成績概要書(2007年1月作成)

研究課題:バイオガスプラントにおけるでん粉製造排液の嫌気発酵利用
      (デンプン製造廃液の浄化処理及び利用技術の開発)
担当部署:根釧農試 研究部 酪農施設科
協力分担:なし
予算区分:受託
研究期間:2004-2006年度(平成16-18年度)

 

1.目的
 でん粉の分離精製工程で生じる排液を圃場還元するため、畜産ふん尿用として稼働例の多い連続式完全混合型で中温発酵のバイオガスプラントを利用した嫌気発酵処理を想定し、そこで生じる発酵阻害現象と乳牛ふん尿スラリーを主とする投入原料へのでん粉製造排液添加量の関係を解明する。また、嫌気発酵処理によるそうか病菌と臭気の低減効果を明らかにする。

2.方法
(1)でん粉製造排液の性状
 測定項目:pH、電気伝導度(EC)、固形分濃度(TS)、有機物濃度(VS)、全窒素(TN)
        アンモニア態窒素(NH4-N)、無機成分(リン:P、カリウム:K)、そうか病菌数など
(2)でん粉製造排液の嫌気発酵特性
 供試原料:でん粉製造排液および根釧農試搾乳牛のふん尿スラリー
 供試施設:試験用嫌気発酵槽(容積16L)および根釧農試バイオガスプラント(容積30m3+450m3
 測定項目:バイオガス生成量、メタン濃度、pH、TS、VS、TN、NH4-Nなど
(3)嫌気発酵処理液のそうか病菌、および臭気強度
 測定項目:そうか病菌数(MPN-PCR法)、臭気強度(官能法によるTON計測)

3.結果の概要
(1)道内のでん粉製造工場から排出されるでん粉製造排液のTSは4〜5%、VSは3〜4%であった(表1)。NH4-N濃度は微量なものの、TN濃度は0.3〜0.5%とばらつきがあり、平均で0.37%と、
  乳牛ふん尿スラリー(根釧農試)のTN濃度0.26%に比べでん粉製造排液は窒素濃度が高かった。排液中のそうか病菌数は検出限界菌数以下から、4.3×103MPN/mlを含むものまで認
  められ、変動が大きかった。
(2)発酵温度38℃の試験用嫌気発酵槽を用い、1日あたりの原料投入量を容積の1/20(水理学的滞留日数【HRT】20日)とした条件で原料を連続投入した結果、でん粉製造排液100%原
  料の試験区ではNH4濃度がおよそ3000mg/Lに達した時期から発酵阻害の兆候が認められた(図1)。でん粉製造排液に由来する投入有機物あたりのメタン発生量は0.5LCH4/gVSと
  乳牛ふん尿スラリーの0.2LCH4/gVSより多かった。
(3)本試験において嫌気発酵処理液中のNH4-N/TN比はでん粉製造排液が0.92、乳牛ふん尿スラリーでは0.46であった。これらの値と発酵阻害の兆候を認めたNH4濃度3000mg/L、およ
  びでん粉製造排液、乳牛ふん尿スラリーのTN濃度調査結果から試算すると、乳牛ふん尿スラリーと混合して処理可能なでん粉製造排液の比率はおよそ34%(でん粉製造排液TN濃度
  0.49%時)〜88%(同0.27%時)で、平均TN濃度0.37%の場合は51%となった。
(4)でん粉製造排液中に含まれるそうか病菌は、嫌気発酵処理により検出限界以下に減少することが確認された(表2)。また、嫌気発酵処理によってNH4濃度は上昇するものの、でん粉
  製造排液の臭気強度は未処理排液の1/20に低下した(表3)。

 以上の結果から、事前に使用する原料の成分確認が必要となるものの、でん粉製造排液と乳牛ふん尿スラリーの混合割合を調整することによって安定した嫌気発酵が可能であり、未処理排液に比べそうか病菌数や臭気強度が低減可能であることが確認された。

 

 

表1 でん粉製造工場の排液中成分濃度

   

       
            図1 バイオガス生成量と NH4濃度(醗酵温度38℃)

 

  

表2 嫌気処理によるそうか病菌数の変化
     表3 嫌気処理による臭気強度の変化
     

 

4.成果の活用面と留意点
(1)でん粉製造排液は産出場所や時期、貯溜状況によって成分が変動するため、利用前に確認する。
(2)本課題実施期間中に、ジャガイモモップトップウイルスによる塊茎褐色輪紋病の発生が北海道で初めて確認された。本ウイルスを媒介するジャガイモ粉状そうか病菌は耐久体を形成
  し、他の病原菌と比較して熱などに対する耐久性が高い恐れがあることから、病原を拡散させないためでん粉製造排液を原料に使用した嫌気発酵処理液は草地に散布し、当面畑地
  での利用を避ける。

5.残された問題とその対応
(1)本技術を適用する処理・利用体系の構築が必要である。
(2)ジャガイモモップトップウイルスを媒介するジャガイモ粉状そうか病菌のでん粉製造排液中における存否とその処理過程における消長の解明が必要である。