【普及奨励すべき事項】

笹地における牧草導入法とその効果について
D 笹地更新による牧草地の放牧効果

北海道立農業試験場畜産部牧野研究室

 

Ⅰ 目的
 笹地を高度集約的に、合理的な機械力、追肥などによって、かなり効果的な草地造成の可能性を示したが追肥管理の良好および不良の草地と、放牧による乳牛の生産効果を明らかに
 する。

Ⅱ 試験方法
 1. 供試圃場
  いずれも同前
  調査年次 ~ 1954年は若干、1957年は搾乳牛による放牧試験

 2. 試験区分
  1957年における笹地更新による牧草放牧地の良好、不良両地区において、草類育成期間中、月別生草量および植生割合、栄養組成は、追肥(草地用尿素化成肥料:6:11:11)反当15
 貫の良好区では6ヵ月の生育期間の月平均生草量は反当0.9屯で平均荳科牧草58%、禾本科牧草37%を含み、極めて良好な草生状態を維持したのに対し、追肥を行わない不良区は月
 平均反当生草量わずかに270kg、荳科23%、禾本科47%、雑草30%の植生で特に8月以降は植生の悪変が著しかった。
  またその平均栄養組成でも良好区は固形量と粗蛋白質がそれぞれ17.7%、23.8%であったのに対し、不良区では22.3%、18.3%で、また不良区における30%の雑草はヘラオオバコ、ササ、
 スゲ、ヨモギなどが大部分であったのに対し、良好区ではギシギシその他5%侵入したに過ぎなかった。

  第14表 1957年における両区の月別生産量、植生およびおよび栄養組成
区分 刈取月 月別反当
生草量(kg)
植生割合(%) 固形量
(%)
一般組成(無水分中%)
荳科
牧草
禾本科
牧草
雑草 雑草の主なるもの 粗蛋
白質
粗脂肪 NFE 粗繊維 粗灰分
良好区
(追肥)
5 825 49.3 46.5 4.2 ギシギシ 16.9 23.6 4.9 41.0 20.6 9.9
6 1600 31.4 60.9 77 スゲ 18.2 17.0 4.6 46.1 23.6 8.7
7 1063 62.0 31.9 6.1 ギシギシ 15.8 26.1 5.4 31.2 25.2 12.1
8 850 61.0 33.0 6.0 アザミ、ギシギシ 18.7 21.4 4.8 34.1 29.3 10.4
9 762 64.4 22.6 13.0 フェスク、ギシギシ、タンポポ 15.1 31.4 6.8 31.7 21.4 8.7
10 125 80.0 19.0 1.0   21.5 23.3 6.3 48.8 13.5 8.1
平均 871 58 37 5   17.7 23.8 5.5 38.7 22.3 9.7
不良区
(無追肥)
5 213 22.3 68.0 9.7 ヘラオオバコ、スゲ 22.4 18.9 4.5 54.3 15.5 6.8
6 480 10.6 63.4 26.0 アザミ、ヘラオオバコ、スギナ、ササ 23.0 13.1 4.3 52.3 22.4 7.9
7 350 55.5 32.4 12.1 ヘラオオバコ、ヨモギ、ヒメジヨン、チドメグサ 18.0 23.1 5.3 38.9 22.3 10.4
8 300 20.1 35.0 44.9   20.8 19.7 4.3 41.6 23.4 10.8
9 213 23.1 32.3 44.6 ヘラオオバコ、ササ、スゲ 20.2 21.3 5.6 46.0 18.5 8.6
10 40 5.0 40.0 55.0 ヘラオオバコ 29.1 17.5 4.7 52.4 17.4 8.0
平均 266 23 47 30   22.3 18.9 4.8 47.6 19.9 8.8

