【指導奨励上参考に資すべき事項】

道南に於ける玉葱栽培に関する試験成績

渡島支場

 

 玉葱は従来道南の適作物として奨励されていなかったが、数年来の試験調査の結果は「たまねぎばえ」も殆どつかず生育も良好であるから之を奨励しようとする。但し従来扱われた耕種法は相当改正すべき点もあるのでその成績を示す。

1. 播種時期試験成績(自昭和25年 至昭和27年 3ヶ年)
 (1) 試験方法
  (イ) 耕種梗概
1/10陌(反)当施肥量 畦巾 株間 播種法 管理 摘要
間引 除草中耕
堆肥 2268.6kg(600貫)
魚粕 32.8kg(10貫)、過石30.2kg(8貫)
硫安 11.3kg(3貫)、硫加11.3kg(3貫)
45cm 15cm 2条
千鳥点播
2~3回 3~5回 左記の外標準耕種法
に準ずる。

  (ロ) 供試品種 「札幌黄」

 (2) 結論及び考察
  イ、青立歩合は晩播程増加の傾向がある。
  ロ、収量は年により多少の差異はあるが播種期の遅るるに従って減収を示している。
  ハ、上球の収量は全収量に併行して播種期の早いもの程多く、下球は反対に晩播程多くなり、従って上球歩合並に一ヶ平均重量は播種期
    の早いものほどまさっている。

 以上により道南地方に於いて玉葱を栽培する場合は4月20日頃が播種適期の限度と考えられる。殊に気候的に4月下旬以降土壌の過乾状態に遭遇し易い当地方では融雪後事情の許す限り早播することが望ましい。
 (3) 試験成績
  イ、生育調査
試験区別 発芽所要
日数(日)
球肥大始
(月日)
茎葉 生育
日数
番号 播種期 倒伏期 枯凋期
1 4月8日播 ①21 ①7 .4 ①8.24 ①8.30 ①144
2 4月15日播 ③18 ③7 .9 ③8.22 ③8.28 ③135
3 4月22日播 ③15 ③7.10 ③8.25 ③8.29 ③129
4 4月29日播 ③15 ③7.15 ③8.27 ③8.30 ③123
5 5月6日播 ②15 ②7.18 ②8.30 ②9.1 ②118
6 5月15日播 ②12 ②7.18 ②8.31 ②9.5 ②113
試験区別 倒伏始に於ける 青立歩合
(昭和25年)%
番号 播種期 草丈(cm) 葉数(枚)
1 4月8日播 ①49 ①8  
2 4月15日播 ③59 ③9 1
3 4月22日播 ③56 ③9 3
4 4月29日播 ③55 ③8 5
5 5月6日播 ②58 ②8 7
6 5月15日播 ②55 ②8 7
  備考  1. 発芽当時土壌稍々乾固の為昭和25年4月15日播と昭和27年4月22日播は発芽困難の状態を呈して不揃いの観があり最後迄
        影響を及ぼした。
       2. 表中〇内数字は平均年数を示す。
  ロ、収量調査
試験区別 1/10陌当収量 同一年次
平均収量割合(%)
箇所 重量(g)
番号 播種期 昭和25年   26年   27年 平均 昭和25年   26年   27年 平均
1 4月8日播     27641 ①27641     2621 ①2621 ①100
2 4月15日播 14353 23545 27919 ③21939 1268 2674 2526 ③2156 ③100
3 4月22日播 14168 23704 24122 ③20665 1320 2030 2049 ③1800 ③ 83
4 4月29日播 9631 27884 24817 ③20777 663 1695 2352 ③1570 ③ 73
5 5月6日播 10279 20212   ②15245 612 1458   ②1035 ② 53
6 5月15日播 13705 22063   ②17884 752 1236   ②994 ② 50
試験区別 各年収量割合(%) 各年上球歩合(%) 1ヶ平均
重量(g)
反当収量(貫)
番号 播種期 昭和25年   26年   27年 昭和25年   26年   27年
1 4月8日播     104     73 ①94 ①100
2 4月15日播 100 100 100 40 51 70 ③98 ③100
3 4月22日播 104 76 81 46 58 59 ③88 ③ 83
4 4月29日播 52 63 93 23 42 74 ③75 ③ 73
5 5月6日播 48 55   14 41   ②66 ② 53
6 5月15日播 59 46   11 12   ②56 ② 50
  備考 1. 表中〇内数字は平均年数を示す。
      2. 上球は一ヶ重量100g以上、下球は100g以下20g以上のものとし20g以下のものは屑として調査の対照から省いた。

