【普及奨励すべき事項】

薄荷の新品種に対する栽培体系について
B 植付時期について

北海道立農業試験場作物部特作第3研究室
北海道農業試験場北見支場

 

Ⅰ 目的
 薄荷新品種はその特性からして毎年更新することが望ましいので他の作物同様その植付時期の適期をうると否とは直接その年の収量におよぼす影響が大きいものと考えられる。
 ところで旧品種においては植付の適期は秋期土壌凍結前といわれ時期的に作業が相当困難であった。
 しかし旧品種の場合は長期の連作であったので、植付は数年に1度かもっと長い場合は20~30年に1度であったから、植付にともなう問題は比較的少なかった。ところが新品種はその特性から毎年更新することが望ましく従って他の作物と同様植付は毎年の作業となるので、植付時期の適、不適は直接その年の収量におよぼす影響が大きいものと考えられるわけである。 従来の植付法は春秋の種根植付および春期芽苗植付であるが、これらについて、新品種を用いて植付適期が検討された。

Ⅱ 成績
 1. 北見支場の成績
  (1) 試験方法
   (イ) 耕種梗概
畦巾 1/10陌当り施肥量(kg) 前作物 銹病防除
50cm 堆肥2000  硫安10
過石 20   魚粕 30
馬鈴薯 DDTボルドー液1回
ダイセン水和剤2回
  1区面積および区制  10㎡ (3.0坪) 2区制
  供試品種 「涼風」
  供試面積 220.0㎡  (66.7坪)

   (ロ) 試験区別
試験区別 植付当時の種根及び芽苗の状態 1/10陌植付量
秋期
種根
植付
10月10日 種根の芽は細く黄色(覆土) 150kg
10月20日     〃     (〃)  〃
10月30日     〃     (〃)  〃
11月10日     〃     (〃)  〃
春期
種根
植付
4月20日 種根の芽ややふくらみ淡紅色(覆土) 150kg
4月30日 ほとんどの種根が地表面わずかに芽を出しているが葉は展開していない(〃)  〃
5月10日 その大部分の葉が展開している(〃)  〃
5月20日 草丈5cm程度 葉数4葉(〃)  〃
春期
芽苗
植付
5月20日     〃   (苗植) 20000本
5月30日 草丈10cm程度 葉数8~10葉(〃)  〃
6月10日 草丈13cm程度 葉数12~14葉(〃)  〃

  (2) 収量調査成績(昭和30.32年の平均)
品種名 栽植
年数
収穫期調査 50cm間
個体数
(個体)
1/10陌当り収量(kg) 油重
割合(%)
収油率
(%)
反当
斥数
(斥)
草丈
(cm)
葉数
(枚)
枝亜数
(本)
生草重 乾草重 油重
秋期
種根
植付
10月10日 81 184 34 14 1643 415 2.967 100 0.18 4.95
10月20日 79 222 37 16 1778 455 3.586 121 0.20 5.98
10月30日 87 275 37 15 2052 505 3.831 129 0.19 6.39
11月10日 82 246 37 14 1597 399 3.323 112 0.21 5.54
春期
種根
植付
4月20日 81 220 33 15 1776 441 3.737 126 0.21 6.23
4月30日 80 203 32 17 1812 457 3.413 115 0.19 5.69
5月10日 80 218 29 16 1565 410 3.365 113 0.22 5.61
5月20日 62 211 36 7 979 258 1.812 61 0.19 3.02
春期
芽苗
植付
5月20日 79 209 36 5 1642 413 3.456 116 0.21 5.76
5月30日 77 227 42 5 1582 402 3.049 103 0.19 5.08
6月10日 67 238 36 5 1169 321 2.562 86 0.22 4.27

 2. 第3研究室の成績
  (1) 試験方法
   (イ) 植付時期と萌芽率
    「万葉」の種根を尖端より10cmに切断し、各時期に畦巾50cm、30間4本立として、畦長3mとして2反復で試験した。施肥量は窒素11.3kg、燐酸9.7kg、加里7.5kgを春期に硫安、過燐酸
    石灰硫酸加里で施用した。収油量は微量定量法で行った。土壌水分は午後2~3時に土壌を採取し加熱乾燥法で測定した。

  第1表 植付時期別土壌水分調査成績
植付時期 植付法 土壌水分(%) 降水量(mm) 萌芽
歩合(%)
0~3cm 3~10cm 本年 平年
10月下旬 秋植 21.6 24.9 5.1 20.4 95
4月下旬 春植 11.3 22.5 3.2 13.2 84
5月上旬 春植 8.9 20.5 4.7 13.8 76
5月中旬 春植 9.4 22.8 21.4 19.3 80
5月下旬 苗植 10.0 26.2 82.6 13.2 82

  第2表 植付時期別収量調査成績(10個体当)
植付時期 草丈
(cm)
枝亜数
(本)
葉数
(枚)
生草重
(g)
油重
(g)
種根重
(cm2当)kg
10月下旬 89 31 251 730 1.21 1.30
4月下旬 74 29 234 550 1.13 0.94
5月上旬 68 30 136 340 0.79 0.56
5月中旬 60 24 102 370 0.69 0.68
5月下旬 72 29 181 370 0.85 0.70

 土壌水分は10月下旬がもっとも高く、4月下旬以降は急減した。特に5月上、中旬が少なかった萌芽率は10月下旬がもっとも良く、種根の4月下旬植と芽苗の5月下旬植が順次し種根の5月中旬植と5月上旬植が不良であった。
 又生育収量ともに10月下旬がもっとも良く4月下旬植がこれにつぎ、5月以降植付は著しく低く銹病も増加する傾向を示した。

   (ロ) 土壌水分と枯死率
    草丈10cm位の「万葉」の稚苗を1/20000ワグネルポット1ポット当10個体で植付け、2区制として土壌水分(重量%)を10~50%に調節し、5月15~25日の10日間処理した。

  土壌水分と萌芽ならびに枯死割合
   
  註 土壌水分は午後2~3時に土壌を採取し加熱乾燥法で測定した。

 土壌水分が30%の際は萎凋する程度であるが20%位になると地下部の枯死するものが生じ、10%になると大半が地下茎まで枯死した。稚苗は土壌水分が20%以下になると旱害を受けるものとみてよい。

Ⅲ 普及上の注意
 新品種は越冬性が比較的良好なので、早期に植付しても旧品種ほどの冬損は認められない。従って秋期植付は10月下旬を中心として行われることが望ましい。春期種根植付は4月中下旬が良好と認められるが融雪期の変動や種根の堀取労力が秋期より倍増され、また他作物の播種時期との重複などによって時期を失するおそれが多い。
 作業の都合でどうしても春植とする場合は融雪後土壌水分が適湿を保持している間にできるだけ早く植付けることが肝要である。なお春期芽苗植付は欠株の補植程度とし5月中に行うのがよい。遅れると収量が低下するばかりでなく銹病の多い年ではその被害を大きくする危険がある。