【普及奨励すべき事項】

赤クローバー マンモスクローバー (Mammoth Red clover)について

北海道農業試験場畜産部

 

Ⅰ 来歴
 本種は昭和29年、カナダから輸入し3ヵ年にわたっての品種比較試験の結果選ばれたものである。

Ⅱ 特性概要
 晩生1回刈で、茎葉に多くの繊細な毛茸を有し、茎は比較的硬い方であるが、開花前までは多汁質で軟らかく草丈は高い。初年目は普通の赤クローバーにくらべ、緩慢であるが、2年目以降はきわめて旺盛な生育をする。開花期間は中生赤クローバーにくらべやや長い。播種当年は開花せず、2年目以降は7月10日前後に開花期に達するが、2番草はほとんど開花しない。
 本品種は道北、道東の寒冷地を除けば2回刈も可能である。

Ⅲ 成績
 第1表 マンモスクローバーの特性調査表
品種名 草型
叢状
葉 Spot 毛茸 托葉
の色
夢色 花色 頭花
の形
花管長
(mm)
小花数
縮皺 葉斑 大さ 充実
程度
太さ
(mm)
縦長
(cm)
横長
(cm)
Altaswede 開、張、密 楕円 ヤ濃緑 弱~無 5.1 2.6 少~中 ヤ濃緑 ヤ充 3.94 赤褐 中~濃 淡赤紫 10.4±0.05 146.2±4.87
Dollard 直、立、疎 楕円 弱~無 中~強 4.8 2.9 ヤ濃緑 3.84 緑~黒褐 中~濃 赤紫 10.9±0.07 114.7±4.43
Kenland 直、立、中 長楕円 無~弱 中~弱 4.4 2.7 ヤ多 4.01 黒褐 赤紫 円錐 11.3±0.07 120.7±4.71
Mammoth 中、間、密 楕円 濃緑 5.6 3.0 4.22 ヤ濃 淡赤紫 10.3±0.05 114.0±5.95
Merkur 中、間、密 短楕円 濃緑 中~強 少~中 4.7 2.7 4.25 緑~赤褐 淡赤紫 10.2±0.06 124.5±6.04
Ottawa 直、立、疎 長楕円 濃緑 無~弱 中~強 4.9 2.9 濃緑 3.83 黒褐 赤紫 11.0±0.07 99.7±4.50
Sils 中、間、密 楕円 弱~無 4.7 2.7 ヤ充 3.93 ヤ淡 赤紫淡 10.2±0.06 122.8±4.48
道産在来種(美深) 直、立、疎 長楕円 無~弱 中~強 4.5 3.0 少~中 3.78 緑~黒褐 赤紫 ヤ紡錐 11.1±0.06 115.3±5.08
道産在来種(沼川) 中、間、疎 長楕円 無~弱 中~強 4.6 2.7 ヤ充 3.58 緑~赤褐 中~濃 淡赤紫 紡錐 11.7±0.07 112.4±3.84
  註  1. 調査年次  昭和31年

 第2表 マンモスクローバーの生育調査表
品種名 昭和30年 昭和31年
刈取時の
草丈(cm)
乾物率
(%)
1番草(月日) 2番草(月日) 刈取時の草丈(cm) 乾物率(%)
着蕾始
開花始
開花期
開花始
開花期
1番草 2番草 1番草 2番草
Altaswede 37.9±0.95 18.43 6.6 6.11 6.28 8.3 8.27 79.7±1.04 54.0±1.45 17.89 21.65
Dollard 59.1±1.57 18.40 6.1 62 6.18 8.1 8.12 79.1±0.94 73.4±1.41 17.46 18.73
Kenland 58.0±1.06 19.13 5.30 5.31 6.19 8.1 8.9 82.6±0.86 76.0±1.11 19.25 19.02
Mammoth 58.1±1.32 18.65 6.4 6.16 7.10   8.27 107.7±9.84 43.5±1.21 18.50 17.11
Merkur 38.6±0.96 18.91 6.8 6.16 7.10   8.27 99.7±1.42 41.0±1.78 19.87 21.23
Ottawa 55.0±0.99 19.70 5.29 5.31 6.16 8.1 8.6 82.6±1.11 75.7±1.30 20.01 18.79
Sils 45.5±1.47 20.29 6.4 6.6 6.26 8.3 8.27 83.7±1.30 69.5±1.34 17.22 2120
道産在来種(美深) 57.6±1.49 20.93 5.29 6.3 6.13 7.23 8.3 71.7±0.54 69.7±1.31 17.64 19.71
道産在来種(沼川) 59.8±1.12 19.71 6.1 6.6 6.13 7.23 8.3 73.0±0.82 71.0±1.06 16.74 16.30
品種名 昭和32年 病害 冬枯 備考
1番草(月日) 2番草(月日) 刈取時の草丈(cm) 乾物率(%) 3番草の
再生
開花始
開花期
開花始
開花期
1番草 2番草 1番草 2番草
Altaswede 6.18 6.28 7.30 8.14 66.7±1.20 40.3±2.02 21.21 20.42   + + L
Dollard 6.18 6.27 7.26 8.7 75.7±1.32 59.0±1.23 19.92 18.06   + M
Kenland 6.15 6.25 7.26 8.7 83.5±0.99 61.3±1.22 20.46 15.34 + - E
Mammoth 6.30   8.1   77.7±1.07 37.5±1.22 19.31 18.06   + - L
Merkur 6.19   8.1   72.0±1.23 35.8±2.28 20.22 18.41   + + L
Ottawa 6.12 6.22 7.25 8.6 77.3±1.20 64.2±1.36 20.16 15.60 + + E
Sils 6.17 6.30 7.30 8.3 69.2±1.30 46.7±1.32 18.95 19.95   + + M
道産在来種(美深) 6.15 6.25 7.26 8.7 88.8±0.99 66.2±1.31 19.54 13.80 + - E
道産在来種(沼川) 6.15 6.23 7.28 8.7 88.0±1.53 64.2±1.57 21.39 15.71 + - E
  註  1. 草丈調査は刈取時に実施した。
     2. 刈取日は1、2番草とも開花期に実施した。
     3. 病害は赤クローバー銹病、赤クローバー炭疽病を主とするが観察による病害発生程度は次の内容を示す。
       赤クローバー銹病  +(少)、++(中)、+++(多)     赤クローバー炭疽病 +(少)、++(中)、+++(多)
     4. 冬枯は主として菌核病によるが、その被害程度は観察によった。記号内容は次のとおり。
       - (ほとんど冬枯を認めず)、+(若干の冬枯を認る)、++(冬枯を顕著に認めうる)
     5. E.M.L の記号内容は次のとおり、  E…早生型、M…中生型、L…晩生型

