【指導奨励上参考に資すべき事項】

根菜茎葉(Beet 及 Rutabaga leaves a top)に関する試験成績の利用

根室支場

 

1. 目的
 根室管内にあってはBeetは安全作物の一つとして一般に奨励されているが近年特にその作付が増加の傾向を辿っている。為にBeet topの飼料化が畜産と密接な関係を有し重要になってくるのである。しかも丁度この生産が夏季青草飼養から冬季飼養までの期間にあたるので、多汁飼料として賞用されているが、その給与量は一定しておらず飽食させているものが多い。しかるに Beet topの大量給与は消化障碍又はその他の生理機能障害を起こすと言われ、更にBeet top給与時に乳牛の産褥性血色素尿症の発生が多い事実を見ているのでこれらの関係をも明らかにし、その給与適量を確かめんとして本試験を実施したものである。

2. 試験方法
 (1) Beet top の一般組成分並蓚酸含量
  Beet top の消化障害は含有する蓚酸分の多いのによるのではないかとの説により蓚酸量を3%Hcl10倍量で逆流冷却器を附して煮沸抽出、濾液をNaOH,醋酸で処理し、少量のNH4clと共に過剰のCacl2を加え、蓚酸カルシュウム沈殿として定量し、一般成分は定法に従った。(尚、蓚酸抽出時に炭酸カルシュウムを0.02、0.05、0.1、0.2、0.5%の割に添加してその蓚酸量を定量した)
 (2) Beet topによる飼養試験
  Beet topの泌乳効果とその乳質、血液に影響を確かめる為、自昭和28年10月1日至昭和28年12月26日87日間を3期に分かち各期共9日間を予備期、20日間を本試験期として成績を検討した。
 飼料給与は Morrisons feeding standard に準じて給与し、試験期には50kg給与と30kg給与の2群とし、その各々に炭酸石灰無給与と給与の2つに分けた。しかし無給与群にあっても配合飼料中には1%程度炭酸石灰が添加されている。従って全濃厚飼料の0.1%添加となっている。
 一般管理は当場の慣例に従い、泌乳量並びに脂肪率、生体重を測定した。
 (3) 乳質に及ぼす影響
  乳質検定は充分ではなかったが対照期、試験期に分けて採取し各々4回の成績の平均で比較した。主に蓚酸と石灰量との関係を確かめるため石灰量を測定したが、其の他燐酸、乳酸酸度、全固形分、Alcohol test などで、その大要をを判定した。
 (4) 血清中の変化
  血清測定は対象期試験期に各2回採血し、その変化から燐酸とCaの関係を確かめようとして実施したものである。
  尚特殊疾病との関係をも見るため一般血液検査も実施した。

3. 試験成績並びに考察
 (1) Beet top(又は Rutabaga top)の組成分について
飼料名 水分
(%)
粗蛋白
(%)
純蛋白
(%)
粗脂肪
(%)
N.F.K
(%).
粗繊維
(%)
粗灰分
(%)
蓚酸量
(%)
Beet leaf a top 90.26 1.1 1.01 0.24 6.44 1.01 0.87 0.34
Rutabaga leaf a top 85.41 1.28 0.98 1.14 10.07 1.1 0.99 0.37

 本供試試料はtop少なく殆どleaf部なるを以て水分過剰であって他の諸成分の含量は少ない。即ちBeet topはKellnerは水分77%としているが、Hanson は84%とし、Tangulは79.64%とし伊藤は新鮮物85.88%なりとしているが、本試料では90.26%であった。
 しかし同じく新鮮物で Rutabaga leaf は85.41%で大部少なかった。従って他の成分もBeet topより良好であった。
 尚表出しなかったがtop a leafに炭酸石灰を混合して蓚酸を定量したら0.02%添加の区より既に蓚酸量殆どなくtopの蓚酸の害を防止する意味なら0.02%程度でも充分ではなかろうか、しかし生体内では100%の利用率ではないから0.1%程度でよいのではなかろうか。

 (2) Beet topによる飼養試験
  イ) 供試牛参考事項
  種類 生年月日 最近分娩月日 産次 種付年月日 生体重(kg)
ベッシー姫 ホ系種 昭和22.3.4 28.611 3 28.9.30 583
第4カーネーションコルヌコピア ホ種 17.7.19 27.9.10 8 28.7.10 710
ウォーカーレディダビッドソン ホ種 23.1010 27.7.27 2 28.5.10 498
エムビーダヴィドソンフラワー ホ種 22.7.14 27.5.5 3 584

