【指導奨励上参考に資すべき事項】

草サイレージの製造理論とその技術に関する研究

畜産部牧野研究室

 

1. 緒言
 (1) 諸外国における草サイレージの研究の動向
 現在酪農の発達している米国或いは北欧諸国では、草を基盤としたくさによる土壌の保全、又は地力の増進などから安定した農業経営を確立するのに努力しているが、同時にどのように良い牧草を導入し安価で良質なものを家畜に与えるかという問題についても非常な苦心が払われている。
 営農上、飼料の集約利用並びに年間を通じての飼料需給を容易ならしめるために、サイレージを利用することが最も有効な手段の一つである。普通草類の利用法としては放牧による生草採食又は青刈、乾草及びサイレージの3種であるが前2者については利用が最も普及し、その研究も進んでいる。しかし草サイレージについては、その利用度も低く、研究にも乏しいのが我が国の現況である。
 特に北海道における気象事情は乾草調製上有利であるとは考えられず、良好な乾草を選るのに多くの困難を伴うことが多い(28年度試験参考事項、乾草調製技術の改善に関する研究参照)。
 一般に乾草はサイレージに比して養分の損失が多いが、その一つであるカロチンの消長について見ると、生草中の含量に比しての損失割合はサイレージ66%、舎内調製乾草88%、普通乾草97%に達する(SHEPHERD'48)。可消化蛋白質と澱粉質について見ると、生草に対しサイレージでは87%、90%、乾草では56%、66%に減少し乾草調製においては著しく有用栄養素が低減する(WATSON'39)。このように草サイレージは尠い費用でしかも栄養保存量が高く、年間の飼料需給が円滑に行われるので世界各国では草サイレージの研究もかなり多く行われ且つ広く普及利用されている。(DAVIS'37、WILSON'37、CAMBURN'38、BENDER'37、HEGESTED'39、CARNCROSS'40、STONE'41、ARCHIBALD'45、SHEPHERD'46、CHAPMAN'47 etc)。
 草サイレージの製法に当たり、色々な理論的、技術的な問題があるが、特に原料の種類、時期、固形量含量、発酵性成分、蛋白質含量などは勿論、細切、加圧の程度、サイロの型なども製品に影響するのである。これらの点より、草サイレージはデントコーンの如く単に調整し難いので、各国では色々な技術的操作を加えて調製が行われている。例えば乳酸醗酵を促進させるために糖蜜を添加したり、又水分調整の意味を含めて、穀実類、乾草を加えたり適当水分に調整するために乾草を行ったりすることも普通手段として行われている。(BENDER'35'38'41'52、ALLEN'37、NEVENS'48、SHEPHRD'48、ELITING'35、HORWOOD'36、BARNETT'40、BECHDEL'41)。
 また従来研究せられた加酸法ANONYMOUS'32、RUSCHMAN'33、VIRANEN'33、BOHSTED'39、BRIOUX'35、PERKINS'35、SPILDE'35、MONROE'38)や乳酸菌の培養物の添加(GORINI'38、WATOSON'38)などの手段も講ぜられている。又最近にいたり Sulphur dioxid法とか、新しい型のサイロの使用など着々と研究も進められている(TEERI'53、KNODT'51、SKAGGS'52)。又サイレージの被覆物としてビニールフィルムの使用も考究されている現状にある。

 (2) 草サイレージの特徴
 草サイレージはデントコーンサイレージに比較して、営農の面或いは経済上に及ぼす効果も極めて異なるものである。即ちその特徴とするところは
   イ. 栄養価値の保持性とその効果(蛋白質、ビタミン、乳質の改善、家畜の栄養生理の改善など)
   ロ. 調製上の安全性(気象条件)
   ハ. 営農上の安全性(土壌の保全、改良、利用法の多角性)
   ニ. 草の利用性(嗜好性、消化性)
   ホ. 経済性(労働力の配分、季節的な合理的利用性)
   ヘ. 草地の集約利用性(管理、粗飼料)
   ト. 保存の安全性(風、水、火災)と雑草種子発芽の抑制(又は寄生虫の死滅)
 などが挙げられる。この他に草サイレージを調製し保存するためにサイロの利用或いは添加物の必要とする場合もあるが、これらは地形その他の都合により、即応し得るサイロを築造し得たり、或いは添加物の栄養素も家畜自身が利用するところとなり還元される。
 以上の点より、良好な草地の造成と、合理的な草の利用の面での草サイレージの製造理論と技術的な問題について、1950年以来一連の試験調査を行ってきたが、5ヶ年の成績より一応の目標と確信を得たので、草の利用改善の急務なる情勢に鑑み、ここに取纒めて報告する次第である。

2. 試験方法
 (1) 試験方針
  前述の如く、草サイレージの製法については、多くの処理法があり、多くの添加物があるが、主として北海道の環境に即応した又、実際に
  行い得る原料、添加物、調製法などを勘案して研究を進めた。
 (2) 供試飼料
  本実験に用いた牧草として白色、黄色スイートクローバー、アルファルファ、赤クロバー、チモシー、オーチャードグラス、及びそれらの混合
  物で野草としてはクズ、イタドリ、ギシギシ、スゲフキ、ススキ、イワノガリヤス、ヨモギ、エゾヤマハギ、ナンテンハギ、及びそれらの混合物な
  どで、このほか青刈作物としてデントコーン、燕麦、大豆、向日葵、農産副産物として馬鈴薯澱粉粕、その他馬鈴薯、ポンキンなども用い
  た。
 (3) サイロ
  実験用サイロはWAGEER氏ポット(2万分の1)径3尺、高さ6尺のコンクリート管を地中に埋没したもの、トレンチ式サイロ、土中ピット型サイロ
  10~150屯大型サイロである。
 (4) 詰込方法
  原料を1~3cmに細切りし、詰込後は踏んで上部には1平方尺当たり40kg内外の加圧の下に大型サイロと同条件かになるように埋草した。
  又処理方法は各実験によって異なるが各項目毎に説明を附した。取り出しは原則として30~35日目に行った。
 (5) 調査事項
  イ 外観による鑑定として色沢、香気、手肌り
  ロ 家畜、とくに牛、羊、山羊、豚に対する嗜好性
   その程度は次の如くに区分して表示した。
     -     殆ど嗜好しないもの
     +     僅かに嗜好するもの
     ++     普通程度に嗜好するもの
     +++     良く嗜好するもの
     ++++    極めて良く嗜好するもの
  ハ 化学成分の分析
 一般飼料成分、無機成分、カロチン、有機酸の定量を常法により行った。飼料の価値は家畜の栄養に重要な栄養素が多く含まれていることが必要であるが、そのうちでも各種状態における栄養素として重要なカロチンは、生体内でビタミンAとして作用するものであり、生草類中には比較的多く含まれている成分であるから、カロチン含量の消長にかなりの重点を置いた。
 次に有機酸の組成についてはサイレージが良く出来るか否かは調整中に生ずる酸の種類と含量によるところが大である。サイレージとして適当な乳酸発酵が行われた場合の有機酸組成は乳酸72%、醋酸28%であり、品質が低下するに従って乳酸含量が少なくなり、反対に醋酸及び酪酸含量が増大していくのである(KIRSCH'30)。それ故にこれらの実験に於いても総酸の含量と共に有機酸の適当な生成割合を品質判定の大きな目標としたのである。尚消化試験、採食量試験など一般の使用試験も常法により行った。

3. 試験成績
(実験1) 埋草後の酸の生成及び養分の消長
 埋草後赤クロバーとデントコーンがサイロ内においてどの様な有機酸の生成が行われ、又2~3の指示栄養素がどの様な消長を辿るかについて試験を行った。
 試験方法: 赤クロバーについて、開花期水分72%のものに2%のビートパルプを均一に加えたものを径2尺、高さ4尺の土管7ヶに入れ、各経
         過日数毎に試料を取り出して調査を行った。デントコーンも赤クロバーの方法に準じて行った。