2. 施肥量試験成績(昭和28年)
 (1) 試験区別
試験区別 反当施肥量
(貫)
反当要素量
(金肥)(貫)
番号 区別 堆肥 魚粕 硫安 過石 硫加 窒素 燐酸 加里
1 標準施肥量区 1000 10 3 6 3 1.537 1.555 1.594
2 標準施肥量の倍量区 20 6 12 6 3.074 3.110 3.188
3 府県慣行施用量区 10 19.65 15 2.9 5.000 3.000 4.000
  札幌黄を供用、4月11日播種

 (2) 結論及び考察
 1. 施肥量の多いものは生育日数が延長する傾向があるが生育状況は旺盛良好である。
 2. 青立歩合は施肥量を増すことにより増加の傾向があるようであるが収量を左右する程の影響はなかった。
 3. 良球の収量は従来の標準施肥量では甚だ劣るがその他の二区では大差がなく倍量区が適している。
 (3) 試験成績
  イ 生育並収量調査
試験区別 茎葉 反当収量 収量
割合(%)
一ヶ
平均
重量(g)
中玉
以上
割合(%)
青立
歩合
(箇数)%
番号 区別 倒伏(月日) 枯凋(月日) 箇数 重量(貫)
1 標準施肥量区 8.15 8.22 8.26 8.29 25299 703 100 104 77 2.3
2 標準施肥量の倍量区 8.18 8.23 8.30 25483 826 118 122 88 5.9
3 府県慣行施用量区 8.17 24383 799 114 123 89 3.3
  備考  1. 6月中旬後半より次第に肥効差が認められた。地上部の生育は府県慣行施用量区が目立ってすぐれていたが倒伏期頃より腐
        敗球が特に多く窒素過多による軟弱化と観察されたが明らかでない。
       2. 表中、大は直径2寸1   中は1寸7   小は1寸3 以上とし直径1寸3以下は屑とし除外した。
  ロ 肥料費経済調査
試験区別   肥料質 玉葱価格 差引残額 標準
施肥量区
に対する
増減
種類 魚粕 硫安 過石 硫化 80.00
番号 区別 単価(円) 199.20 97.60 61.00 108.80
1 標準施肥量区 数量(貫) 10 3 6 3   703    
金額(円) 1992 291 366 326 2975 56240 53265
2 標準施肥量の倍量区 数量(貫) 20 6 12 6   826    
金額(円) 3984 582 732 653 5951 66080 60129 6864
3 府県慣行施用量区 数量(貫) 10 19.65 15 7.9   7.99    
金額(円) 1992 1806 915 860 5573 63920 58347 5082
  備考 1. 肥料代は春季購入価格、玉葱価格は昭和28年11月30日市場調査(卸価格)による。
      2. 肥料を増施した場合本試験の範囲内では玉葱価格1貫匁当27円以上の場合は常に有利である。

3. 栽植密度試験成績(昭和28年)
 (1) 試験区別
試験区別 畦巾(尺) 播巾(尺) 条数(条) 株間(尺) 摘要
番号 反当栽植本数
1 25000本 1.5 0.5 2 0.58 肥料は標準の倍量
札幌黄を供用
4月11日播種
9月14日収穫
2 30000本 0.48
3 35000本 0.41
4 40000本 0.36
5 40000本 2.0 1.0 3 0.41
6 45000本 0.36

 (2) 結論及び考察
 栽植本数を増加すると1ヶ平均重を減じ屑球が多くなり特に3条播では中間条のものが劣ってくる。只青立のものが少なくなる傾向はあるが収量に対して栽植本数の影響は極めて少ない。
 以上により生育、収量、品質或いは栽培管理等より考察し栽植密度は2条播反当30000~35000本を適当と認める。
 (3) 試験成績
  生育並び収量調査
試験区別 茎葉 反当収量 収量
割合(%)
一ヶ
平均
重量(g)
中玉
以上
割合(%)
青立
歩合
(箇数)%
番号 反当栽植本数 条数 倒伏(月日) 枯凋
(月日)
箇数 重量(貫)
1 25000本 2条 8.20 8.26 9.1 20626 666 95 121 87 11.5
2 30000本 8.17 25574 703 100 103 80 8.6
3 35000本 8.18 28934 706 100 90 74 8.6
4 40000本 8.17 30342 700 100 87 69 5.9
5 40000本 3条 8.25 30111 677 96 84 69 3.4
6 45000本 8.26 34716 712 100 77 56 1.5

