【指導奨励上参考に資すべき事項】

水田の心土耕及び深耕に関する試験成績

渡島支場

 

1. 目的
 従来、水田に於ける心土耕及び深耕の試験成績は少なく、且つ最近トラクターによる水田の耕土改良は各地で行われるようになったので、その効果を確認する基礎調査として本試験を行った。
尚耕鋤の深さを変えることにより施肥の適量も異なってくると考えられるが、特に影響の大きいと思われるN肥料について丈け取り上げ、又耕鋤の効果は二年目迄続くかどうかについて試験を行った。

2. 試験方法
 (1) 耕種法
供用品種 冷床播種期 移植日 その他
新栄 4月28日 6月2日 一般耕種梗概による

 (2) 1区面積及び区制 11.5平方メートル(5坪) 1区制
 (3) 施肥量
     肥料名
区別
魚粕 硫安 過石 硫加 P2O5 K2O
普通肥区 6500 3900 6500 2600 1200 1400 1200
N5割増肥区 6500 6990 6500 2600 1800 1400 1200
N倍量増肥区 6500 10075 6500 2600 2400 1400 1200

 (4) 耕鋤法とその深さ
 スコップを以て、普通耕3寸深耕6寸、心土耕は3寸耕起して心土3寸砕いた。
 (5) 残効
 残効区はN5割増肥を使用し、二年目は普通耕とす。

3. 試験成績
 (1) 生育調査
試験区別 出穂期 成熟期 成熟期に於ける 減水量調査(cm)
(24時間)
27年
(月日)
28年
(月日)
27年
(月日)
28年
(月日)
27年 28年 27年
6.18
28年
6.17
稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本) 稈長(cm) 穂長(cm) 穂数(本)
普通肥 普通耕 8.6 8.15 9.19 9.30 80 16.1 16 68 15.3 12 3.5 3.5
心土耕 9.8 9.21 83 16.2 16 73 15.3 13 3.7 3.5
深耕 81 16.2 16 73 15.3 15 3.2 3.6
N5割増肥 普通耕 8.9 8.15 9.23 10.3 86 16.4 18 72 15.6 16 3.5 3.2
心土耕 10.5 78 16.3 19 75 15.8 16 3.0 3.5
深耕 7.15 91 16.5 19 79 16.0 16 3.6 2.6
N倍量増 普通耕 8.15 10.3 81 15.8 19 2.4
心土耕 8.16 82 15.9 19 2.4
深耕 10.5 96 16.2 21 2.3
残効試験 普通耕 8.11 9.30 65 15.5 13
心土耕 68 16.0 14
深耕 73 16.0 14

 (2) 収量調査
試験区別 27年 28年 27年平均
反当割合
(%)
2坪当 籾摺
歩合(%)
反収
反収
割合(%)
2坪当 籾摺
歩合(%)
反収
反収
割合(%)
総重量
(貫)
稈重量
(貫)
籾重量
(貫)
総重量
(貫)
稈重量
(貫)
籾重量
(貫)
普通肥 普通耕 1683 800 821 82.4 6.3 100 1380 704 640 826.6 5.0 100 100
心土耕 1738 827 875 82.4 6.8 107 1430 728 652 82.6 5.1 102 105
深耕 1736 857 867 81.8 6.7 105 1490 772 672 82.2 5.2 104 105
N5割増肥 普通耕 1853 924 894 82.4 6.9 109 1608 856 590 82.6 5.4 108 108
心土耕 2154 1090 1023 82.4 7.9 125 1720 933 750 82.2 5.8 117 121
深耕 2094 1067 983 82.4 7.6 120 1981 1151 773 82.6 6.0 120 120
N倍量増 普通耕 1945 1020 783 82.4 6.0 122 122
心土耕 2045 1060 845 82.6 6.5 132 132
深耕 2160 1260 961 82.4 6.7 134 134
残効試験 普通耕 1460 870 694 82.4 5.4 108
心土耕 1580 700 786 82.8 6.1 123
深耕 1700 840 807 82.6 6.3 126

