【普及奨励すべき事項】

水稲に対する尿素の施用法について

北海道農業試験場土壌肥料第3研究室

 

Ⅰ 普及上の注意
 水稲に対して尿素を基肥として施用する場合は灌水前3~9日の間であればいつ施用してもよいが、大体灌水前5日を目途として施用し土壌とよく混和しておくのがもっとも安全である。また北海道農業試験場の水田土壌においては、施用された尿素は4~6日の間にほとんど全部アンモニア化し、またアンモニアから硝酸に変わる程度は尿素施用後9日までの間であれば極めて僅少でほとんど問題にするに足らない。

Ⅱ 成績
 1. 北海道農業試験場の成績
  (1) 試験方法
    施肥設計 - 反当窒素1.8貫、燐酸1.2貫、加里1.0貫、無堆肥
    施肥方法 - 全層施肥区はそれぞれ所定の期日に施用する全肥料をその場で配合して区内にそれぞれ均一に施肥し、しかる後に三本鍬をもって土壌と肥料の混合を図った。
             (約5寸)
             表層施肥区は植代終了の翌日に、施用すべき全肥料をその場で配合して区内にそれを橋板上より、均一に撒布ししかる後レーキをもって土壌と肥料の混合を
             はかった。(1寸内外)
  (2) 特殊調査成績  Nmg/乾土100g
               田面水はN.ppm
   (イ)NH4-N
   (9日前) (7) (5) (3) (灌水日) (荒代) (田面水) (植代) (田面水)
24/5月 26 28 30 1/6月 3 3 4 4
無窒素 2.94 3.65 2.69 3.10 4.41 6.13 1.91
硫安(表層) 6.36 118.80
 〃 (全層) 15.15 19.45 13.62 9.89 2.73
尿素(9日目灌水) 1.58 7.02 14.57 14.79 12.37 10.16 3.82
 〃 (7日目灌水) 7.33 8.59 10.94 14.38 10.80 3.28
 〃 (5日目灌水) 4.49 10.38 12.62 9.79 3.28
 〃 (3日目灌水) 4.62 10.25 10.07 3.82
 〃 (直後) 4.28 9.99 2.73
 〃 (荒代) 3.47 3.93 5.37 2.18
 〃 (表層) 9.09 2.73

   (ロ) NO3-N
   (9日前) (7) (5) (3) (灌水日) (荒代) (田面水) (植代) (田面水)
24/5月 26 28 30 1/6月 3 3 4 4
無窒素 0.65 0.17 0.35 0.16 0.23 0.02 0.20
硫安(表層) 0.02 0.40
 〃(全層) 0.18 0.23 0.32 0.02 0.28
尿素(9日目灌水) 0.28 0.27 0.28 0.48 0.68 0.04 0.52
 〃 (7日目灌水) 0.18 0.15 0.33 0.48 0.02 0.60
 〃 (5日目灌水) 0.21 0.23 0.38 0.02 0.72
 〃 (3日目灌水) 0.16 0.32 0.02 0.52
 〃 (直後) 0.12 0.02 0.52
 〃 (荒代) 0.04 0.60 0.02 0.72
 〃 (表層) 0.02 0.40

  (3) 生育・収量調査(三連平均)
   13/7月 30/ 成熟期 反当収量(貫) 収量比
(%)
一升重
(匁)
千粒重
(g)
籾重
/総重
籾/藁
草丈 茎数 草丈 茎数 草丈 穂長 穂数 総重 藁重 精籾重 粃重 玄米重
無窒素 34.4 7.7 53.9 15.2 79.3 17.0 12.3 188.6 75.7 111.6 1.4 92.7 68.6 393 20.9 59.2 1:1.49
硫安(表層) 35.0 12.8 56.6 21.8 82.2 16.6 15.9 229.5 99.2 126.3 4.0 104.6 77.4 391 20.2 55.0 1:1.31
 〃(全層) 37.1 11.8 62.9 30.9 93.5 18.2 20.0 313.8 143.3 163.3 7.1 135.2 100.0 387 19.3 52.0 1:1.19
尿素(9) 36.5 11.9 62.8 29.2 91.4 17.9 20.1 310.9 141.4 164.2 5.3 136.1 100.7 388 19.2 52.8 1:1.20
 〃 (7) 37.7 11.6 62.8 29.2 92.1 18.1 20.1 312.0 142.1 164.6 5.3 135.4 100.1 386 19.1 52.8 1:1.20
 〃 (5) 37.1 12.3 62.5 30.3 93.6 18.1 20.5 319.8 147.2 164.6 8.0 136.4 100.9 385 19.2 51.5 1:1.17
 〃 (3) 37.6 12.4 61.4 29.4 92.2 17.7 19.5 306.8 137.9 162.6 6.3 134.5 99.5 387 19.5 53.0 1:1.22
 〃 (直後) 36.3 10.3 61.6 26.7 90.6 18.3 19.2 292.4 130.2 155.1 7.1 128.6 95.1 387 20.3 53.4 1:1.25
 〃 (荒代) 36.2 11.0 61.3 26.4 89.7 17.6 18.7 291.0 131.5 153.5 6.0 127.3 94.2 385 19.5 52.7 1:1.21
 〃 (表層) 35.0 10.3 55.8 18.3 80.5 17.1 13.7 212.4 88.4 121.8 2.2 100.9 74.6 391 20.8 57.3 1:1.40

