【指導奨励上参考に資すべき事項】

水田に於ける野生稗の試験調査

渡島支場

 

1. 当地方に於ける野生稗の分布とその特性
 (1) 分布
  場内及び附近農家の水田より採取したもの
     採種場所
区別
場内1(本) 場内2(本) A氏(本) S氏(本) St氏(本)
タイヌビエ 160 245 40 88 85
ケイヌビエ 15 5 10 10 15
ヒメイヌビエ 2 0

 大部分がタイヌビエでヒメイヌビエは冷床苗代から移植された疑が多い。雑単防除の対照としてはタイヌビエを主として考えて差し支えないと思われる。
 (2) 特性
  前年採種した種子を水田と畑に栽培しその特性を栽培早生白稗と比較した。
 (3) 方法
  反当堆肥   硫安 3貫、 過石 5貫、
  播種期 6月13日  200粒播、発芽後間引き10株立とする。
 (4) 試験成績
  イ、 発芽調査
区別 タイヌビエ ケイヌビエ ヒメイヌビエ 早生白稗
粒数 歩合 粒数 歩合 粒数 歩合 粒数 歩合
水田 174 87 132 66 66 30 194 97
12 6 59 30 198 99 196 98

   (イ) タイヌビエ、ケイヌビエの発芽は水田で良く畑で劣る。
   (ロ) ヒメイヌビエは水田で劣り畑で優る。
   (ハ) 早生白稗は水田、畑共に良好
  ロ、 生育の早晩
区別 水田
分げつ
(月日)
止葉
(月日)
出穂
(月日)
成熟
(月日)
成熟日数
(日)
分げつ
(月日)
止葉
(月日)
出穂
(月日)
成熟
(月日)
成熟日数
(日)
タイヌビエ 7.6 8.18 8.21 9.4 14 7.1 8.20 8.25 9.9 15
ケイヌビエ 7.7 8.18 8.22 9.9 18 7.1 8.16 8.20 9.5 16
ヒメイヌビエ 7.14 8.9 8.13 8.28 15 6.30 8.4 8.9 8.22 13
早生白稗 7.5 8.5 8.8 9.4 27 6.30 7.31 8.4 8.29 25
  備考  発芽始はいづれも6月13日、分げつより成熟に至る各期は始を指す。成熟日数は出穂始から成熟始(種子脱粒始)までの日数

   (イ) 早生白稗の出穂最も早くヒメイヌビエ之につぐ
   (ロ) 一般に畑の方が出穂は早まるがタイヌビエは却っておくれる。
   (ハ) 野生稗の成熟日数は半月程であるが早生稗は脱粒迄25日以上を要した。
  ハ、 成熟期の生育(各1株につき)
区別 水田
葉数
(枚)
草丈
(cm)
穂長
(cm)
茎数
(本)
穂重
(g)
茎重
(g)
葉数
(枚)
草丈
(cm)
穂長
(cm)
茎数
(本)
穂重
(g)
茎重
(g)
タイヌビエ 15 93 17 22 25 33 15 75 15 40 30 43
ケイヌビエ 15 133 17 23 16 53 15 84 16 42 33 51
ヒメイヌビエ 14 163 21 12 15 60 14 173 27 31 89 149
早生白稗 14 144 15 7 23 40 14 140 15 29 41 36

  一般に水田は草丈の伸長は良いが茎数は少なくなる。品種に依る相異としては
   (イ) ヒメイヌビエの畑に於ける生育は極めて旺盛であるが水田では劣った。
   (ロ) 早生白稗は水田畑共に差が少ない。
   (ハ) タイヌビエ、ケイヌビエは水田に於いて生育が優るようであった。

2. 野生稗の発芽
 翌年の4月迄畦畔に放置された野生稗の種子を用いて発芽試験を行ったが発芽歩合30%で残り70%は発芽もしないが腐敗もしなかった。(昭和28年報告)之等不発芽粒の発芽力の有無を知るため越冬した種子について調査を行った。
 (1) 硫酸及び砂処理に依る野生稗の発芽
  前年産種子を濾紙上に置床しガラス室内の自然温(20℃前後)で調査した。(昭和28年4月)
  イ、 処理方法
   濃硫酸処理  比重1.84で時間は5分、10分、20分、30分とす。
   砂処理     川砂3:種子1  布袋に入れ手で50回揉む
  発芽並びに腐敗粒歩合(置床後30日  各区100粒)
区別 発芽歩合 腐敗歩合
タイヌビエ ケイヌビエ ヒメイヌビエ 早生白稗 タイヌビエ ケイヌビエ ヒメイヌビエ 早生白稗
無処理 36 19 89 99 5 3 6 1
砂処理 64 57 84 86 13 5 12 14


5分 65 47 89 82 12 6 11 18
10分 74 58 81 85 15 10 17 15
20分 72 76 68 56 18 14 32 44
30分 26 63 0 0 25 29 100 100

