ばれいしょ新品種「北海94号」(普及推進事項)
                北海道農業研究センター寒地地域特産研究チーム
                        執筆担当者    小林 晃
 
 ばれいしょ「北海94号」は目の周りが赤く着色した、外観に特徴のある中生で生食用のジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種である。白肉で、煮くずれが少なく、食味が優れ、サラダおよびコロッケ加工適性もある。「男爵薯」よりも多収で、青枯病にもやや強い。
 
1 来 歴 等
ばれいしょ「北海94号」は、黄白皮で目の部分が淡赤い中晩生の多収系統「T9020-8」を母、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有し中生でサラダ加工適性のある白肉品種「さやか」を父とする交配集団より育成された系統である。
 
2 特性概要
 (1) 長所および短所
 長所
 1)食味が優れ、サラダ加工適性とコロッケ加工適性があり、多収である。
  2)ジャガイモシストセンチュウ抵抗性である。
  3)青枯病にやや強い抵抗性を有する。
 短所
  1)熟期が「男爵薯」よりも遅い。
 
 (2) 特性の解説
   茎葉の枯凋期は「男爵薯」よりも遅く、「さやか」よりも多少遅い、“中生”で  ある(表1)。茎長は「男爵薯」よりも長く、「さやか」並の“中”、収量は「男爵  薯」よりも多く、「さやか」並、上いも平均一個重は「男爵薯」よりも大きく、「さ  やか」よりやや小さい“中”、でん粉価は「男爵薯」、「さやか」よりもやや低い  “やや低”である(表1)。いもの形は倒卵形で、目はやや浅く、皮の一次色は“  白”、二次色は“淡赤”で、目の周りが赤く着色した特徴のある外観を呈する(表  2)。塊茎の生理障害では、褐色心腐の発生は「さやか」同様の“無”、二次生長  の発生は「さやか」よりわずかに多く、「男爵薯」並の“微”、中心空洞の発生は  「さやか」より多く、「男爵薯」より少ない“微”である(表2)。打撲に対して  もやや強い(表2)。
   病害虫に対する抵抗性では、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子H1を有  し、青枯病に対しても“やや強”の抵抗性を持つ(表3)。塊茎腐敗に対しては「男  爵薯」より強く、「さやか」並に強い“やや強”である(表3)。そうか病に対し  ては「男爵薯」、「さやか」と同様の“弱”、Yモザイク病には「男爵薯」、「さや  か」同様に弱い。 剥皮による褐変は「男爵薯」、「さやか」よりも少ない“微”  である(表3)。水煮による煮くずれの程度は、「男爵薯」、「さやか」よりやや少  ない“少”、黒変の程度は「さやか」よりやや多く、「男爵薯」並の“少”、調理  後の肉質は“やや粘”、食味は“中上”である(表3)。サラダおよびコロッケ加  工適性を有しており、チップ・フライ適性は“中”である(表3)。用途は“調  理用”である。
 
 
 
 
3 試験成績
 
 
 
 
 
 
4 採用理由及び普及見込み地帯
 (1) 採用理由
   一般家庭の外食化と調理簡素化に伴い、「男爵薯」と「メークイン」がリード  してきた家庭内消費が落ち込み、生食用ばれいしょの栽培面積は減少している。  基幹作物であるばれいしょの栽培面積の減少は、輪作体系の崩壊にもつながるた  め、これ以上の減少は食い止めなければならない。一方、家庭内消費が落ち込む  反面、外食産業が伸びていることにより、業務用ばれいしょの需要は高まってい  る。サラダ原料として「さやか」の栽培面積は年々増加し、平成17年度は約1000  ha栽培されている(平成17年度、道農政部調べ)。しかし、「さやか」はサラダ原  料としてほぼ専用品種化しており、青果市場向けとしてはほとんど流通してない。  また、「男爵薯」は生食用として約11000ha、加工用として480ha栽培されている  が(平成17年度)、生食用として栽培されたものの中から、選別によりB級品など  2割強がコロッケおよびサラダ加工等の原料に振り分けられている現状がある。  今後、生食用品種の普及を考える上では加工適性も兼ね備えた汎用性の高い品種  が必要となってくる。
   「北海94号」は中生の生食用ばれいしょであり、「男爵薯」同様の白肉で、粘  質系であるため「男爵薯」とは食感は異なるが、煮くずれが少なく、食味も優れ  ている。収量は「男爵薯」より多く、いもの内部異常は少なく、塊茎腐敗や打撲  にも強い。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つため、汚染地の栽培では線  虫密度を低減し、未発生地では汚染の拡大を防ぐ効果もある。さらに、北海道に  おいても発生事例のある青枯病について、「北海94号」はやや強い抗性を有して  いる。また、既存品種と区別性が高い外観を呈しており、他の品種との差別化が  図れることは有利な販売材料となるため、実需、流通業者からの期待も大きい。  さらにサラダ加工適性に加え、「さやか」にはないコロッケ加工適性を有してい  ることから、高い汎用性により、市場販売のみならず業務用としての用途も見込  まれる。そのため、早生が作付けの中心である生食用ばれいしょに、中生ではあ  るが良食味で汎用性が高い「北海94号」をメニューとして加えることで、ばれい  しょ市場の活性化が期待できる。これらのことから、「北海94号」を優良品種に  採用することにより、北海道のばれいしょの安定的な生産振興に寄与するものと  考える。
 
 (2) 普及見込み地帯      
   北海道のばれいしょ栽培地帯  
 
 
 
 
 
   普及見込み地帯における
   「北海94号」の「男爵薯」
   に対する収量比(%)
    収量:規格内収量(農試●、H16-18平均)
    中以上いも重(現地▲、H17,18平均)
    ( ):単年度
 
 
5 普及指導上の注意事項
 (1) 目数が少ないため、種いもを切断する場合は頂芽の位置に十分注意する。
 (2) PVY-T系統の感染による上位葉の病徴は不明瞭なモザイクであるため採種管理   に当たっては注意する。