アカクローバ「アレス(SW Ares)」(普及奨励事項)         
 
北海道農業研究センター寒地飼料作物育種研究チーム、
畜産試験場環境草地部草地飼料科、北見農業試験場作物
研究部牧草科、根釧農業試験場研究部作物科、上川農業
試験場天北支場技術普及部             
                              執筆担当者 磯部祥子
 
 アカクローバ「アレス」は晩生に属し、番草の競合力が穏やかで、特にチモシー中生品種との混播適性に優れる。また、既存の晩生品種より永続性に優れ、北海道全域で利用できる。
 
1 試験目的
  アカクローバ海外導入品種の道内各地における適応性を評価し、北海道優良品種の選 定に資する。
 
2 試験成績
 1)品 種 名:「アレス」
 2)育成機関:Svalof Weibull AB社(スウェーデン)
 3) 者:雪印種苗株式会社
 4)育種方法:5母系による母系選抜法
 5)育成経過:スウェーデン在来種の晩生の中の基礎集団から選抜した5個体に由来す        る。2001年にスウェーデンにおいて品種登録され、2006年にOECD登録された。
 
3 試験成績 (標準品種「クラノ」と比較)       
1)早晩性:開花始日は「クラノ」より遅く、晩生に属する。
2)混播適性:マメ科率3040%を概ね維持し、年次間および番草間の変動が「クラノ」より小さく、混播適性に優れる。
3)競合力:開花程度が「クラノ」よりやや小さく、2番草の草丈が「クラノ」より低く、競合力は「クラノ」より穏やかである。
4)越冬性:「クラノ」並である。
5)永続性:3年目秋のクローバ被度が「クラノ」より高く、裸地・雑草被度が「クラノ」より低い。2年目に対する3年目の収量比が「クラノ」より高く、永続性は「クラノ」より優れる。
6)耐病性:菌核病には「クラノ」よりやや優れ、うどんこ病および葉枯性病害には「クラノ」並かやや劣る。
7)収量性:単播での収量性は「クラノ」並である。混播ではアカクローバの収量は「ク  ラノ」並だが、チモシーの収量が「クラノ」よりやや高く、混播区全体としての収量  はキリタップ区で「クラノ」よりやや優れ、ノサップ区で「クラノ」並である。
 
 
4 試験結果および考察       
 北海道において、アカクローバの最も一般的な利用形態はチモシーとの混播栽培である。一方、近年のチモシーの熟期拡大に伴い、競合力に勝るアカクローバがチモシーを抑圧し、良好な草地の維持が困難となる問題が生じている。「アレス」は同熟期の「クラノ」に比べ、チモシーに対する競合力が穏やかで永続性に優れる品種であり、アカクローバの生育がチモシーに比べて特に旺盛な道東地域を含め、北海道全域での普及が期待される。
 表1.主要形質の調査結果 
アレス クラノ ホクセキ 評価基準 備考
開花始(1番草) 未開花 26日 24日 6月の日 北農研・滝川試験地平均
開花程度 1.4 2.1 4.2 1:無-9:極多 全番草平均(計40調査)
草丈(2番草) 49 58 68 cm 場所平均
再生草勢 5.0 4.7 5.3 1:極不良-9:極良 30調査平均
越冬性 5.6 5.5 5.4 1:極不良-9:極良 14調査平均
早春の草勢 4.4 4.9 5.0 1:極不良-9:極良 11調査平均
菌核病罹病程度 2.1 3.1 3.1 1:無または極微-9:甚 3調査平均
うどんこ病罹病程度 3.0 2.7 2.1 1:無または極微-9:甚 15調査平均
葉枯性病害罹病程度 3.2 2.7 2.7 1:無または極微-9:甚 17調査平均
倒伏程度 3.0 3.2 3.7 1:無または極微-9:甚 16調査平均
秋の被度(3年目)   TY 45.7 52.3 35.4
                          RC 40.8 30.0 43.9 場所平均
裸地・雑草 13.6 17.5 20.7
3年目/2年目収量比RC+TY   100 95 97 混播区全体の平均
3年目/2年目収量比 RC単   71 49 64 混播区RCの平均
 
 表2.乾物収量の標準品種「クラノ」比およびマメ科率
単播区1) キリタップ混播区
TY RC 全体 マメ科率(%)
アレス 99 109 100 105 39
クラノ (99.4) (109.8) (78.6) (188.4) 41.2
ホクセキ 148 97 127 110 48
ノサップ混播区2)
TY RC 全体 マメ科率(%)
アレス   103 91 99 28.5
クラノ (130.7) (66.5) (197.1) 31.5
ホクセキ   83 118 95 40.4
 2年目および3年目の合計収量の場所平均。クラノは実測値(kg/a)。
 1) 北農研の結果
 2)根釧農試および北見農試の平均値
 

 表3.2年目および3年目のマメ科率(%)

キリタップ区

2年目1番 2年目2番 3年目1番 3年目2番 4調査平均
アレス 47.2 42.9 32.6 24.8 36.9
クラノ 50.9 58.4 30.0 23.6 40.7
ホクセキ 49.9 70.3 31.8 46.0 49.5

ノサップ区

2年目1番 2年目2番 3年目1番 3年目2番 4調査平均
アレス 26.1 28.4 29.0 29.5 28.2
クラノ 32.7 48.3 19.1 25.5 31.4
ホクセキ 32.2 63.9 32.3 40.6 42.2
キリタップ区は全場所の平均値、ノサップ区は北見農試および根釧農試の平均値。

5 普及指導上の注意事項       

1)普及対象地域および普及見込み面積:全道一円、8500ha。
2)栽培・利用上の注意点:チモシー中生品種との混播に適する。なお、チモシー早生品種との組み合わせでも利用できる。
3)配布しうる種子量:5トン
 
「アレス」 「クラノ」
写真1 2年目2番草の草姿(北農研、平成17年8月8日)
「アレス」  「クラノ」
写真2 3年目2番草の混播草地(北農研、平成18年7月28日)