【普及奨励すべき事項】
カーフミール(Calfmeal)による犢の育成について
北海道農業試験場畜産部 |
最近の酪農事情から犢哺乳用の脱脂乳を節約して、粉乳の増産を図ることが要望されているので、脱脂乳の代用飼料とも称すべき、カーフミール調製を行い、これによる犢育成試験を実施して、犢育成飼料としての価値や育成法を明らかにした。
Ⅰ 試験方法
この試験では第1回試験、カーフミールによる牡犢育成試験と第2回試験、カーフミールによる牝犢育成試験の2回試験を実施した。
第1回試験では牡犢12頭を6頭宛A及びB群の2群に分け、A群は脱脂粉乳40%含むカーフミールA配合、B群は脱脂粉乳24%含むカーフミールB配合で育成した。
第2回試験では牝犢12頭を6頭宛A及びB群の2群に分け、A群に番外1頭を入れ、A群はカーフミール(A及びB配合)、B郡は脱脂乳、(カーフミールの8倍重量)で育成した。
1. 試験期間
試験は生後15日より始め、生後105日まで育成して一応試験を終えた。なお生後105日でカーフミールを廃し乾草と濃厚飼料で育成することにしたが、その後の発育状況を知るため、
A群中2頭は残し現在も育成を続行している。
2. 供試カーフミールその他併用粗飼料及び濃厚飼料
これらの配合割合は1、2表のとおりである。第2回試験では生後63日までカーフミールA配合を用い、以後はカーフミールB配合を使用した。粗飼料としてはオチャードグラス2番乾草を
草架に入れ自由に採食せしめたが、第2回試験後半には、オチャードグラス2番牧草が不足したので1番牧草を使用した。
3. 飼料給与法
カーフミールは全乳または温湯(35~38℃)に振込み、牛乳攪拌機で良く混ぜて飲ませた。溶し方はカーフミールの10倍重量の湯、すなわちカーフミール500gは5kgの湯、カーフミール
1封度を2升5合の湯にとかした。濃厚飼料は粉のまま飼槽に入れて与えた。なお朝のカーフミールには肝油を日量3g(1g中V.A5000単位ふくむもの)を添加した。
哺乳回数
1日3回、午前7時30分、午前11時30分、午後4時30分
4. その他の管理
第1回試験に供用した牡犢は生後80日(4月中旬頃)から晴天の日を見計らい、牛舎附属の運動場に放し自由運動を課すると同時に日光浴をさせた。
5. 調査事項
体重、体高、胴長、胸囲、管囲について、第1回試験では生後14日より6日毎に、第2回試験では生後15日より1週間間隔で生後105日(15週)まで調査を行った。
Ⅱ 成績
1. 発育
第1回試験期間中7期、生後14日、32日、52日、62日、74日、80日、105日等試験開始時及び終了時と中間の5期をとって検討した結果ではすでに生後50日目からA群はB群より増体量
及び増体率がmさっており、時期の経過につれて、其の差が大きくなり、105日目の増体量は平均A群72.9kg、B群63.7kgで9.2kgの差が見られ、また増体率は平均A群139%、B群は126%
で13%の差がみられ、カーフミールA配合の方がまさることが確かめることができた。
次に両群の発育成績を著名な牡犢発育標準と比較すると次表のとおりである。
群別 | 生時(g) | 生後30日(g) | 生後60日(g) | 生後120日(g) | 備考 |
A群 | (生後32日) 63700 |
(生後62日) 90100 |
(生後105日) 125400 |
||
B群 | (生後32日) 60700 |
(生後62日) 81500 |
(生後105日) 114300 |
||
参考 | 43600 | 54700 | 71300 | 120300 | 米国、6州農業試験場分 農務省においての調査 |
上の表より今回の牡犢育成試験成績は生後約1ヵ月ですでに発育標準より幾分まさり、生後2ヵ月ではその差はさらに大きくなりA群は約20kg、B群は約10kg重く生後120日ではA群は恐らく135kg、B群においても120kgは凌駕するものと予想せられた。
従って発育標準に比較して、控えめに見てもA群は1割増、B群は標準並の発育を示したものと認められる。以上のごとく育成成績は極めて良好であるが、これのみでカーフミールの良否を決定しかねるので、さらにカーフミールの給与量を検討した。この試験設計は試験開始当時、カーフミールの給与量を普通より多目に与えることにした。すなわち最高量(生後60日~63日頃)として1800g与えた。
この試験では栄養分を多く与えたから発育も標準を上廻ったものとも考えられるので、第2次試験ではカーフミールの最高給与量を約1割減じて試験を行った。第2次試験成績は試験期間中、試験開始時及び終了時と中間1週毎の測定日の14期をとって検討した。
Aカーフミール群、及びB脱脂乳群の間には生後7週頃までは増体量について大きな差が見られなかったが増体率については生後5週頃から次第に差を生じ生後7週頃には11.2%の差が見られ、A群はB群よりやや劣るものと思われた。その後も増体量はB群の方がまさり生後105日目には平均A群57.5kg、B群62.3kgでB群の方が4.8kg多く、また増体率は平均A群119%、B群153.8%で34.8%の差がみられた。ただし105日目の生体量は群105.8kg、B群102.8kgでA群の方が3kg多かった。これらの成績によるとA群はB群より劣るように思われ、その主な原因は生後63日までカーフミールA配合を与えていたものを以後前者より栄養価値の低いカーフミールB配合に切りかえたことによるものと思われる。しかしながら両群の発育成績について統計処理を行った結果では両群間に有意差が認められなかったから、カーフミール(特にカーフミールA配合)1kgは脱脂乳B1kgと匹敵するものと考えても差し支えないものと思われた。
