成 績 概 要 書(2006年1月作成)
課題分類: 担当部署:道立畜試 畜産工学部 遺伝子工学科 受精卵移植科 |
1. 目的
人為的に遺伝子の塩基置換を起こさせる遺伝子修復技術は牛の塩基置換型遺伝性疾患の克服に利用できる可能性があるが、家畜においては遺伝子修復に必要な外来遺伝子を細胞へ導入する遺伝子導入技術が確立されていない。そこで本試験では、遺伝子修復に必要不可欠である牛培養細胞を用いた遺伝子導入に関する基礎技術を確立するため、緑色蛍光発現蛋白質(EGFP)を用いた牛培養細胞への遺伝子導入法、遺伝子導入細胞の選択培養法を検討した。また、それらの遺伝子導入技術を用いて遺伝子修復を試みるとともに、遺伝子導入細胞を用いた核移植胚の作出技術について検討を行った。
2. 方法
1)牛培養細胞への遺伝子導入法および遺伝子導入細胞の選択培養法の検討
2)DNA/RNAキメラプラストを用いた遺伝子修復技術の検討
3)遺伝子導入細胞を用いた核移植胚の作出と核移植胚での遺伝子発現動態
3. 成果の概要
1) 牛培養細胞への遺伝子導入において導入試薬および導入遺伝子の形状を比較検討した結果、活性型デンドリマー形成試薬を用い環状プラスミドDNAを導入する方法でのEGFPの
発現率(導入後24時間)は30-50%であり、非リポソーム系脂質試薬および直鎖化DNAを用いた場合と比較して高い値となった(表1)。また、ネオマイシン(G418)耐性配列を組み込んだ遺
伝子を導入した場合、G418添加濃度が800μg/mlの場合において遺伝子導入細胞の選択培養が可能であった。これらの方法を用いて牛培養細胞へのDNA/RNAキメラプラストの導入
が可能であることが示された。
2) 遺伝子修復モデル細胞およびバンド3欠損症ホモ接合型細胞を用いて遺伝子修復を試みたが、DNA/RNAキメラプラストの濃度、導入時間、細胞周期の条件の違いにかかわらず遺
伝子修復現象はみとめられなかった。
3) EGFP発現ベクターを導入した牛胎子線維芽細胞をドナー細胞に用いて核移植を行った結果、16-細胞期以上に発生した胚の全てにおいてEGFP発現が観察された(表2)。
また、8-細胞期からEGFPの発現が始まる胚の割合が最も多く(図1)、この時期にEGFP発現がみとめられなかった胚の胚盤胞期への発生率は有意に低い結果となった。
本試験の結果から、遺伝子修復技術に必須である牛培養細胞への効率的な遺伝子導入法が示された。また、遺伝子導入細胞を用いた核移植胚の発生能および導入遺伝子の発現率が明らかとなり、遺伝子修復細胞を用いた核移植胚の作出が可能であることが示唆された。
表1.導入試薬によるEGFP発現効率の影響
EGFP発現率(%)* | ||||
導入遺伝子 | 導入試薬# | 導入回数 | 24時間 | 48時間 |
環状プラスミドDNA | 非リポ | 3 | ≦10 | 30-40 |
デンドリマー | 3 | 30-50 | 50-60 | |
直鎖化DNA | 非リポ | 3 | ≦1 | 10-20 |
デンドリマー | 3 | 10-20 | 30-40 |
表2. 核移植胚のEGFP発現時期
4-細胞期 | 8-細胞期 | 16-細胞期 | 胚盤胞期 | ||
核移植 | 融合 | 発生胚数(%)** | |||
胚数 | 胚数(%)* | EGFP発現胚数(%)# | |||
207 | 185(89) | 128(69) | 91(49) | 79(43) | 57(31) |
66(52) | 78(86) | 79(100) | 57(100) |
図1.牛核移植胚におけるEGFP発現強度と発現開始時期
4.成果の活用面と留意点
1) 本試験により示された牛培養細胞への遺伝子導入法および遺伝子導入細胞を用いた核移植は遺伝子修復技術に利用可能である。
5.残された問題とその対応
1) 本試験においては遺伝子修復現象を確認することができなかったため、今後さらに遺伝子修復に関する幅広い知見の集積が必要である。
2) 牛培養細胞への遺伝子導入においては、導入遺伝子の種類や他の細胞種を用いた遺伝子導入効率、遺伝子発現効率の検討を行う必要がある。