成績概要書 (2007年1月 作成)

課題名:デオキシニバレノール汚染に対応した春まき小麦の赤かび病に対する薬剤防除対策
      (道産小麦の安全性・安定性向上試験:マイコトキシン汚染に応じた赤かび病防除技術体系の確立)
      (食品の安全性及び機能性に関する総合研究:北海道での小麦赤かび病激発時におけるマイコトキシン汚染リスク低減化技術の開発)

担当部署:中央農試 生産環境部 病虫科
協力分担:
予算区分:受託
研究期間:2002〜2006年度(平成14〜18年度)

1.目的 デオキシニバレノール(DON)汚染低減を主眼とした合理的な薬剤防除対策を確立する.

2.方法 1)病原菌の毒素タイプ判別,2)赤かび粒と外観健全粒のDON汚染様態,3)薬剤散布回数の検討,4)薬剤の防除効果の評価

3.成果の概要
1)   主要な病原菌であるFusarium graminearum(以下F. gと略記する)の毒素タイプはDON産生型が優占している(91菌株中90菌株).したがって,ニバレノールによる汚染リスクは低い.
2)   多湿条件は病原菌の感染を助長するため,赤かび病の多発およびDON汚染が高まるリスク要因として,開花期間の降雨日数が多いこと,および倒伏が挙げられる.
3)   F. gの感染により肥大が阻害され白色化する病徴を示す赤かび粒は高濃度(概ね50〜300ppm)のDONに汚染されている(表1).赤かび粒の発生と混入がDON汚染の主要因で
  ある.
4)   赤かび粒の病徴を示さない外観健全粒にもDON汚染が認められる.その汚染程度とF. gの分離率との間に相関がある(図1).このことから,無病徴で感染した本菌がDONを産生し
  蓄積すると考えられる.
5)   外観健全粒へのF. gの感染率を発病穂と健全穂で比較すると,発病穂で高かった(図2).このことから,感染は主に発病穂内で起こるものと考えられた.発病穂内での感染は発病
  小穂からの二次伝染によるものと考えられた.
6)   赤かび粒率,外観健全粒のDON汚染,および赤かび粒も含めた総体のDON汚染に対する防除効果を総合的に評価した結果,メトコナゾール乳剤(1000〜1500倍),テブコナゾール
  水和剤F(2000倍),チオファネートメチル水和剤(1500倍)およびイミノクタジン酢酸塩液剤(1000倍)の効果が高かった(表2).
7)   テブコナゾール水和剤F(2000倍)を開花始から3回散布,4回散布,5回散布した場合,赤かび粒率および外観健全粒へのF. gの感染に対する防除効果はほぼ同等であり,赤かび
  粒も含めた総体のDON汚染に対する防除効果もほぼ同等であった(表3).
8)   初冬まき栽培では春まき栽培と比較して一般に赤かび病の発生が少ないが,気象条件によって赤かび病が多発しDON汚染が高まる事例があった.したがって,その機作は発病に
  好適な気象条件のエスケープと考えられる.このことから,薬剤防除は春まき栽培に準じて行う必要がある.
9)   上記6),7),8)より春まき小麦の赤かび病に対する薬剤防除対策を下の表に示した.

春まき小麦の赤かび病に対する薬剤防除対策(平成19年)

  注1)同系統の薬剤の連用を避ける. 注2)初冬まき栽培も本対策に準ずる.
  注3)DON汚染と赤かび粒率の基準に対応するため,薬剤防除に併せて早期播種,倒伏防止など耕種的対策,および適切な収穫・乾燥と調製を行う.

 

 

        

 

 

 

4.成果の活用面と留意点
1)   春まき小麦の赤かび病に対する薬剤防除対策として活用する.
2)   同系統の薬剤の連用とならないよう留意する.
3)   DONの暫定基準値あるいは農産物規格規程の赤かび粒率の基準値に対応するため,耕種的対策や調製を併せて行う.また,DONの自主検査は必須である.

 

5.残された問題とその対応
1)   少量散布による防除対策の確立
2)   「春よ恋」よりも高い抵抗性を有する品種の育成と抵抗性品種に対する薬剤防除対策の検討