【指導上の参考事項】

秋播小麦の播種と生育について

北海道立農業試験場渡島支場

 

Ⅰ 目的
 道南における秋播小麦の播種適期は一応9月中旬とされているが、品種の変遷にともない再検討の必要があり、一方、一般農家では秋季の気候が比較的温暖なため播種適期に対する関心がうすく遅れがちである。そこで播種時期による生育通過および生育と収量におよぼす影響を明らかにして当地方における秋播小麦栽培上の参考に供する。

 

Ⅱ 試験方法
前作 反当
施肥量(貫)
畦巾(cm) 株間(cm) 播種法 試験操作
馬鈴薯
(男爵薯)
過石  6 60 10 2粒点播 1区240粒宛播種し、発芽後
間引き1株1本立とした。
出葉期、分けつ茎の調査は毎回
同一30ヶ体について行った。
硫安  2
硫加  2
魚粕  3

  秋季の気象(渡島支場観測)
  (1) 平均気温(℃)
     月
  旬別
年次
9月 10月 11月 備考
上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬
平年 19.5 18.2 15.6 13.4 134 9.4 7.2 3.2 2.7 根雪始  12月17日
融雪期   3月27日
昭和31年 20.0 18.0 14.9 15.7 15.7 11.0 9.9 2.9 0.7 根雪始  11月27日
融雪期   4月12日
   30年 18.8 17.2 16.1 14.2 14.2 10.1 5.7 5.0 2.9 根雪始  12月29日
融雪期   3月30日

  (2) 平均畑地温(30cm℃)
     月
  旬別
年次
9月 10月 11月
上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬
平年 20.1 18.7 16.7 148 13.2 11.3 9.3 6.8 5.1
昭和31年 20.2 19.9 17.9 16.0 14.1 12.0 11.4 8.1 5.0
   30年 20.9 18.7 18.9 16.2 13.8 12.4 9.4 7.3 5.4

 

Ⅲ 成績(昭和30年~31年)
 1. 生育と収量
  (1) 大中山(30年度)
播種期 発芽期
(月日)
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期における 平均1株
粒重(g)
同比率
(%)
千粒重
(g)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
有効
穂数(本)
無効
穂数(本)
※ 8月15日 8.23 5.29 7.19 99 8.7 44 0 30.5 101 36.8
9月1日 9.7 5.29 7.19 100 8.7 35 0 30.3 100 36.3
9月10日 9.16 5.30 7.19 101 9.2 30 0 33.9 112 38.6
9月20日 9.28 5.30 7.20 91 10.5 20 1 31.2 103 38.9
9月30日 10.7 5.30 7.26 81 10.7 13 4 24.5 81 37.2
10月10日 10.19 5.30 7.26 69 10.5 8 9 10.8 36 32.0
10月20日 12.10 6.3 7.26 60 8.1 5 5 4.6 15 32.0
10月30日 積雪下 6.4 収穫(7.26) 63 8.3 4 6 3.0 10 30.8
11月15日 6.4 収穫(7.26) 62 8.8 2 4 1.9 6 30.8
  備考 (1) 8月15日播は秋に主稈に幼穂の形成がみられまた赤銹病の発生もあった

         (31年度)
播種期 発芽期
(月日)
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期における 平均1株
粒重(g)
同比率
(%)
千粒重
(g)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
有効
穂数(本)
無効
穂数(本)
9月1日 9.7 6.9 7.25 90 9.1 15 0 11.3 100 39.3
9月10日 9.16 6.9 7.25 88 9.1 13 0 9.6 85 39.1
9月20日 9.26 6.10 7.26 74 8.8 16 0 5.0 44 34.8
9月30日 10.7 6.11 7.26 64 7.3 4 1 2.2 19 31.6
10月13日 10.23 6.13 7.27 59 7.8 3 1 2.3 20 32.2
10月22日 11.2 6.15 収穫(7.27) 57 7.7 3 1 1.5 13 29.7
10月30日 11.13 6.20 収穫(7.30) 51 6.7 2 1 1.5 13 28.2
11月15日 積雪下 6.23 収穫(7.30) 53 6.3 2 1 0.9 8 25.5

  (2) 改良ダテワセ(31年度)
播種期 発芽期
(月日)
出穂期
(月日)
成熟期
(月日)
成熟期における 平均1株
粒重(g)
同比率
(%)
千粒重
(g)
稈長
(cm)
穂長
(cm)
有効
穂数(本)
無効
穂数(本)
9月1日 9.6 5.29 7.14 82 6.8 22 1 8.1 44 29.1
9月10日 9.15 5.30 7.15 86 7.8 18 0 18.2 100 37.1
9月20日 9.25 6.1 7.17 77 7.3 9 0 7.7 42 35.6
9月30日 10.6 6.2 7.22 64 6.9 8 0 4.2 23 34.7
10月13日 10.21 6.3 7.24 56 6.6 6 1 2.0 11 25.3
10月22日 11.1 6.4 7.26 54 5.9 5 2 1.0 5 24.3
10月30日 11.11 6.10 収穫(7.27) 53 6.2 4 2 1.3 7 20.7
11月15日 積雪下 6.10 収穫(7.27) 52 5.6 3 2 2.2 12 29.8
  備考 (1) 9月1日播は茎葉の冬損が多く生育不振でとくに登熟が劣った。

