【指導奨励上参考に資すべき事項】

1.　緒言
　乳牛の合理的な飼養と多汁質飼料の利用は経済的な生産を計る上にも、且又生理的機能を維持するためにも有効なものであるが、Dentcorn, Rutabaga,Mangel　などが充分な生産をあげ得ない場合や、馬鈴薯の生産が豊富な場合には馬鈴薯が乳牛の飼料として利用されることが多い。
　しかるに、生馬鈴薯の大量給与は消化障碍や牛乳生産上悪影響を及ぼすと言われている。即ちPottによれば乳牛への給与量はButterの品質を悪くするので30～35lbs（14～16kg)が適量であると言い、Linchkは10～13kgが適当であると言っている。
　井口等は多量給与によって乳汁は不快な味と臭を帯び、脂肪率は減少するのみならず、Butterは硬く、味が悪く、しかもこの悪影響は生のものに於いて著しいのでその給与適量は15kg程度なりとしている。
　畜試によれば煮熟馬鈴薯20～21kg給与で泌乳量に差がなく脂肪率が稍減少の傾向だとしているが、当場では農家が利用可能な極量即ち乳牛に対する利用限度とその給与適量、又は給与時の注意とその乳質に及ぼす影響などを明らかにすべく本試験を実施したものである。

2.　試験方法
　乳牛8頭を供試し、これを2頭宛4群に分かち、6kg給与群、12kg給与群、18kg給与群、30kg給与群とし、前3群は昭和27年10～12月48日間を、16日宛3期とし、各期初6日間を予備期、後10日間を本試験期とした。更に30kg給与群は昭和28年3月～4月30日間を3期で分かち、同様各期の本試験期間を7日とした。
　第Ⅱ表の如く第1.第3期対照期には乾牧草、Dentcorn Siilage,　根菜類、Beet Pulp,配合飼料、米糠、油粕類を、第2期試験には乾牧草、Beet Pulp、生馬鈴薯、少量の濃厚飼料等をMorrisons feeding standard に準じて給与し、乳質、泌乳量、脂肪量、体重を比較し、更に30kg給与群では之等のほか血清をも分析した。
　脂肪率は　Babcock 法、血清は燐、Ca、cl、Fe、Protein を比色法によって分析した。尚管理は当場の一般管理法に従い、供試飼料の当場分析成績は第Ⅲ表の如くである。

　(1)　供試牛参考事項

群別	供試牛名	生年月日	最近分娩 年月日	種付 年月日	産次	生体重 (kg)	試験前 乳量(kg)
6kg給与群	スノーボール　ビューテー ムロヤ	昭和25.3.27	昭和27.7.27	－	初産	500	13.0
	第2MBダビィドソン フラワー	24.10.13	27.6.18	－	初	468	16.0
12kg給与群	ウォーカーレディー　ダビィドソン	23.10.10	27.7.27	－	2	494	15.0
	ベッシー姫	22.3.4	27.6.22	27.9.27	3	585	13.5
18kg給与群	第2ヒンペルベッシー ポンチャック　ジュラルディン	22.1.4	27.2.16	27.9.9	2	665	16.0
	クィン アンバーピーター ポンチャック	24.9.22	27.7.4	－	初	500	16.5
30kg給与群	第4カネーション　ピーターゼ　コニュー　コピア	17.7.19	27.9.20	－	7	705	19.0
	グレンフォーブス　ピーターゼ　コピア	24.10.10	27.11.11	－	初	612	17.0

　(2)　飼料給与量（日量、kg)