4.  土壌の種類と酸度(框試験)
 ⅰ. 土壌別適否試験成績(昭和27、28年)
 (1) 試験方法
  イ、耕種概要   堆肥を用いない外標準耕種法に準ずる。昭和27年は麦の跡地を利用した。
  ロ、試験操作   深さ1尺の木框を設置し框内の表土6寸を取除き、土壌別に採取した土を搬入いれかえを行い昭和28年はPH6.5に酸度調整を行った。
  ハ、供試品種   「札幌黄」
  ニ、一区面積反区制   木框1/4坪(3尺角) 1区制
                  昭和27年24株立   昭和28年20株立
 (2) 試験区別及び土壌条件
  イ、昭和27年
試験区制 採取地 土壌酸度
(PH)
番号 区別
1 壌土(沖積)(1) 市場原土 6.3
2   〃    (2) 大野村字大野町 6.2
3 泥炭土   〃  東前 5.6
4 壌土(クロボク)(1)   〃  文月 5.7
5   〃    (2)   〃  向野 58

   ロ、昭和28年
試験区制 採取地 土壌酸度(PH) 昭和28年の降水分布
番号 区別 調整前 播種時 収穫時 降水量   4月下旬  29.2mm
       5月上旬  6.9mm
       5月下旬  87.3mm
同日数  4月下旬  5日
       5月上旬  2日
       5月中旬  5日
       5月下旬  6日
1 壌土(沖積) 市場原土 6.4 6.5 6.3
2 泥炭土 大野村字稲里 5.8 5.9
3 壌土(クロボク)   〃  文月 6.4 6.4
4 火山灰土 森町字姫川 6.6 6.7

 (3) 結論及び考察
  イ、昭和27年
 泥炭土は乾燥障害が目立った為わかりかねたが壌土(クロボク)は常に生育が劣り尚稚苗期に立枯様に消失するもの多く、他の土壌に比
 べ明らかに劣ることが認められた。
  ロ、昭和28年
 稚苗期に立枯(クロボク)及間引株揃え後に虫害により折損したものの(泥炭土)等の支障もあったが観察によれば壌土(クロボク)の生育は全期を通じて劣った他はいづれも栽培可能と認められた。但し沖積では土壌の固結するを欠点とし、火山灰土は水分不足し易く泥炭土では排水に注意することが必要と思われる。
 (4) 試験成績
  生育並び収量調査
  イ、昭和27年
試験区別 茎葉 区別収量 一ヶ
平均
重量(g)
摘要
番号 区別 倒伏
(月日)
枯凋
(月日)
箇数 重量(g)
1 壌土(沖積)(1) 8.15 8.24 17 680 40  
   
2 〃  (2) 8.18 8.25 21 915 44   
   
3 泥炭土 8.15 8.24 4 30 8 発芽後土壌の乾燥により生育悪く7月上旬迄の
間に消失したものが多かった。
4 壌土(クロボク)(1) 9 210 23 発芽後全期を通じ生育劣り稚苗期に立枯様に
消失したものが多かった。
5 〃  (2) 11 210 19
  
  備考  播種期 4月15日、   収穫期 9月10日、
  ロ、昭和28年 
試験区別 発芽 茎葉
番号 区別 日数(日) 状況 倒伏(月日) 枯凋(月日)
整否
1 壌土(沖積) 15 ヤ良整 8.22 9.3 9.18 ヤ否
2 泥炭土 8.24
3 壌土(クロボク) 14 8.29  
4 火山灰地 19 ヤ良ヤ整 8.27 9.8 ヤ否
試験区別 区当収量 1ヶ平均重量 青立箇数
(区当)
番号 区別 全収量 良球収量 合計
(g)
良球
(g)
箇数 重量(g) 箇数 重量(g)
1 壌土(沖積) 18 600 9 400 33 44 -
2 泥炭土 14 780 11 705 56 64 1
3 壌土(クロボク) 7 125 2 60 18 30 12
4 火山灰地 17 890 13 815 52 63 2
  備考 1. 播種期 5月2日、  収穫期 9月18日、
      2. 表中、良球は直径1寸3以上のものとし1寸3以下のものは屑として扱った。

 ⅱ、 土壌酸度別試験成績(昭和28年)
 (1) 試験方法
  イ、耕種梗概  堆肥を用いない外標準耕種法に準ずる。
            5月2日播種、  9月18日収穫
  ロ、試験操作  深さ1尺の木框を設置し原土を使用して、硫酸と石灰によりPHを調整した。
  ハ、供試品種  「札幌黄」
  ニ、一区面積及び区制  木框1/4坪(3尺角) 1区制  1框20株立
 (2) 試験区別
試験区制 土壌酸度(PH) 摘要
番号 PH調整目標 調整前 収穫時
1 4.5 6.5 5.4 原土PH 6.5
2 5.5 5.7
3 6.5   6.2
4 7.5 7.0