  ロ) 飼料成分表
飼料名 水分(%) 乾物質(%) 粗蛋白(%) 粗脂肪(%) N-F-E(%) 粗繊維(%) 粗灰分(%) D.C.P(%) T.D.N(%)
乾牧草 15.81 84.15 8.41 2.76 45.94 22.02 5.02 4.22 36.45
Beet pulp 14.02 85.98 9.48 0.86 54.74 16.45 0.75 5.69 67.45
Rutabaga top leaf 85.41 14.59 1.28 1.14 10.07 1.11 0.99 1.07 7.55
燕麦 14.72 85.28 13.58 5.08 57.16 6.78 2.69 11.13 72.83
米糠 17.18 83.18 14.78 18.92 29.62 9.74 9.76 8.87 67.70
15.04 84.96 15.51 4.38 54.02 6.50 4.49 11.63 65.97
配合飼料 14.76 85.24 14.57 3.39 51.23 7.81 8.24 10.93 64.08
玉蜀黍 15.50 84.50 11.20 5.92 64.98 0.89 1.51 8.40 82.57
大豆粕 17.62 82.38 40.89 8.47 23.38 5.21 4.43 34.76 76.27
コプラミール 14.83 85.17 20.34 8.68 36.26 14.04 5.85 15.26 72.77
亜麻仁粕 14.06 85.94 30.76 10.98 31.46 6.14 6.60 25.84 78.43

  ハ) 飼料給与量(日量)

供試牛名 乾草
(kg)
Beet pulp
(kg)
Rutabaga top
(kg)
燕麦
(g)
米糠
(g)

(g)
配合飼料
(g)
玉蜀黍
(g)
大豆粕
(g)
コプラミール
(g)
亜麻仁粕
(g)
第1期 Bessie 10 2.5 750 1000 625 625 2265 36 665
Carnation 10 3.0 500 1000 250 250 2458 58 55
Walker 10 1.5 500 500 250 250 2190 13 138
Flower 10 2.5 300 550 175 175 1875 42 255
第2期 Bessie 5 50.0 100 100 100 518 250 250
Carnation 5 50.0 100 50 100 233 43 246 350 350
Walker 7 30.0 200 200 200 258 108 216
Flower 7 30.0 500 500 500 555 415 215
第3期 Bessie 10 4.0 650 650 650 650 548 647
Carnation 10 4.0 550 550 200 240 827 76
Walker 10 4.0 250 250 250 250 243 161 331
Flower 10 4.0 300 300 300 300 248 387
  備考1  尚飼料の摂取栄養分量は次の如くである。
     第1期   Bessie dcp 1186 TDN 9725    Carnation dcp 1049 TDN 9273
           Walker dcp 873 TDN 7563    Flower dcp 896 TDN 7875
     第2期   Bessie dcp 1026 TDN 8503    Carnation dcp 947 TDN 8624
           Walker dcp 745 TDN 6797    Flower dcp 894 TDN 7878
     第3期   Bessie dcp 1068 TDN 9006    Carnation dcp 716 TDN 8378
           Walker dcp 816 TDN 7232    Flower dcp 855 TDN 7643

  ニ) 泌乳量及脂肪量
群別 供試牛名 区分 単位 第1期 第2期 第3期 .第1第3
平均
同上
増減量
同上
増減率(%)
50kg給与群 石灰
無給与
Bessie 泌乳量 kg 353.581 286.902 296.654 325.095 -38.193 -11.72
脂肪量 kg 12.198 9.181 10.383 11.268 -2.087 -18.52
脂肪率 % 3.45 3.20 3.50 3.475 -0.275  
石灰
給与
Carnation 泌乳量 kg 231.109 194.368 102.060 166.585 +27.783 +15.86
脂肪量 kg 8.435 7.308 3.878 6.157 +1.152 +17.96
脂肪率 % 3.65 3.76 3.80 3.725 +0.035  
30kg給与群 石灰
無給与
Walker 泌乳量 kg 225.893 237.006 207.522 216.707 +20.299 +9.36
脂肪量 kg 9.036 9.788 8.197 8.616 +1.172 +13.60
脂肪率 % 4.00 4.13 3.95 3.975 +0.155  
石灰
給与
Flower 泌乳量 kg 180.986 162.616 140.389 160.689 +1.927 +1.19
脂肪量 kg 5.339 4.814 4.212 4.776 +0.038 +0.008
脂肪率 % 2.95 2.96 3.00 2.975 -0.015  
平均 泌乳量 kg 247.983 220.314 186.656 217.320 +2.994 +1.38
脂肪量 kg 8.750 7.772 6.667 7.710 +0.062 +0.81
脂肪率 % 3.53 3.52 3.57 3.55 -0.03  
  備考1  50kg給与群平均の予想第2期に対する増減率は泌乳量-2.17%、脂肪量-5.49%である。
     2  30kg給与群平均の予想第2期に対する増減率は泌乳量+5.94%、脂肪量+9.03%である。