  第1表 赤クロバーの埋草中における品質、有機酸組成及びカロチン含量の消長
埋草後
日数
全量に対する
醗酵割合(%)
嗜好性 色及び
香気
有機酸組成(%) カロチン
(γ%)※
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
3 25 +++ 黄緑色
軽酸臭
0.4320
(100)
0.3576
(82.78)
0.0744
(17.22)
0
(0)
1677.0
(77.68)
5 32 +++ 黄緑色
軽甘酸臭
0.5100
(100)
0.3961
(77.67)
0.1139
(22.33)
0
(0)
1315.8
(60.95)
7 50 +++~++++ 暗緑色
快甘酸
0.5340
(100)
0.4110
(76.97)
0.1230
(23.03)
0
(0)
1212.6
(56.17)
14 70 ++++ 同上
 
0.6060
(100)
0.3750
(61.88)
0.2310
(38.12)
0
(0)
627.8
(29.08)
21 85 ++++ 暗褐黄色
快酸臭、醋
0.6768
(100)
0.4014
(59.33)
0.2682
(39.62)
0.0072
(1.05)
524.6
(24.30)
28 85 ++++ 黄褐色
甘酸、小刺臭
0.7560
(100)
0.4200
(55.55)
0.2480
(32.80)
0.0880
(11.65)
516.0
(23.90)
35 85 ++++ 同上
 
0.7620
(100)
0.4320
(56.69)
0.2357
(30.93)
0.0943
(12.38)
524.6
(24.30)
     上表中( )内は総酸を100とした場合の各酸の割合を比較で示した。以下これに準ず。

  第2表 デントコーンの埋草中における有機酸、PH、カロチン及び糖の変化
埋草後
日数
色及び
香気
嗜好性 PH 有機酸組成(%) カロチン
(γ%)
糖(%)
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
当日 緑黄色
甘い香気
+++ 6.5 0.1656
(100)
0.1450
(87.5)
0.0206
(12.5)
0
(0)
1204.0
(100)
6.39
(100)
3 緑黄色、アルコール
醗酵臭、甘酸
+++ 5.8 0.7224
(100)
0.5634
(77.9)
0.1590
(22.1)
0
(0)
593.4
(49.3)
3.42
(53.5)
5 黄緑色、アルコール
醗酵臭、甘酸臭
++++ 4.4 0.8700
(100)
0.6149
(70.6)
0.2551
(29.4)
0
(0)
344.0
(28.5)
1.89
(29.5)
7 同上
 
++++ 4.1 1.0560
(100)
0.7410
(70.1)
0.3150
(29.9)
0
(0)
275.2
(22.8)
1.79
(28.0)
14 黄緑色
快甘酸
++++ 4.1 1.3860
(100)
0.8692
(62.7)
0.5168
(37.3)
0
(0)
275.8
(22.9)
1.45
(22.6)
21 同上
 
++++ 4.1 1.3863
(100)
0.8691
(62.6)
0.5172
(37.4)
0
(0)
270.8
(22.4)
1.43
(22.3)

 ※ 第1表、第2表共原物中%である。即ち草サイレージは草類を嫌気的状態に貯蔵し、乳酸発酵を起こさせた醗酵飼料であって、埋草過程における機構は次の如くであると謂われている。
  (A) 呼吸及び自家醗酵作用

 

  (B) 酵素作用
   乳酸菌、酢酸菌、酪酸菌、蛋白分解菌、酵母糸状菌
   (附表)埋草後のバクテリア数、糖含量及びPHの変化(BECHDEL'41)
埋草
日数
原料1g中の
バクテリア数(100万)
汁液中の
糖(%)
PH
0 8.0 13.5 5.75
2 2290.0 12.2 4.68
4 360.0 11.1 4.48
10 51.0 9.8 4.33
16 13.8 8.1 4.32
37 1.4 5.7 4.21

  (C) 後熟作用
   繊維醗酵 → ペントザン、ペクチン、セルロース
   サイロ内の湿度の低下
  (D) 蛋白質の分解
   酵素作用 → 蛋白質 → ペプトン → アミノ酸 → アシン → アンモニア

摘要
 (1) 赤クロバーについては有機酸の組成及びその消長を見ると、埋草後7日目に至って相当量の醗酵が終わり、酪酸は21日目になって僅
   少であるが認められ、以後は漸増している。(第1表)
 (2) カロチン含量においては、7日目で保持量の半分となり7~14日目で、著しく減少し、以後は安定するが、35日目に24%に減少する傾向を
   示す。(第1表)
 (3) デントコーンについては、埋草後、総酸は7日目に急激な生成を示し、全量の70%に達する。即ち3日目に45%、5日目70%、14日目は99%
   に達した。(第2表)
 (4) PHは総酸と同様な傾向を示し、7日目迄の変化が著しい。以後は大体安定する如くである。(第2表)
 (5) カロチン、糖は共に同一の傾向を示し、3~5日目の間において、全量の50%に減少することは、その時総酸が全体の50%の発生を示すこ
   とに合致する。(第2表)

(実験2)サイレージの品質に及ぼす固形量並びに予乾の影響
 サイレージ調製に際して、水分含量即ち固形物含量が大きな要素であるが、開花盛期の赤クロバーを晴天の日に刈取り、2時間予乾を行ったものと、予乾を行わないで直ちに埋草したものについて実験を行った。尚添加物として糖蜜を加えたものと、加えないものとを比較したが、その結果は次の示す如くである。

  第3表 赤クロバーサイレージの品質に及ぼす予乾の影響
処理法 色及び香気 嗜好性 原料
水分(%)
原料に対する
損失割合(%)
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
(1)無処理 黄褐色
弱酸臭
++ 77.0 16.7 0.4072
(100)
0.1877
(46.59)
0.0631
(15.49)
0.1544
(37.92)
(2)予乾せず25%
糖蜜添加
黄褐色
快酸臭
+++ 77.0 13.6 1.3704
(100)
0.9397
(68.58)
0.2584
(18.85)
0.1723
(12.57)
(3)2時間予乾
添加物なし
黄褐色
弱酸臭
++ 65.6 12.8 0.5868
(100)
0.3665
(62.45)
0.0328
(5.60)
0.1875
(31.95)
(4)同上2.5%
糖蜜添加
黄褐色
甘酸臭
++++ 65.6 5.8 1.8602
(100)
1.3895
(74.70)
0.2471
(13.18)
0.2236
(12.12)
(5)3時間予乾
2%ビートパルプ
黄緑色
快甘酸
+++or
++++
70.0 1.4772
(100)
0.9714
(65.76)
0.3733
(25.27)
0.1325
(8.77)
  備考: 上表中(1)(2)(3)(4)はワグナー氏

  第4表 デントコーンサイレージの品質に及ぼす原料水分の影響
原料水分 色及び香気 嗜好性 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
60 褐黄色
少ムレ臭
++or
+++
0.2652
(100)
0.0852
(32.05)
0.1300
(49.09)
0.0500
(18.86)
75 淡緑黄色
快酸臭
++++ 1.2612
(100)
0.928
(73.01)
0.3404
(26.99)
0
(0)
85 黄緑色
少醋臭
++++ 1.0680
(100)
0.4831
(47.35)
04358
(40.81)
0.1491
(11.84)
  