  第15表 供試飼料の栄養価
区分 一般組成(原物中%) DCP
(%)
TDN
(%)
水分 粗蛋
白質
粗脂肪 NFE 粗繊維 粗灰分
配合飼料  * 14.0 13.2 3.2 49.3 14.8 5.5 11.0 63.5
2番乾草   * 17.5 11.6 4.0 32.1 25.8 9.0 6.4 45.5
残食草   * 43.3 7.7 1.9 23.4 20.0 3.7 4.6 31.8
良好区採食草 ** 82.3 4.2 1.0 6.9 3.9 1.7 2.9 11.4
不良区採食草 ** 77.7 4.2 1.1 10.6 4.4 2.0 2.9 14.0
  註 * MORRISON(1945)の消化率   ** 両区のProtect cageにより調査、HARDISON(1953)の消化率

  第16表  供試牛の状態
組名 区分 供試牛名 産次 生年月 最終分娩月 体重(kg) 4%FCM(kg)
1 A ヘンドリツク、ロメオ、ブリリーフラワー 5 25.1 31.1 640 10.6
B 第2ヘンドリツク、ロメオ、ドライクイン 3 27.2 31.8 543 11.7
2 A アイコールヘンドリツク メリーアスター 1 29.9 32.1 491 10.6
B アイコールヘンドリツク ネリー 2 27.9 31.4 516 10.1
3 A 文月 3 27.7 32.2 574 11.8
B 陽月 1 27.10 31.10 520 8.4

 これらの更新草地について、1954年に若牝牛、1957年に搾乳牛のそれぞれの放牧試験を行った。

Ⅲ 成績
 1. 乳牛による草地からのTDN生産量は、若牛では良好区(追肥)が1.9倍、搾乳牛で2.1倍それぞれ不良区(無追肥)より優れた。
   延放牧頭数についても若牛で1.5倍、搾乳牛では草地の生産TDNが、良好区において延標準牝牛を552頭、(すなわち本道では放牧利用期間が135日として、1年間町当3.7頭の放牧
  可能)の放牧が可能であることを示したが、一方不良区では252頭(町当1.7頭)であって、追肥による放牧効果の高いことを示した。
   また町当延生産乳量では、良好区は不良区より約4000kg(約20石)多く、町当70000円の粗収入増加となった。これらの点から草種、草質の改善の結果は肥料代および労力をみても
  十分採算のとれるであろうことを示した。

  第17表  両放牧地における試験牛による5反当りのTDN生産量
区分 供試牛名 放牧延
頭数
試験
開始時
体重(kg)
維持に要したTDN(kg) 増体に要したTDN(kg) 産乳に要したTDN(kg) 合計
TDN(kg)
草地外給与飼料 差引
TDN(kg)
1日維持
TDN
延TDN 増体重 必要TDN 4%FCM 必要TDN 配合飼料 2番乾草 合計TDN
(kg)
良好区
プリリフラワー 71 620 5.10 362.1 3.0 10.6 999.5 346.8 719.5 145.3
(228.8)
64.0
(140.7)
209.3 510.2
アスター 71 493 3.97 281.9 27.0 95.0 764.5 265.3 642.2 126.6
(199.3)
64.0
(140.7)
190.6 451.6
文月 71 560 4.56 323.8 66.0 232.3 880.1 305.4 861.5 138.2
(217.6)
64.0
(140.7)
202.2 659.3
不良区3頭 24 506 4.06 97.4 10.0 35.2 256.6
(290.7)
89.0 221.6 37.1
(68.4)
29.3
(64.5)
66.4 155.2
平均または計 237 544 1065.2 373.1 12.2 1006.5 2444.8 3.0 2.1 668.5 1776.3
不良区
ドラクイン 38 519 4.20 159.6 51.0 179.5 502.1 174.2 513.3 76.7
(120.8)
68.7
(151.0)
145.4 367.9
ネリー 38 491 3.95 150.1 27.0 95.0 451.7 156.7 401.8 68.8
(108.4)
68.7
(151.0)
137.5 264.3
陽月 38 491 3.95 150.1 38.0 133.8 366.3
(1320.1)
127.1 411.0 58.4
(92.1)
68.7
(151.0)
127.1 283.9
平均または計 114 500 459.8 408.3 11.6 458.0 1326.1 2.8 4.0 410.0 916.1

  第18表  両放牧区のTDN生産量、放牧効果および採食栄養量
区分 若牝牛 搾乳牛
良好区 不良区 良好区 不良区
維持及び生産に
消費したTDN(kg)

