成績概要書(2007年1月作成)

研究課題:修学旅行生を対象とした農家民宿の効果と組織化方策
      (農業・農村体験によって発現する教育的機能の解明 ②農業・農村体験が農村地域に与える効果)

担当部署:中央農試 生産研究部 経営科
協力分担:(独)農村工学研究所 都市農村交流研究チーム
予算区分:国費受託
研究期間:2004〜2006年度

 

1.目的
 農家民宿による修学旅行の受け入れ実態、農業者に与える効果、組織運営手法と今後の方向性について明らかにする。

2.方法
 ①組織概要および運営実態:C組織および事務局、農家等への聞き取り調査、資料収集
 ②農家・農村地域に与える効果:アンケート調査、農家調査

3.成果の概要
1)S町はグリーン・ツーリズム推進(農業農村理解や交流促進、農業の新たな資源化等)を掲げ、農協と共にC組織を平成16年度に設立した。それにより修学旅行生からの農家民宿ニー
 ズへの対応を可能とした。18年は10校受け入れ、19年は17校が予定され、高いニーズを裏付けている(表1)。
2)平成19年度は4,700万円程度がS町に投下され、間接消費は1,400万円になると見込まれるが、会員農家の平均売上金額は40万円であり、現状では経済行為とはいえない(表1)。延べ
 宿泊者数は、観光客延べ宿泊客数の約13%に相当し、観光面での効果が高い(表2)。
3)会員農家は、農業農村理解や地域振興、知名度向上を目的とし、85%が取り組みを評価(H17)した。会員農家に対する効果は、家族や地域の活性化、農業がもつ役割を再認識したこ
 とである(表3)。一方、C組織の活動が非会員農家に与えた効果は、農業の意義を再認識させた等であった。
4)農家民宿(農業体験に限る)による修学旅行生受け入れには以下が重要になる。①一般民宿に比べ開業が容易にするため、農林漁業体験民宿への登録や特区申請(S町は消防法規
 制緩和)を行うこと(表4)。これには自治体の明確な方針の下での支援が重要である。②多数の農家民宿確保には、関心が高いとみられる都市農村交流活動経験がある農家や地域農
 業のリーダー、大規模農家への勧誘が有効と考えられるが、全町的取り組みにするには全農家への勧誘を行うこと。その際には目的を周知し、紙面等でのPRや戸別訪問等での勧誘
 作業が必要になる。③事務局を設置すること。事務局は、外部交渉、受入調整と会員への配分、研修や講習の実施、会員勧誘、学校へのPR業務等や機能を担う必要がある。C組織は
 3つの専門部会を設置し、体験や交流計画、研修計画やマニュアル作成、PR作業を会員農家と共に検討している。組織(事務局)運営を効率的に行い、会員農家の参加意識を向上させ
 るには専門部会等の設置が望ましい。④組織が大きな場合は地域部会を設置すること。地域部会は、地域内の受入配分の協議や受入方法等に関する情報交換を行うことが望ましい。
5)上記の活動を行う際の主な課題は、①事務局運営の担い手確保と公的支援に対する住民の理解、②多数の会員確保と会員増加による意識差の拡大、③農繁期のニーズ対応と具体
 的な受入準備作業である。対応として、①は住民への目的周知と効果のPRを行う、②は持続的なPRと勧誘活動や、研修等による持続的な意識啓発や共通の目的意識の浸透を図る、
 ③は受入配分の平準化と受入時期の分散により負担軽減を図る、研修や講習の実施や必要事項のマニュアル作成と配布などが必要である。また、活動方針(受入規模)を示し、農繁期
 の受け入れに会員農家の理解を得る必要がある。
6)以上を踏まえて、修学旅行の農家民宿への取り組み手順と検討すべき課題と対応を示した(図)。


表1  売上金額の推移と予測(旅行代理店手数料差し引き後)

注1)C組織総会資料から作成、平成18年、19年は推定、宿泊人数の括弧は一般農業体験客数
注2)売上金額から、事務局手数料(10%)が差し引かれる

 

表2  C組織の農家民宿への取り組みがS町に与える効果

注)延べ宿泊者は17年、18年は実績、19年は予約、括弧内は道経済部資料におけるS町観光客延べ宿泊人数に対する比率

 

表3  修学旅行生受け入れ(農家民宿)による会員農家の変化(平成18年、複数回答)

注)平成18年調査、回答者28人、高齢者が活発になった、農業の大切さを認識した:3人、家族がまとまった:2人、生活に張りが出た、農業に対して前向きになった、青年が活発になった、農業を誇りに思う:各1人

 

表4  S町の各種規制等に対する取り組みと内容

  


                図 修学旅行生等を対象とした地域的な農家民宿への取り組み手順

 

4.成果の活用面と留意点
(1)道外からの修学旅行生を役場や農協などが組織的に受け入れをする際の参考となる。
(2)設立初期の組織を対象とした評価であることに留意が必要である。

5.残された問題とその対応
(1)地域連携のあり方や長期的に見た地域に与える効果測定