【指導奨励上の参考事項】

泥炭地水田に於ける三要素試験成績

美唄泥炭地研究室

 

1. 目的 
  泥炭地水田に於いて無機質肥料のみ連作施用した場合の泥炭土中の三要素の需給関係を知るために原土、客土別に昭和26年より試験を継続していたが、この間の気象条件を見ると、昭和26年は平年並で昭和27年は稍高温型であり、昭和28年は低温型で水稲の作況は遅延したが割合に成熟を遂げた年で、昭和29年は極端な低令型と云った可なり異なった型の年であったので、この間に於ける泥炭地水田に於ける各要素が如何に水稲の生育並びに収量に影響をもたらしたかを明らかにし、施肥上の参考に供したい。

2. 試験方法
  冷床     移植   1.0尺×0.5尺 2本植え、石狩白毛
  1区面積   12坪 1区制
  肥料     各要素共  反当 1貫、窒素-硫安   燐酸-過石   加里-硫加
  移植期    昭26~5月30日、昭和27、28~5月25日、昭29~5月22日

3. 試験成績
 (1) 生育概況
  昭和26年及び昭和27年の如き平年乃至は高温年に於いては無加里区の生育は不振で、下葉の黄変が著しく、加里の不足症状が画然と認められ、無燐酸区は茎数は概して劣るも草丈は次第に良好となる。無窒素区も初期生育は稍劣るも次第に良好となり特に昭和27年の高温時にその傾向が大で茎数も無加里、無燐酸区に比較すれば優るも三要素区には及ばなかった。従って登熟の状況も三要素区、無窒素区、無燐酸区、無加里区の順位を辿るようである。
 又、昭和28年及び昭和29年の如き低冷年では無加里区、無窒素区等が三要素区に準じて概して順調な生育を辿るのに反し、無燐酸区の生育は遅々で草丈は時日と共に稍良好になるも茎数劣り、登熟の状況も三要素区、無窒素区、無加里区と順次し無燐酸区は稍劣る傾向が見られる。即ち第1表に示す通りである。
 而して孰れの年も客土区に比較して原土区は劣り特に低温年に劣るも昭和27年の高温年に於ける原土区の著しく劣った原因については明らかではないが、同年に於ける原土区の生育状況は出穂迄は比較的順調に見られ、その後一向登熟に至らず所謂青立ちのままで終わった。
 このことは高温持続のため、泥炭の分解に伴う窒素の供給が持続され、栄養生長より生殖生長への転換不能によるものか、燐酸、加里の供給不足によるものかについては究明を要すべきことと考えられる。 
  第1表 各年に於ける草丈、茎数
区別 草丈(cm) 茎数(本)
出穂始 成熟期 出穂始 成熟期
昭和26   27   28   29 昭和26   27   28   29 昭和26   27   28   29 昭和26   27   28   29
客土 無肥料 58.1 70.1 75.2 60.8 81.2 80.4 82.1 81.3 12 9 7 8 12 8 8 8
無窒素 63.2 80.2 81.0 61.9 84.4 87.3 89.1 82.6 15 12 10 12 14 12 10 10
無燐酸 63.4 73.4 71.4 64.5 858 85.4 79.5 81.9 14 10 9 9 15 11 9 9
無加里 62.9 71.1 69.6 63.1 82.9 77.0 79.0 84.2 14 12 10 12 13 11 10 10
三要素 67.2 85.2 71.3 67.4 92.1 89.1 83.4 91.2 16 15 11 13 18 15 11 12
原土 無肥料 39.1 63.2 69.9 58.7 65.2 74.7 73.9 77.8 8 11 6 9 10 8 5 9
無窒素 50.5 75.8 65.3 66.1 72.5 82.3 73.2 80.5 12 13 8 10 12 12 5 8
無燐酸 51.3 65.9 75.6 67.0 77.7 76.2 70.3 78.3 16 12 6 8 14 12 3 8
無加里 51.1 57.4 72.3 61.4 76.4 64.0 76.8 76.3 11 10 8 13 10 11 5 10
三要素 58.4 76.6 67.6 62.5 76.5 78.3 70.7 74.0 13 14 8 12 13 13 9 9

 (2) 収量調査
  昭和26年及び昭和27年の如き天候順調な年に於いては、三要素区に亜いで無窒素区、無燐酸区、無加里区、の順位を示すも、昭和28年及び昭和29年の如き低冷年に於いては三要素区は最も優るも無窒素区に亜いで無加里、無燐酸は劣るを示していることは第2表の通りである。
 而して昭和27年の高温年に於ける原土区の収量の著しく劣ることに関しては生育状況の項で述べた通りである。
  第2表 各年の収量調査
区別 陌当玄米収量 青米歩合 玄米
1升重(匁)
玄米
1000粒重(匁)
昭和26
(kg)
割合
(%)
  27
(kg)
割合
(%)
  28
(kg)
割合
(%)
  29
(kg)
割合
(%)
昭和26
(%)
  27
(%)
  28
(%)
  29
(%)
客土 無肥料 2674 74 2779 77 2726 76 1758 69 10.5 7.2 38.0 45.0 369 22.7
無窒素 3435 95 3138 87 3236 91 1976 77 1.7 8.2 31.2 47.5 378 22.3
無燐酸 3295 91 2812 78 2524 71 1060 41 10.8 10.9 40.6 61.3 372 22.0
無加里 3305 91 1410 39 2744 77 1815 1 9.0 8.5 27.2 55.0 378 21.5
三要素 3618 100 3610 100 3568 100 2560 100 10.3 8.5 24.4 51.3 381 22.6
原土 無肥料 1104 43 63 9 113 20 219 29 3.3 16.9 34.4 35.7 ③362 ③20.7
無窒素 2269 89 60 8 145 25 738 98 11.1 16.2 11.2 36.3 ③372 ③22.2
無燐酸 2259 89 40 6 330 57 443 59 27 16.2 19.2 31.1 ③379 ③21.5
無加里 1772 70 17 2 526 91 552 73 3.5 14.6 24.6 36.9 ③376 ③21.2
三要素 2544 100 717 100 581 100 755 100 3.1 138 20.2 71.3 ③373 ③21.8
  備考  原土の場合の玄米1升重、千粒重は昭和27年を除く3ヶ年平均とす。

4. 総括
  泥炭地水田に於いては天候順調な年に於いては無加里区の生育が劣り、無燐酸区は当初の生育は概して不振で茎数も劣る傾向はあるが生育は次第に良好となり、無窒素区も初期育成は稍劣るを示すも高温時に向かい次第に良好となる。しかし三要素区に比較すれば孰れも劣り登熟の状況も三要素区、無窒素区、無燐酸区、無加里区の順位を辿る。
 反之天候不順の年は無燐酸区の生育が特に遅れ作況も遅延する。無加里区、無窒素区は三要素区には及ばないが、無燐酸区の程ではなく、無窒素区は草丈に於いて劣るも作況は概して進歩する傾向が見られる。而して客土区と原土区では天候の良否に拘わらず客土区の場合優り生育が健実で、特に天候不順時に於いてその傾向が判然と見られ、泥炭地水田における客土の意義も深め得られるものである。
 以上のことから泥炭地水田に於ける施肥に当っては天候の順調な年は加里、燐酸、窒素の順位と見るべきで、反之天候不順の年は燐酸、加里、窒素の順に考えるべきである。このことは極めて常識的となっているが、燐酸、加里については天候の良否により特に考慮を要すべきであると考えられる。