及び残食TDN(kg)
延維持 1698.1 1088.0 2130.4 919.6
延増体 1048.8 466.6 746.2 816.6
延産乳 2013.0 916.0
残食 432.0 170.4 235.0
3178.8 1725.0 5125.0 2652.2
草地外給与飼料TDN(kg) 664.8 396.4 1337.0 820.0
草地生産TDN(kg) 2514.0
(148)
1328.6
(100)
3788.0
(207)
1832.2
(100)
放牧効果 延放牧頭数 453
(148)
308
(100)
474
(208)
228
(100)
延発育量及び
延産乳量(kg)
298
(226)
132
(100)
7161.2
(236)
3029.4
(100)
延標準牝牛
頭数 *
347 183 522 252
採食栄養量 生草量(kg) 46.1 35.1 67.5 57.2
TDN(kg) ** 6.0 5.0 7.5 8.0
DCP(g) 921 773 1957 1659
 * 1日1頭当7.25kg(161bs)  **採食部草TDN 若牝牛 A 9.9%  B10.7%     搾乳牛 A11.1%  B14.0%

 2. 牧草放牧地のTDN生産の利用効率は、若牝牛で50%であるのに対し、搾乳牛では79%の高い効率を示した。

  第19表  若牝牛と搾乳牛による草地のTDN採食有効率*  
区分 若牝牛 搾乳牛
2町当生産量(kg)** 78000 76400
2町当牧草生草TDN(kg) 8580 9530
2町当試験牛による有効採食TDN(kg) 4301 7542
有効率(%) 50.1 79.1
 * 良好、不良区の合計
 ** 年2回刈、Protect Cageによる、消化率はMORRISONの標準。

 

 普及上の注意
 1. 牧草導入地の選定と施業計画
   草地造成はその性質上、共同組織を利用して、かなり面積も広く、しかも機械力と相当の造成資材を必要とするので、その実施に先立って対象地の十分なる調査資料(土壌、植生、
   樹林、土壌保全、草地の利用経済)などに基づいて、精細なる計画立案の準備作成が必要である。すなわち
  (1) 笹牧野の地形、植生、土壌および利用法によって区分し、造成更新法をきめる。
  (2) 通行が比較的便利であること。このために特別な牧道を必要とする場合がある。
  (3) 機械力の利用にあたっては、かなりまとまった園地であることが望ましく、また地形的には傾斜度も10~15°以内であるのがよい。
  (4) 造成地の土壌、気象、前植生などから、予め適応した草種と施肥の経済効果を調査しておくのが安全確実である。
  (5) 草地造成後の効果的な維持管理と利用法の計画をたてる。
   などの考慮が必要である。

 2. 障碍物除去
   草地造成にあたって障碍となる雑灌木、根株、風倒木、枯損木、礫石などは、当初に除去する必要がある。しかし予め、水源涵養林、防風林、庇蔭林、土壌保護林などは計画的に
  残すことが必要である。

 3. 笹の除去
   障碍物を除去した後、一般には大鎌により刈払が行われる。(普通の植生で反当2~3人、密なところで5人を要する) また、笹丈が2~3尺程度であれば強力なトラクターで安全に起
  土反転することが可能である。さらに、時間的に余裕ある場合は、木棚を囲い、一旦過放牧状態にする場合もある。
   しかし、いずれも笹の再生がみられる。とくに機械力、肥料処理が不完全の場合にその例が多い。

 4. 笹の再生防止
   笹の再生防止はクロレートソーダの利用によって、十分な効果が期待される。その使用に当たっては次の留意が必要である。
  (1) 撒布期は年間を通じ、7~8月の栄養生長最盛期(薬量多く必要となる)を除く4~6月の春期または9~10月の秋期を選ぶのが最も効果的である。
     ただし人力開墾の場合は7~8月を選ぶのがよい。
  (2) 撒布量は笹の種類、密度、撒布時期によって若干相違があるが、一般的にはミヤコザサ、クマイササであれば坪当6~10匁、平均8匁前後、チレマザサでは8~15匁、平均12匁
    前後を標準とし、水利の便または機械噴霧の可能の場合は、水溶液(坪当1L)として撒布する。撒布は晴天日に行うと効果が早い。
  (3) クロレートソーダの薬効は通常2~3ヵ月持続するので、できれば、枯殺期間を考慮した撒布時期と整地播種時期の決定をすることが望ましい。水利の不便な地帯では粉剤を用
    い、撒布による方法も可能である。
  (4) 薬剤を大面積に用いる場合は、笹以外の混植生状態により、その効果を異にする場合もあるから予め時期、使用量などについて予備調査を行って置くことが望ましい。