 硫安全層5日目灌水、尿素9.7.5.3日目灌水の各区は生育の全期を通じて、草丈、茎数、葉色ともに差異が認められなく、ほとんど同等であったが、硫安尿素5日目潅水区は他区にくらべ葉の枯れ上りが不良で、収穫時においてもかなりの緑色を呈していた。
 尿素直後灌水、荒代施肥区は終始同等の生育を示して、差異は乏しかった。両区の生育状況を上記灌水以前全層施肥区に比較するとかなり劣っており、特に分げつ数において顕著に認められた。硫安表層施肥区は生育の初期においては他区より優る生育を示したが、7月中旬にいたるとN不足の症状を顕著に示して生育が著しく不良となるとともに、葉色も淡黄緑色を呈しそのまま栄養生長期を終えた。
 尿素表層施肥区は生育全期にわたって硫安表層施肥区より生育が劣り、その生育相はほぼ無窒素区に類似しているように認められた。
 収量では硫安全層5日目灌水、尿素9,7,5,3日目灌水の各区はいずれも同等の収量を収めて差異はほとんど認められなかった。 尿素直後灌水、荒代施肥区は前記全層施肥区より、いずれも約5%内外収量劣り、また硫安、尿素表層施肥区はそれぞれ約25%の減収を示して表層施肥区は著しく肥効の劣ることが認められた。
 アンモニア化成は畑状態では4~5日間においてほとんど終了し、灌水下の土壌でもかなり起こるようである。硝酸化成は施用後4日頃より認められ、8日後でも0.5mgにも達せずまた硫安と大差なかった。しかし灌水後の田面水には施用尿素に由来する硝酸の分解が認められた。

 2. 各地のおける水稲作に対する尿素施用法試験収量指数一覧表
           町村
項目          
石狩町
(6) %
妹背牛町
(5) %
中富良野村
(5) %
風連町
(5 )%
共和村
(7) %
厚真村(1)
(3) %
厚真村(2)
(4) %
池田町
(5) %
北見市
(5) %
渡島支場
(7) %
上川支場
(6) %
北見支場
(7) %
尿素全層施肥後数日目潅水区 98.2 111.3 97 116.2 89.4 125 103.6 101.4 94.5 99 97.7 97.4
尿素荒代時施用区 101.8 106.8 102 96.1 90.4 111 109.6 83.3 93 93 97.5 94.4
尿素施肥直後潅水区 100.7 93.3 93.6 90.9 89.2 118 97.5 98.7 91 89 95.2 112.7
硫安全層施肥直後潅水区 100 100 100 100 100 100 100 100 100 (3)100 100 100
土性 砂土 泥炭土 泥炭土 埴土 埴壌土 埴壌土 埴土 埴土 壌土 壌土 埴壌土 埴壌土
水持・減水深(1日当) 45cm 10cm 1.8cm 1.6cm 1.6cm 1.3cm 1cm 5.1cm 3.5cm 4.5cm
乾・湿田別 乾田 半乾田 乾田 乾田 湿田 半乾田 半乾田 乾田 乾田 乾田 乾田 乾田
移植期 5.30 5.29 6.1 5.27 6.6 6.2 6.1 6.5 6.4 5.23 6.1 6.5
供試品種 照錦 豊光 栄光 キタミノリ 新栄 栄光 新栄 北糯 農林20号 南栄 照錦 農林20号
施肥量
(貫/反)
N 1.200 0.600 0.966 1.200 1.500 1.470 1.682 1.300 0.400 1.500 1.700 1.620
P2O5 1.000 1.295 1.462 1.500 1.200 1.560 1.485 1.680 0.660 1.400 1.700 1.620
K2O 0.900 1.500 0.900 1500 1.000 1.200 1.000 1.500 1.000 1.000 150 1.000
堆肥 0.200 0.150 0.200 0.200 0.200 0.200