【指導奨励上参考に資すべき事項】

水田土壌に対する心土耕並びに深耕効果確認試験成績

化学部

 

1. 試験施行場所
試験施行場所 担当者及び委託者
大野村字大野町 太田忠治郎 大野村農業協同組合
栗沢町南15線3号 岡崎外雄 栗沢町農業協同組合
沼田町沼田第三区 木谷政信 沼田町農業協同組合
東神楽村十二号北一番 金田英夫 東神楽村農業協同組合
風連町二二線西一号 筒井正雄 風連町農業協同組合

2. 試験設計
   試験区別
    1区  標準肥料普通耕
    2区  標準肥料心土耕
    3区  標準肥料深耕
    4区  標準肥料窒素三割減  普通耕
    5区      〃          心土耕
    6区      〃          深耕
    7区  標準肥料窒素三割増  普通耕
    8区      〃          心土耕
    9区      〃          深耕

  備考
  (1) 普通耕は畜力により3寸乃至4寸に耕起、心土耕及び深耕はトラクターにより6寸5分乃至7寸に耕起を目標とす。
    (実際に於いては心土耕もトラクター耕の為、心土の上層に混入が免れなかった。)
  (2) 供試品種、耕種法、耕深、標準肥料は各試験地毎に示す。

3. 試験地土壌状態
  (1) 土壌概況
   イ. 大野村試験地
     河成沖積土、作土は腐植に富む土壌、心土は砂壌土、で約22cmで砂層に達す。造田後180年経過し鋤床層の発達大で老朽化の傾
     向ある。
   ロ. 栗沢町試験地
     夕張川沖積土。作土、心土共に重粘土で作土の腐植は含程度鋤床層発達している。
   ハ. 沼田町試験地
     沖積土、作土は腐植に富む植壌土、心土は腐植に頗る富む埴土で表層下75cm以下は泥炭土である。
   ニ. 東神楽村試験地
     忠別川沖積土。作土は腐植に富む壌土。心土も壌土で27cm以下は砂土。52cm以下は砂礫層であって作土は老朽化の傾向にある。
   ホ. 風連町試験地
     天塩川沖積土。作土は腐植に富む壌土。心土は埴土で重粘なるも77cm以下は砂土で鋤床層の発達大。多少老朽化の傾向ある。
  (2) 土壌断面
   イ. 大野村試験地

 

   ロ. 栗沢町試験地

 

   ハ. 沼田町試験地

 

   ニ. 東神楽村試験地

 

   ホ. 風連町試験地

 

4. 土壌分析成績(作土と心土の比較)
項目 大野村 栗沢町 沼田町 東神楽村 風連町
作土 心土 作土 心土 作土 心土 作土 心土 作土 心土
水分(%) 2.99 2.49 4.11 3.84 4.34 6.47 3.78 4.19 2.23 4.11
灼熱損失量(%) 5.79 4.76 8.02 6.93 9.04 14.24 8.95 9.62 5.89 8.48
焼土の色 甚褐 稍淡褐 稍淡褐 淡褐 稍淡褐 稍淡褐
PH 5.31 5.66 5.50 6.01 5.68 5.33 5.33 5.68 5.32 5.85
全窒素 0.243 0.195 0.303 0.290 0.209 0.411 0.310 0.310 0.303 0.276
N/5 HCL可溶燐酸(%) 0.023 0.010 0.044 0.023 0.025 0.016 0.059 0.023 0.029 0.006
  〃  加里(%) 0.023 0.023 0.011 0.021 0.013 0.016 0.011 0.018 0.018 0.006
全置換性塩基(瓩当量) 7.25 8.25 12.25 13.75 15.25 13.00 6.75 8.00 5.75 13.25
置換性石灰(%) 0.133 0.157 0.234 0.213 0.240 0.187 0.139 0.165 0.110 0.273
  〃 苦土(%) 0.038 0.043 0.085 0.125 0.140 0.115 0.013 0.028 0.020 0.058
易還元性マンガン100g中mg 0.848 7.623 15.424 9.280 31.094 50.443 0.773 2.880 2.120 14.050
遊離酸化鉄(%) 1.676 3.274 2.983 1.756 2.020 2.046 0.541 1.492 1.307 2.204
膠質粘土 13.58 8.75 43.48 41.18 3.20 16.58 15.15 14.15 17.33 31.15
粘土(土性)(%) 26.60(L) 18.08(SL) 84.45(C) 83.73(C) 42.40(CL) 62.48(C) 28.43(L) 28.25(L) 27.25(L) 62.93(C)

