しかし、変化量が小さく、2%温度補償機能では不十分で、液温を一定に調整して測定値を得る必要が
あった (図3)。
4)(1)物理性はチーズタイプごとの硬さ・熟度の指標となる可能性があり、工房内の製品管理の手段として利用できることが示唆された(図4)。
(2) 香り識別装置を用いたチーズ香気の応答値はチーズ種類内での変異が大きく、チーズ種類間の変異と重複し、白カビタイプとゴーダタイプの区分にとどまった。
(3)工房銘柄別の応答値は安定しており、品質の同一性を確保するための製品管理用ツールとして香り識別装置を活用できる可能性が示された(図5)。
以上の結果、カード物性評価法を確立し、カード凝固硬に及ぼす原料乳質および殺菌工程での昇温条件の影響を示した。また、電気伝導度を利用した乳酸発酵のモニタリング法を提示した。さらに、香り識別装置と物性測定装置を用いた理化学的指標による小規模工房のチーズの製品管理の可能性を示した。
図5.チーズ試料の主成分分析結果と同一工房チーズの香気特性
4.成果の活用面と留意点
1)カード特性についての知見と発酵モニタリング法は小規模工房において原料乳の品質管理、殺菌施設の管理・改良に利用できる。また、乳凝固特性評価手法は原料乳のチーズ加工
特性評価およびスタータを含めた製造技術の開発改良に利用できる。
2)理化学的評価手法は客観的チーズ品質評価法開発に利用できる。
5.殘された問題とその対応
1)タンパク分解度や遊離アミノ酸量による呈味の数値化と官能評価との関連解明
2)遊離脂肪酸などの香気物質の特定・定量と官能評価との関連解明
3)理化学的評価指標による間易判定法の開発