  第5表 チモシーサイレージの品質及び有機酸に及ぼす添加物、予乾の影響
処理法 色及び
香気
嗜好性 水分含量 有機酸組成(%) カロチン
(γ%)
原料中 サイレージ中 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
予乾なし
添加物なし
暗緑色甘酸
少アンモニア臭
++or
+++
83.6 86.0 0.5701
(100)
0.4650
(81.56)
0.0928
(16.28)
0.0123
(2.16)
851.4
(62.27)
予乾なし
5%ビートパルプ
淡緑色
快酸臭
+++or
++++
79.5 81.1 1.0092
(100)
0.6780
(67.18)
0.1606
(15.92)
01706
(16.90)
619.2
(45.28)
予乾なし
10%ビートパルプ
淡褐緑色
軽酸臭
++++ 74.0 79.0 1.1652
(100)
0.6312
(54.17)
0.5019
(43.08)
0.0321
(2.75)
799.8
(58.49)
3時間予乾
添加物なし
暗緑色
腐敗臭
-or+
73.9 79.1 0.0300
(100)
593.4
(43.39)
3時間予乾
5%ビートパルプ
暗褐緑色
少甘酸臭
+++ 58.3 63.2 0.7440
(100)
0.4068
(54.68)
0.2259
(30.36)
0.1113
(14.96)
774.0
(56.60)
  尚上記試験に用いた原料は出穂直前のチモシーである。

摘要
 (1) 第3表に示す如く、予乾によって品質が改善せられ、同時に糖蜜添加を併用する時は著しく嗜好性も増し、とくに総酸の生成量が多くな
  り、その有機酸組成も良くなる。且つ原料に対する製品の損失割合は予乾、糖蜜の添加によって少なくなり、無処理のものは16.67%である
  が、予乾のみおこなったもの12.83%、糖蜜のみ添加をおこなったもの13.64%、両者を併用したものは5.83%となっている。(第3表)
 (2) 3時間予感し、2%のビートパルプを添加したもので、水分70%のものは色香気も良く嗜好性も大であり、総酸も1.4722%であり、総酸含量は
  低いが、酸組成は類似し、ともに良好である。即ち赤クロバーサイレージの場合、適期に刈取り2~3時間の予乾と2%のビートパルプ添加に
  より良好な品質のものが得られる。(第3表)
 (3) デントコーンの場合においても適当水分(75~85%)である時が嗜好性、酸組成も良好であり、品質も良質を示している。(第4表)
 (4) 出穂直前のチモシーにおいては原料草が適当水分であることが望ましく、3時間予乾で5%ビートパルプを添加したものは、かなり良質の
  ものが得られ、カロチンについても大体50%前後を維持するよ様である。(第5表)

(実験3) サイレージの品質に及ぼす各種添加物の影響
 草サイレージ用添加物としても醗酵性糖分の添加により、乳酸の速やかなる生成を目的とした糖蜜、又水分調整と固形量の調節のために、穀実類、麩、米糠、ビートパルプ又酸を加えて不良醗酵を防ぐためのA..I.V.法などが考えられている。
  (その1) アルファルファ、スィートクロバー、イタドリサイレージの品質に及ぼす糖蜜添加の影響
  第6表 供試原料草の一般成分(原物中%)
原料 水分 蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分
イタドリ 73.74 3.81 0.93 14.47 5.77 1.28
アルファルファ 82.14 2.80 0.83 7.79 481 1.63
白スヰートクロバー 80.31 3.82 0.66 8.56 4.56 2.09
黄スヰートクロバー 80.87 3.24 0.61 9.67 3.95 1.96

  第7表 サイレージ品質に及ぼす糖蜜添加の影響
原料 処理法 品質 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
イタドリ 無処理 0.3870
(100)
0.3176
(82.19)
0.0316
(8.39)
0.0378
(9.42)
白花スヰートクロバー 無処理 不良 1.0052
(100)
0.6302
(62.69)
0.0593
(5.90)
0.3157
(31.41)
同上 2.5%糖蜜 稍良 1.7880
(100)
1.1098
(62.63)
0.2649
(14.25)
0.4133
(23.12)
アルファルファ 不良 0.5712
(100)
0.3207
(52.65)
0.0537
(9.40)
0.1968
(37.95)
同上 2.5%糖蜜 稍良 1.8000
(100)
0.7298
(51.66)
0.4351
(24.17)
0.4351
(24.17)
黄花スヰートクロバー 無処理 不良 0.5592
(100)
0.2722
(48.67)
0.0474
(8.48)
0.2396
(42.85)
白花スヰートクロバー 1%乳酸
1%糖蜜
1.3520
(100)
0.9906
(73.72)
0.1505
(11.13)
0.2049
(15.15)

  第8表 サイレージのカロチン含量に及ぼす糖蜜添加の影響
原料 原料中カロチン含量
(γ%)
添加物を加えないサイレージ中
カロチン含量(γ%)
添加物を加えたサイレージ中
カロチン含量(γ%)
アルファルファ 2580(100) 602(23) 1420(55)
白スヰートクロバー 2764(100) 812(39) 1515(73)
黄スヰートクロバー 2150(100) 553(25)
平均 2265(100) 656(29) 1468(65)

  (その2) 白花スヰートクロバーサイレージの品質及び有機酸組成に及ぼす各種添加物の影響

  第9表 品質並びに有機酸組成
嗜好性 色及び香気 処理法 水分(%) 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
5%ビートパルプ 弱い快酸臭 +++ 74.3 0.9301
(100)
0.5176
(55.65)
0.4125
(44.35)
0
(0)
5%玉蜀黍粉 緑黄色
刺激性少醋臭
+++ 74.3 0.7800
(100)
0.4455
(57.12)
0.3345
(42.88)
0
(0)
5%米糠 鮮緑黄色
刺激性醋臭
+++ 74.3 1.1880
(100)
0.6502
(54.68)
0.5378
(45.32)
0
(0)
5%澱粉粕 緑黄色
ムレ臭と共に弱酸臭
+++ 74..3 0.3780
(100)
0.0780
(20.64)
0.3001
(79.36)
0
(0)

  第10表 カロチン含量
原料及び添加物 カロチン含量(γ%) 減少割合(%)
原料 3010 100
5%ビートパルプ 1659 55.1
5%玉蜀黍粉 1423 47.2
5%米糠 1081 35.9
5%澱粉粕 623 20.6

  (その3) アルファルファ、アカザ、燕麦、赤クロバー混合サイレージの品質に及ぼす添加物の影響
 糖蜜以外の添加物としてビートパルプ、米糠を用いて草サイレージを調製し、その品質並びに有機酸組成を調べた。アルファルファは1/2開花、アカザは出穂揃、燕麦は乳熟後期に刈り取った。
 アカザ、燕麦、赤クロバー混合サイレージは埋草後7日目に不良醗酵を起こしていることが認められたのでそれに1:3の塩酸を0.5%(重量)の割合に追加撒布した。その成績は次の如くである。

  第11表 サイレージの品質及び有機酸組成に及ぼす添加物の影響
原料及び添加物 色及び香気 嗜好性 水分(%) 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
アルファルファ
3%米糠
黄緑色刺激性
酪酸臭
++ 67.3 1.0812
(100)
0.7200
(67.60)
0.0385
(2.56)
0.3227
(29.84)
アカザ
5%ビートパルプ
黄緑色
甘酸少刺激臭
+++ 75.2 0.6002
(100)
0.4682
(78.01)
0.0238
(3.99)
0.1082
(18.00)
燕麦60%
 
 赤クロバー40%
 
3%ビートパルプ
上部 黄緑色
ムレ臭刺激性
++++ 燕麦
65.6

赤クロバー
79.3
0.7092
(100)
0.3492
(49.24)
0.2291
(30.06)
0.1309
(20.70)
中部 黄緑色
醋酸臭
++++ 0.6804
(100)
0.2034
(29.90)
0.3036
(44.62)
0.1734
(25.48)
下部 黄緑色
刺激性酸臭
++++ 0.6004
(100)
0.1430
(23.82)
0.2412
(40.17)
0.2162
(36.01)

