【普及奨励すべき事項】

深耕の経営に及ばす影響について
 -主として労働の面より-

北海道立農業試験場経営部

 

 狩太営農試験地において深耕を主軸として諸種の改善策を進めているが、この深耕の実施が経営にいかなる効果をおよぼすかを試験地の一農家における成績-主として労力の面-
から検討した。

 

Ⅰ 試験農家の概況

 圃場は洪積質埴土よりなる波状性段丘地で緩い傾斜をなす。表層は腐植富む埴土、心土はすこぶる緊密な層よりなる。試験地の土壌が重粘酸性なので改善策は耕土改良に重点を置
いている。

 (1) 土地利用(31年)
区別 水田(反) 畑(反) 放牧地(反) 宅地(反) 沢地(反) その他(反) 計(反)
区別 4.5 117.5 3.0 2.0 68.0 2.7 197.7

 (2) 労力
家族数 農業従事者(人) 労働歩合(人)
27年 10人 3 3 5.2
31年 10人 3 2 4.6

 (3) 家畜及び堆厩肥
区別 耕馬(頭) 乳牛(頭) 緬羊 堆厩肥(貫)
27年  2 1 2 1 4 28 14750
31年  2   4 3 8 36 20250

 (4) 作付作物
区別 小麦(反) 燕麦(反) 稗(反) 玉蜀黍(反) 大豆(反) 小豆(反) 菜豆(反) 馬鈴薯(反) 甜菜(反) 亜麻(反) 家畜ビート(反) デントコーン(反) 牧草(反) 蔬菜(反) 水稲(反) 計(反)
27年 3.0 14.5 15.0 1.5 6.0 2.0   39.2 3.0 3.0   10.5 18.3 1.0 3.0 120.0
31年 1.0 18.5 7.0 0.5 9.0 3.0 1.0 27.0 9.0 2.0 1.0 10.0 27.0 1.5 4.5 122.0

  

Ⅱ 深耕の実施状況
区別 27年(反) 28年(反) 29年(反) 30年(反) 31年(反)
初めての深耕 21.0 19.0 35.0 8.0 16.0
2年連続深耕   9.0 14.0 29.0 17.0
3年  〃     9.0 12.0 14.0
4年  〃         9.0
21.0 28.0 58.0 49.0 56.0

  

Ⅲ 深耕と後続作業労働の変化

 深耕は主としてトラクター心土耕跡地を2頭曳深耕プラウによって行っている。深耕は従来の普通耕4~5寸に対し7~8寸である。耕起労力は普通耕に比較して人力の場合は初めての深耕から減少する。畜力の使役時間は初めての場合は多くなる。以後深耕の継続によって人力、畜力とも起耕所要時間は減少していく。深耕がその後の作業にどの様な効果をおよぼすかをみると、深耕地は土壌が膨軟になり保水力も高まるので、この地方のごとく土壌が乾燥固結するような重粘土壌では後続作業を非常に容易にする。すなわち従来は土壌が相当水分を保有しているうちに起耕し、その後直ちに整地しなければならず、作業繰りにも不便したが、深耕地は耕起と整地の間に多少の余裕がある。整地もハローイングの3回を2回に減じても従来より良好な整地ができるようになった。また整地が良好となってきたので播種作業(畦立、施肥、播種、覆土を含む)も容易になる。深耕は土壌を深く反転するので雑草の発生を抑制し、土壌も軟らかくなるので中耕除草(培土を含)の労力は非常に減少する。
 深耕はこのように後続作業労力の減少をもたらすが、深耕の継続と慣行普通耕の間にはどのような差が出てくるかを、毎年もっとも多く深耕を行っており、その進行経過を比較的めやすい馬鈴薯と燕麦について調査せる結果はつぎのごとくである。