  ホ) 生体重の変化
供試牛名 試験前
(kg)
第1期
(kg)
第2期
(kg)
第3期
(kg)
Bessie 585 586 572 585.5
Carnation 710 729 720 707.5
Walker 498 546.5 540 544
Flower 584 582 582.5 581

 第3表に示せる飼料給与によって試験期間中に生産された乳量及び脂肪量は第4表の成績の如くであるが、第2期のtop給与の生産に及ぼした影響を調べるため第1第3期の平均生産量と比較すると泌乳量は50kg給与群では2頭平均で泌乳量-2.17%、脂肪量-5.49%でその泌乳効果は低下する様である。しかし2頭共その増減量が著しいので飼料でない他の原因があるのではないか。又30kg給与群では2頭共泌乳量脂肪量とも増量し、平均泌乳量+5.94%脂肪量+9.03%であった。これで見ると幾分泌乳量脂肪量共増量の傾向であるが4頭平均すると泌乳量+1.38%脂肪量+0.81%で殆どその泌乳効果には差異がない様である。
 この期間中の生体重の変化を見ると幾分減少のものもあるが、殆ど差異がないことから泌乳による体肉消耗はみられない様である。
 Boldtによると red clover 給与時より脂肪率を高くすると言い樺太中央試験所の結果では dentcorn silage に比し泌乳量は減少するが、脂肪率を高め、脂肪量は5%以上高めると言っているが、本試験でも1頭の減少が著しくなければ却って脂肪率を高めるのではあるまいか。即ちBessieの泌乳量の大量低下は体重の減少が他に比し著しいことからも肉眼的に観察し得なかったが胃腸障害を起こしていたと考えると理解し易い。
 尚 Miiller W. は500kgの乳牛が1日75kg給与し、よって著しい下痢を起こしたと言っているが、これに日量30g宛燐酸石灰を給与した処下痢が止まったと言っているが、Bessieは石灰無給与のため乳量減少し、Carnationは濃厚飼料と石灰の給与による燐酸石灰の作用で整腸的に働いたのであろう。
 従ってtopの50kg給与は適当でないと思われる。

 (3) 乳質に及ぼす影響
     期別
   牛名
成分
対照期 試験期
Bessie Carnation Walker Flower Bessie Carnation Walker Flower
Alc.test
乳酸酸度 0.180 0.156 0.190 0.180 0.183 0.170 0.181 0.180
全固形分 11.97 12.84 11.90 12.88 11.99 12.78 11.96 12.99
無機燐 47.2 50.8 45.2 44.0 49.4 51.5 48.9 47.3
カルシュウム 103.2 103.4 104.4 101.2 101.5 104.8 102.3 114.2

    尚試験期間中の無機燐及びCaの変化は次の通り
  無機燐(mg) Ca(mg)
Bessie 51.8 48.4 48.0 99.6 104.0 101.0
Carnation 55.0 51.0 49.0 107.6 107.2 99.8
Walker 52.0 51.6 43.2 101.8 102.4 102.6
Flower 52.0 47.2 42.6 116.4 118.8 107.6

 上表に掲出せる如く飼料の乳質に及ぼせる影響を見ると alcohol test では変化なく乳酸酸度でも殆ど差異が認められない。
 しかし試験期間中に於ける変化では後半徐々に上昇する傾向を示した。全固形分では対照期試験期を通じ殆ど差異を認めなかった。無機燐の含量は対照期に比して平均すると幾分増量する様であるが、試験期間中の推移を見ると後期になるに従い減少する様である。CaはBeet topの50kg給与30kg給与の別では差は分からないが、炭酸Ca100g給与のCarnation、Flowerは試験期に乳汁中のCaが増量し、無給与群では低下している様である。しかしこれも著しい差ではない。
 尚試験期間中の推移も定型的な変化無く差異は認められないようである。
 Carnationは乳汁中の石灰含有量は血液中の石灰含有量の増減に関係はないと言っているが、Caは元来恒常性のあるものであるから、大なる変化は認め得ないが、或る程度傾向として認められるだろう。