群	供試牛	期	乾牧草	Corn Stover (Ensilage)	Pompkin (蕪青)	Beetpulp	生potato	配合飼料	米糠	亜麻仁粕	大豆 (粕)
6kg給与群	ムロヤ	1	8.0	3.0	10.0	1.0	－	1.234	1.920	－	－
		2	9.0	－	－	1.0	6.0	1.104	2.123	－	－
		3	8.0	2.0	(10.0)	1.0	－	0.710	0.489	0.654	－
	Flower	1	8.0	3.0	10.0	1.0	－	1.548	2.762	－	－
		2	9.0	－	－	1.0	6.0	1.145	2.276	－	－
		3	8.0	2.0	(10.0)	1.0	－	0.381	0.965	0.818	－
12kg給与群	Walker	1	8.0	3.0	10.0	1.0	－	1.405	2.697	－	－
		2	10.0	－	－	1.0	12.0	1.000	0.241	－	0.376
		3	8.0	2.0	(10.0)	1.0	－	0.856	0.916	0.622	－
	Bessie	1	10.0	3.0	10.0	1.0	－	1.473	10.25	－	－
		2	10.0	－	－	1.0	12.0	0.571	1.122	－	0.376
		3	10.0	2.0	(10.0)	1.0	－	1.239	20.65	－	－
18kg給与群	Himpel	1	10.0	5.4	10.0	1.0	－	2.805	1.590	－	－
		2	10.0	－	－	1.0	18.0	0.497	3.519	－	0.200
		3	10.0	4.0	(10.0)	1.0	－	1.984	1.438	－	－
	Pontiac	1	8.0	3.0	10.0	1.0	－	1.545	3.375	－	－
		2	8.0	－	－	1.0	18.0	1.000	0.334	－	0.626
		3	8.0	2.0	(10.0)	1.0	－	0.336	1.643	0.917	－
30kg給与群	Carnation	1	10.0	(20.0)	(15.0)	2.0	－	2.917	1.370	－	－
		2	8.0	－	－	－	30.0	－	－	1.274	(1.356)
		3	12.0	－	(20.0)	3.0	－	1.451	2.644	－	－
	Glen	1	10.0	(20.0)	(15.0)	1.0	－	2.523	0.792	－	－
		2	7.5	－	－	－	30.0	－	－	0.392	(1.518)
		3	12.0	－	(20.0)	3.0	－	0.755	1.692	－	(0.300)

　(3)　飼料の組成分及び可消化養分量

飼料名	水分 (%)	乾物質 (%)	粗蛋白質 (%)	粗脂肪 (%)	可溶無窒素物 N-F-E(%)	粗繊維 (%)	粗灰分 (%)	可消化粗蛋白質 d.c.p(%)	可消化養分総量 T.D.N(%)
乾牧草	13.59	86.41	8.32	2.58	40.04	30.71	4.76	4.49	40.38
Corn Stover	41.00	59.00	3.90	1.00	30.20	20.10	3.80	1.40	33.90
Dentcorn Silage	80.94	19.06	1.26	0.76	9.88	5.70	1.26	0.71	9.34
Pompkin	93.78	6.22	0.65	0.63	3.57	0.86	0.51	0.50	5.51
Beet pulp	14.02	85.98	9.48	0.86	54.94	16.95	3.75	5.69	68.45
Rice bran	17.18	83.18	14.78	18.92	29.62	9.74	9.76	8.87	67.70
Soybeen	11.00	89.00	38.20	16.70	25.20	4.30	4.60	33.30	82.20
Soybeen oilcake	17.62	82.38	40.89	8.47	23.38	5.21	4.49	34.76	76.27
Linseed meal	14.06	85.94	30.76	10.98	31.46	6.14	6.60	25.84	78.43
Potatoe	77.80	22.20	1.70	1.70	16.60	1.00	0.90	1.10	17.70
瑞典蕪青	86.28	13.72	1.04	0.23	7.85	1.73	0.87	0.75	11.72
配合飼料	15.88	84.12	20.94	7.55	39.62	7.65	8.36	15.99	67.66

3.　試験経過の概要
　6kg、12kg、18kg給与群は何れも食欲健康共に良好に経過したが30kg給与群は試験期に至り、2頭共胃腸障碍を起こし一時的に泌乳量の減少を見、1頭はAlcohal test も強陽性となり、他は給与後2日目より弱陽性となって試験期間中継続した。
　更に体重も極度に減少したが、第3期には体重も回復し、乳汁のAlcohal test は陰性となった。

