【指導奨励上参考に資すべき事項】

昭和28年に発生せる特に注意すべき病害虫に関する調査成績

病虫部

 

 昭和28年度の初霜、初雪、根雪期は上川、北見地方を中心に早目で冬期間の気温は極めて低く、積雪量は平年より少なかったが、道東寡雪地方に前半稍多かった。春季の天候は一般に寒冷多雨勝で、5月には地域的にかなりの降雪があり、融雪後麦雪腐病の被害がみられ、又晩霜による水稲陸苗代の霜害も広く更に網走地方を中心とするマイマイガの発生が注目をひいた。
 一般に耕鋤は早目で播種も特に支障はみられなかったが低令のため初期の生育は順調を欠いた6月は中旬に稍高目であったが全月的には引き続き低温勝で屡々豪雨があり麦類は倒伏が目立ち水稲はじめ各作物共に生育は遅延し、地域的にイネゾウムシ、麦白渋病等の発生が稍目立った。
 7月に入り気温は依然として低く、上旬台風第4号による暴風雨の後、稲黄斑性萎縮病、麦赤黴病等の発生がみられ、下旬稍高温となって作物は少しく生育を挽回したが、尚10日内外の遅延がみられ、中旬より空知、上川等の稲作地帯を中心に平年より稍おくれて稲熱病の初発、またニカメイチュウによる白穂の散発がみられるようになった。
 8月は全月を通じ石狩、上川及び道東部に一時高温がみられた他低温勝で、上中旬には多雨勝、下旬ようやく日照が稍多くなった。本期間特に下旬の低温は本農期間において最も顕著な異状低温といわれ、生育の遅延勝の水稲特に中晩生種に対する影響が大きく地域的には東半部に著しかった。
 この間稲熱病は8月下旬末より9月にかけて蔓延をみ、特に上川中部並びに来た空知の一部に猖獗したが、ニカメイチュウの被害は累年の防除その他により稍少なく、イネドロオイムシ等の被害が地域的に漸増の傾向がみられた。
 一方畑作においてはトウモロコシ豆類の低温障害がはげしく大豆には大豆クキタマバエの被害が著しく馬鈴薯疫病はおおむね平年並で前年に続いてトマト疫病が多く瓜類等にも病害が多目であった。更に9月上旬を中心にアワヨトウが全道的に発生し、主に水稲を被害したことは注目されることで、カボチャミバエ等本道未記録の害虫も本年度発生が確認された。
要之28年は気温低令にして降雨多く全道的に所謂冷害の様相濃厚にして稲熱病、マイマイガ、アワヨトウ、ダイズクキタマバエ等病害虫の異常発生があり戦後最大の凶年を招来するに至った。いま例年に比し発生多く且つ被害著しく或いは特異な発生をみた病害虫を示すと下記の如くである。

  病害  
    水稲      稲熱病、稲黄斑性萎縮病、稲苗霜害
    麦類      麦赤黴病、麦黒銹病、麦雪腐病
    馬鈴薯     種馬鈴薯凍害
    豆類      豆類菌核病
    蔬菜果樹   トマト疫病
             菜類根瘤病   茄子半身萎凋病(茄子バーチシリウム性萎凋病)、玉葱細菌性腐敗病、瓜類炭疽病、
             胡瓜黒星病、果樹凍害
    その他     甜菜茎腐病赤クロバー菌核病(宗谷地方)、チモシー斑点病(根室地方)
  害虫
    水稲      イネゾウムシ、アワヨトウ、イネカラバエ
    麦類      ムギカラバエ
    豆類      ダイズクキタマバエ、タネバエ
    蔬菜      カボチャミバエ
    その他     マイマイガ、クリタマバチ、ケブカヒメカタゾウムシ
                   △
は本年度発生を確認又は最近発生増大の新記録

病害
 1. 稲熱病
  28年は春季より低令多雨勝の天候が継続したため本病は当初の発生状況は平年より稍おくれ気味であったが7月後半の高温により葉稲熱病が上川地方を中心に広く蔓延し更に8月末から9月上旬にかけて上川中央部数ヶ町村或いは空知南部1.2ヶ町村に激しく蔓延し猖獗を極めた。本病の防除に対しては当初より低温勝の予報下にあったので特にその時期について屡次注意を促したのであるが、地域的に惨害を招いたことは遺憾である。本病の激発を見た地域は従来上作の継続したため中晩生種の作付が増加するとともに、多肥、特に窒素質過用に傾き剰へ春季の霜害がその傾向を増大せしめたがため、冷害的気象及びその変化と本病誘発条件との関連性に於いて該地域に昭和15年に類似した異状発生を招いたものとみられる。
 これらの事実に鑑み今後更に品種の選択に留意し施肥並びに栽培法の合理化に努めると共に本病にかんする諸情報に注意し早期発見に努め防除の適期を把握し以て前年の轍をふまないよう万全を期することが肝要である。

