成績概要書 (2008年1月作成)
研究課題:道北地域における集約放牧システム導入と放牧移行過程の技術変化並びに経営評価     
 寒地中規模酪農における集約放牧技術の確立(3)中規模酪農における集約放牧システムの確立
  1)集約放牧システムの体系化と営農モデルの策定(2)天北型集約放牧システムの体系化と営農モデルの策定
  2)集約放牧技術の経営評価と地域導入シミュレーション(2)天北型集約放牧技術の経営評価と地域への波及効果の解明

担当部署:上川農試天北支場技術普及部・体系化チーム、根釧農試・経営科
協力分担:北海道農研・集約放牧研究チーム、北海道農業経営研究チーム
予算区分:独法受託
研究期間:2003〜2007年度(平成15〜19年度)
1.目的
 道北地域の多雪地帯における酪農経営が新たに放牧を導入したり、より放牧を重視した経営に移行するために現地で組み立て実証を行い、移行過程の技術変化と経営評価を明らかにする。また、地域において集約放牧へ移行した酪農経営を明らかにし、営農条件別に集約放牧への移行マニュアルを作成する。

2.方法
1)集約放牧導入・転換による実証農家の技術及び経営の変遷(2003〜2007年)
(1)幌延町2戸(E農場:既存放牧、G農場:フリーストール舎飼)を選定し集約放牧経営に移行させる。導入技術は電牧システム・簡易更新・放牧利用計画等、調査項目は生産技術が放牧草採食量等、経営内容は収益性等、導入・転換の評価は飼料自給率向上、省力化、低コスト化等とした。
2)道北地域における集約放牧実施農家の経営展開とその評価(2003〜2007年)
(1)先進的酪農経営10戸を調査し集約放牧技術の導入過程における技術・経営の変化と特徴を営農条件別に類型化し、経営展開とその評価を行った。
3)道北型集約放牧への移行マニュアルの作成(2007年)
(1)実証農家2戸と道北地域の先進的酪農家8戸の調査結果より、営農条件別に3タイプ(放牧拡充型、放牧転換型、新規参入型)の移行マニュアルを作成した。

3.成果の概要
1)集約放牧導入・転換による実証農家の技術及び経営の変遷
(1)実証農家2戸は、移行過程で経産牛乳量を減少させたが、電気牧柵と水槽の新・増設及び簡易更新法による放牧地の植生改善等をいずれも初期の1〜2年で実施できた。
(2)濃厚飼料の給与は、放牧依存度の向上により低蛋白と高エネルギーのものに変更した。放牧地は兼用地を有効に活用し、植生改善は初期生育の早いペレニアルライグラス(PR)草種と作溝型播種機を組合せた簡易更新法で実施し、放牧を継続しながら2〜3年目で十分な効果が見られた(図1)。本方式は耕起更新より放牧地への転換を容易にする有効な方法であった。
(3)両農場は、放牧依存率を高め搾乳牛で年間60%以上の高い飼料自給率を維持し(図2)、植生改善と短草利用により放牧地からの乳生産を高めた効率的な放牧地利用を達成した。
(4)放牧は、病傷事故率の低下など乳牛の健康を改善したが、バルク乳の乳中尿素窒素濃度を高めた。
(5)集約放牧導入や放牧転換は、いずれも年間の総労働時間を削減する効果が認められた。
(6)収益性の変化は、放牧経営への移行時に生乳代金と農業経営費の両方の減少が見られた。生産資材費は、放牧転換に伴う初期投資が最初の1〜2年で約300万円程度であり、経営費全体の削減効果は飼料費や農業関係共済の経費減少により3年目頃から認められた。
2)道北地域における集約放牧実施農家の経営展開とその評価
(1)営農条件別に3タイプ(Ⅰ:放牧拡充型、Ⅱ:放牧転換型、Ⅲ:新規参入型)に分類した。
(2)移行の動機は、事故率軽減と経営収支改善及び新規参入時の初期投資の軽減等であった。
(3)移行に必要な年数は、タイプⅠが2〜3年、タイプⅡとⅢは4〜5年程度であった。農業収支では、放牧関連の施設整備やPR導入など植生改善を数年かけて実施し、放牧牛の採食程度判定など放牧技術の習得により、所得率が向上し農業所得の増加が見られた(表1)。
(4)移行期の技術変化では、放牧地管理と乳牛管理において、継続的な改善が実施されていた(図3)。
(5)アンケートに寄せられた放牧への期待は、集約放牧により達成されることが確認出来た。今後、地域への波及には、先進的な実証展示と実体験、放牧マニュアルの活用が必要と考えられた。
3)道北型集約放牧への移行マニュアルの作成
(1)農家実証と先進的放牧酪農経営の調査結果より、営農条件別に移行マニュアルを作成した(図4)。

 以上の結果、集約放牧への移行期の技術・経営等の課題を明らかにし、道北型集約放牧への移行マニュアルの提案による放牧経営へのスムーズな移行を可能とし、高い粗飼料自給率を維持出来る。

 

  



4.成果の活用と留意点
 1)本成果はペレニアルライグラス草種の栽培が可能な道北・道央・道南地域で活用できる。
 2)集約放牧の移行期は、生産技術面で初期投資の完了と技術の普遍化、経営面では農業所得率30%を目安に改善傾向が見られるまでの期間とした。
 3)本マニュアルは、中規模酪農経営を対象に放牧地を作溝型播種機で簡易更新し、放牧を継続しながら植生改善を目指す方式を基本とする。
5.残された問題点とその対応
 1)放牧草採食量の増加による蛋白質とエネルギーバランスの変動が乳牛に及ぼす影響と乳中尿素 窒素(MUN)濃度上昇を抑制する放牧期の併給飼料給与法の検討。