成績概要書(2007年1月作成)
研究課題:放牧条件が牛乳の栄養・機能性成分に与える影響 担当部署:根釧農試 研究部 乳質生理科 |
1.目的
放牧草の利用が牛乳中の共役リノール酸(CLA)を増加させることが注目されている。しかし、放牧草の品質、放牧時間等の利用条件、併給飼料給与方式との関連は明らかでない。CLAの原料物質とされる放牧草が含む多価不飽和脂肪酸量とその変動要因、放牧時間及び放牧草摂取量と乳脂肪中のCLA割合の関係を明らかにする。また、放牧草利用が生乳と乳製品のCLAやβ-カロテン等の栄養・機能性成分に与える影響を明らかにする。
2.方法
1)放牧草中の多価脂肪酸含量とその動態
試料;放牧草、採草用牧草、牧草サイレージ 調査項目;脂肪酸含量、脂肪酸組成
2)放牧草摂取量が乳脂肪酸中のCLA割合に与える影響
試料;根釧農業試験場内飼養試験データおよび放牧草利用状況の異なる20農場
調査項目;乳脂肪中のCLA割合、飼料構成、放牧時間、併給飼料給与方式
3)放牧飼養条件が乳脂肪中のCLA割合に与える影響
調査農場;放牧実施6農場、放牧未実施7農場 調査項目;2)に同じ
3.成果の概要
1)イネ科牧草の生草における脂肪酸含量は茎+葉鞘部に比較して葉身部で高く、いずれの部位も多価不飽和脂肪酸(C18:2n6+C18:3n3)割合が70%〜80%と高い値を示すため、生草
中の脂肪酸および多価脂肪酸含量は植物体に占める葉身部割合と高い正の相関関係(r=0.87、p<.01とr=0.76、p<.01)を示した。
2)放牧草の脂肪酸含量は、早春5月に3.2%と高い値を示し、6月以降はほぼ2.5%程度の値で推移した。脂肪酸組成の季節的な変動は小さく多価不飽和脂肪酸が約77%を占め、放牧
草の多価不飽和脂肪酸量は一番草サイレージの約3倍であった(表1)。
3)乳脂肪中のCLA割合は、十分な草量を準備した4時間以上の放牧時間を確保することで放牧未実施農場に比較して有意な上昇を認め、放牧時間増加による上昇傾向は、放牧時間
が7時間程度までは明らかな上昇傾向を示し8時間以上では緩慢となった。また、同じ放牧時間であっても併給粗飼料の給与方法によりCLA割合が異なることが示唆された。(図1)。
4)季節生産性を考慮した放牧地面積を確保し、放牧草を充分に摂取させた放牧期の牛乳は、他の粗飼料を利用する農場に比較して、「黄色味の強い」、「ビタミンEとβ-カロテンが多い
」、「乳脂肪中のCLA割合が多い」という特徴が付加された。とくに、乳脂肪中のCLA割合は、放牧未実施農場の平均値0.43%に比較して約3倍の1.41%と高く、この傾向は春期6月から
秋期9月までの放牧期間中持続した(図2、図3)。
5)放牧実施農家工房で製造されたチーズ脂肪酸中のCLA割合は、放牧期間に高く、放牧期間の乳脂肪中のCLA割合が高いという特徴は、殺菌・製造・熟成工程を経ても維持された
(図4)。
以上により、放牧飼養による生乳を特徴付ける放牧条件を整理するとともに、その特徴は放牧農家工房チーズにも維持されることを明らかにした。
図1 併給粗飼料給与方式別の放牧時間と乳脂肪中CLA増加ポイントの関係 図2 放牧飼養農場におけるの牛乳中β‐カロテン含量の推移
図3 放牧飼養農場における乳脂肪中のCLA割合の推移 図4 放牧飼養農場の農家チーズの乳脂肪中のCLA割合の推移
4.成果の活用面と留意点
1)放牧草の利用による生乳の特色は地域特産牛乳・乳製品の特徴付けに利用する。
5.残された問題とその対応
1)放牧草種別の脂肪酸含量特性を明らかにする
2)放牧飼養条件が殺菌と乳製品製造工程の影響を経て乳製品(牛乳、チーズ、バタークリーム)の品質に与える影響を明らかにする。