成績概要書(2006年1月作成)
課題分類: 研究課題:生産情報に基づく水稲の成熟期窒素吸収量推定と施肥設計への応用 担当部署:上川農試技術普及部体系化チーム、中央農試生産システム部水田農業科 |
1.目 的
簡便に生産目標に対応できる窒素施肥適正化技術を確立するため、生産情報(玄米収量、白米タンパク含有率)を利用した水稲成熟期窒素吸収量の推定法及び、窒素施肥設計手法を検討する。
2.試験方法
1)現地窒素用量試験
(1)供試品種:きらら397、
(2)試験圃場:空知、石狩、渡島、檜山管内合計18圃場221区、
(3)試験圃土壌:土壌型5、
(4)調査分析項目:玄米収量(ふるい目:1.90mm)、成熟期窒素吸収量、白米タンパク含有率
2)場内試験
(1)供試品種:きらら397、ゆきひかり、
(2)試験圃場:岩見沢試験地、
(3)試験圃土壌:グライ土、泥炭土、
(4)調査分析項目:玄米収量(ふるい目:1.90mm)、成熟期窒素吸収量、白米タンパク含有率
3.結果の概要
1)生産目標に対する適正窒素施肥量(F)は、F=F'+(N-N')/rにより設定でき、土壌分析(土壌窒素診 断)を必要としない(F':窒素施肥量実績値、N:生産目標のための必要成熟期窒素
吸収量、N':成 熟期窒素吸 収量実績値、r:圃場の施肥窒素利用率)。
2)白米タンパク含有率Prと窒素玄米生産効率X(玄米収量Yi/成熟期窒素吸収量N)間には負の高い相関が認められ(r=-0.846、n=221)、両者の関係は、回帰式Pr=11.8-0.09Xで示すこ
とができる(図1)。この関係は年次、地域、土壌、施肥法による影響が小さく、ほぼ安定して成立する(表1)。
3)白米タンパク含有率と窒素玄米生産効率間の回帰式から、成熟期窒素吸収量(N)の推定式N=0.09× Yi/ (11.8-Pr)、(Yi:玄米収量、Pr:白米タンパク含有率)が得られ、これによる推
定値は実測値とほぼ対応した(図2)。また、本推定方式を利用すると、施肥窒素利用効率は無窒素区を設置することにより生産現場で推定できる。
4)以上の結果から、簡便に生産目標に対応できる窒素適正化技術として、生産情報に基づく水稲の簡易窒素施肥設計法(図3)及び、利用において生産目標設定時に考慮すべき事項
を表2に示した。
この方法による窒素施肥量の設定は以下の手順で行う。
①玄米収量、白米タンパク含有率に関する生産実績値の取得、生産目標値の設定。
②成熟期窒素吸収量の推定式から、生産実績値および生産目標値に対応する成熟期窒素吸収量(N'、N)を求める。
③両者の差(N-N')を、施肥窒素利用率(r)で除すことにより増減すべき窒素施肥量(N-N')/rを求める。
④設定生産目標のための窒素施肥量(F)は、窒素施肥量実績値(F')と増減すべき窒素施肥量((N-N')/r)の和(F'+(N-N')/r)となる
図1 白米タンパク含有率と窒素玄米生産効率 (n=221)
表1 相関係数、回帰式の年次、地域、土壌、施肥法間差
項目 | 区分 | n | 相関関係r | a* | b* |
年次 | 1991年 | 115 | -0.861 | 11.7 | -1.19 |
1992年 | 106 | -0.833 | 12.3 | -0.10 | |
地域 | 空知、石狩 | 104 | -0.786 | 11.7 | -0.08 |
渡島、桧山 | 117 | -0.872 | 11.9 | -0.09 | |
土壌 | 非泥炭土 | 147 | -0.778 | 11.5 | -0.08 |
泥炭土 | 74 | -0.842 | 11.7 | -0.08 | |
施肥法 | 全量基肥 | 44 | -0.878 | 11.7 | -0.09 |
基肥+追肥 | 44 | -0.839 | 12.2 | -0.09 | |
221 | -0.846 | 11.8 | -0.09 |
図2 成熟期窒素吸収量の推定値と実測値(n=168) (○きらら397、●ゆきひかり)
図3 生産情報に基づく水稲の簡易窒素施肥設計法
表2 生産目標設定時に考慮すべき窒素施肥対応、導入技術
生産 目標 |
左の内容(実績比) |
必要な施肥 窒素の増減 |
必要な導入技術 |
① | 減 低 | 減 | 側条施肥、健苗育成、適期移植、 水・地温上昇及び登熟中後期の 土壌水分確保など初期生育促進 と登熟性を高める技術。 導入の必要度:③>②、④>①>⑤ |
② | 同 低 | 減 | |
③ | 増 低 | 減〜増 | |
④ | 増 同 | 増 | |
⑤ | 増 高 | 増 |
4.成果の活用面と留意点
1)主に水稲品種「きらら397」を供試した成績である。
2)生産実績値は「平年」の値を用いる。生産目標値は地域・生産者の実績、技術水準を考慮し過大な設定をしない。
3)施肥窒素利用率は実測値が得られない場合、既往値(全層施肥平均:40%程度、側条施肥平均:45% 程度)を参考とする。
4)生産目標に応じた適正な基本技術(初期生育促進および登熟向上技術)を導入する。
5)土壌診断値をもたない生産者の窒素施肥対応時の参考とする。
5.残された問題点とその対応
1)「きらら397」以外の品種への適用。