5. 試験成績
  (1) 大野村試験地
     供試品種     水稲  「南栄」
     耕種法       冷床苗栽培  移植期  6月2日
                畦巾 1尺、  株間 6.5寸2本植
     耕深        普通耕  3.5寸  心土耕及深耕7寸
     標準肥料     反当堆肥 220貫   硫安 8.7貫
                過燐酸石灰 10.6貫   塩化加里 3.0貫

   生育並びに収量調査
試験区別 出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期に於ける 反当収量 普通耕に
対する
収量割合
稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本) 総重(貫) 籾重(貫) 藁重(貫)
標準肥料  普通耕 8.13 9.20 71.1 15.9 14.5 227.1 100.2 1125 100
  〃     心土耕 8.18 9.28 87.1 18.1 18.4 268.8 117.0 1415 117
  〃     深耕 8.18 9.28 74.5 19.8 19.0 306.0 125.4 152.7 125
標準肥料窒素三割減 普通耕 8.13 9.20 72.8 15.1 13.6 204.0 88.0 108.0 100
  〃           心土耕 8.18 9.28 80.5 17.3 17.1 268.0 114.0 142.0 130
  〃           深耕 8.18 9.28 94.5 19.8 19.0 218.0 108.0 130.0 123
標準肥料窒素三割増 普通耕 8.13 9.20 87.5 16.2 16.8 251.4 110.4 124.5 100
  〃           心土耕 8.18 9.28 89.0 17.3 19.7 301.8 125.4 148.5 114
  〃           深耕 8.18 9.28 91.7 18.0 22.6 307.8 130.2 153.9 118

論評
 観察に依る作況は心土耕と深耕とは作況大差なく普通耕に比して草丈茎数著しく優り、登熟期に於いては葉色は普通耕淡色なるも前者は濃厚で成熟期は遅延の観あったが、実際の登熟は大差ないようであった。前者は表層21cm、後者は11cmの深さに根の大部分繁茂しなお、前者は根数多く且太きを認めた。
 次に作況並びに収量から見て心土耕及び深耕の効果顕著で1割5分から2割の増収は確実のようで特に窒素三割減の場合は心土耕は普通耕に比し三割の増収を示した。
 然し標準肥料及び窒素三割増の場合は心土耕より深耕の方が効果大なるを示した。

  (2) 栗沢町試験地
     供試品種     水稲  「栄光」
     耕種法       冷床苗栽培  移植期  6月5日
                畦巾 8寸、  株間 7.5寸2本植
     耕深        普通耕 3.5寸  心土耕及深耕6.5寸
     標準肥料     反当 堆肥 300貫   硫安 6貫
                過燐酸石灰 8貫   硫酸加里 3.0貫

   生育並びに収量調査
試験区別 出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期に於ける 反当収量 普通耕に
対する
収量割合
稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本) 総重(貫) 籾重(貫) 藁重(貫)
標準肥料  普通耕 8.15 9.6 70.3 17.2 19 222.5 105.8 111.8 100
  〃     心土耕 8.18 9.10 76.2 17.0 24 295.9 134.5 156.1 127
  〃     深耕 8.18 9.10 78.3 16.3 29 315.4 133.9 176.0 127
標準肥料窒素三割減 普通耕 8.15 9.5 72.1 17.2 23 22935 112.3 115.6 100
  〃           心土耕 8.18 9.8 74.8 17.1 27 304.0 135.5 159.8 121
  〃           深耕 8.18 9.9 81.4 16.6 29 314.3 134.5 173.9 120

論評
 観察による作況は大体大野村試験地と同一傾向を示し根相も大部分の根普通耕は表層15cm、心土耕、深耕は20cmに繁茂し且根は太きを示した。次に作況並びに収量から見て心土耕及び深耕の効果顕著で両者殆ど相等しく普通耕に比して標準肥料の場合は2割7分の増収、窒素三割減の場合は約2割の増収を示した。然し反収に於いては、本年は冷害の影響の為か標準肥料と窒素三割減は大差なきを示した。

  (3) 沼田町試験地
     供試品種     水稲  「農林34号」
     耕種法       冷床苗栽培  移植期  6月1日
                畦巾 1尺、  株間 6寸2本植
     耕深        普通耕 3寸  心土耕及深耕6寸
     標準肥料     反当 堆肥 200貫   硫安 6貫
                過燐酸石灰 8貫   硫酸加里 3.0貫

