成績概要書(2007年1月作成)
研究課題:てんさい直播栽培における風害およびソイルクラストによる初期生育障害の軽減対策
       (気象災害軽減による直播てんさいの初期生育安定化)
担当部署:十勝農試 生産研究部 栽培システム科、中央農試 生産研究部 機械科
協力分担:
予算区分:受託
研究期間:2004〜2006年(平成16〜18年)

 

1.目的 てんさい直播栽培は、生育初期の風害や出芽時のソイルクラストによる障害を受けやすいことから、初期生育の安定化が求められている。風害やソイルクラスト形成の起きや
 すい土壌は、てんさい栽培を行っている全道各地に存在し、直播栽培の普及に大きな障害となっている。そこで本課題では、被覆作物(麦類)を利用した風害軽減効果、およびソイルク
 ラスト形成時のソイルクラストクラッシャによる出芽障害の軽減効果を検討した。

2.方法
1)麦類の利用による風害軽減対策
(1)麦類による風害軽減効果(モデル試験):送風機を用いて、麦類の有無によるてんさい直播ほ場からの飛土量の差を調査した。また、麦類とてんさいを混播した育苗箱に、送風機から
 土粒子を飛散させ、麦類の葉面積と風害が生じる土粒子の重量との関係を調査した。
(2)てんさい直播ほ場における麦類栽培方法:十勝農試および十勝管内現地ほ場において、2つの麦類播種方式を検討し、麦類の種類と葉面積の推移を調査した。
(3)除草剤による麦類殺草効果:てんさい直播栽培に登録のある除草剤を用い、殺草効果を検証した。
2)ソイルクラストの物理的破砕による出芽率向上
(1) ソイルクラストクラッシャによるソイルクラストの破砕とその効果:2種類のソイルクラストクラッシャの破砕部(ワイヤーツース型、ケンブリッジ型)を供試し、2ほ場において砕土の状態を
 「細」(砕土率87.0%、82.4%)、「中」(砕土率70.7%、63.2%)の2段階に設定し、ソイルクラスト破砕処理後の破砕程度、出芽率を調査し、破砕部および施工時期を検討した。
(2) ソイルクラストクラッシャによるソイルクラストの破砕処理の限界解明:てんさい播種後の散水処理により、人工的にソイルクラストを発生させた圃場において、ソイルクラストクラッシャ
 の破砕限界を検証した。

3.成果の概要
1)てんさい直播ほ場からの飛土量は、被覆作物(麦類)の葉面積が増えるにつれて減少した(図1)。また、麦類の葉面積が多いほど、飛散した土粒子からてんさいを保護する効果も認め
 られ、麦類の葉面積が200cm2/m2以上の確保が風害軽減の目安と想定された。一方、砕土率が高いほど飛散しやすい土粒子の重量が多いことから、風害軽減対策としての砕土整地
 法の検討が必要である。
2)風害軽減を目的とした麦類の栽培方法として、整地前散播方式およびてんさい播種後の畦間条播方式を示した(表1)。整地前散播方式は、麦類散播には既存の機械が利用でき、ほ場
 全面または強風が予想される部分での風害軽減が可能である。畦間条播方式は、麦類を播種するための施肥カルチベータの改良が必要であるが、てんさい本葉抽出始以降の麦類の
 葉面積は整地前散播方式より多く、ほ場全面での風害軽減対策が可能である。両方式とも、てんさい施肥法は全層施肥が麦類の生育は良かった。コストの増加はてんさい生産費の3〜
 6%であった。
3)ソイルクラストクラッシャの破砕部は、ワイヤーツース型(図2)がクラスト破砕程度および出芽率から、被害軽減効果が高いと考えられた(図3)。施工時期は、ソイルクラストが完全に形成
 される前(足跡が残らない固さになる前)が望ましい(表2)。高硬度のソイルクラストが形成されるとソイルクラストクラッシャによるソイルクラスト破砕は困難であった。
4)ソイルクラストクラッシャ無施工区では、砕土の状態「細」は「中」よりてんさいの出芽率が低く(図2)、ソイルクラスト形成の影響を受けた。ソイルクラストの発生を軽減する対策は、有機
 物の継続的な施用による土づくりが最も重要であるが、本試験の結果から土壌表面の砕土を細かくしすぎないことが、ソイルクラスト形成を軽減する方法として効果があると考えられた。

 

表1 風害軽減のための被覆作物(麦類)の利用法

 


図1 被覆作物(麦類)の葉面積とほ場からの
  飛土量軽減程度(十勝農試、淡色黒ボク土)
        
        図2 ソイルクラストクラッシャの破砕部
        (ワイヤーツース型、幅250mm、突起部の高さ25mm)

 

表2 ソイルクラストクラッシャ利用上の留意点
         
         図3 ソイルクラストクラッシャによる出芽率向上効果
             (播種後7日目に施工。細粒質灰色低地土ほ場で、
              播種直後に14mmの降水があった。)

 

4.成果の活用面と留意点
 1)風害軽減のための被覆作物(麦類)の利用は予防的対策であるので、播種方法、麦類の選定や播種量については、コストと期待される効果を考慮して採用するのが望ましい。
 2)ソイルクラスト形成が懸念される場合、気象や土壌水分に留意して、ソイルクラストクラッシャを速やかに施工する。

 

5.残された問題点とその対応
 1)麦類を利用した風害軽減効果の実証、出芽率の確保と風害対策のための砕土整地法の検討。
 2)てんさいと麦類の同時播種機の検討。