  (その4) 赤クロバー、チモシーサイレージのサイロ各部位における品質
 実験1においても草サイレージ製造上考慮すべき点が明らかにされたので本実験は実験上最大の考慮を払って行った。即ち醗酵性物質の添加、加酸、予乾、固形量、原料の割合などに留意して行った。
 供試草は開花期の赤クロバー、出穂期のチモシーなど混合のものも2時間予乾し、これに1%の糖蜜、2%の米糠、0.5%の燐酸を添加して埋草した。原料中水分75%で、サイレージ中水分は77.5%であった。而してサイレージの各部位によっても、その品質が異なるものと推定せられるので、これを上部、中部、下部に区分して、その品質並びに有機酸組成の定量を行った。

  第12表 赤クロバー、チモシーサイレージの各部位による品質 
サイロ内の部位 品質 嗜好性 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
上部 普通 +++ 0.9480
(100)
0.3985
(47.04)
0.3473
(36.63)
0.2022
(21.33)
中部 ++++ 1.5105
(100)
0.9744
(64.51)
0.4165
(27.57)
0.1196
(7.92)
下部 極めて良 ++++ 2.6648
(100)
2.2357
(83.90)
0.4291
(16.10)
0
(0)

摘要
 (1) 一般に蛋白質含量の多い荳科草類を詰め込んで良い品質のものを得るにはデントコーンサイレージの場合より困難であるから添加物と
  して糖蜜、米糠、ビートパルプ又は玉蜀黍粉を2.5~5%程度添加すると安全である。
  特に酪酸の生成に注目しなければならない(第6.7.9.12表)
 (2) 生草中に含有されているカロチン含量はサイレージの調製過程中における良否によって低減度が異なり良好に酸生成の出来たものは
  65%を保持するが、添加物を加えないものは29%に低減する。
  又添加物の種類によっても異なり、一般にビートパルプ、玉蜀黍粉が良好であった。(第8.10.11表)
 (3) 埋草にあたっても原料草、固形量、醗酵性糖分の添加、加酸などを考慮して詰め込むと極めて良好なサイレージが出来上がり、又同一
  サイロ内のサイレージにおいても、下部に至に従って良質のものが得られる。(第12表)

(実験4) 草種の混合割合及び加圧の大小がサイレージの品質に及ぼす影響
  (その1) 赤クロバー、チモシー混合サイレージにおける混合割合
  禾本科としてチモシー、草科として赤クロバーを各割合に混合し同一処理を行ってその品質を調査した。

  第13表 赤クロバー、チモシー混合サイレージにおける混合割合と品質及び有機酸組成との関係
混合割合 色及び
香気
嗜好性 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
赤クロバー チモシー
10 0 黄褐色
甘酸少刺激臭
+++or
++++
0.7620
(100)
0.4320
(56.69)
0.2357
(30.93)
0.0.943
(12.38)
5 5 淡黄褐色
甘酸臭
++++ 0.8041
(100)
0.5139
(63.91)
0.2374
(29.52)
0.0528
(6.57)
2.5 7.5 暗緑褐色
快酸臭
++++ 1.2180
(100)
0.9462
(77.68)
0.2718
(22.32)
0
(0)
1 9 黄緑色
甘酸臭
++++ 1.2420
(100)
0.9882
(79.57)
0.1886
(15.19)
0.0652
(5.24)

 尚原料の赤クロバーは開花盛期、チモシー出穂期、添加物として2%のビートパルプを添加した。

  (その2) 加圧の大小の品質
 サイロに詰め込む際に加圧の程度が品質に影響を及ぼし、一般に加圧が大であればサイロ内の空気が排除され、有効な酸の生成が期待される。本試験においては地下に埋没したサイロに1平方尺当たり50kg(普通30kg)と7kgの加圧にて、品質に及ぼす影響を試験した。

  第14表 加圧の大小がサイレージの品質及び有意酸組成に及ぼす影響
加圧処理 色及び香気 嗜好性 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
重圧 暗黄緑色
甘酸醋刺激臭
++++ 1.8864
(100)
1.2553
(66.55)
0.6311
(33.45)
0
(0)
軽圧 褐黄色
ムレ臭甘酸
+++ 0.4644
(100)
0.2721
(58.59)
0.0.435
(7.37)
0.1488
(32.04)

摘要
 (1) 赤クロバー、チモシー混合サイレージの場合には、その混合割合がその品質に関連し、一般に赤クロバー25%、チモシー75%の時が一番良い様で、赤クロバーの増加と共に、醋酸、酪酸の生成が大となる様である。(第13表)
 (2) 加圧の大小が品質に影響し、一般に加圧が大なる程品質が良い。(第14表)

(実験5) 野草サイレージの調製
 北海道における粗飼料としての野草の占める割合は極めて大きい。野乾草類は一般に牧乾草に比較して、蛋白含量や栄養価に乏しく、反対に繊維含量は高い。野草の利用率は低いのでサイレージ化することにより、多くの利点を活用することが出来るが、野草サイレージとしての利用は極めて尠い現況である。
 従来も野草サイレージは作り難いとされていたが、この点野草そのものが醗酵性糖分に乏しく、粗剛であるからで、北海道の如き野草地の豊富な地域においては、合理的な利用法が望まれ、サイレージ化を容易ならしめたるために本試験を行った。
   (その1) 乾地並びに湿地混合野草ウィレージに依る品質、嗜好性、有機酸組成、品質及び有機酸

  第15表-A
区分 添加物 品質 嗜好性 水分(%) 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
原料 サイレージ
乾地 5%ビートパルプ
5%米糠
黄緑色
甘酸
+++ 71.7 63.5 0.0.5580
(100)
0.3288
(58.93)
0.0533
(9.55)
0.1759
(31.52)
湿地 5%ビートパルプ
5%玉蜀黍粉
同上 +++ 74.0 64.0 0.7560
(100)
0.5288
(69.95)
0.0487
(6.44)
0.1196
(7.92)

  第15表-B 野草の利用別採食割合(乳牛)
利用区分 乾地野草 濕地野草 平均
生草状態 49.8 41.7 45.7
乾草状態 32.5 28.5 30.5
サイレージ状態 92.8 93.7 93.2

 乾地野草: キタヨシ30%、イタドリ20%、ササ10%、ノフキ10%、ヨモギ10%、スゲ10%、其の他10%
 湿地野草: キタヨシ30%、ススキ30%、シダ20%、ササ5%、カラマツ草5%、ユキノシタ3%、ノコギリ草2%、その他5%

  (その2) 野草サイレージにおける添加物の種類が品質及び有機酸に及ぼす影響
  野草は1951年8月14日刈取で埋草時の水分70.5%、構成野草種は次表の通りである。

  第16表 原料野草の草丈及び構成草種
草種 草丈(cm) 割合(%)
キタヨシ 105 40
ススキ 125 20
シダ類 60 10
ササ 57 5
ヤマハギ 89 5
スゲ類 65 5
タデ水 48 5
ヤマアワ 55 3
その他 - 7

  第17表 野草サイレージの品質並びに有機酸組成に及ぼす添加物の影響
処理法 色及香気 嗜好性 有機酸組成(%) カロチン
(γ%)
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
HCL(1:3)を10%の場合に
ビートパルプに加え乾燥
したもの10%
褐黄色
快甘酸
++++ 1.0152
(100)
0.7710
(75.95)
0.2442
(24.05)
0
(0)
688.0
(41.02)
10%ビートパルプ 同上 ++++ 0.8412
(100)
0.5381
(63.97)
0.3031
(36.03)
0
(0)
662.2
(39.49)
5%玉蜀黍
5% 米糠
同上 ++++ 1.1502
(100)
0.7811
(70.68)
0.3241
(29.32)
0
(0)
516.6
(30.80)
10%  麩 黄褐色
芳香性甘酸
++++ 1.4964
(100)
1.2139
(81.12)
0.2825
(18.88)
0
(0)
653.6
(38.97)
1%ビートパルプ
1% 米糠
緑黄色
甘酸アンモニア臭
+++ 0.7741
(100)
0.5689
(73.49)
0.0.547
(7.07)
0.1505
(19.44)
-
  ※ 原料中カロチン含量は1677γ%である。