 5. 種子床の造成
   種子床造成法としては、完全耕起と簡易砕土法とによる場合がある。後者は地形的に複雑であったり、土壌流亡の危険がある場所とか、経費の都合などの場合に、簡易法として利
  用し得る。
  (1) 完全耕起法
   起土、反転後砕土によって整地し、種子床を造成する方法である。
    イ. 笹枯殺剤クロレートソーダの利用時は、撒布翌春であれば、脱葉し、機械による耕起が行いやすい。また場合によっては、撒布地に火入をするのも効果的である。
    ロ. クロレートソーダを利用しない場合は、一般に笹の植生が粗生であれば、立毛のまま耕起が可能である。耕起後トラクターデスクハローで3~4回の砕土整地によって、良好な
      種子床が造成できる。
    ハ. 集約的に造成する場合は、耕起反転後1~2回デスクハローを掛け、その後表面の笹根を掻集し、さらに砕土整地のため2~3回デスクイングを行えば、笹の再生も抑圧滅殺さ
      れる。 
  (2) 簡易砕土法
    笹を刈払い、火入れ後(クロレートソーダの場合は火入によって)露出地表面にデスクハローを掛け簡易に種子床を造成する方法である。そのためには
    イ. 障碍物を十分除去しておくこと。
    ロ. 笹および地表の枯葉の十分な焼払いをするために刈払いをして火入れし、地肌を十分露出させる。
    ハ. 砕土はトラクターデスクハローによるデスクイングを回行うことが必要である。

 6. 播種
   播種に用いる草種および割合は、利用目的(採草、放牧)、土壌(理化学性)、気象などの要因を考慮し、選定して混合する。播種量は一般に笹地の種子床が、笹根、枯葉などの夾雑
  物によって、耕地におけるほど良好に期待できないので、一般播種量の3~4割多目に用いるのが安全である。

 7. 施肥
   造成前の土壌検定から、対象地の特質を把握し、酸性地では造成時耕起後(または簡易法では火入後)炭酸石灰を撒布し、砕土を行えば、十分均一に施用される。
   播種時においては使用牧草種、土壌の地力などによってN、P2O5、K2Oの配合を考慮するが、化学肥料(硫安、過燐酸石灰、硫化加里など)を反当6~10貫(荳科、禾本科の等量混
  播でほぼ5:10:10)の施用が望ましい。一般に窒素質としては硫安、石灰窒素、尿素など、燐酸質として過燐酸石灰、溶性燐肥など、加里質としては硫化加里、塩化加里などが用いら
  れるが、このほか草地用尿素化成肥料の使用も良好である。 

 8. 播種作業
   播種にあたっては、前記肥料であれば、牧草種子と肥料を混合し、さらに若干の細土を混入配合の上、撒播または条播するのが効果的である。播種後は除草ハロー2回掛程度で軽
  く覆土を行い、さらにローラーまたはカルチパッカーによる鎮圧を行うのが、発芽の整一を期するうえに効果がある。

 9. 播種後の管理
   春播(5~6月)したものは、7月下旬~8月上旬にかけて、牧草の萌芽、生育とともにかなりの雑草(とくに1年生野草、タデ、キンエノコロ、スイバ、ササ、ヨモギなど)が繁茂し、牧草と競
  合する。この場合は雑草を抑圧するために掃除刈を行うことが必要である。掃除刈を行ったものは乾燥や草サイレージとして利用することができる。
   追肥の効果は、草地の生産維持に重要な影響をもつものであるから、利用管理計画のうちに年間2~3回の分施の行われることが望ましい。