「麺ほぐし効果のあるポテトパルプ抽出物」(研究参考事項)
流通システム研究チーム 小田有二
ばれいしょからデンプンを製造するときに副生するポテトパルプをペクチナーゼで処理した。このろ液を乾燥させた抽出物には優れた麺ほぐし効果があり、調理済みの麺類や米飯類など幅広く適用可能であった。
1 試験目的
調理済みの麺類や米飯類を冷蔵保存すると塊になりやすいため、食品メーカーでは乳化剤、増粘多糖類、食用油、加工デンプンなどを主成分とするほぐれ剤を原料に練りこんだり、茹で麺の表面に塗布したりする。しかし、その効果は不十分で風味や食感に悪影響を及ぼすことが少なくない。本研究では、デンプン工場で副生するポテトパルプの酵素処理抽出物に優れた麺ほぐし効果があることを見出し、その有効成分を調べた。
2 試験方法
(1) 抽出物の調製:乾燥ポテトパルプを蒸留水と混合して固形分20%
クツロナーゼ活性として 100単位を添加した。なお1単位はポリガラクツロン酸から1分間に1μmolのガラクツロン酸を生成する活性と定義した。50℃、24時間反応後、121℃、15分間
処理して酵素を失活させ、布でろ過した。ろ液を凍結乾燥させたポテトパルプ抽出物は、乾燥重量として約5g取得できた。これを12%
(2) 麺ほぐれ度合いの評価:茹でた中華麺50gをプラスチック製カップに入れ、試料溶液1.0mlを加えて攪拌した。これを4℃、20時間保存後、固まった麺をフォークに突き刺して45°角度
で毎分90回振り(図1a)、ほぐれた麺が下の台に接触する(図1b)までの時間を計測した。
(3) 成分分析:ポテトパルプ抽出物に含まれる物質の分子量は高速液体クロマトグラフで調べた。高分子物質は試料溶液に4倍容量のエタノールを添加して沈殿させた。ウロン酸は4-ヒ
ドロキシジフェニル法で定量し、中性糖は加水分解後に高速液体クロマトグラフで分析した。
3 試験成績
(1) 試料溶液を塗布した麺は、ポジティブコントロールのプルランと同様に10秒程度でほぐれたが、ネガティブコントロールのグルコースでは15分以上経過しても塊のままであった(表1)。
(2) ポテトパルプ抽出物に含まれる物質の分子量分布を調べると図2aのようになり、麺ほぐし効果を示すのは、エタノール沈殿で回収した分子量104〜106の高分子物質であった(図
2b)。なお、図2a中の10.8分に出現した大きなピークはグルコースとマルトースによるものであった。
(3) 高分子物質の大部分はウロン酸とガラクトースで構成されていたことから(表2)、麺ほぐし効果の有効成分はペクチンと考えられる。
(4) 上記の方法で乾燥ポテトパルプ22.5kgから抽出液240Lを分離して噴霧乾燥させたところ、抽出物は乾燥重量として9.24kg取得できた(図3)。小規模実験と同様に、このポテトパルプ
抽出物も優れた麺ほぐし効果を備えていることを確認した。
表1.麺がほぐれるまでの所要時間(分)
表2.ポテトパルプ抽出物中の高分子物質の成分
図2.高速液体クロマトグラフで調べた分子量分布
図3. ポテトパルプ抽出物の中規模製造
4 試験結果及び考察
本研究では、市販ペクチナーゼによる処理でポテトパルプから麺ほぐし効果をもつ抽出物を調製可能であり、その有効成分がペクチンであることを明らかにした。茹で麺の付着は麺中のデンプンに存在する水酸基同士の水素結合に起因するとされているが、ポテトパルプ抽出物中のペクチンは麺線間のスペーサーとなって付着を防止すると推定される。
ローカストビーンガム、グアガム、キサンタンガム、κ-カラギーナンなどの多糖類は、増粘安定剤としてサラダドレッシング、ソース、ソフトドリンクやアイスクリームなどの食品に幅広く使用されており、これらにも麺ほぐし効果が認められている。しかし、実際に調理麺を製造している業者は粘度の高い多糖類を敬遠するため、本研究のポテトパルプ抽出物は好まれる可能性が高い。ポテトパルプ抽出物を麺用ほぐれ剤として実用化できれば調理麺業界のニーズに応えるばかりでなく、国産ばれいしょの高付加価値化に大きく貢献すると期待される。
5 普及指導上の注意事項
(1) 使用するペクチナーゼは、ポリガラクツロナーゼ以外の酵素活性が低い市販の食品用酵素を使用する。
(2) 本成果の内容は特許出願中である。