  (その3) イワノガリヤスサイレージの品質、有機酸組成に及ぼす米糠添加の影響

  第18表(A) 有機酸組成(%)
処理法 色及香気 嗜好性 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
5%米糠 緑黄色
甘酸刺激臭
+++ 1.33
(100)
0.88
(67)
0.14
(10)
0.31
(23)
無処理 帯褐黄緑色
少酪臭
-or+ 0.60
(100)
0.20
(33)
0.08
(13)
0.32
(54)

       (B) 一般栄養組成(%)
処理法 水分 蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分 純蛋白質
5%米糠 73.32 2.66 1.88 11.04 8.72 2.38 2.29
無処理 75.95 2.21 0.87 10.01 9.14 1.82 1.89

      (C) イワノガリヤスサイレージの消化率(山羊、家兎)%
区分 乾物 粗蛋白質 粗脂肪 粗繊維 N.F.E 純蛋白質
山羊 73.32 2.66 1.88 11.04 8.72 2.29
家兎(2頭平均) 75.95 2.21 0.87 10.01 9.14 1.89

      (D) イワノガリヤスサイレージの栄養価(%)
区分 水分 可消化純蛋白質 澱粉価 T.D.N
5%米糠添加(山羊) 73.32 1.31 9.95 14.63
(附)玉蜀黍サイレージ 82.2 0.4 7.7 -
(附)赤クロバーサイレージ 83.6 0.8 7.6 10.2

  (その4) 素堀、ピット型サイロ利用による野草サイレージの品質、有機酸、嗜好性、栄養成分
 排水良好の土地に直径4尺、深さ6尺の素堀サイロを作り約200貫を埋草し、これに麩8%を均等に混合8月20日に詰め込み、12月に取り出して一般分析、消化試験、採食量調査を行った。

  第19表 供試原料野草種 ※
草名 割合 草丈(cm)
クズ 19.9 -
シダ 17.5 68
ハギ 14.8 100
ヨシ 42.5 135
その他 5.3 -

 ※ 野草地は反当2100kg、1平方メートルにヨシ92本、ハギ18本、シダ4本、クズ2本であった。

  第20表 野草サイレージのサイロ内の上、中、下部の品質及び有機酸組成
区分 温度(℃) 色及香気 嗜好性 有機酸組成(%)
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
上部 26.0 緑黄色
芳香性酸臭
+++ 1.4338
(100)
0.8276
(57.8)
0.6062
(42.2)
0
(0)
中部 24.0 同上 +++or
++++
2.40.24
(100)
1.7943
(74.7)
0.6081
(25.3)
0
(0)
下部 23.5 緑褐黄色
芳香性少刺激臭
++++ 3.3017
(100)
2.40.12
(72.8)
0.9005
(27.2)
0
(0)

  第21表 野草の生草、サイレージ、乾草状態の栄養組成(無水物中%)
区分 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分
原料生草 13.15
(100)
2.77
(100)
40.96 33.24
(100)
9.88
野草サイレージ 上部 9.59 5.02 38.97 37.80 8.62
中部 9.68 4.72 39.64 37.11 8.85
下部 11.68 6.36 26.16 45.80 10.00
平均 10.31
(78)
5.36
(190)
34.98 40.24
(121)
9.11
乾草 ※ 7.55
(57)
2.15
(77)
35.68 45.77
(132)
8.85
添加麩(原物中) 6.65 3.20 24.15 61.03 4.97
  ※ 生草500貫を刈取り一般野乾草製法に準じ、同一原料について行った。

  第22表 野草サイレージの嗜好性

  (A)緬羊による嗜好性及び採食量
状態別 採食量(g) 固形量(g)
生草 2600 826
サイレージ 1673 387
乾草 505 408

  (B)乳牛による嗜好性及び採食量
状態別 採食量(kg) 嗜好性
生草 13.5 ++~+++
サイレージ 15~20 ++++
乾草 殆ど採食せず
  緬羊3頭10日平均(1日1頭当たり)

  第23表 野草サイレージ及び乾草の消化率(%)
状態別 有機質 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維
野草サイレージ 53.02 55.10 76.11 53.00 44.89
野乾草 64.36 62.55 54.82 78.82 41.69
  緬羊3頭平均

摘要
 (1) 野草の各状態における利用率は、サイレージ状態の時が一番良好で第15表-Bに示される如く、その採食割合は、93%もの高率を示し
  た。反対に乾草状態では、30%、生草状態では45%で、野草サイレージ化することにより経済的に利用することが出来る。(第15表)
  (第22表-B)
 (2) 野草サイレージの品質も添加物の種類や量により異なるが、総酸含量で0.8%~2.5%で酪酸の生成が全くなく、カロチンも30~50%保持さ
  れる安全な野草サイレージを作るには、8月中旬(或いは刈取適期、適当水分含量)刈取時に8~10%のビートパルプ、米糠、麩、玉蜀黍粉
  などの添加と、充分なる加圧によって得られるものであり、添加物5%位の水準では、総酸含量で0.5%で酪酸が10~20%も生成され、
  若干嗜好性も劣る(第15-A 17.18.20表)
 (3) 同一原料を用い、サイレージ、乾草した場合は、蛋白質においては、生草を100とすると乾草は57%に減少するが、サイレージでは、78%
  に保持し、又逆に繊維では乾草は132%に増加する。(第21表)
 (4) 野草サイレージは牧草サイレージの場合と同様に、添加物の利用はサイレージの品質を改善し、栄養組成も優れ、嗜好性が大となる。(第18表-B)

(実験6) 大型サイロによる草サイレージの調製
 これ迄の予備的試験サイロにより、各処理法による安全な草サイレージの調製法が究明せられたので、実際の大型サイロを用い、各般の応用試験を行い普遍性を試験調査した。
 その成績は次の如くである。

  (その1)農家に普及している(9尺×25尺)約25屯サイロにおける赤クロバーサイレージの調製試験
 1950年、十勝国川西村農家で乳牛2頭を飼養し、経営面積20町、同年7月9日赤クロバーを刈取、上記25屯サイロに埋草したが、2.5%のビートパルプを添加物として、均一状態に混合し、同年7月23日より取り出した。このサイレージの品質は次の通りである。

  第24表 赤クロバーサイレージの品質及び有機酸組成
草種及び処理法 部位 品質 嗜好性 総酸 乳酸 醋酸 酪酸
赤クロバー2.5%ビートパルプ 上部 +++or
++++
0.8945
(100)
0.5575
(62.32)
0.2242
(25.06)
0.1128
(12.62)
同上 下部 +++ 1.0460
(100)
0.6709
(64.14)
0.2499
(23.89)
0.1252
(11.97)
デントコーンサイレージ ++++ 1.9750
(100)
1.4545
(73.64)
0.3473
(17.58)
0.1732
(8.78)

  (その2)大型150屯サイロに赤クロバー、チモシー、混合及び赤クロバーサイレージの調製
 1951年より札幌郡江別町の町村牧場で草サイレージを作り、乳牛に与えて良好な成績を収めているが、1952年より当畜産部と共同で各種の試験及び調査を行った。。同牧場における1952~53年産のサイレージの品質は次表の如くである。