   生育並びに収量調査
試験区別 出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期に於ける 反当収量 普通耕に
対する
収量割合
稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本) 総重(貫) 籾重(貫) 藁重(貫)
標準肥料  普通耕 8.7 9.29 65.7 14.4 16.8 234.0 123.0 100.5 100
  〃     心土耕 8.8 68.7 15.6 14.4 228.0 123.6 94.5 100
  〃     深耕 8.9 70.3 15.6 21.0 22.80 130.2 90.0 106
標準肥料窒素三割減 普通耕 8.6 61.4 14.9 14.0 210.0 114.0 85.5 100
  〃           心土耕 8.7 62.2 14.8 16.4 198.0 108.0 82.5 95
  〃           深耕 8.8 60.7 14.4 16.0 207.0 114.0 84.0 100
標準肥料窒素三割増 普通耕 8.7 65.7 15.3 21.2 246.0 127.8
  〃           心土耕 8.8 70.2 15.3 21.4 255.0 143.1
  〃           深耕 8.9 66.2 15.9 23.2 264.0 140.4
  備考  標準肥料窒素三割増区は普通耕区は雀害の為収量除外す。

論評
 観察による作況は心土耕、深耕及び普通耕は余り差を認めなかった。次に作況及び収量より見て心土耕及び深耕の効果は余り認められなかった。他試験地に比して効果の顕著でないのは心土の関係とも思われる。

  (4) 東神楽村試験地
     供試品種     水稲  「栄光」
     耕種法       冷床苗栽培  移植期  5月27日
                畦巾 1尺、  株間 5寸3本植
     耕深        普通耕 3.5寸  心土耕及深耕6.5寸
     標準肥料     反当 堆肥 200貫   硫安 8貫
                過燐酸石灰 8貫   硫酸加里 3.0貫

   生育並びに収量調査
試験区別 出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期に於ける 反当収量 普通耕に
対する
収量割合
稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本) 総重(貫) 籾重(貫) 藁重(貫)
標準肥料  普通耕 8.17 9.30 84.5 20.1 146.7 105.0 100
  〃     心土耕 8.19 10.1 88.5 21.7 171.5 107.7 117
  〃     深耕 8.19 10.1 97.4 22.7 165.2 120.0 113
標準肥料窒素三割減 普通耕 8.15 9.28 78.9 18.1 100.1 62.4 100
  〃           心土耕 8.17 10.1 86.5 20.4 152.7 106.8 153
  〃           深耕 8.17 10.1 83.6 17.3 135.3 92.4 135
標準肥料窒素三割増 普通耕 8.17 9.30 84.0 19.5 142.8 105.6 100
  〃           心土耕 8.19 10.1 93.3 19.0 150.0 109.2 105
  〃           深耕 8.19 10.1 83.9 14.5 164.4 96.0 115

論評
 観察に依る作況は心土耕、深耕は普通耕に比して、草丈数共に著しく優り、根相も他試験地と同一で且根色は普通耕の淡色なるに心土耕及び深耕は褐色を呈する特徴を示した。
 次に作況より見ると心土耕及び深耕は一部倒靡を見る程度茎葉の繁茂旺盛で心土耕及び深耕は顕著であるが、本年は冷害を被った為収量に於いては窒素三割減の場合に於いて心土耕の5割3分、深耕の3割5分の大増収を示したが、標準肥料に於いては1割5分内外の増収効果に止まったが本年に於いては更に増産が期待せらるるものと推定される。なお、窒素三割増に於いては心土耕は5分、深耕は1割5分の増収を示した。

  (5) 風連町試験地

     供試品種     水稲  「富国」
     耕種法       直播  播種期  5月14日
                畦巾 1.3尺、  株間 4寸
     耕深        普通耕 4寸  心土耕及深耕8寸
     標準肥料     反当 堆肥 200貫   硫安 7貫
                過燐酸石灰 8貫   硫酸加里 3.0貫

