「石狩川泥炭地の土地利用と温室効果ガス −湿原、水田、転換畑の比較−」(研究参考事項)  
       
        北海道農業研究センター 寒地温暖化研究チーム 永田 修・鮫島良次
 
 
 石狩川泥炭地では、湿原へのササの侵入による植生変化や農地化の過程で地球温暖化指数が顕著に増加する。さらに、連作田、復元田、転換畑といった土地利用形態によっても地球温暖化指数が大きく異なる。
 
1 試験目的
  石狩泥炭地はかつて湿原地帯だったが、農地開発により、現在は、水田、転換畑が広 がる一大食料生産基地となっている。泥炭は、有機物中に炭素や窒素を多量に貯蔵して いるため、管理方法を誤ると温室効果ガスである二酸化炭素などの放出が危惧される。 本研究では、湿原・水田・転換畑、これら三つの土地利用から発生する温室効果ガスを 測定し、土地利用形態と地球温暖化へ及ぼす影響との関係を評価した。
 
2 試験方法
 (1) 湿原圃場(北海道農業研究センター美唄試験地)では、高層湿原植生が残されたエ  リアから、湿原植生・ササ植生が混在、ササ植生エリアにかけて9 地点でガス発生量  を測定した。ササは、高層湿原植生周辺に繁茂する高さ約40cm以下のものを対象とし  た。測定は、2002年6月から2003年6月に行った。
 
 (2) 水田4圃場、転換畑6圃場に調査地点を設定した。水田は、復元田2圃場を含む。こ  れらの測定は、2002年5月から2005年4月に行った。
 
 (3) 温室効果ガスとして、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素を対象とした。
 
 (4) 地球温暖化におよぼす影響の程度は地球温暖化指数を用いた。メタン、亜酸化窒素  発生量をそれぞれ21倍、310倍し同じ影響を持つ二酸化炭素発生量に換算した。
 
 (5) ガスの採取はクローズドチャンバー法で行った(図1)。
 
 
3 試験成績
 
 
 

4 試験結果及び考察

 (1) 湿原において、高層湿原植生が残された地点ではメタンの寄与が平均で370gCO2m-2y-1    と大きかった。一方、ササへ植生が変化した地点では二酸化炭素の寄与が646gCO2m-2y-1    と大きくなり、高層湿原植生が残るエリアより地球温暖化指数が増加する。

 (2) 連作田ではメタンの寄与が平均で2304 gCO2m-2y-1と顕著に大きく、対象とした土地利用で最も地球温暖化指数を増大させる要因であった。

一方、復元田でのメタンの寄与は429gCO2m-2y-1と80%以上抑制された。

 (3) 転換畑はメタンの寄与はなく、二酸化炭素の寄与が平均で628gCO2m-2y-1、亜酸化窒素  の寄与が422gCO2m-2y-1と、これら二つの温室効果ガスよる地球温暖化指数への寄与が大きい。

 (4) 地球温暖化指数を土地利用毎の年平均値として示すと、この地域の本来の形態であった高層湿原が408gCO2m-2y-1であったのに対し、植生がササへと変化することで830gCO2m-2y-1と地球温暖化指数は2倍となった。また、水田(連作田)は、2385 gCO2m-2y-1と約6倍、転換畑も2.5倍、地球温暖化指数が大きくなっている。

 (5) 以上から、湿原へのササの侵入、また、農地化という泥炭地帯の開発過程で地球温暖化指数が顕著に増加し、さらに、農地の利用形態によっても地球温暖化指数が大きく異なることが明らかとなった。

 5 普及指導上の注意事項

 (1) 泥炭土農耕地のオリジナルデータとして温室効果ガスの研究に活用出来る。