  第25表 サイレージの品質及び有機酸組成
原料及び処理法 部位 サイレージ水分(%) 嗜好性 色及香気 総酸 乳酸 醋酸+酪酸
1952 赤クロバー3チモシー1  2時間 上部 75.0 +++or
++++
褐黄色
酸臭大
1.49
(100)
1.14
(77.1)
0.35
(22.9)
1952 同上 下部 79.4 +++ 褐黄色
少酪臭
1.79
(100)
1.15
(64.2)
0.64
(35.8)
1953 赤クロバー※4時間予乾
0.3% 糖蜜  △
中部 74.3 ++++ 淡褐緑黄色
甘酸良臭
2.23
(100)
1.64
(73.5)
0.59
(26.5)
  ※ 開花5分の1の刈取、△使用糖蜜は日本甜菜糖業株式会社産のもの(成分別記)
  (その3) 畜産部10屯試験用サイロにおける赤クロバー、オーチャードグラス混合サイレージの調製試験
 1953年6月20日刈取、オーチャード出穂開花、赤クロバー1/2開花、反当2944kg、予乾6時間、糖蜜重量比0..88%添加
  (A)植生
草種 割合(%) 水分(%)
オーチャード 52.0 81.84
赤クロバー 41.6 78.11
ギシギシ 5.9 82.97
カマドガエシ 0.5 -

  (B)糖蜜成分(%)
   水分  18.28
   灰分  17.51
   蛋白質 4.55
   糖分  59.66

 総埋草量は7515kgで、埋草後の加圧は常法による踏込を行った。踏込作業は初の7日間は毎日3人3時間、第2週は毎日3人、2時間、第3週は毎日3人1時間宛踏込を行った。
 埋草後の沈降は7日目で当日の85%、20日目で79%に達した。

  第26表 サイレージの品質及び有機酸組成
サイロ部位 埋草時原料水分(%) サイレージ水分(%) 色及香気 嗜好性 総酸 乳酸 醋酸+酪酸
上部 79.91 63.18 褐黄色
甘酸なるも刺激臭
+++ 1.48
(100)
0.84
(56.7)
0.64
(43.3)
中部 70.07 72.42 褐暗緑色
甘酸
++++ 0.91
(100)
0.60
(65.9)
0.31
(34.1)
下部 60.07 62.24 褐黄緑色
甘酸
+++ 1.23
(100)
0.83
(67.4)
0.40
(32.6)

 

摘要
 (1) 大型サイロを用いての各処理法と、その品質に及ぼす影響は、実際の小型試験の成績と同様であり、赤クロバー、オーチャードグラス或いはそれらの混合牧草であっても適期に刈取り3~5時間の予乾と共に0.8~2.5%のビートパルプ、麩、米糠、玉蜀黍粉、糖蜜などの添加によって、充分良質のものが期待されるが、この際も加圧による空気の排除に特別の注意が必要である。(第24.25.26表)

(実験7) 草サイレージの栄養価値に関する試験
 前述の如く、草サイレージは乾草に対して、よりよくその栄養素を保持するのであるが、今回行った畜産部(1953年)によると次の如くである。
  (その1) 生草、乾草、サイレージの」時の栄養損失割合

  第28表 同一草を用いての生草、乾草サイレージの栄養保持量(%)(無水物中)
原料 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分 無機成分 カロチン(mg)
Cao P2O5
生草※ 14.27
(100)
3.52
(100)
54.27
(100)
16.50
(100)
11.44
(100)
1.44
(100)
0.58
(100)
9.19
(100)
サイレージ※ 12.01
(84)
4.68
(132)
52.11
(96)
21.23
(128)
9.97
(87)
1.43
(99)
0.59
(101)
4.20
(45)
△ 乾草※ 8.33
(58)
2.57
(73)
52.41
(96)
26.89
(16.3)
9.80
(85)
0.75
(52)
0.37
(63)
0.82
(9)
  ※ 各3点について分析の平均値である。
  △ 刈取月日6月21日、乾草仕上がり6月24日  降雨量 11.20mm
    平均湿度52% 全日照量35.5時間、平均風速2.3mで乾草調製には誠に理想的であった。

  (その2)チモシーを乾草、サイレージにした時の栄養保持量(%)(無水物中)

  第29表 チモシーの処理別一般成分表
原料 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分
生草※ 13.52
(100)
3.84
(100)
37.55
(100)
36.96
(100)
8.13
(100)
サイレージ※※ 11.62
(85)
4.11
(107)
41.20
(109)
35.33
(95)
7.74
(95)
 乾草 △ 6.86
(50)
2.95
(76)
42.99
(114)
39.40
(106)
7.80
(95)
  ※ 出穂直前のチモシーである。
  ※※ ビートパルプ5%加えて調製した。
  △ 一般野乾草製造法によった。

  (その3) サイレージのD.C.P及びT.D.N並びに一般組成

  第30表 生産者による各サイレージの栄養組成(原物中%)
サイレージ
生産者
処理 一般組成 D.C.P T.D.N 無機(%) カロチン
(mg)
水分 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分 石灰 燐酸
明治牧場(根室) 無処理
無添加
82.95 2.02 0.75 7.56 4.45 2.27 1.03 8.86 0.13 0.04 -
畜産部
  オーチャード60%
  赤クロバー30%
  その他
6時間予乾(上部)
0.8%(中部)
糖蜜(下部)
63.18 3.01 1.49 24.09 5.32 2.91 1.85 18.72 0.38 0.12 1.11
72.42 3.94 1.19 13.64 5.72 3.09 0.40 0.13 0.96
62.24 3.95 1.55 19.81 8.69 3.76 0.52 0.22 1.86
町村(1)
  赤クロバー 3
  チモシー  1
2時間予乾
玉蜀黍粉0.8%
75.04 5.07 1.37 9.43 6.50 2.59 2.58 13.41 0.61 0.14 1.65
町村(2)
  赤クロバー
4時間予乾
0.3%糖蜜
74.33 4.72 1.77 13.56 3.59 2.03 2.41 14.89 0.74 0.16 1.92
川西村
  赤クロバー
  チモシー
2.5%
ビートパルプ
80.46 2.12 1.25 8.99 5.47 1.71 1.08 10.98 - - -
平均 72.94 3.55 1.34 13.87 5.68 2.62 181 14.91 0.46 0.13 1.50
玉蜀黍、サイレージ△、オーチャード生草△ 79.1 2.3 1.1 11.3 4.9 1.3 1.5 16.0 0.14 0.10 0.43※
68.0 3.1 0.9 17.0 9.0 2.0 1.9 18.5 0.31 0.36 1.25※
  ※ 当研究所分析     ◎ Morrison氏の消化率    △ 岩田飼料学より引用

  (その4) 草サイレージによる乳牛の使用調査
  前記30表に示した町村(2)サイレージを用い、年間40~60石泌乳する検定牛6頭に与えたが、その成績によると次の如くである。
  第31表 供試飼料成分 D.C.P及びT.D.N(原物中%)
飼料名 一般組成 無機(%) カロチン
(mg)%
D.C.P※ T.D.N※
水分 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分 石灰 燐酸
草サイレージ 74.33 4.72 1.77 13.56 3.59 2.03 0.74 0.16 1.92 2.4 14.9
二番乾草 12.74 12.06 2.76 45.68 18.43 8.33 0.67 0.41 1.19 8.3 50.3
12.94 15.92 4.05 56.29 5.12 5.68 0.41 1.43 - 12.7 67.0
コプラミール 12.09 23.27 7.14 46.48 5.98 5.04 0.55 1.25 - 19.5 57.3
亜麻仁油 14.99 35.19 0.93 37.28 5.86 5.77 0.82 1.96 - 29.5 65.4
  ※ D.C.P及びT.D.NはMorrison氏消化率を引用