4.　試験結果及び考察
　(1)　泌乳量及び脂肪量

群	牛名	区分	単位	第Ⅰ期	第Ⅱ期	第Ⅲ期	.予想第Ⅱ期	増減量	増減率(%)
6kg給与群	ムロヤ	泌乳量	kg	130.6	128.4	124.5	127.4	+0.8	+0.63
		脂肪量	kg	4.571	4.301	4.295	4.433	+0.132	-2.97
		脂肪率	%	3.50	3.35	3.45	3.48	-0.13
	Flower	泌乳量	kg	136.5	130.2	121.3	128.9	+1.3	+1.01
		脂肪量	kg	4.614	4.297	4.185	4399	-0.103	-2.33
		脂肪率	%	3.38	3.30	3.45	3.42	-0.12
	合計	泌乳量	kg	267.1	258.6	245.8	256.5	+2.1	+6.82
		脂肪量	kg	9.185	8.598	8.480	8.833	-0.235	-2.65
		脂肪率	%	3.44	3.325	3.45	3.45	-0.125	-3.62
12kg給与群	Walker	泌乳量	kg	139.5	130.6	132.6	136.1	-5.5	-4.04
		脂肪量	kg	4.855	4.506	4.707	4.780	-0.274	-5.74
		脂肪率	%	3.48	3.40	3.58	3.52	-0.07
	Bessie	泌乳量	kg	133.1	124.7	119.3	126.2	-1.5	-1.19
		脂肪量	kg	4.658	4.302	4.355	4.507	-0.205	-4.53
		脂肪率	%	3.50	3.45	3.65	3.58	-0.13
	合計	泌乳量	kg	272.6	255.3	251.9	262.3	-7.0	-2.67
		脂肪量	kg	9.513	8.808	9.062	9.287	-0.479	-5.15
		脂肪率	%	3.49	3.45	3.60	3.55	-0.10	-2.82
18kg給与群	Himpel	泌乳量	kg	154.0	155.1	153.8	154.2	+0.9	+0.58
		脂肪量	kg	5.129	4.576	5.076	5.102	-0.527	-10.33
		脂肪率	%	3.32	2.95	3.30	3.31	-0.36
	Pontiac	泌乳量	kg	155.4	154.0	154.2	154.8	-0.8	-0.52
		脂肪量	kg	5.361	4.851	5.166	5.264	-0.413	-7.84
		脂肪率	%	3.45	3.15	3.35	3.40	-0.25
	合計	泌乳量	kg	309.9	309.1	308.0	309.0	+0.1	+0.03
		脂肪量	kg	10.491	9.427	10.241	10.366	-0.939	-9.06
		脂肪率	%	3.385	3.05	3.325	3.355	-0.305	-9.19
30kg給与群	Carnation	泌乳量	kg	120.658	119.070	117.709	119.183	-0.113	-0.95
		脂肪量	kg	4.826	4.429	4.591	4.709	-0.280	-5.95
		脂肪率	%	4.00	3.72	3.90	3.95	-0.23
	Glen	泌乳量	kg	124.513	113.854	119.977	122.245	-8.391	-6.86
		脂肪量	kg	5.018	4.213	4.775	4.897	-0.684	-13.97
		脂肪率	%	4.03	3.70	3.98	4.01	-0.31
	合計	泌乳量	kg	245.171	232.924	237.186	241.428	-8.504	-3.52
		脂肪量	kg	9.844	8.642	9.366	9.606	-0.964	-10.4
		脂肪率	%	4.015	3.710	3.94	3.98	-0.27	-6.78

　試験期中の生産量は第Ⅳ表の如くであるが6kg給与群にては泌乳量0.82%増量し、脂肪量は2.65%減量した。
　12kg給与群では泌乳量2.67%脂肪量5.15%減量した。
　18kg給与群では泌乳量0.03%増量し、脂肪量は9.07%減量した。
　30kg給与群では泌乳量3.52%脂肪量10.04%減少した。
　これによると泌乳量では各群共対照期と余り差はないが、18kg以上の給与では脂肪量の減少が顕著であった。

　(2)　生体重の変化

群 　　牛名 期別	6kg給与群(kg)		12kg給与群(kg)		18kg給与群(kg)		30kg給与群(kg)
	Muraya	Flower	Walker	Bessie	Himpel	Pontiac	Carnation	Glen
第1期	482.0	470.0	482.0	567.0	660.0	495.0	712.5	617.0
第2期	470.0	452.0	475.0	555.0	659.0	479.0	685.7	578.0
第3期	470.0	459.0	471.0	563.0	664.0	480.0	717.7	619.0
試験前	480.0	468.0	484.0	565.0	665.0	487.0	705.0	612.0

　生体重の変化は上表の如く、馬鈴薯給与の多量のものは体重減少が顕著であるが、少量のものは変化が少ない。
　6kg～18kg給与群では著しい健康障碍は認められないが、30kg給与群では著しい消化障碍と共に体重の顕著な減少により給与量の不適な事が認められた。

