「α-アミラーゼ活性測定による小麦品質安定期の予測方法」(研究参考事項)
           北海道農業研究センター・芽室研究拠点・パン用小麦研究チーム

           執筆担当者 山内 宏昭

 成熟期前の高水分生麦のα-アミラーゼ活性値を3日程度の間隔で3点程度測定する事により簡便で高精度の小麦品質安定開始日(アミロ値が高値で安定する開始日)を予測できる方法を開発した。

1 試験目的

北海道の主要な農産物である小麦の品質を高めることは民間流通への移行で益々重視されている。収穫後の小麦の品質を確認、仕分けし良質の小麦を確保する事は重要であるが、収穫前に小麦の品質が安定する時期を予測できれば高品質な小麦の計画的収穫が可能になり、更なる小麦品質向上への寄与が期待できる。そこで、本研究では小麦の品質指標の1つであるアミロ値が一段と高い値で安定する時期(小麦品質安定期)の開始時期を成熟期前にα-アミラーゼ活性を測定することにより簡便に予測する方法を開発する。本予測法の開発により、収穫前に小麦品質安定期を簡便に予測することが可能になり、計画的収穫への寄与が期待できる。

2 試験方法

(1) 小麦のα-アミラーゼ活性、子実水分、アミロ値の測定は以下のようにして行った。

供試材料は2002年度35圃場、2003年度37圃場、2004年度38圃場、2005年度18圃場(計125圃場)から数日おきに採取した試料を用いた。品種の内訳は、ホクシン98圃場、キタノカオリ18圃場、春よ恋9圃場である。α-アミラーゼ活性は「富士ドライケム3500A」(富士フイルム(株)により測定した。活性測定用の酵素抽出液は小麦試料100gに抽出液600ml(0.075%NaCl+0.003%CaCl2, 20-25℃)を加えホモジナイズ(8000rpm, 120秒)後遠心分離(13000rpm, 60秒)して調製した。子実水分は105℃、24hr乾燥法によって、アミロ値は試験用小型製粉機で調製した60%粉を用いブラベンダー社製のアミログラフで常法により測定した。

(2) 成熟期前後のα-アミラーゼ活性値(図1)とアミロ値の推移(図2)を調査、解析し、成熟期前の高水分の生麦のα-アミラーゼ活性を3回程度測定することにより小麦品質が安定する時期を簡易に高精度で予測する方法について検討した。

3 試験成績

(1) α−アミラーゼ活性値は小麦の登熟に従い急激に且つ単調に減少した後、しばらくの間活性の低下がほぼ0の一定値(この低く安定したレベルを「底値」と定義)で推移した。その後降雨などがあれば穂発芽して上昇した。これに対して、子実水分は降雨があればその影響を受け単調には減少しなかった(図1)。

図1 生麦のα−アミラーゼ活性と水分の推移 

(2) アミロ値には成熟期直後にその値が一段と上昇し一定期間高い値で安定する時期(アミロ値高値安定期)が認められた(図2)。この安定期は他の要件(例えば小麦水分含量等)が整っていれば、最適な収穫時期(小麦品質安定期)である。
 
図2 成熟期前後のアミロ値の推移

(3) アミラーゼ活性が底値に到達した日(アミラーゼ活性底値到達日)とアミロ値高値安定期開始日との関係(日差)を合計34圃場のデータについて調査、解析を行った結果、年度毎および3年間の合計について両者はかなり一致している事が判った(図3)。これより、アミラーゼ活性底値到達日は小麦品質の安定期開始日(アミロ値高値安定期開始日)を表している事が判明し、アミラーゼ活性底値到達日を推定することによって小麦品質安定開始日を予測できる事が明らかになった。

(4) 図1〜3の結果から小麦の登熟に伴うα−アミラーゼ活性の推移を模式的に図4に示し、アミラーゼ活性底値到達日から約一週間を小麦品質が安定する期間として「小麦品質安定期」、その開始日を「小麦品質安定開始日」と定義した。前述したようにこの期間の低い活性値レベルを「底値」と定義した。
図3 アミラーゼ活性底値到達日とアミロ値高値安定開始日との日差の圃場数の分布 図4 アミラーゼ活性推移と小麦品質安定期の模式図
(5) 成熟期前のα-アミラーゼ活性の測定結果から上記の小麦品質安定開始日を簡便、精度良く予測する方法を開発した。その概念図を図5に示す。本方法は成熟期前の子実水分が高い時期の直線的かつ急激に活性が減少する部分と、安定期直前の緩やかに減少する部分に分けてアミラーゼ活性底値到達日(即ち小麦品質安定開始日)を予測する方法である。その具体的手順を図6示した。なお、底値(180mU/g)と補正日数(4日)は2002年〜2005年のデータを調査、解析して求めた。
図5 小麦品質安定開始日の推定方法の概念図 図6 小麦品質安定開始日の予測手順
(6) 上記方法により求めた予測小麦品質安定開始日は、実測のアミラーゼ活性底値到達日の前後一日に単一ピークを持ち両者は非常に良く一致している事が判った(図7)。この結果から本法により成熟期前に高水分の生麦の3点程度のα-アミラーゼ活性値を測定する事により簡便に高精度で小麦品質安定開始日を予測できることが明らかになった。

図7 予測小麦品質安定開始日と実測のアミラーゼ底値到達日の日差


4 試験結果及び考察
(1) 本方法によれば小麦の成熟期前に小麦の重要な特性であるアミロ値が最高点に達して安定する時期「小麦品質安定期」を予測する事ができる。
(2) 本成績のα-アミラーゼ活性測定による小麦品質安定期の予測方法の適用品種はホクシン、キタノカオリ、春よ恋の3品種である。
(3) 測定時期が早すぎると、子実水分(>50%)が高すぎて水分の測定誤差が生じる場合がある。
 
5 普及指導上の注意事項
(1) より早期における品質安定開始日を推定するため、高水分(50%以上)でのα−アミラーゼ活性測定精度の向上を図る。