  第32表 給与飼料表
牛名 体重
(kg)
泌乳
(kg)
必要量(kg) 給与粗飼料 濃厚飼料 給与 サイレージ給与量
D.C.P T.D.N 草サイレージ 二番乾草 コプラミール 亜麻仁油 D.C.P T.D.N D.C.P T.D.N
テーチプライドコロナ 650 28.1 2150 14.2 45.0 3.5 0.7 3.4 - 2108 10.8 1080
(51.2)※
6.7
(61.7)※
ラーチガバナーレイモンデール 650 26.0 2030 13.6 45.0 3.5 0.7 3.4 - 2108 10.8 1080
(51.2)
6.7
(61.7)
ルテナリリーコロナ 658 21.7 1710 12.2 45.0 3.5 0.7 3.4 - 2108 10.8 1080
(51.2)
6.7
(61.7)
第二ビュテーサンデー 610 28.1 2130 13.8 41.0 2.5 0.5 3.4 - 1897 9.4 984
(52.4)
6.1
(64.0)
フェムコパララ 615 18.6 1540 10.8 41.0 2.5 0.7 3.4 - 1924 9.7 98.4
(51.0)
6.1
(62.8)
インペリヤルメーブルB 610 18.1 1510 10.7 41.0 2.5 0.7 2.0 1.3 2302 9.9 984
(42.7)
6.1
(61.6)
  ※ ( )内数字はサイレージ給与量の全給与量に対する割合を示す。
     カロチンでは(95.2)

 摘要
 (1) 乾草までは4日、全降水11mm平均湿度52% 全日照35.5時間と言う割合よい天候状態に乾草を作り乍ら蛋白質で58%、石灰52%、カロチ
  ン9%に減少、逆に粗繊維で163%増加しているのに対し、草サイレージは蛋白質84%」石灰99%、カロチン45%を保持し、その損失も少なく、又
  同様に第29表のチモシーにおいてもその事は認められる(第28表)
 (2) 今回行った大型サイロー利用による草サイレージのD.C.P平均1.81、T.D.N14.91カロチン1.50mgであって、蛋白質、カロチンにおいてはデ
  ントコーンサイレージに優れ、又オーチャード生草と同じ位の飼料価値を有するものの如くに思われる。(第30表)
 (3) 今回調製した赤クロバーサイレージは年間40~60石生産する高能率乳牛に日量41~45kg給与し、これに適当の乾草と濃厚飼料を与
  え、全給与D.C.Pの50%T.D.Nの60%を草サイレージで置換したが、乳量も18~28kg生産し、乳牛は正常であり色々の点で経営的な利点が
  見出された。(第30、31、32表)

(実験8) 豚用サイレージの調製試験
 草類のもつ栄養的特性が蓋に対するその効果は色々の点で認められているが、これを冬期中でも給与する方法として草サイレージの調製は乳牛、緬羊に対するものと多少異なり、なるべく栄養価の高い繊維含量の少ない消化の良い型の原料と嗜好性を増加するために特別の添加物も考えられる。即ち草類の物安価で良質な蛋白質とカルシウム及びビタミンの供給源としてこれ等サイレージの調製も重要な意義を有するものと思われる。
   (その1) 赤クロバーサイレージ、澱粉粕加青刈大豆サイレージの品質

 第33表のA 外観及び有機酸組成
サイレージ区分 色及香気 嗜好性 有機酸組成(%)
総酸 乳酸 醋酸 酪酸
(A)赤クロバーサイレージ 緑黄
少刺激性甘酸
++++ 1.35
(100)
0.76
(55)
0.59
(45)
0
(0)
(B)澱粉粕加青刈大豆 甘酸 ++++ 0.90
(100)
0.69
(76)
0.21
(24)
0
(0)

  (A) 赤クロバーは1/10開花で30%のチモシーを含む。これに10%の乾草ビートパルプを加えた。
  (B)澱粉粕70%、青刈大豆30% これに1%ビートパルプを加えた
    利用サイロ、直径3尺深さ6尺のコンクリート管、これに各20貫の重石で加圧

 第33表のB 一般飼料成分
区分 水分 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分 T.D.N D.C.P
赤クロバーサイレージ 75.31 2.03 0.30 16.82 4.40 1.14 15.18 1.26
澱粉粕加青刈大豆サイレージ 79.20 3.61 0.74 8.02 6.54 1.89 8.53 0.90
  ※ Morriison氏の消化率利用

 これらを赤クロバーサイレージ群、澱粉粕加青刈大豆サイレージ群、煮沸澱粉群とし、各三頭同様状態の中豚を用いた飼養試験の結果は次の如くである。

 第33表のC 給与試験
区分 試験開始時
平均体重(匁)
10月10日
2週目
増体(匁)
3週目
増体(匁)
給与期
全増体(匁)
サイレージ給与中止後
の増体(匁)1月29日
赤クロバー区 15.26 +970 +1010 2300 9700
澱粉粕加青刈大豆区 14.15 +920 +700 2280 9510
煮熟澱粉粕 14.41 +716 +600 2360 9150

 各区は1頭当たりサイレージ2kgと煮熟澱粉粕2kgを給与、その他配合飼料(玉蜀黍20、米糠25、麦糖25、魚粕20、大豆粕10)各2kg給与した。
  (その2) ポンキン及び馬鈴薯サイレージの調製試験
 馬鈴薯は北海道において至る所に耕作され、これが豚用飼料としての価値も大きく、又ポンキンもよく栽培されているが、いずれも冬期貯蔵に困難であり、又燃料費の問題もあり、これが長期安全にしかも豚用サイレージとしての調製を試みた。

  第34表のA ポンキン、馬鈴薯サイレージの品質及び有機酸組成
区分 サイレージ水分(%) 色及香気 PH 嗜好性 総酸 乳酸 醋酪酸
ポンキンサイレージ※ 77.2 芳香性を有し
甘酸
4.3 +++~++++ 3.07
(100)
2.42
(78)
0.65
(22)
馬鈴薯 ※※ 63.3 4.3 ++++ 3.44
(100)
2.82
(82)
0.62
(18)
  ※ポンキン水分=93.27%     ※※馬鈴薯水分=80.17%  でありこれに重量割合にして15%麩、15%米糠、1%糖蜜を加え、直径25尺、深さ4尺の樽を土中に埋没し、押し蓋に100gの加圧のもとに詰め込んだ。
 ポンキンは170kg、馬鈴薯は196kgであった。又詰込後5日目迄に約10kgの溢水をみたが汲出した。

  第34表のB ポンキン、馬鈴薯サイレージの栄養組成(原物中%)
区分 一般組成 D.C.P※ T.D.N※ 無機成分(%)
水分 粗蛋白質 粗脂肪 N.F.E 粗繊維 粗灰分 石灰 燐酸
ポンキンサイレージ 77.22 4.03 1.65 13.67 1.05 2.38 2.05 18.31 0.06 0.89
馬鈴薯サイレージ 63.34 6.26 1.77 24.81 0.91 .2.91 4.82 31.49 0.06 0.88
  ※ Morriison氏の消化率利用

  第34表のC 馬鈴薯及びポンキンサイレージの嗜好性
供試豚の状態 サイレージの
種類
1日給与量(g) 残量(g) 嗜好性 全飼料に対する
サイレージの割合(%)
備考
子豚 生後50日 馬鈴薯サイレージ
ポンキンサイレージ
250 30~50 +++ -  
中豚 馬鈴薯サイレージ
ポンキンサイレージ
5.0(kg) - ++++ 80  
成豚 馬鈴薯サイレージ
5.0(kg) - ++++ 80 クロバー給与期1日増体平均
89匁に対し、サイレージは113
匁を示し肉質も良好であった。

摘要
 (1) 若刈赤クロバーに10%のビートパルプを加えたもの及び生澱粉粕に青刈大豆を混合調製したサイレージも、サイレージとしては品質は良
  好であり、豚に対する嗜好性も大であり、短期間ではあるが、給与の結果は煮熟澱粉粕群よりも優れた結果が得られた。
  (第33表のA、B、及びC)
 (2) 馬鈴薯ポンキンに30%の米糠、麩、及び1%の糖蜜を添加して作成した。サイレージは非常に良好で、豚に対する嗜好性も大であった。又
  特に馬鈴薯は蛋白質含量も高く、栄養価は高いが、石灰にたいして燐酸は高いので長期給与時には注意が必要である。
  ポンキンは90%以上の水分を含むので相当量の添加物が必要と思われる。(第34表のA、B、及びC表)

(参考)