 (1) 馬鈴薯(反当所要人力と畜力)
区別 耕起 整地 播種 盲返し カルチ
ベーター
ホー 培土 摘要
普通耕の継続 人力 3.7 1.5 4.8 1.1 0.5 7.1 1.3 20.0  
畜力 3.7 1.5 1.0 1.1 0.5 1.3 9.1
初めての深耕 人力 2.4 1.2 4.4 1.0 0.4 4.4 1.0 14.8  
畜力 4.8 1.2 0.8 1.0 0.4 1.0 9.2
2年連続深耕 人力 1.3 0.8 3.7 0.9 0.4 4.5 0.7 12.3  
畜力 2.6 0.8 1.0 0.9 0.4 0.7 6.4
3年連続深耕 人力 1.2 1.0 6.3 0.4 6.6 0.7 16.2 塊茎単位栽培
畜力 2.4 1.0 0.8 0.4 0.7 5.3
  註  盲返しとは当地方における馬鈴薯の根際雑草を芟除する慣行除草法

 (2) 燕麦(反当所要人力と畜力)
区別 耕起 整地 播種 カルチ
ベーター
摘要
普通耕の継続 人力 3.2 1.6 3.8 0.7 9.3  
畜力 3.2 1.6 0.7 0.7 6.2
初めての深耕 人力           該当なし
畜力          
2年連続深耕 人力 2.2 1.0 2.3 0.3 5.8  
畜力 4.4 1.0 1. 0.3 6.1
3年連続深耕 人力 1.7 1.0 2.7 0.4 5.8  
畜力 3.4 1.0 0.5 0.4 5.3
深耕跡普通耕 人力 2.2 0.7 3.1 0.4 6.4 前年度深耕跡地普通耕
畜力 2.2 0.7 1.0 0.4 4.3

 普通耕の継続と深耕の各段階とを比較してみると、人力ではいずれの作業も労力は減少している。さらに初めての深耕よりも、深耕を2年連続して行った場合はさらに労力は減少する。深耕を3年連続した場合は深耕年連続したのとはあまり差がないようである。畜力の場合は耕起作業をのぞけば人力とほぼ同様の傾向で使役時間が減少する。耕起作業は深耕の場合2頭使役なので、馬鈴薯では初めての深耕の場合は普通耕よりも使役時間が多いが、以降深耕の継続では普通耕よりも減少する。

 (3) 年次別作業別反当所要時間(人力) 
 深耕の進展によって前記の作業労力がどのように減少したかを主要作物についてみるとつぎのごとくである。

 年次別作業別反当所要時間(人力)
  燕麦 大豆
 27  28  29  30  31  27  28  29  30  31  27  28  29  30  31
耕起 3.2 2.5 2.4 1.9 1.9 3.7 3.0 4.3 3.3 2.4 3.3 3.1 2.9 2.0 2.8
整地 1.6 1.0 1.2 0.8 1.1 1.7 1.7 1.3 1.2 1.5 1.7 1.2 1.1 0.8 1.5
播種 3.8 2.6 3.6 2.5 2.0 2.3 2.8 2.0 3.3 1.4 3.7 4.4 3.9 4.0 3.6
中耕除草 1.3 1.0 1.0 0.6 1.3 11.3 8.4 11.4 3.0 9.1 9.3 9.1 11.8 14.0 12.0
9.9 7.1 8.2 5.8 6.3 19.0 15.9 19.0 10.8 14.4 18.0 17.8 19.7 20.8 19.9
  デントコーン 馬鈴薯 甜菜
 27  28  29  30  31  27  28  29  30  31  27  28  29  30  31
耕起 トラクター耕 4.0 トラクター耕 3.5 2.6 2.8 1.3 1.3 6.0 トラクター耕 2.0 2.2 1.5
整地 トラクター整地 2.1 トラクター整地 2.2 1.3 1.1 0.9 0.9 1.4 3.7 トラクター整地 1.3 1.7 1.4
播種 4.7 3.5 5.3 3.6 2.3 4.0 4.0 5.7 4.0 4.3 5.3 5.9 4.3 5.4 2.8
中耕除草 11.2 11.1 9.3 5.9 7.8 14.2 13.8 11.6 11.2 11.8 36.6 30.8 20.0 18.9 21.3
23.0 21.5 21.0 17.4 18.8 51.6 27.5 28.2 27.0

