成績概要書(2007年1月作成)

研究課題:QP法による牛受精卵を用いた遺伝病診断
      (蛍光消光を用いた新規なプローブによる牛受精卵の遺伝病診断技術の実用化)

担当部署:畜試 基盤研究部 遺伝子工学科 受精卵移植科
協力分担:(株)J-Bio21
予算区分:外部資金(JSTシーズ育成)
研究期間:2005年度(平成17年度)

 

1.目的
 遺伝子工学的手法の発展により、牛の遺伝病が次々と明らかにされている。現在は血液検査で保因牛同士の交配を避けることにより発生を防いでいるが、スーパーカウなどの優秀な牛が遺伝病を保因している場合、遺伝資源の有効活用が制限される。そこで、受精卵段階で遺伝病保因の有無を判定し、遺伝的に優れ、かつ遺伝病フリーな受精卵だけを移植できる家畜受精卵の遺伝病診断技術の開発が望まれている。これまで黒毛和種のクローディン16欠損症やバンド3欠損症についてPCRを用いた遺伝病診断に成功しているが、本課題では新規な蛍光消光プローブであるQProbeを用いた遺伝子解析技術(QP法)に、少数細胞からの効率的なDNA抽出法を組み合わせることにより、牛受精卵の一部の細胞を材料とした簡便・迅速・安価な遺伝病診断技術を開発する。

2.方法
 1)バンド3欠損症を対象としたQP法の至適条件の検討
  既に診断が実施されている家畜の遺伝病の中で一塩基置換が原因であるバンド3欠損症を対象として、QProbeおよびPCRプライマーを設計し、少量のゲノムDNAから診断可能な解析
  条件を検討した。
 2)受精卵を用いたQP法の実証試験
  複数の受精卵サンプルについて、前項で得られた解析条件でバンド3欠損症診断を行い、従来法(PCR-RFLP法)との比較も踏まえ、本法の有効性を検討した。

3.成果の概要
 1)バンド3の配列情報に基づき、QProbeは、2本(QP-1、QP-2)、プライマーは、フォワード、リバース各5本ずつ(F1〜F5、R1〜R5)を設計してさまざまな組み合わせを検討し、QProbe
  ついてはQP-1、プライマーについてはF1およびR2を選択した。
  表1および表2の条件でリアルタイムPCRを行うことにより、正常型(ワイルド型)と変異型を安定して判定することができた(図1)。また、本法の感度は、遺伝子型の判定に必要なDNA
  量が、正常型(正常 / 正常)、ホモ型(変異 / 変異)およびヘテロ型(正常 / 変異)においてそれぞれ10、25および50pgであった(表3)。
 2)桑実胚から採取した細胞を用いてQP法とPCR-RFLP法を比較したところ、PCR-RFLP法が、割球5細胞以上で正常型、ヘテロ型それぞれの遺伝子型を100%正しく判定できたのに対
  して、QP法は、10細胞で正常型を100%、ヘテロ型を89%正しく判定できた(表4)。

以上の結果から、QP法により、簡易にバンド3遺伝子型を判定できることが示された。QP法(約2時間)は、PCR-RFLP法(約8時間)の1 / 4程度まで所要時間を大幅に短縮することができ、採卵当日に受精卵のバンド3遺伝子型を判定して移植まで行うことが可能となった。

 


*UNG:ウラシル-DNAグリコシラーゼ
あああ     ああ

 


図1  温度解離曲線解析
ああ   あああ     

  

表4 QP法とPCR-RFLP法のバンド3遺伝子型検出精度の比較

 

4.成果の活用面と留意点
 1)QP法は、家畜において遺伝性疾患をはじめ様々な遺伝的形質について受精卵段階での遺伝子型判定に応用可能と考えられる。しかし、QP法およびバンド3遺伝子型診断法は、特
  許取得または出願されており、営利目的の利用には権利者から特許実施の許諾を得る必要がある。
 2)細胞を採取する受精卵が小型化桑実期の場合は吸引法、それ以降(胚盤胞、拡張胚盤胞)の受精卵は、切断法により細胞を採取するのが望ましい。

5.残された問題とその対応
 1)感度の向上。
 2)3項目以上の遺伝性疾患や経済形質を効率的に判別する方法の検討。