成績概要書(2007年1月作成)
研究課題:赤身肉を目指した牛肉生産の経済性
   (有機畜産等の経営的な成立条件の解明)
担当部署:十勝農試 生産研究部 経営科
協力分担:な し
予算区分:道費
研究期間:2004〜2006年度(平成16〜18年度)

  

1.目的
 食料の安全性や人の健康への消費者の関心が高まりつつあるなかで、こうした消費者ニーズに応える1つのタイプとして、脂肪交雑にこだわらずに牛と人の安全・健康を重視した牛肉生産が注目される。このような牛肉生産においては、通常の牛肉生産とは給与飼料や牛肉の仕上がりが異なるため、経営内容も通常とは異なると考えられる。そこで、安全で健康な牛肉生産を目指している肉牛経営における肉牛の収益性を明らかにする。

 

2.方法
1)既存統計資料に基づいて肉牛飼養の動向を明らかにする。
2)経営実態調査結果に基づいて肉牛経営の収益性と肉牛の生産費を明らかにする。  
  対象は、道内で安全で健康な赤身肉の牛肉生産を目指している2事例。
  

3.成果の概要
1)対象とした2農場は、牛の生理的特性を生かした牛肉生産方法を心がけており、基本姿勢として①脂肪交雑に頼らず牛肉の旨味をいかすこと(意図的に脂肪交雑を高める飼い方はしない)、②人間が直接食用にできない産物(粗飼料や粕類等)を飼料として活用すること、③そのため、現在の主力品種である黒毛和種以外の品種を用いていること、をあげることができる。(表1)
2)肥育牛用の購入飼料をみると、A農場ではポストハーベストフリーの配合飼料を用いているが、これは一般の配合飼料に比べて同等もしくは若干割高であった。割高にもかかわらず使用しているのは、食品としての牛肉の安全性に対する配慮からである。B農場では農産加工粕類のみが給与されており、飼料単価を算出したところ一般配合飼料に比べて明瞭に安くなってはいなかった。(表2)
3)肥育牛の出荷成績では、両経営とも、去勢牛の出荷月齢、枝肉重量はほぼ標準的な成績であった。肉質等級3が10%以下、同2以下が90%以上と、両農場とも格付が低かった。枝肉単価は、A農場では雌牛、去勢牛とも平均1,100円程度であり、B農場では去勢牛は1,100円程度で、雌牛も淘汰牛を除くとほぼ同じと推察された。去勢牛の1頭当たり価格は、A農場では45万円弱、B農場では48万円弱であるが、この差の要因は主に品種の違いに基づく枝肉重量である。(表3)
4)対象とした肉牛部門全体の収支(所得)は、B農場では若干のプラスであったが、A農場ではマイナスであった。自家産子牛を素畜として利用し、子牛の再生産価格(全算入生産費)を前提とした場合の肥育牛の経営費相当額は、A農場では47万円弱、B農場では52万円強、総費用は順に51万円、61万円であった。(表4)
5)品種により1頭当たりの枝肉重量が異なることを考慮して、枝肉1kg当たりの費用を算出すると、経営費相当額はA農場で1,191円、B農場で1,205円であり、総費用は1,310円、1,402円であった。これより、枝肉単価1,200円程度で所得のマイナスは回避でき、1,300〜1,400円であれば自家労賃等を回収できると推察された。(表5)
6)収支の改善に向けて販売単価の向上を図るには、通常の流通ルートとは異なる販売先の確保とともに、赤身肉に対する消費者の評価を改善することが重要である。このため、A農場は、低農薬・有機農産物販売業者に出荷するだけでなく直売やレストランの営業を行うとともに、出荷先や関係する団体が主催するイベントに参加するなど、直接消費者に向けた情報発信に努めている。また、B農場は、首都圏生協(系統経由)と外食(流通業者経由)に出荷する一方、自らも地元外食業者への出荷を模索するとともに、出荷先や関係する団体が開催するイベントに自ら出向いて試食会に参加するなど、業者・消費者との交流に努めている。

 

表1 対象農場の経営概況−調査対象部門−
      表3 肥育牛の出荷成績
     

  

 

表2  肥育牛向け購入飼料の構成

  

 

表4 経営収支および肥育牛生産費
     表5 事例における採算ラインの試算
     

 

4.成果の活用面と留意点
1)安全・健康な赤身肉の生産を目指した肉牛経営の収益性および採算を確保できる目安となる枝肉価格を明らかにするとともに、今後の対応方向を示した。
2)A農場、B農場で生産される牛肉は、「有機畜産物」ではない。

5.残された問題点とその対応
1)消費者に向けての情報発信の具体的な方策とその効果、課題の解明。