 (4) 月旬別耕種労働の変化
 耕種労働の集積分数はその年の気象の影響が非常に大きいが、月旬別耕種労働の変化と気象条件が比較的近似していたと思われる27年と30年の両年について比較してみる。第1図および第2図より耕種労働において、深耕の進展によって生じた労力配分の著しい相異点は、27年における5月上、中旬の山は春耕期の耕起、整地、播種の諸作業労力が深耕の進展によって軽減されたため30年にはこの山が全くなくなっている。6月中旬は両年とも主として水稲の移植と畑作物の1回目の中耕除草のため最大のピークを形成しているが、30年は畑作物の中耕除草労力が減少したため、水田の増反により水稲の移植労力が増加しているにもかかわらず、27年よりも投下労働が減じている。しかも従来の6月下旬の畑作物の中耕除草労働の相当部分が中旬に移行している。そのため6月下旬は、27年には畑作物の中耕除草にかなりの労力を要しているが、30年にはこの労力が非常に少なくなっている。このように作業繰りは1旬早くなって、畑作物の第2回の中耕除草の山は27年には7月中旬であったのが、30年にはこれが7月上旬に移ってきている。
 以上のように春耕時の耕起、整地、播種作業を初め、中耕除草労力の節減によって、労力は著しく減少するとともに、作業繰りも1旬くらい早くなり、これが以後の作業に連鎖的な効果をおよぼして、作業の切りあげも27年に較べて30年は15日くらい早くなっている。すなわちここではビートの搬出が終わると大体圃場作業は終了するのであって、27年にはこの作業の終了は11月中旬であったのが30年には10月下旬にビートの始末は終わっている。

 第1図 旬別耕種労働(人力5月~7月)

 なお、参考までに両年の月旬別耕種労働配分状況を示すと第2図のごとくである。

 第2図 旬別耕種労働(人力)

 

Ⅳ 生産費の低減

 以上深耕の実施により経営にどのような効果をもたらしたか主として労力の点より考察したが深耕の経済的得失を簡単にみると
 (1) 深耕による増収
   調査農家における普通耕と深耕の反収を示すとつぎのごとくで、深耕により1割強の増収が期待できる。
作物名 区別 硫安
(貫)
過石 硫加 大豆粕 堆厩肥 反当
収量(俵)
収量
割合
摘要
燕麦 普通耕(A) 3.0 5.0       6.3 100 27年の同一圃場における
同一耕種法によるもの
深耕 (B) 3.0 5.0       7.0 111
春小麦 (A) 3.0 5.0       1.8 100
(B) 3.0 5.0       2.1 117
馬鈴薯 (A) 4.0 9.0 2.0 2.0 400.0 33.5 100
(B) 4.0 9.0 2.0 2.0 400.0 38.4 115

 (2) 生産費の低下
   反当生産費用は普通耕と深耕とではどのようになるかを、費用に差を生ずるとみられるブラウの償却費と労力費は雇用労力によるものとしてⅢにおける(1)、(2)、の普通耕と深耕の
  所要時間により他の費用は両者変わらないものとして計算するとつぎのようになる。
作物名 区別 ブラウ償却費 人力費 畜力費 摘要
燕麦 普通耕(A) 15円49銭 434円21銭 497円17銭  946円87銭  深耕は2年連続のもの 
深耕 (B) 30円25銭 270円80銭 537円27銭  838円32銭 
馬鈴薯 (A) 15円49銭 933円80銭 729円73銭  1679円02銭  深耕は初めてのもの 
(B) 30円25銭 691円01銭 737円75銭  1459円01銭 
 註 ブラウは現地の購入価格、耐用年数10年、人力費、畜力費は現地の傭入費用による。
    燕麦、馬鈴薯いずれも深耕の方が生産費は減少している。

 

Ⅴ 概括
 (1) 普通耕と深耕とで、深耕は耕起作業を初め、後続作業の整地播種、中耕除草等の所要労力は減少し、深耕の継続によってさらにこれらの労力は減少する。
 (2) 深耕の継続進展により、播付期における労働のピークの解消を初め、中耕除草労力も減少する。これらが以後の作業にも連鎖的な効果をおよぼし作業繰りも早くなる。
 (3) 深耕による増収と労力の減少によって生産費の低下が期待できる。