次に両群の発育成績を米国のRagsdaleの牝犢発育標準と比較してみると、増体量は生後11週頃までは両群共標準を遙かに上廻っていたが、以後発育が緩慢となり試験末期にはA群は生後91日頃、B群は生後98日頃から標準を下廻る結果となった。
この結果は試験後半には優良なオチャードグラス2番乾草が得られなかったこと、生後90日以後にカーフミールや脱脂乳の給与量を減じたこと、また試験末期が丁度寒冷の時季に入る等諸種の悪条件が重なったことに起因するものと思われる。
2. カーフミールの有利性
このカーフミールにより犢を育てることの有利性は、使用法が簡単で手間がかからぬこと、下痢その他故障が少なく、しかも発育が良く廉価なことである。昭和32年5月、北連の調べによるとカーフミールの末端価格は次表のとおりである。
カーフミール 価格 |
カーフミール A配合 |
カーフミール B配合 |
末端価格(kg当り) | 85円16銭 | 52円68銭 |
〃 (1封度当り) | 38円32銭 | 32円70銭 |
脱脂乳換算(1升当り) | 15円33銭 | 13円08銭 |
濃厚飼料末端価格は1kg当り45円80銭である。
第1回試験期間中における牡犢育成飼料費(牛乳、カーフミール、濃厚飼料)はカーフミールA配合使用の場合10686円、カーフミールB配合使用の場合9645円であった。
Ⅱ 普及上の注意
試験成績のように、このカーフミールで育成した犢の発育は良好なものであった。犢の育成は脱脂乳のみに頼るよりも、乾草や濃厚飼料を早くから採食させるよう努めるのがよいのであって、本試験の示すごときカーフミールを利用した育成方法は適当なものと認められる。
(1) 現在数種のカーフミールが市販されているが製品により栄養分が異なるから、それぞれの栄養分や使用法を良く調べて用いること。
(2) この試験の犢発育は、オチャードグラス1、2番乾牧草、カーフミール及び濃厚飼料を用いて得たものであるから粗飼料や濃厚飼料の品質の悪い時は必要栄養分を満たすようカーフ
ミール濃厚飼料の増量を考慮する必要がある。
(3) カーフミールを与えて飲み残す場合は溶かす湯の量を減ずること。
(4) カーフミール給与に当たっては肝油を日量3g宛添加し、また万一下痢を見つけた時には、なるべく早く下痢や発育に有効な抗生物質、飼料、例えばオーロフアツクAを次表により投
与すること。
日令 | 1~10日 | 11~30日 | 31~60日 | 61~90日 |
投与量(g) | 7 | 14 | 21 | 28 |
また胃腸障害を起こしたときは日量を減じ給与日数を延ばす等の注意が必要であるが、下痢の主な原因はカーフミールそのものよりも犢房内の不潔すなわち糞尿に汚れた敷草を舐めたり喰ったりすることによる場合が多いから常に犢房内を清潔にし、草架には食草を入れて置く必要がある。
(5) カーフミールを溶かす湯は良質のものを使用すること、またカーフミールを多く飲ませているときは飲水の不足をきたさないが、給与量の少ないときは別に水を飲ます必要がある。
(6) この試験では生後15週でカーフミールを打ちきっても、良好な犢の発育がみられたが、発育不良のものが生じた場合を考え、生後15週前後の飼料給与基準を示せば次のとおりで、
生後15週でカーフミールを打ちきる場合は(イ)例で給与し発育不良のものは(ロ)例で給与することが望ましい。
(イ) 例
生後週齢 | カーフミール | 濃厚飼料(g) | 乾草(g) |
生後15~17 | - | 1500 | 1500 |
生後18~26 | 2000 | 2000~2500 |
(ロ) 例
生後週齢 | カーフミール(g) | 濃厚飼料(g) | 乾草(g) |
生後12~15 | 1000~700 | 800 | 1000 |
生後16~21 | 700~500 | 800~1500 | 1500 |
生後22~26 | 500~0 | 1500~2000 | 2000~2500 |
第1表 カーフミール配合割合(%)
A配合 | B配合 | ||||||
飼料名 | 配合割合 | D.C.P | T.D.N | 飼料名 | 配合割合 | D.C.P | T.D.N |
配合脱脂 | 50 | 14.17 | 37.16 | 配合脱脂 | 30 | 8.50 | 22.37 |
大豆粕 | 15 | 6.57 | 11.20 | 大豆粕 | 15 | 6.57 | 11.20 |
亜麻仁粕 | 15 | 3.87 | 9.62 | 亜麻仁粕 | 19 | 4.90 | 12.19 |
小麦粉 | 10 | 1.58 | 7.35 | 小麦粉 | 15 | 2.37 | 11.02 |
玉蜀黍 | 7 | 0.67 | 5.43 | 玉蜀黍 | 10 | 0.96 | 7.75 |
魚粕 | 魚粕 | 3 | 1.44 | 1.56 | |||
ルーサンミール | ルーサンミール | 5 | 0.79 | 2.64 | |||
骨粉 | 1 | 骨粉 | 1 | ||||
炭カル | 1 | 炭カル | 1 | ||||
塩 | 1 | 塩 | 1 | ||||
計 | 100 | 26.86 | 70.76 | 計 | 100 | 25.53 | 68.66 |
第2表 濃厚飼料配合割合(%)
飼料名 | 配合割合 | D.C.P | T.D.N |
燕麦 | 30 | 4.51 | 20.75 |
玉蜀黍 | 30 | 2.88 | 23.26 |
麩 | 20 | 2.61 | 12.48 |
亜麻仁粕 | 13 | 3.35 | 8.34 |
魚粕 | 5 | 2.41 | 2.59 |
炭カル | 1 | ||
食塩 | 1 | ||
計 | 100 | 15.76 | 67.42 |