 2. 生育期節調査
  (1) 大中山(31年度)
播種期 草丈(cm) 茎数(本) 出葉期(出葉月日)
11月20日 4月18日 6月7日 11月20日 4月18日 6月7日 2葉 3葉 4葉 5葉 6葉 7葉 8葉 9葉
9月1日 32.4 16.3 7.0 27.0 15.2 14.7 9.11 9.15 9.19 9.26 10.1 10.9 10.23 11.11
9月10日 26.7 12.2 7.0 21.3 13.2 11.0 9.22 9.27 10.5 10.12 10.22 11.2 11.8 -
9月20日 21.2 8.5 6.0 11.2 6.0 6.4 10.7 10.11 10.18 10.23 11.3 - - -
9月30日 15.3 8.2 5.4 5.1 3.5 5.0 10.24 10.28 11.2 11.14 - - - -
10月13日 9.8 8.9 5.6 1.0 1.6 3.1 11.6 11.11 - - - - - -
10月22日 8.1 7.0 5.5 1.0 1.0 3.0 - - - - - - - -
10月30日 3.0 4.5 5.1 1.0 1.0 2.5 - - - - - - - -
11月15日 - 3.9 5.0 - 1.0 2.0 - - - - - - - -

  (2) 改良ダテワセ(31年度)
播種期 草丈(cm) 茎数(本) 出葉期(出葉月日)
11月20日 4月18日 6月7日 11月20日 4月18日 6月7日 2葉 3葉 4葉 5葉 6葉 7葉 8葉 9葉
9月1日 29.7 13.6 73 31.6 31.8 15.2 9.9 9.16 9.16 9.22 9.27 10.7 10.15 11.4
9月10日 27.4 13.3 76 30.0 27.2 14.2 9.18 9.23 9.29 10.4 10.9 10.16 10.22 11.10
9月20日 19.4 7.9 18.5 16.0 9.6 9.8 10.4 10.9 10.16 10.19 10.27 11.4 11.11 -
9月30日 14.8 7.2 61 7.7 5.3 8.1 10.15 10.20 10.28 11.3 11.11 - - -
10月13日 10.4 3.5 49 1.5 2.4 6.7 11.3 11.8 - - - - - -
10月22日 8.3 4.6 44 1.0 1.0 4.8 - - - - - - - -
10月30日 4.6 3.1 43 1.0 1.0 4.0 - - - - - - - -
11月15日 - 5.0 41 - 1.0 3.1 - - - - - - - -

 3. 現地試験成績
項目 播種期 厚沢部村(31年度) 壮瞥村(31年度) 壮瞥村(30年度)
大中山 改良ダテワセ 大中山 改良ダテワセ 大中山 改良ダテワセ
成熟期
(月日)
9月15日 7.28 7.22 8.7 8.4 7.27 7.10
9月25日 7.28 7.24 8.8 8.7 8.2 7.15
子実収量
(反当貫)
9月15日 27.7 32.4 53.3 61.5 88.5 77.0
9月25日 8.8 13.4 34.5 59.0 72.6 69.3
収量割合
(%)
9月15日 100 100 100 100 100 100
9月25日 32 41 61 96 82 90

 

Ⅳ 考察
 1. 播種期と秋の生育
  発芽日数は9月の内は7日内外であるが、10日以降は播種期の遅れるにしたがって長期間を要する。秋季における生育量は播種期の遅くなるほど減少する割合は多くなり、9月20日
 以降は特にその差が大きく、すなわち大中山についてみると9月10日播では、越冬前の葉数8~9葉に達するが、9月20日播では6葉となり10月20日以降では1葉以下である。
 また分けつの状態は9月10日播が21本に対し、9月20日播では11本に半減し、10月に入るとほとんど分げつは行われない。
  (成績2)  なお、改良ダテワセは大中山よりやや生育は促進する傾向が見られる。

 2. 越冬後の生育並びに収量
  秋の生育、特に茎数は有効穂数に決定的な影響をもたらしており、秋遅く分集した弱い茎は夭折または無効化するものが多く、出穂結実しても極めて貧弱な穂で穂揃も悪く、9月20日
 播以降のものではこのような茎が多くなり、登熟はおくれ、銹病の被害も大きくなりがちである。その結果、9月20日以降では急激に収量は低下し粒の肥大も不十分となることを示してい
 る。  (成績1)

 

Ⅴ 指導上の注意
 1. 収量、品質を決定する穂数、粒重、粒質等は秋末の生長量によることが極めて大きい。
 2. 秋末の生長量は播種期と密接に関係し、9月20日以後では急激に低下する。但し、余り早播にすぐれば秋の内に主稈に幼穂形成が始められ、また赤銹病の発生等、生育過剰の障
  害がみられるので9月10日を中心とし、おそくも9月20日までに終わることが必要である。
 3. 現地試験(厚沢部、壮瞥村)の成績においても9月中旬播と9月下旬播の間には明かな差がみられる。

 以上のように、小麦本来の生育過程から見れば比較的秋の温暖な道南においても、播種適期は9月10日前後である。なお、従来、遅播、厚播を慣行とする農家もあるが適期適量(4升程度)播に改めることが小麦作としては望ましい。