 (3) 土壌の状態
  土性は壌土で下層土は砂壌土排水良好である。

 

 心土耕区及び深耕区の土層断面を比較すると普通耕区よりも還元層が深く根の伸長も優れていた。

4. 参考現地試験
 トラクターによる水田心土耕区並に深耕試験成績
  (昭和28年道立農試大野村農業改良相談所委託試験)
 (1) 場所及氏名
  亀田郡大野村字大野町太田忠次郎
 (2) 土壌概況
  沖積層で排水良好の砂壌土造田以来180年経過す。犁底盤あり。
 (3) 試験方法
  イ) 耕種法
供用品種 冷床播種 移植期
南栄 5月1日 6月2日

  ロ) 施肥量
試験区別 肥料成分(貫) 備考
N P2O5 K2O
N3割減 1260 1800 1300 Nは硫安
P2O5は過石
K2Oは塩化
堆肥220貫共通
標準肥料 1800 1800 1300
N3割増 2340 1800 1300

  ハ) 耕鋤法とその深さ
      普通耕   馬で3寸5分耕す
      心土耕   トラクター作土4寸耕す、心土3寸砕く
      深耕     トラクターで7寸耕す

 (4) 成績
試験区別 減水
調査(cm)
(8.17)
出穂期 成熟期 成熟期に於ける区当(10坪)収量 標準
普通耕
100(%)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
穂数
(本)
総重量
(貫)
稈重量
(貫)
籾重量
(貫)
N3割減 普通耕 8.13 9.20 73 15.1 13.6 6800 3600 2933 88
心土耕 8.18 9.28 81 17.3 17.1 8933 4733 3800 114
深耕 95 19.8 19.0 8933 4333 3600 108
標準肥料 普通耕 4.2 8.13 9.20 79 15.9 14.5 7570 3750 3340 100
心土耕 4.7 8.18 9.28 87 18.1 18.4 8970 4720 3900 117
深耕 3.5 95 19.8 19.0 10200 5090 4180 125
N3割増 普通耕 4.4 8.13 9.20 82 16.2 16.8 8380 4150 3680 111
心土耕 3.8 8.18 9.28 89 17.3 19.7 10060 4950 4180 125
深耕 4.4 92 18.0 22.6 10260 5130 4340 130

  生育初期は普通耕が優るも、出穂期以後は普通耕が劣る。
 心土耕と深耕の差は少ないが深耕が幾分優る。出穂及び成熟は5~8日遅延した。収量は心土耕及び深耕が優り、標準肥料及びN3割増では深耕が心土耕より優る。

5. 試験成績の考察
 心土耕及び深耕の効果は気候、土壌の種類、肥料等の差により一様でないが本試験の結果から次のことが認められた。
 (1) 出穂、成熟期の遅れ及び倒伏
   普通肥、N5割増肥区、N倍量区各れも大差なく、この程度の耕鋤、施肥では生育の遅延及び倒伏の懸念はない。
 (2) 洩水
   心土耕及び深耕による洩水は供用した水田については其の心配は全くなかった。
 (3) 収量
   普通肥区のNは控えめであったのでN5割増肥区N倍量区は各れも生育収量共に優れていた。又、心土耕、深耕区共に普通耕区より優
   り、特に深耕区、心土耕区N5割増区及びN倍量区では1割以上の増収を示した。
 (4) 収穫後の土壌
   土壌の断面を見ると還元層の深さが異なり、普通耕では8cm内外であるが心土耕区は10~12cm、深耕区は14~18であった。
 (5) 残効
   千年度心土耕及び深耕を行い本年度普通耕とした場合心土耕区及び深耕区は生育及び収量各れも増収を示し深耕区が優れていた。
 (6) トラクターによる現地試験に於いても同様に心土耕及び深耕が増収を示した。

 以上の結果から心土耕及び深耕の効果は明らかであり心土耕と深耕は大差ないが深耕が幾分優るから普通の場合は深耕のみで良いと思われる。