 第3表 マンモス赤クローバーの収量調査成績(3ブロック合計の修正値)
品種名 昭和30年 昭和31年 昭和30.31年計 昭和32年 昭和30~32計
生草重
(kg)
乾物重
(kg)
同左%
生草重
生草重
(kg)
乾物重
(kg)
同左%
生草重
生草重
(kg)
乾物重
(kg)
同左%
生草重
生草重
(kg)
乾物重
(kg)
同左%
生草重
生草重
(kg)
乾物重
(kg)
同左%
生草重
Altaswede 23.65 5.08 68.1 88.62 17.47 95.9 112.27 22.55 88.3 50.38 10.80 51.3 162.65 33.35 72.2
Dollard 32.14 5.93 92.6 87.24 15.77 94.4 119.38 21.70 93.9 51.20 10.84 52.1 170.58 32.54 75.7
Kenland 27.34 5.23 78.8 112.17 21.50 121.4 139.51 26.73 109.8 72.32 14.13 73.6 211.83 40.86 94.0
Mammoth 57.40 6.97 107.7 102.35 18.63 110.8 139.75 25.60 109.9 71.53 13.80 72.8 211.28 39.40 93.8
Merkur 20.84 3.95 60.4 90.03 18.10 97.4 110.87 22.05 87.2 51.61 10.02 52.5 162.48 32.07 72.1
Ottawa 32.73 6.45 94.3 91.53 17.81 80.5 124.26 24.26 97.8 58.01   59.0 182.27 24.26 80.9
Sils 28.17 5.79 78.3 92.98 16.84 99.1 121.15 22.63 95.3 48.43 9.67 49.3 169.58 32.30 75.3
道産在来種(美深) 34.71 7.33 100.0 92.40 17.25 100.0 127.11 24.58 100.0 98.24 17.84 100.0 225.35 42.42 100.0
道産在来種(沼川) 32.20 6.33 - 99.78 16.30 - 129.98 22.63 - 94.30 18.69 - 224.28 41.32 -
  ※ 1区面積 5.2m×2.5m(収量調査面積 5.0m×1.5m)

Ⅳ 栽培上の注意
 1. マンモス赤クローバーは中生赤クローバーに比較して永続性が大きいと考えられるほかに、開花期の点でチモシーとほぼ同時期に成熟するので、チモシーとの混播による乾草生産
   は乾草品質の増進上のぞましいことである。
 2. 本道では赤クローバー、チモシーまたオーチャードグラスとの混播が多く、赤クローバーは播種後4年以降は著しく消滅し、ほとんど禾本科のチモシー、オーチャードグラスによって占
   有せられてしまう牧草が多いのであるが、草地の栄養生産性を高め、乾草等の飼料価値を高める上からも混播の場合に当初から普通赤クローバに本品種を加えて播種することが
   有利である。
 3. 本品種は中生赤クローバーに比較すると晩生ではあるが、より瘠薄な土壌にも生育し得るとされているから、本道中部以南の地帯では採草地造成上望ましい品種である。
 4. 本品種は開花成熟がすすむと粗剛となる傾向を有するので、早めに刈取りすることにより良品質のものが得られる。また緑肥用としても好適している。
 5. 本道在来種赤クローバーは本道に馴化し収量が高いよいものであってこれは早生型品種として利用すべきである。

Ⅴ 参考事項
 本試験結果によれば次の事項も明かであるからこれが利用は重要と考えられる。
 1. 北海道産在来種は供試品種中の最高収量を示しているから早生型品種としてこれが利用は大いに考慮さるべきだと考えられる。
 2. 試験結果によれば播種当年、2年目の2ヵ年間合計収量では Kenland がもっとも多収で、北海道産在来種を上回る成績を得ている。
   したがって赤クローバーの利用を播種後2年目までにとどめて第3年目以降は考慮しない場合は(たとえば緑肥または青刈飼料栽培) Kenland の利用が有利と考えられる。
 3. 供試品種の早晩性は開花期により次のごとき類別を行った。
       早生型  開花期  6月15日前後
       中生型  開花期  6月30日前後
       晩生型  開花期  7月10日前後
 4. 赤クローバーをチモシー、またはオーチャードグラスと混播して乾草となす場合、両牧草の開花期(または出穂期)は成熟程度と乾草品質を左右する一つの指標となりうるからできう
   れば同時期に合致することが望ましい。
   各牧草の開花期より次のごとき組合せが考えられる。