成績概要書(2007年1月作成)

研究課題 :デオキシニバレノール(DON)に対応した小麦の調製法と貯蔵中におけるDONの消長
       (調製技術と簡易分析法によるマイコトキシン汚染低減技術の確立)
担当部署 : 中央農試 生産研究部 機械科、生産環境部 病虫科、
        十勝農試 生産研究部 栽培システム科、病虫科
協力分担 : なし
予算区分 : 受託
研究期間 : 2004〜2006年度 (平成16〜18年度)

 

1.目的
 DON濃度の暫定基準値および平成15年産より改訂された赤かび粒率の新基準値に対応した、比重選別機による規格内小麦出荷のための調製法と貯蔵中におけるDONの消長を明らかにする。

2.方法
1)DON汚染小麦を出さないための調製法
(1)供試選別機:比重選別機(OLIVER MODEL 50A(呼称能力0.5〜1.0t/h))
(2)試験方法:DON濃度や赤かび粒率等の履歴が異なる小麦「春よ恋」試料を各20kg程度投入し、比重選別機出口を10分割して全量サンプリングし、流量、組成割合、DON濃度を測定し
  農産物検査規格(整粒割合75%、発芽粒率2.0%、黒かび粒率5.0%、赤かび粒0.049%)、DON濃度(1.1ppm)の基準値を満たすための比重選別機製品口割合を推定した。
2)貯蔵中におけるDONの消長
(1)場内試験:10〜40kgの小麦、「春よ恋」および「ホクシン」を5、15、25、30℃で1年間貯蔵し、DON濃度、産生菌の保菌粒率、子実水分の推移を調査
(2)現地調査:道央の常温貯蔵庫(フレコン貯蔵、品種「春よ恋」、「ホクシン」)、道東のサイロ(品種「ホクシン」)でのDON濃度、産生菌の保菌粒率、子実水分の推移を調査

 

3.成果の概要
1)DON濃度0.34〜4.23ppm、赤かび粒率0.07〜1.87%、容積重805〜860g/lの履歴の異なる小麦を対象にした比重選別結果では、いずれの原料においても赤かび粒の混入割合の基準値
 が比重選別機の製品口流量割合を決定する制限要因であった(表1)。このことから、赤かび粒が混入している原料の比重選別では、製品口に回収される小麦の赤かび粒率が基準値を
 満たしていることを目安にして調製を行えば、DON濃度およびその他の基準値を満たすことができる。
2)赤かび粒のDON濃度は95〜160ppmと非常に高く、その他被害粒や未熟粒のDON濃度も比較的高かった。整粒のDON濃度は比重が小さいほど高い傾向にあった(表2)。これらのこと
 から、DON濃度低減には赤かび粒>その他被害粒>比重の小さい整粒、の順に原料に応じて選別することが効果的である。赤かび粒の混入がなくても、被害粒や開溝未熟が混入して
 いる場合、比重選別によりこれらを選別することで、外観、整粒割合向上とともにDON濃度が低減できる。
3)歩留を向上させ、製品に基準値を超えた被害粒混入を防ぐには比重選製品口割合が同程度のロットを形成する必要がある。比重選製品口割合が同程度のロットを形成するには整粒
 割合により仕分けすることが効果的である(図2)。このため、荷受けでは篩いにより未熟粒を除去し、篩上の整粒よりも少量の整粒以外の粒(赤かび粒、白・黒かび粒、発芽粒、開溝未
 熟やその他の被害粒)を数えて仕分けすることが望ましい。なお、荷受け時のロット形成は施設の調整タンクや乾燥機の数に応じて対応する。
4)温度条件を変えて1年間貯蔵した場内試験および現地調査では、いずれの条件においても仕上げ乾燥まで行った小麦のDON濃度および産生菌の保菌粒率が増加することは無かった
 (表3)。DON産生菌であるF.graminearumは水分活性0.88以下(子実水分で19%前後)、F.culmorumは水分活性0.87以下、好乾性菌群においても水分活性0.65(子実水分で13%前後)以下
 では活動しないとされていることから、仕上げ乾燥まで行った小麦は、結露等の事故が無い限り、通常の貯蔵条件でDON濃度が増加することは無い。
5)以上の結果から、小麦共同乾燥調製施設における荷受けから貯蔵までの流れを図3に示した。

 

表1比重選製品口割合と各基準値との関係(品種:「春よ恋」)

       
        図1 比重選別機出口の模式図

  

 

       
        図2 比重選製品口割合と整粒割合の関係

   

  

表2 比重選別した小麦の組成毎のDON濃度(品種:「春よ恋」)
        表3 貯蔵中のDON濃度、産生菌の推移
        

 

 


図3 共同乾燥調製施設における荷受けから貯蔵までの流れ

 

4.成果の活用面と留意点
 1)麦類共同乾燥調製施設で活用できる。
 2)DON濃度4.23ppm、赤かび粒率1.87%以上の小麦については検討していない。また、赤かび粒の混入割合が大きいと調製歩留が低下するため、防除対策の徹底を原則とする。
 3)赤かび粒、整粒割合等の基準値がクリアされていても光沢不足、退色粒等の外観不良で格下げになる場合があることに留意する。

 

5.残された問題とその対応
1)赤かび粒の効率的な調製法(調製歩留の向上)や、光学式選別機を導入する新たな調製体系については「小麦の新調製体系による歩留の向上」で検討中である。