成績概要書(2006年1月作成)
研究課題:牧草のヒートダメージが軽種馬の消化性に及ぼす影響
      (予算課題名 サイレージのヒートダメージが軽種馬の消化性に及ぼす影響解明)

担当部署:畜試 環境草地部 草地飼料科
協力分担:
予算区分:受託
研究期間:2003-2005年度(平成15〜17年度)

  
1.  目的
 牧草のヒートダメージが軽種馬の消化性に及ぼす影響を明らかにする。

2.  方法
 1)牧草の加熱処理が馬による消化率に及ぼす影響の検討
  試験1.非加熱乾草と60℃加熱乾草の消化率比較
      イネ科主体2番乾草を供試し、非加熱(非加熱区)と60℃5日間加熱(60℃区)の2処理について全糞採取法消化試験を行い、消化率を比較した。試験配置は反転法とした。
  試験2.60℃加熱乾草と80℃加熱乾草の消化率比較
      チモシー主体1番予乾サイレージ(水分20.7%)を開封後細切し、60℃2日間加熱乾燥した区(60℃区)と、80℃で4日間加熱乾燥した区(80℃区)の2処理の人工乾草について全糞
      採取法消化試験を行い、消化率を比較した。試験配置は反転法とした。
 2)乾草調製時の「仮巻き」についての聞き取り調査
  軽種馬生産農家独特の乾草調製方法「仮巻き」のヒートダメージとの関連を明らかにすることを目的として、仮巻き実施の有無、仮巻きの方法、発熱の有無について聞き取り調査を行
  った。

3.  結果の概要
 1-1) 非加熱区と60℃区の比較において乾物摂取量、血液成分に差は認められなかった。成分含量は60℃区では中性デタージェント不溶タンパク質(NDICP)含量の上昇が認められ
    た。成分消化率は60℃区のNDFで有意に高くなった(表1)。
 1-2) 60℃区と80℃区の比較において乾物摂取量および血液成分に差は認められなかった。成分含量は80℃区でCP、繊維画分およびCP中のNDICP、結合性タンパク質(CPb)が高く
    なり、粗脂肪、非繊維性炭水化物およびCP中溶解性タンパク質(CPs)が低くなった。成分消化率は80℃区の繊維画分、非繊維性炭水化物および乾物で低くなり、TDNについても
    80℃区で低くなった(表1)。
 2-1) 軽種馬農家が行っている「仮巻き」の手順は、圃場での2〜3日乾燥後、①ロールにして1〜3日一時保管し、②ほぐして水分を蒸発させ、品温をやや上昇させたあとに、③再度ロー
    ルにして乾草を仕上げるというものであった(表2)。既往の報告からロール後1〜3日程度の放置では60℃以下の発熱と推測されること、また、農家からの聞き取りでは触れて熱い
    とは感じていないこと、から「仮巻き」時に消化率の低下を伴うほどのヒートダメージは起きていないと考えられた。

 以上、軽種馬による牧草の消化性は60℃の加熱では低下しなかったが、80℃の処理では低下した。軽種馬向け乾草調製時には品温を60℃以下の条件に保つことが重要である。

 

4.  成果の活用面と留意点
 1) 過度の発熱および乾物のロスを避けるため、水分30%以上での仮巻きは避ける。
 2) 60℃程度であっても長期間の加熱は消化率を低下させる恐れがある。
 3) 実際の仮巻き条件では酵母等の活動により可消化部分が消費されるため60℃における成分消化率の向上は期待出来ないことに留意する。

5.  残された問題とその対応
 なし