成績概要書(2006年1月作成)
研究課題:黄色ブドウ球菌性牛乳房炎に対するワクチンの免疫効果 担当部署:畜試 畜産工学部 感染予防科 |
1.目的
主要な乳房炎起因細菌である黄色ブドウ球菌(SA)のワクチン開発を目標として、毒素抗原やきょう膜抗原の免疫による血清および乳清中の抗体価に及ぼす免疫効果やSA感染による感染抑制効果について検討した。
2.方法
1)SAの毒素型ときょう膜型別調査
2)SAの遺伝子組換え変異毒素タンパクによる免疫および感染抑制効果
3)きょう膜による免疫および感染抑制効果
3.結果の概要
1)SAの毒素型ときょう膜型別調査
道内十勝地方のバルク乳から分離されたSA118株において、病原性との関与が示唆されているエンテロトキシンC(SEC)と毒素性ショック症候群毒素(TSST-1)の毒素遺伝子保有率
は約60%あり、その保有率からもSECとTSST-1はワクチン構成要素として適当と考えられた(表1)。きょう膜型は5型と8型で約90%を占めたことから、きょう膜については5型と8型をワク
チンに用いればよいと考えられた。
2)SAの遺伝子組換え変異毒素タンパクによる免疫および感染抑制効果
(1) 無毒化した変異毒素mSECおよびmTSST-1の育成牛への全身免疫によって血清中抗体価、主に免疫グロブリンG1(IgG1)が上昇した(図1)。
またmSECの粘膜投与でも血清中のIgG1およびIgG2抗体価が上昇した。
(2) mSECあるいはmTSST-1の免疫血清との反応により各毒素の毒素活性(スーパー抗原活性)が低下することを確認した。しかしmSECの免疫乳清ではSECのスーパー抗原活性の
低下について確認できなかった。
(3) 搾乳牛のmSEC免疫によって、乳中抗体価(主にIgG1)の上昇が確認された(図2)。しかしmSEC免疫後に実施したSAの感染試験では、乳の体細胞数(PL検査指数)および乳中菌
数において低減効果は認められなかった。
3)きょう膜による免疫および感染抑制効果
(1) 育成牛のきょう膜抗原の免疫によって、血清抗体価(IgG1)が上昇した。また無毒化変異毒素と混合して免疫した場合でも抗体価が上昇した。
(2) 搾乳牛のきょう膜免疫によって、乳中のIgG1抗体価が上昇することが確認できたが、IgG2抗体価は上がらなかった(図3)。その後のSA感染試験では、乳中菌数および体細胞数の
低減効果は認められなかった。
以上の結果から、mSEC、mTSST-1の免疫によってSEC、TSST-1に対する血清および乳清中のIgG1抗体価の上昇が確認された。またきょう膜の免疫によってもきょう膜に対する血清および乳清中のIgG1抗体価を高めることができた。しかしいずれもSAの感染試験において、乳中菌数および体細胞数の低減効果は認められなかった。
表1 分離したS.aureus 118株のきょう膜型と毒素遺伝子保有
図1 SECおよびTSST-1の免疫による血清中抗体価の推移
図2 mSEC免疫牛、非免疫牛における血清および乳清中のIgG1抗体価の推移
図3 きょう膜を免疫した搾乳牛における血清および乳清中のIgG1抗体価の推移
4.成果の活用面と留意点
1) 本成績はSECやTSST-1、きょう膜などを用いた黄色ブドウ球菌のワクチン開発研究の参考となる。
5.残された問題とその対応
1) 粘膜免疫を用いたワクチンの開発。