成績概要書                     (2007年 1月作成)

研究課題:生乳の風味特性と機器による脂肪分解臭の迅速評価法
       (生乳の香気特性解明と機器による簡易測定法の開発)

担当部署:根釧農試 研究部 乳質生理科
協力分担:北海道乳質改善協議会、北海道酪農検定検査協会
予算区分:受託
研究期間:2004〜2006年度(平成16〜18年度)

 

1.目的
 生乳中のにおい関連物質の分析を行い、道内で生産されている生乳のにおいの特性の実態を調べるとともに、問題になることが多いと予想された脂肪分解臭を短時間で評価する手法について検討する。また、生乳で生じ得る特徴的なにおいと味を官能的に評価する手法を整理し、生産現場に近い農協等において、生乳風味の特徴を把握する方法を示す。

 

2.方法
1)道内における生乳中のにおい関連物質の実態調査
  北海道内のストレージタンクおよびミルクローリー車の生乳中のにおい関連物質の実態を調査した。
   ・ストレージ調査:4地点×4季節
   ・ローリー調査:10台×2季節
2)特徴的な風味を有する生乳試料分析
  日常的に生乳風味の判定を行っている判定員によって、風味に特徴があると指摘された生乳試料中のにおい関連物質の動態を調査した。
3)脂肪分解臭の迅速評価法
  事例が多いと考えられた脂肪分解臭を短時間で評価するため、赤外線多成分分析装置で計測できる測定項目の検討を行った。
4)生乳風味の官能検査法の標準化
  生産現場に近い段階で、各種の特徴的な生乳風味の特性を把握するため、評価員の訓練のための見本試料作成法と標準的な官能検査実施手法を整理した。

 

3.結果の概要
1)生乳中のにおい関連物質含量には、地域や季節にともなう一定の変動が認められず、おおむね類似した数値であった。アセトンや脂肪酸の含量の変動幅は、他の成分に比較してや
 や大きかったが異常な値ではなかった(表1)。
2)特徴的な風味を有すると判断された生乳の中には、①検出される脂肪酸の量が多い、②検出されるアセトンの量が多い、③他の生乳ではほとんどみられないヘキサナールが検出され
 る、などの事例があり、これらが風味と関連しているものと考えられた(表2)。
3)赤外線多成分分析装置で計測されるFFA/F(遊離脂肪酸/脂肪)値は、水蒸気蒸留で生乳から抽出された脂肪酸量と強い正の相関関係にあり(図1)、官能的な脂肪分解臭の強度の
 順位評価とも対応することから(図2)、脂肪分解の程度の評価に利用できるものと判断した。
4)生乳でみられる主な風味変動を模擬的に再現した見本試料の作成方法(表3)、その見本試料で事前に訓練した判定員による官能検査実施手法(図3)を文献検索や聞き取り調査から
 整理して提示した。

 

以上により、生乳の風味に影響を及ぼす脂肪酸量は赤外線多成分分析装置で迅速に計測できること、また、生産現場に近い農協等で実施できる官能検査手法と、検査員訓練のための見本試料の作成方法を示した。

 

表1. 道内4地域で採取した生乳中の主なにおい関連物質 (ppm)

  

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    表2. 特徴的な風味と評価された事例とにおい関連物質の変動


図1. FFA/F値と水蒸気蒸留抽出した脂肪酸量との関係

図2. FFA/F値と脂肪分解臭の官能的評価値との関係

   

表3. 見本試料の作成方法


図3. 官能検査の実施手順

 

 

4.成果の活用面と留意点
 本成績で提示した風味確認手順は、風味の変化が指摘された農場バルク乳の風味の特徴を判定し、当該農場で実施すべき改善対策を選択するために農協等において実施する。なお、本手法は風味の適否を判断するためのものではない。

 

5.殘された問題とその対応
 道内で生産されている生乳に関するFFA/F値の実態把握。