   生育並びに収量調査
試験区別 出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期に於ける 反当収量 普通耕に
対する
収量割合
稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本) 総重(貫) 籾重(貫) 藁重(貫)
標準肥料  普通耕 8.6 10.10 72.6 15.1 17.1 255.0 105.7 145.0 100
  〃     心土耕 8.7 74.1 16.1 16.6 288.8 122.3 160.1 116
  〃     深耕 8.8 75.3 16.0 18.8 310.0 126.7 180.0 120
標準肥料窒素三割減 普通耕 8.5 67.8 15.9 12.9 214.5 98.0 113.6 100
  〃           心土耕 8.6 73.8 16.6 19.1 267.8 116.0 146.6 118
  〃           深耕 8.7 74.7 16.3 18.3 256.5 111.9 137.3 114
標準肥料窒素三割増 普通耕 8.8 74.1 16.4 19.3 277.5 114.5 156.0 100
  〃           心土耕 8.9 74.5 16.1 21.4 307.5 122.5 175.5 107
  〃           深耕 8.11 75.6 15.9 22.0 294.0 108.1 177.0 94

論評
 観察に依る作況は深耕区は整地均等ならざりし為生育不均一であったので中庸の生育部につき生育収量調査を試みた。作況は初期の生育は普通耕優ったが中期及び後期には反対に心土耕及び深耕の方が優るを認めた。根相は他試験地と同一関係であった。次に深耕区の整地不均一、稲熱病の発生特に窒素三割増区に於いて被害稍大なりし等により判定に支障あるも作況初期は普通耕優るを示したが、後期には心土耕及び深耕優り、心土耕及び深耕の効果明白で増収割合は標準肥料に於いては心土耕割六分増、深耕は二割増、窒素三割減に於いては心土耕一割八分増、深耕一割四分増を示した。窒素三割増に於いては稲熱病の被害大で、心土耕、深耕の効果余り認められなかった。

   収量調査一覧表
試験区別 反当精籾収量(貫) 普通耕に対する籾収量割合
大野 栗沢 沼田 東神楽 風連 大野 栗沢 沼田 東神楽 風連
標準肥料  普通耕 100.2 105.8 123.0 146.7 105.7 100 100 100 100 100
  〃     心土耕 117.1 34.5 123.6 171.5 122.3 117 127 100 117 116
  〃     深耕 125.4 133.9 130.2 165.2 126.7 125 127 106 113 120
標準肥料窒素三割減 普通耕 58.0 112.3 114.0 100.1 98.0 100 100 100 100 100
  〃           心土耕 114.0 135.5 108.0 152.7 116.0 130 121 95 153 118
  〃           深耕 108.0 134.5 114.0 135.3 111.9 123 120 100 135 114
標準肥料窒素三割増 普通耕 110.4 127.8 142.8 114.5 100 100 100
  〃           心土耕 125.4 143.1 150.0 122.5 114 105 107
  〃           深耕 130.2 140.4 164.4 108.1 118 115 94

   根相

 

6. 減水量調査
 (1) 東神楽村試験地
試験区別 減水量
(24時間)mm
備考
標準肥料  普通耕 27 自8月5日 8時 晴
至8月6日 8時 天

  〃     心土耕 30
  〃     深耕 36
標準肥料窒素三割減 普通耕 24
  〃           心土耕 27
  〃           深耕 27

 (2) 風連町試験地
試験区別 減水量
(24時間)mm
備考
標準肥料  普通耕 10 8月14日
 小雨のち晴
 降水量27mm
  〃     心土耕 12
  〃     深耕 12

此の降水量の比較は隣接水田の関係上精確な調査は不能であったが、荒代時に於いては、心土耕並びに深耕の場合は用水を著しく多く要した。然し播種、或いは移植後に於いては水持ち等に大差ないようであった。