   (イ) タイヌビエ、ケイヌビエは無処理では発芽不良であるが処理により著しく発芽歩合を高める。
   (ロ) ヒメイヌビエ、早生白稗は無処理でもよく発芽する。
   (ハ) 硫酸処理も20分迄で30分は勿論20分でも害があり腐敗粒を生ずるが特にヒメイヌビエと早生白稗は全部腐敗した。即ちタイヌビエ
     、ケイヌビエは翌年の春に於いても自然条件の下では発芽力を持ち乍ら発芽しないものが相当あることを知る。
  ロ、 第1回処理後の不発芽粒の再処理
   前試験の後、発芽も腐敗もしなかったものについて濃硫酸に10分浸漬して前の試験と同様に扱った。
前回
処理法
発芽数/供試数 発芽歩合
タイヌビエ ケイヌビエ ヒメイヌビエ タイヌビエ ケイヌビエ ヒメイヌビエ
無処理 59/59 74/78 0/5 100 95 0
砂処理 9/23 10/38 0/4 39 26 0


5分 4/28 9/47 0/0 14 19 0
10分 1/11 4/32 0/2 9 13 0
20分 0/10 1/10 0/0 0 10 0
30分 0/49 1/8 0/0 0 11 0
  前回の無処理区は勿論処理の弱かった区では発芽するものが多い。普通の発芽試験では不発芽のものが多いが発芽力なき不発芽粒は極めて少ない様である。

3. 水田に残存している種子に依り発生する稗の量
 前縁の調査に依り水田に発生する稗は坪当3000~3500株で甚しい所は7000株に及んだ(昭和28年報告)  そこで圃場管理の良否と次年度の稗の発生を見るため、元掻き稗抜を行わなかった所と除草を十分に行った所について稗の発生量を調査した。
 1区15坪乃至30坪
   坪当稗の発生株数(9月末迄の計)
区別 稗の株数
A B C 平均
前年元掻稗抜を
行わず
8280 7704 7676 7956
前年除草を十分行う 27 23 - 25
  備考  元掻稗抜を行わぬ場合稲の刈取期には坪当175株の稗があった。
   (イ) 除草器を使用するだけでは稗を除去することができず翌年度に於いては約8000株の多量の発生を見た。
   (ロ) 管理に十分注意しても1ヶ年で稗の根絶は困難である。

4. 野生稗の種子の伝播
 種子の伝播の一つとして水により運ばれることが予想される。前年用水中に流れる種子量を調査し代掻き期では30分間に10乃至17粒を数えたが、本年は田から田へ直接の伝播を調査した。即ち稗の多かった一農家の水田約3畝の代掻による落水を対照として、2ミリの金網により30分間の種子量を数えた。
   30分間に流れる種子の粒数(6月15日調査)
調査回数 総粒 稔実粒 不稔
第1回 171 30 141
第2回 143 27 116
  この外ヒルムシロ2株、タデク株、マツバヰ60株を採取した。
 直接田から田へ水で運ばれるものは相当多い。

5. 深水下に於ける稗と稲の発育
 深水は雑草を抑制する効のあることは一般に知られている。一部の者は深水下の稗は水面まで伸び得ずして枯死するとも言われているのでこの調査を行った。
 (1) 試験方法
  ガラス鉢に川砂を入れ催芽した種子を置床する。水は隔日入れ替えを行い、ガラス室内の自然の下におく(気温25℃)
 (2) 試験成績
区別 水深15cm
水面上に
出現する(日)
枯死
(本)
草丈 30日目
20日目(cm) 30日目(cm) 根長(cm) 根数(本)
タイヌビエ 21 6 15.2 20.6 10.3 5
ケイヌビエ 21 9 15.8 20.9 11.6 5
ヒメイヌビエ 15 4.6
早生白稗 24 8 14.5 19.6 9.4 3
水稲南栄 22 5 15.2 22.7 9.4 6
区別 水深  5cm
水面上に
出現する(日)
枯死
(本)
草丈 30日目
20日目(cm) 30日目(cm) 根長(cm) 根数(本)
タイヌビエ 13 14.6 19.7 12.0 7
ケイヌビエ 13 14.8 20.4 12.2 7
ヒメイヌビエ 21 10 5.8 6.7 ナシ ナシ
早生白稗 12 13.7 18.2 10.0 5
水稲南栄 12 14.0 19.2 11.5 8

 ヒメイヌビエを除きいづれも15cmの深水でも水面上まで伸長する。水稲と比較して稗の方が軟弱の観はあったが深水により稗を駆除できるとは言われない。即ち稗は深水により枯死する株を生じ生育も悪くなるが水稲も亦悪影響を受けるから水稲の生育が相当進んだ後でないとこの方法は適当しない。

6. 除草培土器使用による防除
 (1) 試験方法
  一般冷床栽培法により5月23日移植した圃場を使用す。
  1区10坪1区制  品種 南栄
 (2) 試験成績
  坪当  雑草発生株数(9月29日調査)
区別 マツバヰ イヌノヒゲ カンガンヰ ヒルムシロ 水稲
反収(石)
A B 平均 A B 平均 A B 平均 A B 平均 A B 平均
元掻4回 11 9 10 356 364 360 18 24 21 20 18 19 14 18 16 2.58
元掻3回と培土器使用 6 10 8 132 108 120 8 12 10 11 5 8 7 7 7 2.55

 止草 7月15日
 培土器を使用しても稲の増収は認められない。然し稗を始めその他の雑草の発生は少なくなることは明かであった。