成績概要書(2007年1月作成)

研究課題:大豆の花粉形成期における低温感受性とその評価法
       (大豆の開花期高度耐冷性遺伝資源の探索)

担当部署:十勝農試  作物研究部  大豆科
担当者名:
協力分担:
予算区分:国費受託(ジーンバンク事業)
研究期間:2004〜2006年度(平成16〜18年度)

 

1.目的

大豆生産の最も大きな不安定要因の一つである障害型冷害について、開花直前からの低温による着莢障害については基礎的知見が蓄積され、その品種間差の検定方法も確立されている。しかし、開花前の花粉形成期における低温の影響についてはほとんど未解明である。花粉形成期の低温感受性が高まる期間や品種間差など基礎的な知見を明らかにし、さらに遺伝資源の花粉形成期耐冷性の評価方法を開発する。

 

2.方法

 1)開花期前後における低温感受性の高い時期の解析
  個々の花単位で見た場合の低温感受性を明らかにするために、人工気象室を使って様々な生育ステージの花を低温処理(7日間 昼15℃/夜10℃ +55%遮光)し受精莢率、柱頭上花
  粉数等への影響を調べた。

 2)圃場における花粉形成期の低温感受性の解析
  過去の被害の大きかった障害型冷害年について、花粉形成期の低温の影響を解析した。

 3) 花粉形成期耐冷性の品種・系統間差の解析
  圃場での事例から品種・系統の花粉形成期耐冷性を評価し、これまでの人工気象室による開花期耐冷性の検定結果と比較した。

 4)遺伝資源の花粉形成期耐冷性の簡易評価法の検討
  花粉形成期耐冷性の簡易評価法について指標とする形質、手法について検討した。

 5) 遺伝資源の花粉形成期耐冷性の評価
  4)で検討した条件で、国内外の多様な遺伝資源を評価した。

 

3.成果の概要
 1)個々の花で見た場合、「花粉四分子期前後」(開花10〜14日前)と「開花直前」(開花1〜4日前)の2つのステージで低温に対する感受性が高まることが明らかになった(図1A)。
  また、花粉四分子期前後に低温に遭遇した花においては、形態が異常な花粉粒が観察され(図1B)、この時、異常花粉率と受精莢率の間に高い相関があった。

 2) 1)の結果と圃場での開花パターンから、群落で見た場合、開花のピークの約16日前から「花粉四分子期前後」の低温感受性の高い期間が始まり、引き続き「開花直前」の低温感受性
  の高い期間が存在すると推測された(図2)。また、過去の障害型冷害の事例解析により「花粉四分子期前後」の低温感受性の重要性が示唆された。

 3)圃場での事例の解析および人工気象室による試験により花粉形成期耐冷性に品種間差があり開花期耐冷性の評価とは必ずしも一致しないことが明らかになった(図3、表1)。

 4) 多様な遺伝資源から、花粉形成期耐冷性が非常に強い遺伝資源を見出すための簡易評価法として、7日間の低温処理(昼15℃/夜10℃+55%遮光)終了後、7〜11日後(低温処理の
  中心日から10〜13日後)に開花した花の葯から回収した花粉の異常花粉率を指標として評価する方法を開発した。

 5) 4)の手法で、国内外の多様な遺伝資源合計70点を評価したが、花粉形成期耐冷性が非常に強い有望な遺伝資源は見出せなかった。(表2)。



 図1  低温処理による受精莢率等の変動と低温に対して感受性が高まるステージ

  



 図2 圃場における低温感受性の高い時期のモデル

   


 図3 人工気象室における花粉形成期耐冷性の品種間差

   

 ああああ

 

4.成果の活用面と留意点
 1)開花期耐冷性に加えて、花粉形成期耐冷性の検定と遺伝資源の評価に取り組む。
 2)現行の品種・系統の中で花粉形成期耐冷性の強い「十系952号」、「十系978号」を交配母本として用いる。

   

5.残された問題とその対応 
 1) 「十系952号」等の現行の材料を使って、花粉形成期耐冷性の向上を図るためには、花粉形成期耐冷性の品種間差を簡便に高精度で検定できる手法を開発する必要がある。