7. 総合的考察
 (1) 作況
  沼田町試験地の各区の生育に大差なかった他は他の5試験地は多少の差はあったとはいえ、大体に於いて初期の生育に於いては心土耕並びに深耕は普通耕に比して稍劣る傾向を示したが、中期以後は草丈、茎数共に著しく優るを示した。
 出穂期に於いては、大野町に於いて前者、5日遅延した外は1日~3日の遅延であって、次に成熟期に於いては、心土耕並びに深耕は葉色の黄化程度低い為、成熟著しく遅延の観あったが、種実の稔実より見ると余り差はないように思われた。然し数日の遅延を考えた方が安全である。又大野村及び東神楽村の如く軽度なるも老朽化の傾向にある水田に於いては、登熟期の葉色の濃淡に大差を示し、老朽化防止に心土耕、深耕が効果あるものの如く認められた。
 根の生育相に於いては、普通耕は根部の大部分は地表下12cm内外の範囲に繁茂し鋤床層に侵入しているものは僅少であったが心土耕並びに深耕の根部は地表下20cm内外の著しく広い領域を占め、且根数多く肥大している特徴が認められ、之れが効果の最大原因と考えられた。
 (2) 収量
  作況と同様に沼田町の各区間には大差なかった外は、他の5試験地に於いては、心土耕並びに深耕共に、その効果顕著であって、少なくも1割5分位、土壌条件等によっては2割或いはこれ以上の増収が期待されることが確認された。
 (3) 土壌
  各試験地の作土と心土(大部分鋤床層)の主要性状関係を比較するに、心土耕並びに深耕の効果が殆ど認められなかった沼田町が、他の5試験地と反対の傾向を示している。
 即ちその特徴を示せば、次の通りである。
  (ⅰ) 有機物は沼田町のみ心土が腐植に頗る富むが、他は含又は富む程度。
  (ⅱ) 酸性は沼田町のみ作土に比して心土が著しく強いが、他は心土の方が酸度が弱い。
  (ⅲ) 全窒素は沼田町のみ心土の方が多いが、他は作土の方が多い。
  (ⅳ) 置換性塩基、置換性石灰、置換性苦土は、他は心土の方多いに反し、沼田町は作土に多く、而も他に比し最高含量である。唯栗沢町のみは石灰は多少心土少ない。
  (ⅴ) 易還元性マンガンは何れも心土の方が甚だしく多いが、沼田町はその含有量作土、心土共特に多い。
     遊離酸化鉄も大体マンガンと同一傾向である。
  (ⅵ) 有効燐酸及び加里は何れも作土に富む傾向にある。

 上記性状より見て沼田町は排水稍不良の為か養分の溶脱少なく作土は全然老朽化が進行していなく作土は塩基分に著しく富む点も効果の挙がらない一原因と考えられるが、更に攻究を要する。
 次に一般的に心土耕及び深耕の効果の最大の原因は緊密で堅い心土が破壊されて根部の伸長が旺盛となり養分吸収力が増大した為と考えられるがなお作土及び心土の養肥分が均一化された点も関係あると思われる。
 (4) 適用範囲
 本試験成績は1年の成績があるが心土耕並に深耕は5試験地中沼田町以外は著しい効果を示し大体同一傾向を呈し而も冷害年であったので、平年数は高温の年には、更にその効果増大するものと推察して誤りないと信ぜられる。
 次に本試験成績の適当範囲については厳密に考えると、各試験地と同一条件の水田である。なお応用範囲として考えると層土壌地帯であって、作土浅く、鋤床層を形成し、鋤床層に鉄分等の実績認められ、根の伸長鋤床層で大体止まっている様な土壌は効果大と思考せられる。但し排水不良田は避くべきである。なお洪積層水田に於いても、上記の如き条件の土壌であれば効果顕著と思われる。
 なお、火山灰土水田その他に於いても土層断面を精査すれば、之れが可否は決定出来ると考えられる。心土耕並に深耕が危険のある水田としては、冷害常発地帯、心土の砂土、砂礫土、泥炭土或いは排水不良水田等が考えられる。
 (5) 心土耕及深耕の差異並に耕転の深度
  本試験に於けるトラクターによる心土耕は作土に相当心土の混入が免れず、為に深耕に類似の耕転となり、効果に於いて大差ないものと認められた。心土耕並に深耕の深さは、土壌状態、耕転機の種類、耕転後の難易、労力等を勘案して決定すべきものであるが、トラクター耕に依る場合は5寸~7寸、馬耕の場合は従来より1寸なりとも少しでも深く耕起するよう努べきであろう。
 (6) 栽培品種と施肥量
  心土耕並に深耕の場合は、根部の発達良く、養分の吸収力肥瘠によるけれども、晩熟品種は避けて、耐病、耐肥性を選び肥料は窒素質肥料の適用は慎むべきである。
  なお、堆厩肥は必ず併用して地力の維持が肝要である。
 (7) その他
  心土耕並に深耕に於いて、最も懸念せられる水持ちの点については勿論荒代時には、水を多量要するも、代掻により生育期間中の水持ちは普通耕に比して著しく不良となる傾向は認められずむしろ透水性改善せられて、心土に於ける気水の透通佳良となり、又心土の地温の上昇も多少考えられる。
 なお、心土耕並に深耕の実施に当たっては、農機具、改良後の適品種、栽植密度等の問題、更に心土耕、深耕の効果持続年数等については今後の解決点として残っている。