 2. 麦雪腐病
  27年秋は初雪、根雪ともに早く且つ多く薬剤防除の時期を失した地方が少なからずあり、更に早春の降雪等により、本病特に紅色雪腐病の発生が多く、上川南部等ではかなりの被害がみられた。既に本病防除上水銀剤の根雪前撒布は勿論降雪後でも積雪量の多くないときの雪上撒布の効果も確認されている現在今後この点を充分わきまえて防除に当てることが必要である。

 3. 豆類菌核病
  本病は菜豆、大豆を侵し、前年度も稍多目であったが28年は更に増加し、西部では空知の一部、東部では十勝、網走地方を中心に被害地域の増大激化がみられた。本病は連作、湿潤な天候等によって蔓延、増加するが本病に対する薬剤防除法は尚検討を要するも、発病期に撒粉ボルドーを撒布することが有効である。更に輪作に留意し播種に当たっては本病菌菌核の混じないよう精選することが肝要である。

 4. トマト疫病
  本病は前年全道的に多発をみたものであるが28年の被害も前年に増して激しかった。これは低温で生育遅延し、漸く成熟期に入った8月下旬急激に本病の蔓延をみたためで満足な収穫を得なかった地方も少なくなかった。本病は銅製剤ヂネブ剤等によって十分防除できるものであるから、茎葉の繁茂せる嫩果期前後より随時回を重ねて防除することが肝要である。

 5. 菜類根瘤病
  本病は累年分布を拡大し本年度は新たに渡島及び日高地方に於いても発生を確認したので現在桧山、網走、留萌地方を除く道内一円に分布するに至りしかもその被害は累年激化しつつあるがため十字科作物の必需性に鑑み憂慮されている。
 本病の薬剤的防除法については未だ適確なものがなく今後尚検討を要する段階にあるが無病地帯又は無病土による育成苗の栽培、長期輪作等の他消石灰の施与により被害の軽減蔓延の防止に努めるべきである。

 6. 茄子半身萎凋病(茄子バーチシリウム性萎凋病)
  数年前より発生を知られていた本病は逐年分布拡大し、現在既に後志、石狩、空知、上川支庁管内に分布を認めるに至ったが、特に札幌市、琴似町等に於いて蔓延、被害甚だしいものがあり、圃場によっては、6.7割以上の被害株を認め著しい減収を招きつつある。
 本病はバーチシリウム、アルボアトルム菌によって惹起こされるので、現在茄子にのみ被害が認められるが、本菌は元来茄子科植物の多くのものを侵し得るものであるから、他の作物についても充分注意を要する。茄子定植活着後間もなく、発病先ず下葉より漸次上葉が萎凋するが主として茎の判側のみが萎れ、半側は健全状である。これは菌糸が茎の維管束部の一方に多く偏在するためである。防除法は今後検討を要するが、土壌病害であるから、発病土には茄子科植物の作付を2.3年中止し被害株は抜き取り焼却処分に付すべきである。

 7. 玉葱細菌性腐敗病
  古くより玉葱の生育中或いは貯蔵中に1種の腐敗病の発生が認められていたが、最近発生増大し殊に28年には主に札幌市、琴似町で相当の発生被害を認めた。1種の細菌病であるが、病原については現在調査中である。(岐阜県で最近問題となった。玉葱の細菌性腐敗病=心腐病と恐らく同一とみられる。)中心が地際部より軟腐し、鱗茎は主として心部が軟腐してくるものである。1種の土壌病害で今後防除法について検討を要するが、発病甚だしい場所では連作を避け、生育期間中管理に注意し株に傷病を付せざるよう注意することが望ましい。

 8. 甜菜葉腐病
  甜菜の葉片に夏期暗褐色水浸状、不規則な病斑が生じこれが湿潤時急激に拡大して葉面の半側以上に及ぶことが屡々認められ、28年にはこの発生が各地でかなり多かった。病原は甜菜根腐病菌(リゾクトニア、ソラニーニペリクラリア、フィラメントーサ)で、甜菜の葉柄根その他多数植物の根茎等には従来からも普通に発生していたものである。尚本菌は甜菜のみならず、大豆菜豆等の葉にも病斑を生ずることがある。

 

