成績概要書(2007年1月)

研究課題:畑作条件不利地における農業生産法人の設立誘導手法
     (ネットワークモデル構築による21世紀型地域農業の発展方策)
担当部署:中央農試 生産研究部 経営科
協力分担:十勝農試生産研究部経営科,根釧農試研究部経営科,(社)北海道地域農業研究
予算区分:民間共同
研究期間:2003〜2005年度(平成15〜17年度)

 

1.目的
 離農の進展する本道の畑作条件不利地において,農地保全などの「地域」に対する役割の発揮が期待される農業生産法人の設立が地域にもたらす効果を明らかにし,さらに農協や役場による農業生産法人の誘導手順を提案する。

 

2.方法
1)分析対象:網走管内X町(1999年以降、5つの農業生産法人が農協・役場の関与のもと設立)
2)検討項目:①農業生産法人の設立に対する農協,役場の係わりの整理,②A法人の収益性の計測,③A法人の「地域」に対する便益の計測,④対象地域における農業生産法人誘導
        の成功要因の検討,⑤新しい地域づくりに向けた農業生産法人設立の誘導手法の提案

 

3.成果の概要
1)X町では,経済的に安定した農家と不安定な農家の混在する中,営農の持続に向けて農業生産法人設立への合意が形成されていた(図1)。ここでは,共同作業など連携関係にある農家の離農を防ぐことで自らの営農持続の条件を整えるという,リーダー農家の意思決定が見られた(表1)。この前提として,法人化の推進に当たる農協,役場職員とリーダー農家の間に,職務を超えて意見交換する"情報のパイプ"が存在し,それを介して法人化に向けた意識付けがなされていた。さらに,①学習会活動等による法人化の必要性に対する地域全体での理解促進,②地域振興での法人化の位置づけ,③支援措置の制定等によって,法人化へのハードルが引き下げられていた。
2)設立時からのA法人の利益額の推移を見ると,法人立ち上げ時の利益額は低かった(図2)。そのような中,農協,役場による経済的な助成措置は,初期の経済的な安定化と経営改善に要する期間の短縮に寄与していた。これにより,A法人は設立後5年目で黒字へと転換できた。
3)A法人の設立にともない,耕作放棄が回避されることによって,今後10年で8千2百万円の農業粗生産額の維持が見込まれた。一方,A法人の設立に対し農協や役場が負担する費用は10年で2千6百万円と見込まれた(表2)。
4)X町で実践された手順に基づき,農業生産法人の設立による新しい地域づくりのプロセスとして,4段階(6ステップ)からなる誘導手法を提案する(図3)。ここで重要なのは,地域内で農業生産法人化の必要性の認識を深め,リーダーを中心とする農家と農協や役場間で,農業生産法人設立に向けて相互に連動した取り組みがなされやすい状況を作ることである。
(1)第1は,地域的な問題意識を涵養する段階である。ここでは,農協,役場が農業生産法人化のアイディアを示すとともに,そのアイディアを地域全体へ浸透させるために,地域全体での学習会を開催する。これにより,法人化の必要性の認識を広く醸成する。
(2)第2は,農業生産法人の設立意識を形成する段階である。ここでは,法人設立を優先すべき集落を特定し,集落単位での学習会を開催する。これによって,合意が形成されやすい状況を作る。また,農協,役場はリーダー農家との直接対話や近隣農家の情報共有を介して,リーダー農家に具体的な法人設立のアイデアを形成させる。地域に貢献する法人の設立を促すには,これらの2段階が肝要である。
(3)第3は,農業生産法人を設立する段階である。ここでは,通常の法人設立の場面と同様の支援をおこなう。さらに,あらかじめスタートアップ時の経済的な便宜供与を計画しておく。
(4)第4は,法人設立後であり,法人と農協,役場との関係性を継続させる段階である。ここでは,農業生産法人会議等の情報交換の場を形成するとともに,資本・情報面での依存関係を深めることで,農協,役場と法人との連携を持続させていく。

 


              図1 X町における農業生産法人化に向けた合意形成プロセス

 

 

表1 農業生産法人を構成する農家の特徴
     
      図2 A法人の収益性の推移
           注)利益:農産物販売額−経営費

    

表2 A法人が地域に与える便益と費用

  


         図3 農業生産法人設立による地域作りの誘導手法

 

 

4.成果の活用面と留意点
 畑作条件不利地において,農協,役場等が農業生産法人の設立誘導をはかる際に利用する。

 

5.残された課題
1)畑作条件不利地以外における農業生産法人の有効性を検討する必要がある。
2)農業生産法人の運営手法を検討する必要がある。