「でん粉粕サイレージの飼料特性評価に基づく泌乳牛への給与法」
 (指導参考事項)
                      北海道農業研究センター
                            自給飼料酪農研究チーム
                               大下友子
 
 バレイショでん粉粕サイレージはペクチンを約10%含み、消化性の高いエネルギー飼料で、カリウム含量が粗飼料よりも低い。でん粉粕サイレージは泌乳牛に圧片トウモロコシの約2kg(原物)の代替として給与できる。
 
1 試験目的
  バレイショでんぷん製造副産物であるでん粉粕は道内で毎年10万t産出されているが、 高水分で保存性が悪く、また、飼料特性に基づく乳牛に対する給与技術が確立されていな い等の理由から飼料利用は約4割にとどまっている。本研究では、でん粉粕を自給飼料資源 として活用するため、サイレージ化しその飼料特性を多面的に評価し泌乳牛への給与法を 提示する。
 
2 試験方法
(1) でん粉粕の飼料特性評価
  南十勝合理化でん粉工場から産出されたでん粉粕を密封性の高いドラム缶サイロ(20 0リットル容)に貯蔵し、サイレージとして保存した。開封後にサイレージの飼料成分組 成(一般飼料成分、ミネラル含量)、発酵特性、消化特性を調査した。試験区として、 乳酸菌を添加した区(LPS区)と無添加(PPS区)の2つの区を設定した。
 
(2) でん粉粕サイレージの泌乳牛に対する給与法の検討
 (試験1)
  去勢ヒツジ16頭を供した消化試験を行い、でん粉粕サイレージに対する圧片トウモロ コシの代替割合が栄養価におよぼす影響を検討した。また、泌乳牛への最適給与水準を 明らかにするため、でん粉粕サイレージの混合割合を①0%、②8%、③16%とし、泌乳中期 牛6頭を供した3×3のラテン方格法による飼養試験を行い、採食性、乳生産、第一胃液性状 および血液性状を調査した。

 (試験2)
  でん粉粕サイレージの混合割合を8%とし、粗飼料源を①牧草サイレージ100%(GS区)、② GS50%+トウモロコシサイレージ50%(CS区)、③GS50%+アルファルファサイレージ50%(ALS  区)の3区を設定し、泌乳牛の飼養試験を行い併給粗飼料源の影響を検討した。試験方法は 試験1と同様に泌乳中期牛6頭を供した3×3のラテン方格法による飼養試験を行い、採食性、 乳生産、第一胃液性状および血液性状を調査した。

3 試験成績
(1) でん粉粕は高水分でかつサイレージ発酵の基質である単少糖類が少ないものの密封貯蔵すれば、乳酸菌を添加しなくても乳酸、酢酸のみからなる良質なサイレージが調製できることが明らかとなった。(図1)。
 
 
 
 
 (2) でん粉粕サイレージは粗タンパク質含量が4%と穀類の約半分で、繊維含量は3-4倍と高く、穀類やイネ科牧草にはほとんど含まれていないペクチンが約10%含まれた(表1)。
(3) でん粉粕(原料およびサイレージ)にはリン(P)はほとんど含まれず、カリウム(K)含量は約0.7%で、穀類より高いものの粗飼料よりも低かった(図2)。
 
(4) でん粉粕サイレージのTDN含量は平均値で76%と査定され、濃厚飼料並みのエネルギー価であり、第一胃内における消化速度は13%/時と穀類より高かった(図3)。でん粉粕サイレージで圧片トウモロコシを代替すると、代替率が2/3(飼料中の混合割合は20%)までは、消化率、栄養価が変わらないが、すべて代替すると消化率、栄養価ともに低下した(図4)。
 
 
 
(5) 圧片トウモロコシの一部をでん粉粕サイレージで代替したTMRを摂取した泌乳牛の血液性状および第一胃液性状は正常値の範囲にあった。飼料中の混合割合を16%とした場合は、0%あるいは8%混合した場合に比べ、飼料全体の摂取量が低下し乳量も減少した(表2)。試験2の結果、CS区の乾物摂取量はGS区と遜色なく、乳成分、乳量も差がなかったものの、第一胃内のpHが牧草サイレージ摂取時よりも低かった(表2)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
4 試験結果及び考察
  以上の結果から、でん粉粕サイレージは消化性の高い炭水化物に富む飼料資源で飼料中に8%程度混合しても乳生産や健康を損なわず、圧片トウモロコシの2kg(原物)程度を代替できることが明らかとなった。また、併給粗飼料としては牧草サイレージが適当で、とうもろこしサイレージが不足する時期にとうもろこしサイレージの不足分を補う代替飼料として利用できると判断された。 このように、近隣にでんぷん工場がある畑作酪農地帯では、地域内有機物資源であるでん粉粕をサイレージとして保存し、泌乳牛向け飼料として有効活用すれば、輸入に頼らない自給飼料型酪農が可能になると考えられた。

 5 普及指導上の注意事項

 (1) でん粉粕は水分含量が高く、空気に触れると腐敗しやすいことから、サイレージと  して保存する場合、密封を完全にする。

 (2) ジャガイモ塊茎褐色輪紋病の病原ウイルスを媒介するジャガイモ粉状そうか病菌は、耐久体を形成し他の病原菌と比較して熱などに対する耐久性が高い恐れがあることから、病原を拡散させないためでん粉粕を給与した牛のふん尿堆肥は草地に還元し、当面畑地への還元を避ける。

 (3) 本試験結果の対象は泌乳牛で、乾乳牛および育成牛への給与法、およびでん粉粕サイレージの生産コストについては未検討である。