 (3) 結論及考察
  PH4.5では著しく生育が劣り不揃いで青立が多かったがその他の区では支障を認めなかった。
 即ち土壌PH4.5の様な極端な酸性を避ければ栽培可能と認められる。
 (4) 試験成績
   生育並収量調査
試験区別 発芽 茎葉
番号 PH調整目標 期(月日) 状況 倒伏(月日) 枯凋(月日)
整否
1 4.5 5.16 ヤ良整 8.26 9.18 ヤ否
2 5.5 5.15 9.8 9.18
3 6.5 5.14 8.23
4 7.5 ヤ否
試験区別 区当収量 1ヶ平均重量 青立箇数
(区当)
番号 PH調整目標 全収量 良球収量 合計
(g)
良球
(g)
箇数 重量(g) 箇数 重量(g)
1 4.5 12 .375 6 260 31 43 7
2 5.5 16 720 12 635 45 53 2
3 6.5 17 615 7 380 36 54 3
4 7.5 19 950 16 885 50 55 1
  備考 1. PH6.5区は「けら」の侵入被害により補植(6月13日)を余儀なくし生育が悪かった。
      2. 表中、良球は直径1寸3以上のものとし、1寸3以下のものは屑として扱った。

5. 現地委託適否試験成績(昭和25年、昭和27年)
 (1) 目的 
   土性及び地域による適否を見る為に行う。
 (2) 試験方法
  イ、耕種梗概  昭和25年 施肥量をその地方の任意にした外標準耕種法に準ずる。 
試験区制 土性 1/10陌(反) 当施肥量
番号 地方別 堆肥 魚粕 大豆粕 下肥 硫安 過石 硫加 塩化
1 亀田郡大野村 壌土(沖積) 2269kg
(606貫)
32.8kg
(10貫)
    11.3kg
(3貫)
30.2kg
(8貫)
  11.3kg
(3貫)
2 茅部郡落部村 砂壌(火山性) 3025kg
(800貫)
    22.6kg
(6貫)
11.3kg
(3貫)
 
3 山越郡八雲町 壌土(沖積) 3280kg
(1000貫)
18.9kg
(5貫)
567kg
(150貫)
18.9kg
(5貫)
32.8kg
(10貫)
 

            昭和27年 標準耕種法に準ずる。
  ロ、供試品種  「札幌黄」
  ハ、一区面積及び区制   33平方メートル(10坪) 1区制
 (3) 試験成績
年次 試験区制 土性 酸度
(PH)
播種期
(月日)
茎葉 収穫期
(月日)
収量
番号 地方別 倒伏期
(月日)
枯凋期
(月日)
1/10陌当
(kg)
反当
(貫)
昭和
25年
1 亀田郡大野村 壌土(沖積)   4.30 8.28 9.5 9.5 3019 797
2 茅部郡落部村 砂壌(火山性)   5.7 8中旬 8下旬 189 50
3 山越郡八雲町 壌土(沖積)   4.20 8.20 9.5 1697 448
昭和
27年
1 亀田郡大野村字長瀞 〃( 〃 ) 6.4 4.15   9上旬 9.25 756 200
2 〃  萩野 泥炭土 5.6   9.30 66 17
3 〃  市渡 壌土(クロボク) 5.8 4.19   92 24
4 〃  小川 壌土(火山性) 6.2   261 69
5 亀田郡銭亀沢村 埴壌土(洪)   4.21   9.5 1171 309
  備考 1. 昭和25年茅部郡落部村のものは播種期が遅れ土壌過乾の為発芽悪く欠株を生じ生育も不振であった。
      2. 昭和27年亀田郡大野村の泥炭土のものは除草管理不良の為欠株多く生育不良であった。
      3. 壌土(クロボク)のものは全期を通じ生育が劣り特に稚苗期後半よりの不振であった。壌土(火山性)のものも同様傾向であった。

総括
 玉葱は土壌の種類によって相当生育、収量に差異のあることが認められるがクロボク系の土壌や強酸性の土壌を避けると、地域的に関係なくどの地帯でも栽培可能と考えられる。施肥量は従来の標準施肥量より多く施した方が得策であり、追肥を充分施すことと各要素量共反当3貫匁位を施用する必要がある。播種期は融雪早々事情の許す限り早播することが望ましく4月20日頃迄に播くことが必要と思われる。
 尚反当の栽植本数は増加しても収量に影響なく却って品質が低下するので従来と同じ位か稍〃多目の35000本位が適当である。
 尚又地方委託試験に見る様に除草その他の管理が大きく影響することを考えねばならぬ。