成績概要書(平成19年1月作成)
研究課題:牛XY分取精子の受精能および分取精度評価
      (XY精子分取精度の評価法および分取精子による効率的牛胚生産方法の開発)

担当部署:道立畜試  基盤研究部  受精卵移植科・遺伝子工学科   家畜研究部  育種科
協力分担:ジェネティクス北海道 試験研究室
予算区分:共同(民間等)
研究期間:完2003〜2005年度(平成15〜17年度)

1.   目的 
 XおよびY精子のDNA含量の差を利用し、フローサイトメータ(FCM)により分取する方法が開発され、牛の雌雄産み分けへの利用が検討されている(図1)。現在、分取精度は90%程度まで向上しているが、分取効率が低く十分な精子を供給することはできない。
 本実験では、FCMによる精子分取精度の評価法を開発するとともに、分取精子による人工授精および体外受精で受精卵を生産し、分取精子の有用性を検討する。また、利用できる分取精子数を増加させるために、精子の処理方法を検討する。

2.   方法
 1)  XY分取精度評価法の検討
 2)  XY分取精子の凍結保存方法の検討
 3)  XY分取精子による効率的牛受精卵生産方法の検討

3.   結果の概要
 1) PCRによりXおよびY分取精子の性染色体検査を行った結果、FCMで再分取して評価した精度とほぼ一致し、想定された精度で分取されていることが確認された(表1)。黒毛和種(種
   雄牛A)Y分取精子を用いて体外受精を行った結果、対照およびY分取精子間の分割率および発生率に差はなく、いずれも媒精時間が5時間から18時間に延長することによって増加
   した(表2)。種雄牛B(参考値)は、媒精時間の延長により発生率が低下し、精液によって至適な媒精時間が異なることが示唆された。Y分取精子による体外受精卵の雄の割合は対
   照に比較して高い値を示した(表3)。
 2) クエン酸緩衝液はトリス緩衝液に比較して先体正常率および運動精子率のいずれも高い値を示した(表4)。また、クエン酸緩衝液とMulti thermal gradient (MTG)凍結法の組み合わ
   せで最も高い先体正常率および運動精子率が得られた。
 3) 黒毛和種分取精子を用いて人工授精を行った結果、発生率および正常卵率のいずれも対照に比較してY分取精子の成績が低かった(表5)。Y分取精子による受精卵の雄の割合
   は対照に比較して高く、FCMで再分取して評価した精度と一致した(表6)。受精卵移植により生産した子牛3例は、難産(双子)による死亡、生後直死および正常子牛が各1例であり、
   いずれも外貌、生時体重等に異常はみられなかった。生存した1例の体高および体重は黒毛和種の発育標準の範囲内であった。

本実験では、PCRによる分取精子の精度評価法を確立した。黒毛和種の分取精子を用いた体外受精および人工授精により、雌雄産み分けが可能なことを示した。また、精液の希釈緩衝液および凍結法の改良により、精子の生存率を向上できることを示した。

表1  XY分取精子のPCR法による性染色体検査

 

表2  黒毛和種Y分取精子による体外受精卵の発生成績

 異符号間に有意差あり  種雄牛B(非分取)の値は参考値

 

表3  黒毛和種Y分取精子による体外受精胚の性判別
あああああ
図1 FCMによる精子の分取
 

 

表4  分取精子に対する精子希釈緩衝液および凍結法の影響

 異符号間に有意差あり

 
 

表5  黒毛和種Y分取精子による人工授精 −採卵−

 異符号間に有意差あり   正常胚;桑実胚以上のA〜Cランク
あああああ 表6  黒毛和種Y分取精子による人工授精 −性比−

 

4.    成果の活用面と留意点
 1) PCR法による性染色体検査をFCMによる精子の分取精度評価法として利用する。
 2) FCMによる精子の分取効率を改善するための基礎データとして利用する。
 3) FCMによる分取精子を用いた受精卵生産効率の改善のための基礎データとして利用する。

5.  残された問題とその対応
 1) 個体毎の精子の分取効率、分取精度および分取精子の受精能を調査する必要がある。
 2) 分取精子を用いて効率的に体外受精卵を生産する方法を検討する必要がある。
 3) 少ない精子数で効率的に受精卵を得るために、未経産、経産牛、精子数および子宮への注入部位など考慮して人工授精方法を最適化する必要がある。