 (その1) 各種条件下における草サイレージ製造時の必要な添加物の量と種類

 J.B.SHEPHERD.etal (1948
草の状態 添加物の類 糖蜜(%) 75%燐酸% 玉蜀黍粉(%) 大麦小麦粉(%) 乾草ホエー(%)
荳科草予乾なし アルファルファ、赤クロバー 3.6 0.9 9.0 6.8 1.8
大豆、ラデノクロバー 4.5 1.3 11.3 9.0 2.6
荳科草予乾 2.6 0.6 6.5 4.5 1.3
荳科、禾本科混合
(禾本科出穂前)
予乾なし 3.6 0.9 9.0 6.8 1.8
予乾 2.6 0.6 4.5 4.5 1.3
荳科、禾本科混合
(禾本科出穂後)
予乾なし 2.6 0.6 4.5 4.5 1.3
予乾 - - - - -
禾本科草及び青刈麦類
(禾本科出穂前)
予乾なし 2.6 .7 9.0 6.8 1.8
予乾 1.8 .4 0.4 0.4 1.3
禾本科草及び青刈麦類
(禾本科出穂後)
予乾なし 18 0.4 0.4 3.4 0.9
予乾 - - - - -

 (その2) 埋草原料草の刈取適期とその時の固形量及び埋草前必要予乾時間

  J.K.WILSON (1937)
草種 刈取期 刈取期における
固形量(%)
埋草前必要
予乾期間(時間)
アルファルファ 1/4開花 22~27 3
ケンタッキーブリューグラス 開花前 25~30 2
麦類 乳熟期 22~27 3
レスペデーザ 1/2~全開花期 30~35 1
赤クロバー 1/2~開花盛期 23~28 3
大豆 莢の実1/2充実 23~28 4
スヰートクロバー 1/2~開花盛期 20~25 4
チモシー 開花前 25~30 2

 

4. 成績要約
 以上の成績を過去5年間の試験、調査によって得たが、草サイレージの特殊性、特に種々の有利なる点又はその安全なる調製法について、又その栄養的特性について研究を行った結果を要約すれば次の如くである。
 (1) 牧草類はデントコーンに比較して、醗酵性の糖分に乏しく、反対に蛋白質、石灰分に富んでいるので、草サイレージ調製にあたっては、
  二、三の注意が必要である。特に野草類は、粗剛であり、この点も考慮しなければならない。
 (2) 草サイレージ原料としては、各種牧草類、野草類、その他大豆、燕麦、小麦、大麦などの青刈類も利用し得る。
 (3) 赤クロバーサイレージを調製するには、刈取は1/2開花~盛期に行い、その発育状態或いは天候状態によっても異なるが、刈取り後2~
  4時間予乾を行い、運搬後切込時には1~2%のビートパルプ、麩、米糠、玉蜀黍粉など適当な添加物を選んで、これを加えつつ原料草
  1~2寸程度に細切りして切込む。デントコーンサイレージの場合の如く、加圧は充分にして詰込み、切込後上表面には加圧を兼ねて予乾
  しない草を加え、埋草後3週間位迄毎日サイロ内、特に周辺を踏付する。特にサイロは壁も平滑であり、窓もあるので、空気の入らぬ様に
  その排除に努めなければならない。天候事情により、刈取り後予乾の出来ない場合は、これに添加物を5~10%加えるのが最も安全であ
  る。
 (4) 荳科、禾本科草類の混合物については刈取は開花直前~開花期で2~3時間予乾し、1%内外の添加物も加え、細切りして充分加圧する
  のが良い。
 (5) 特に若刈りの赤クロバー、禾本科牧草又はラジノクロバーなどについては、水分が78~85%に達するので3~5時間の予乾を行っても5~
  7%の添加物により安全なサイレージが作られる。予乾しない場合は10~15%程度の添加物が必要である。
 (6) 野草サイレージの調製にあたっては、ヨシ、スズキ、シダ類、ハギなどの原料であれば、夫々出穂後(石狩、十勝、上川、胆振地方にあり
  ては8月上~中旬に刈取り、細切りして、これに5~10%の添加物を加えると良質のものが得られる。原料が過熟してたり、5%以下の添加
  物では良質のサイレージを作ることは若干困難の様である。
 (7) 豚用サイレージでは若刈牧草、澱粉粕、青刈作物、ポンキン、馬鈴薯などが考えられ、水分の多いポンキン、馬鈴薯では20~35%の添
  加物を必要とする。又牧草類で若刈りのものは嗜好性を高めるために予乾を行わないものでも添加物の10~15%添加が望ましい。
 (8) サイロを有しない農家にあいrては、土中サイロを利用することも出来るが、
   1) 排水良好な土地を選定する。
   2) サイロの壁は出来れば板囲いとし、加圧のために押蓋を作り、充分な加圧をする。
   3) サイロに雨水の入らぬように側溝と雨覆いをつけ、内部への侵入を防ぐ。
 (9) サイレージの原料水分が68~72%程度を適当とし、76%以上もの水分過剰の場合は、サイロ下部のサイレージが過湿となり、手触り、香
  気共に悪く、アンモニア臭を発生し、嗜好性も悪くなるものである。これを防止するために常に排水口をあけて、排水に努める必要がある。
  反対に62%以下の原料水分である時は、水分不足のために、空気の排出が不足となり、醗酵熱が上昇し、ムレて失敗する原因となる。
  原料中の水分が止むなく多い場合は、サイロ下部には麦(藁)稈を入れ、又排水口に注意し、これに原料水分の吸収と、醗酵性糖分の
  添加を兼ねた添加物の必要量を考慮しなければいけない。原料中水分が過少の場合は、サイロ内における空気の排出を計るため、切込
  の際、出来るだけ細切りし、加圧を充分に行う。又この場合水分含量の多い青草の混合とか、サイロ上部に澱粉粕などを混入させて、
  加圧により空気の排出につとめるのも一手段である。
 (10) 原料草の水分の判定は困難であるがデントコーンの場合であれば、手に握りしめて(強く)
       水滴が全然出ない        70%
       水滴がポタリポタリと出る    73~75%
       水滴がポタポタと出る       78~80%
    又牧草においては、押切で切った場合に
       刃に水がつき水滴が流れる程度    79~82%
       刃に水がつき水滴が出来る程度    76~78%
       刃に水がつき水滴が出来ない程度   72~75%
       刃に水がついても直ぐ消失する程度  70%前後
       葉が縮み、シナシナした感じ       65~68%
    の如き状態にあるものと見放して差し支えない。

5. 結び
 以上の成績に基づいて、安全且つ良質なるサイレージの調製にあたっては、各種条件における技術的に必要な処理方法及び添加物について要結すれば次の如くである。(第35表)

  第35表 草種別処理方法及び添加物
草種 刈取時間 予乾時間 水分(%) 糖蜜(%) 米糠、麩、穀実粉類
ビートパルプ(%)


赤クロバー
 
 
 
若刈 なし 80 5~7 12
3~4 72~75 5 5~7
開花盛期 なし 78 1~2 2.5~3
3~4 72 1 1~2

チモシー
オーチャード
又は
クロバー混合

発育期
草丈3~4尺
(開花前)
なし 79~80 3~5 7~10
3~4 73~75 1 2
出穂後
開花期
なし 75 1~2 2~4
3~4 72 0.2 1
各種野草 8月中旬刈取 - 65~68 5~6 10

(追記)
 以上草サイレージに関する一連の試験成績を取纏めたのであるが、先進国における草サイレージの研究状況は年と共に発展しつつあり、これに伴って農家の利用面においても技術的に広汎な分野を飼いたくしつつある現状である。
 我が国においても草地問題が大きく、取り上げられている折柄、草サイレージの利用は草の利用改善の上においても重要な役割をなすものであることを確信する。本試験成績以外に未だ未だ多くの問題も残されているが、これらについては今後の試験に俟つところに多い。