成績概要書 (2007年1月作成)

研究課題:有機栽培野菜畑の窒素肥沃度指標の選定とその簡易分析法
      (有機栽培における畑土壌の総合的窒素管理技術の確立)

担当部署:中央農試 環境保全部 土壌生態科・上川農試 研究部 栽培環境科
協力分担:
予算区分:道費(有機)
研究期間:2004〜2006年度(平成16〜18年度)

  

1.目的
 有機栽培での作物生産性向上に重要と考えられる土壌の有機物分解能を反映した野菜畑での窒素肥沃度指標を選定し、その簡易分析法を開発する。
 

2.方法
1)有機栽培野菜畑土壌の理化学性および生物性の実態
 石狩・空知・上川管内の露地またはハウス野菜生産者18戸の有機栽培圃場の作土55点(低地土26点、台地土25点、不明4点)の物理性(深さ10〜20cm)および化学性と生物性(0〜
 10cm)を調査。
2)土壌の有機物分解能を反映した有機栽培野菜畑の窒素肥沃度指標
 土壌の有機物分解能と各種窒素肥沃度指標等との関係を上記土壌等を用いて解析し、有機物分解能を反映した有機栽培野菜畑での窒素肥沃度指標を選定。また有機栽培たまねぎ
 畑の窒素肥沃度目標値(暫定値)を設定。
3)土壌窒素肥沃度(熱水抽出性窒素)の簡易分析法
 石狩・空知・上川・留萌管内の土壌922点を用い、熱水抽出性窒素の簡易測定法(280 nm吸光度、420 nm吸光度、プロテインアッセイ)を検討。280 nm吸光度についてトリプトファンを標
 準物質とした定量法を開発。

 

3.成果の概要
<有機栽培野菜畑土壌の理化学性および生物性の実態>
1)有機栽培野菜畑の露地作型では、土壌診断基準値(施肥ガイド)に比べ、有効態リン酸、交換性苦土・カリ、可給態窒素、熱水抽出性窒素が高い傾向にあり、生物性の総合指標であ
 るα-グルコシダーゼ活性も標準値を上回った(表1)。同じくハウス作型では、上記養分の蓄積が露地よりも一層顕著であった。ただし、両作型での養分過多傾向は慣行栽培においても
 同様に認められた。物理性は、有効水分が基準値を下回った他は、全般に良好であった。
<土壌の有機物分解能を反映した有機栽培野菜畑の窒素肥沃度指標>
2)土壌に添加した麦稈の炭素無機化率(土壌の有機物分解能の指標)は、それらの土壌で無肥料栽培した牧草の収量や窒素吸収量との間に有意な正の相関を示した(図1)。このこと
 は、土壌の有機物分解能が潜在的窒素供給能と密接に関連していることを示しており、有機栽培で重要と考えられる有機物分解能が高い土壌は潜在的窒素供給能も高いことが示唆さ
 れた。
3)土壌の有機物分解能の指標は、全般に有機、慣行栽培を問わず、全窒素、硝酸態窒素、可給態窒素、熱水抽出性窒素などの各種窒素肥沃度指標と有意な正の相関を示した(表2)。
4)上記窒素肥沃度指標の汎用性や有機物分解能との相関の年次変動等を検討した結果、土壌の有機物分解能を反映した窒素肥沃度指標として、熱水抽出性窒素を選定した(図2)。
5)有機栽培たまねぎの目標収量(4400 kg/10a、慣行栽培の8割)と熱水抽出性窒素との関係から、土壌の有機物分解能を反映した同畑の窒素肥沃度目標値(暫定値)を熱水抽出性窒
 素で8 mg/100g以上と設定した(図3)。
<土壌窒素肥沃度(熱水抽出性窒素)の簡易分析法>
6)熱水抽出液の280 nm吸光度は熱水抽出性窒素との相関が非常に高く、熱水抽出性窒素の簡易測定に利用可能であったが、測定の際には標準物質を用いる必要があった。
7)280 nm吸光分析について標準物質を用いた測定法を開発した(図4)。280 nm吸光度のトリプトファン換算量をx(mg/L)とすると熱水抽出性窒素は「(1.04x+0.99)mg/100g」で求まる(図
 5)。
<結論>本成績では、土壌の有機物分解能を反映した有機栽培野菜畑の窒素肥沃度指標として熱水抽出性窒素が適することを明らかにし、また熱水抽出性窒素を280 nm吸光度の測定から簡易に分析する方法を開発した。

 

表1 有機栽培野菜畑土壌の化学性および生物性の実態(平均値、0〜10cm土層、括弧内は範囲)

 

      
                                 

 



図3 熱水抽出性窒素と有機栽培たまねぎの
      収量との関係(2004〜2006年)
あああああ

表2 土壌に添加した麦稈の炭素無機化率と各種土壌分析値との
相関係数(n = 34〜46、有機・慣行栽培を合わせて解析)

 

  

  図5 280nm吸光度のトリプトファン換算量と
     熱水抽出性窒素との相関および回帰式

            

            図4 熱水抽出性窒素の簡易測定手順(280nm吸光分析)

 

4.成果の活用面と留意点
 1)本成果は主として低地土および台地土の有機栽培たまねぎ畑を対象に得られたものである。
 2)有機栽培たまねぎ畑の窒素肥沃度目標値は暫定値とする。
 3)熱水抽出性窒素の簡易分析法は低地土および台地土に適用できる。

 

5.残された問題点とその対応
 1)有機栽培での土壌診断基準値策定と施肥対応技術の開発
 2)有機栽培での作物生産性と関連する土壌微生物性指標の開発・選定