 (4) 血清中の変化
        期別
      牛名
成分
対照期 試験期
Bessie Carnation Walker Flower Bessie Carnation Walker Flower
無機燐 4.33 4.95 4.90 6.15 4.20 5.10 4.95 5.80
Lipoid燐 10.8 9.3 7.6 10.31 5.0 5.4 3.3 3.9
総燐 24.2 23.7 23.7 23.3 24.0 20.0 18.5 23.0
Ca 11.30 12.30 12.30 10.20 11.60 11.80 11.60 13.00
Cl 282 301 282 289 229 289 250 223
Total prot 7.80 7.80 7.15 6.95 7.20 7.10 7.10 6.90
Albumin 3.90 3.80 3.65 3.70 4.15 3.75 4.40 3.90
Globulin 3.90 4.00 3.50 3.25 3.05 3.35 2.70 3.00
Alb/Glo 1.00 0.95 1.05 1.13 1.36 1.12 1.63 1.18
赤血球数 567 545 516 583 438 567 338 484
白血球数 5600 7700 5800 7700 6700 5500 5600 6700
血色素量(%) 70 80 70 75 58 80 50 73
血沈速度 22.5 24.5 25.5 18.0 23.75 18.75 24.5 21.25
Gross反応 2.32 2.10 2.59 2.17 1.56 1.27 1.55 1.26
赤血球抵抗 最小 0.675 0.625 0.675 0.650 0.700 0.675 0.700 0.700
  〃     最大 0.41 0.40 0.41 0.40 0.375 0.40 0.40 0.40

 上記の成績を対照期と試験期を比較検討すると試験期には無機燐は顕著な差異は認められないが、Lipoid燐、総燐では減少の傾向が認められる。無機燐、有機燐は互いに代償し合うので無機燐の減少は認められないであろう。しかしLipoid燐の減少は赤血球のCell Menbranの構成と関係あるので一応問題となる。
 Caは炭酸石灰給与の如何によって血液中の変化は定型的でないが凡その傾向ではその血液中の含量からtop給与が50kgの場合は100g位給与せねばならないが30kg程度なればそれ程必要がない。即ちtopの0.1%位の添加で宜しいのではないか。Clは幾分減少の傾向があるが大差ない。
 蛋白質はその含量が試験期に減少する様である。これは幾分水血症気味になるからと思われるがAlbumin/globulin は変化せず機能障害はあまり見られない様である。併しGross反応によると幾分肝臓機能の低下の傾向があらわれる様である。尚血液検査によると白血球数は顕著な差異は認められないが赤血球数は試験期に極度に減少する様である。 又その減少量は炭酸石灰無給与のBessie、Walkerに著しい。
 この傾向は血色素量を見ると尚明瞭で炭酸石灰給与のものは殆ど差異がないに拘わらず、無給与のものは70%から50~58%へとHb量が正常値から17~30%も減少している。これは明らかにtop給与が貧血性に作用するものであることが認められ、Caの給与はこれを防止していることが考えられ、濃厚飼料の給与と共に燐酸石灰によって生理機能が維持されているものと思われる。血沈速度は余り差がなかった。Gross反応は幾分陽性に出て、肝機能障碍の傾向が認められるが軽度だろう。
 赤血球抵抗はNacl水濃度で表すと対照に比して試験期はその抵抗域が広くなり、溶血性に傾く事が認められ、この傾向はtop給与を中止するとすぐ回復する様である。従ってこれら多汁飼料の給与は溶血性並びに貧血性になり易いものである事が解る。

4. 要約
 (1) 4頭の乳牛を供試して、2頭宛50kg給与群、30kg給与群の2群とし、各群共1頭はCa給与、他は無給与とし Morisons feeding standard に
  準じ、飼養試験を実施した。
 (2) 泌乳量脂肪量の生産では50kg給与群では共に減少しており、30kg給与では共に増量しているが、4頭平均では殆ど差異がない様であ
  る。 しかし50kg給与の石灰無給与の牛が泌乳量、泌脂量の減少が著しいが、生理的障碍のためであろう。
 (3) 乳汁中の無機燐は試験期間中、徐々に減少の傾向であった。Caは微かではあるが炭酸石灰の給与によって乳汁中に増量し、無給によ
  って減量する。
 (4) 試験期にはLipoid燐が明に減少する。Caの変化は明でないが石灰給与は必要と認められる。蛋白質は幾分減少の傾向を有しその補給
  も重要である。血液中の赤血球数Hb量は炭酸石灰無給与のものの減少が著しく、貧血し易い飼料である。
  Gross反応も陽性になる傾向があり、赤血球抵抗は試験期に溶血性に傾くようである。
 (5) 以上の成績によって泌乳成績、健康上などから給与適量は30kg前後と認められる。しかしその際溶血性、貧血性に作用するので必ず
  燐酸石灰(濃厚飼料及び石灰)を添加しなければならぬ。
  尚topに対し、0.1~0.2%程度の炭酸石灰添加をすればよい。