　(3)　乳質に及ぼす影響

群別	期 　　　　　区分 供試牛	第Ⅰ期			第Ⅱ期			第Ⅲ期
		Alc.test	滴定酸度	PH	Alc.test	滴定酸度	PH	Alc.test	滴定酸度	PH
6kg	Muroya	－	0.168	6.51	－	0.166	6.56	－	0.180	6.54
	Flower	－	0.155	6.72	－	0.165	6.42	－	0.160	6.64
12kg	Walker	－	0.174	6.40	－	0.173	6.38	－	0.191	6.42
	Bessie	－	0.165	6.56	－	0.183	6.50	－	0.175	6.70
18kg	Himpel	－	0.162	6.60	－	0.170	6.64	－	0.170	6.70
	Pontiac	－	0.176	6.64	－	0.173	6.51	－	0.186	6.68
30kg	Carnation	－	0.182	6.59	＋	0.194	6.53	－	0.186	6.58
	Glen	－	0.189	6.59	＋	0.193	6.55	－	0.193	6.55

群別	期 牛名	第Ⅰ期			第Ⅱ期			第Ⅲ期
		Total Prot (%)	Casein (%)	固形分 (%)	Total Prot (%)	Casein (%)	固形分 (%)	Total Prot (%)	Casein (%)	固形分 (%)
18kg	Himpel	31.3	2.51	10.186	3.01	2.54	10.869	3.08	2.50	11.171
	Pontiac	3.32	2.49	10.337	3.42	2.53	11.344	3.34	2.65	11.816

　上表の如く　Alcohol test 、滴定酸度、PHを、又一部では固形分並に蛋白質成分を測定したが、6～18kg給与群はAlcohol test　陰性であり、30kg給与群では陽性であった。
　PHでは各期間は大差ないが、大量給与の場合には幾分酸度が強い様である。
　固形分でも大差なく、全蛋白質並びに Casein の含有量にも大差が認められないので乳製品原料として支障ないものと思われる。

　(4)　血清中の無機成分並びに蛋白質（30kg給与群）

期 　　　　　牛名 成分	第Ⅰ期		第Ⅱ期		第Ⅲ期
	Carnation	Glen	Carnation	Glen	Carnation	Glen
無機燐	4.90	5.40	3.80	4.10	5.85	5.40
リポイド燐	8.7	9.0	5.3	4.5	6.0	6.6
総燐	24.0	26.5	24.0	23.5	26.5	25.0
Ca	13.40	12.50	11.10	11.10	13.50	12.50
Cl	319	309	319	319	330	319
Fe	37.20	37.20	33.50	36.50	34.20	34.20
Total protein	8.00	7.70	8.35	8.35	8.10	7.90
Albumin	4.10	3.70	3.40	3.40	3.75	3.50
Globulin	3.90	4.00	4.95	4.95	4.35	4.40
α　globurlin	0.90	0.90	1.50	1.50	1.35	1.80
β　globurlin	1.85	2.05	1.93	1.75	0.90	1.30
γ　globurlin	1.15	1.05	1.70	1.70	1.50	1.30
Alb/Glob	1.05	0.92	0.70	0.70	0.86	0.80
Ca/p	2.14	2.32	2.93	2.72	2.31	2.32

　血清成分の分析は30kg給与群のみ実施したが上表の如く顕著な差異を示したのは無機燐の減少と Albumin の減少である。即ち馬鈴薯の如き澱粉質の代謝に又多汁質飼料の大量給与時には乳汁生産に必要なため、燐酸分の不足を来すので、燐酸の補給を考慮せねばならない。
　又　Albumin の顕著な減少即ちAlb/Glob の1以下とα　globurlin の増量は食餌性に不足のないことから肝機能に悪影響を及ぼす傾向のあることを示している。
　尚 Ca/p は稍　Anbarance である。その他　cl、Fe 各量には著しい差は認められない。
　以上総括すると、燐酸並蛋白質の補給が重要であるがこの燐酸塩並びに蛋白質の不足が乳汁の緩衝作用を弱め、胃腸障碍と共に乳質を悪変するのであろう。従って馬鈴薯の大量給与は避けねばならぬと共に給与時には濃厚飼料の併用を考慮せねばならぬことは勿論である。

5.　要約
　1）　生馬鈴薯の6kg、12kg、18kg、30kg給与群の泌乳成績によると泌乳量では大差なく、脂肪量では2.65%～10.04%と順次顕著な減量を示し、18kg以上の給与では略10%の減量を示した。
　2）　乳質に及ぼす影響では6～18kgまでは悪影響は認められないが30kg給与では乳質を悪変する。
　3）　この乳質の悪変は胃腸障害と共に燐酸塩、蛋白質などの減少にあると思われる。
　　　従って馬鈴薯の大量給与は避けねばならぬ。
　4）　以上によって生馬鈴薯の乳牛への利用は18kg程度までが利用限度であり、給与適量は15kg程度であろう。この場合濃厚飼料を併用せねばならない。