「馬鈴薯澱粉及び澱粉粕の脂質代謝改善効果」(研究参考事項)

北海道農業研究センター 機能性利用研究北海道サブチーム

執筆担当者 野田高弘、橋本直人

リン含量の異なる馬鈴薯澱粉とそれらの澱粉の製造時に生じる澱粉粕について脂質代謝改善効果を調べたところ、リン含量の高い澱粉(高リン澱粉)及び高リン澱粉製造時に生じる澱粉粕(高リン澱粉粕)には中性脂肪及び遊離脂肪酸を低下させる傾向がある。
 
1 試験目的

最近の日本においては、体脂肪、皮下脂肪あるいは肝臓中への脂肪の蓄積によって引き起こされる生活習慣病の防止が極めて重要な課題となっている。このような背景のもと、食品成分を由来とする脂質代謝改善剤の開発に高い関心が寄せられている。馬鈴薯澱粉は、エステル結合したリン酸基が他の澱粉と比べて多く、リン酸基の有する澱粉を直接摂食させた場合、澱粉中のエステル結合したリン酸基の箇所が消化されずに残る。したがって、馬鈴薯澱粉においては難消化性澱粉のような生理機能が期待できる。本研究では、リン含量の異なる馬鈴薯澱粉及び澱粉粕の脂質代謝改善効果について検討する。

 
2 試験方法

リン含量の高い澱粉(高リン澱粉)は「ホッカイコガネ」(リン含量:874 ppm)を、低い澱粉(低リン澱粉)は「紅丸」(リン含量:644 ppm)を用いた。澱粉粕はこれらの澱粉製造時に生じた残渣を用いた。α化(熱糊化)馬鈴薯澱粉(高リン澱粉及び低リン澱粉)の脂質代謝改善効果の動物試験は、Sprague-Dawleyラットで5週間投与することで実施した。α化馬鈴薯澱粉粕(高リン澱粉粕及び低リン澱粉粕)の試験では、Fisher344を用い、4週間投与することで行った。いずれの場合も対照としてα化コーンスターチ(リン含量:137 ppm)を用いた。血清中の総コレステロール(T-CHOL)濃度、中性脂肪濃度、遊離脂肪酸濃度を酵素法により測定した。また、ラットから盲腸を摘出し、重量を測定するとともに、内容物中の短鎖脂肪酸についてクロマト法により定量した。参考として、オカラ、アズキ餡粕の血清中の中性脂肪濃度の試験もFisher344を用い、4週間投与で実施した。

 
3 試験成績

(1) 高リン澱粉及び低リン澱粉を摂取しても、コーンスターチと比べ体重や盲腸重量に変化がなく(表1)、澱粉粕の場合も同様であった(表2)。

(2) 高リン澱粉は、中性脂肪をコーンスターチと比較して約30%低下させ、遊離脂肪酸も有意に低下させたのに対し、総コレステロール(T-CHOL)は下げなかった(表3)。低リン澱粉の中性脂肪及び遊離脂肪酸低下作用は、高リン澱粉ほど顕著でなかった(表3)。

 
(3) 高リン澱粉粕は、中性脂肪及び遊離脂肪酸の低下作用がみられたのに対し、T-CHOL低下作用はみられなかった(表4)。
(4) 高リン澱粉及び低リン澱粉を摂取しても短鎖脂肪酸の増加は認められなかったが、高リン澱粉粕を摂取すると短鎖脂肪酸の有意な増加がみられた(図1)。
(5) 代表的な農産副産物由来の食物繊維素材であるオカラ、アズキ餡粕では、中性脂肪低下作用がみられなかった(図2)。
4 試験結果及び考察
本研究において、馬鈴薯澱粉及び澱粉粕の中でも、特に高リン澱粉及び澱粉粕は、中性脂肪及び遊離脂肪酸を下げるが総コレステロールをほとんど下げないことが判明した。高リン澱粉粕の中性脂肪の低下に関しては、他の代表的な農産廃棄物であるオカラ、アズキ餡粕より優れていることが明確となった。血中コレステロール値が高いと狭心症や心筋梗塞に対する危険率は上がるが、それ以外の場合、コレステロール量が下がるとガン死を含む死亡率がかえって高くなることが近年報告されている。総コレステロールをほとんど下げずに中性脂肪及び遊離脂肪酸を下げる高リン澱粉及び澱粉粕は、この点で特に有用である。
 5 普及指導上の注意事項

(1) 高リン澱粉及び澱粉粕から健康食品等の飲食品や飼料の製造産業において有用である。