害虫
 9. アワヨトウ
  8月中旬~9月中旬に本道中央部以南の広範な地帯にスポットをなし、主として水稲に本種の被害が認められた。本道に於いては、昭和4年同10年及び14年に多発したことがあるが28年の発生地域と前述の3ヶ年の発生地域とは異なることが多いので、本種の発生と気象との関連性を極めることが困難である。又昭和21年同22年及び25年の局地的多発の3ヶ年をもあわせ考察すると大部分の多発年が第2化期(昭和14年のみは第1化期)の被害であり、登熟中の禾本科(水稲、麦類、粟、黍、トウモロコシ)作物を暴食したために減収が著しかった。
 若齢幼虫は禾本科雑草等を食害するため、更にその食害量がめだたないことにより、処置が遅れ勝ちとなり老熟するに従って加害しながら移動するので更に防除が困難となる。
 水田に於いては被害が主として落水後に現れるので、灌水して石油を反当1升5合~2升程均一に撒布し、幼虫を水面に払い落として斃死せしめるか、パラチオン剤又はDDP粉剤、砒酸鉛粉剤等を反当4kg内外撒布すると防除効果が認められるが、老熟幼虫には効果が減ずるから発生初期における防除が肝要である。

 10. ダイズクキタマバエ
  従来本種の発生地域は局限されていたが、近年次第に分布拡大し従来発生をみとめなかった地方にも昭和25年以降発生を認め、現在殆ど全道に分布するに至り、特に西半部地帯並びに十勝地方に発生が多い状況を示していたが、28年には全道的(特に中央部、道南部)に多発した。
 本種の被害増大がたまたま長葉系統(十勝長葉、北見長葉)の栽培普及と略一致の感があるのは本種に弱いことと何らかの関係があるものの如く思われ、28年の被害は気象的にも発生に好適条件を与えたものの如くである。なお本種の発生被害と気象との関係については今後精査を要するが大豆の生育が遅延するような陰湿な年に発生被害が多い傾向にあるので、このような条件の年には特にその発生に警戒を要する。

 11. マイマイガ
  本種の北海道における近年の大発生は昭和3.13.22年であるが、昭和27年には成虫の大飛来がみられたので28年の多発が予想された。果たして28年には本道9支庁管内に発生し特に網走支庁管内に激発、次いで上川、後志地方の一部にもかなりの発生を見、山林のみならず近接の耕地にも侵入し、種々の農作物に被害を与えたものである。
 本種の防除はBHCγ1.5%或いは3.0%粉剤の撒布が有効であるが圃場近接の採卵を行い、幼虫の移動に注意し明溝堀さくによる遮断焼殺等協同防除による効果が大きい。なお林地に発生せる際の飛行機による薬剤撒布も28年の調査によりその実用性が有望視されている。

 12. カボチャミバエ  Zeugodacus depressus (SHIRAKI)
 本種は東北、関東、中部地方に於いてかなり以前から発生して被害の著しい害虫であったが、北海道でも数年前より本種の被害とおぼしきものが渡島、桧山、後志等の日本海沿岸地域に発生していたが調査の結果ほぼ本種と認められるに至った。被害作物としては本道ではカボチャ、西瓜、甜瓜等であるが、府県では尚ヘチマ、胡瓜、夕顔等も知られている。
 北海道における本種の発生は府県から船舶で瓜類が移入された際にもたらされたものの如く推定される点が存する。今後本種の伝播蔓延の可能性が充分に存するので警戒を要する。本種の生活史に関しては今後尚検討を要し適切な薬剤的防除法が案出されていない現在、本州よりの瓜類移入の際に厳重な注意をなすことと、被害果実の他町村への移出を禁じ被害果に幼虫を認めた場合には土中深く埋めるか熱湯をそそぐ等の処置をなすことが肝要である。

 13. クリタマバチ   Dryocosmus kuriphilus  YASUMATSU
  
近年各府県に於いて栗の樹に発生する本種の被害が激しくなり、驚異をあたえつつあるがたまたま27年秋~28年春、岐阜県より本道に移入された苗木に本種の寄生したものが発見された。道林務部ではこの発生に対して通牒を発し警戒を促しているが、栗樹は農家生活とも関係するから充分注意を要する。一旦本種が発生すると防除は極めて困難であるので、栗苗木接穂等の府県よりの移入については厳戒を要する(これが移入禁止については現在考慮されつつある。)発生をみとめた場合には虫瘤の除去に努め被害苗木、枝等の焼却処分を行うと共にBHC乳剤0.1%液又は粉剤1.0~3.0%を羽化盛期と思われる7月上中旬に撒布し、その回数は少なくとも6月下旬から2~3回行う要がある。